その夜に、沈む
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「店には行かねぇと約束したが、家は別だ。」
わざわざ店の裏口にまわったリヴァイは、鍵をまわして扉を開くとき、そんな言い訳のようなことを言った。
そうやって、自分の行動を正当化しようとしている。少しだけ、私に似ているような気もして、ホッとする。
中に入ったリヴァイは、私を抱えたまま、細い階段を上がって自宅になっている2階へと向かう。
一人暮らしの1LDKのよくある間取りだ。
リヴァイにも、すぐに寝室の場所が分かったらしく、私に訊ねることもなくリビング奥の部屋の扉を開いた。
「降ろすぞ。」
リヴァイが、ゆっくりとベッドに私の身体を降ろす。
熱い身体から離れていくひんやりと気持ちのいい体温が恋しくて、無意識に手が伸びていた。
でも、すぐに力を失くしてベッドに落ちてくれたおかげで、リヴァイに気づかれずにすんで助かった。
「ありがとう。」
ベッドに入って、礼を告げたときにはもう、リヴァイは部屋を出て行っていた。
あぁ、そうか———初めから、本当に家に送るだけのつもりだったのだろう。
もう会わない、そう決めたのだから当然だ。
期待もしていなかった。
ただ、少し、いや、すごく、寂しいと思ってしまっただけ———。
ベッドにもぐりこんで、熱からくる苦しさと、叶わない恋からくる息苦しさに堪えていると、扉が開く音がした。
リヴァイが帰ってしまった今、この家にいるのは自分だけのはずだ。
聞き間違いだろうとは思いながら、おずおずとベッドから顔を出す。
熱でぼんやりとする視界に、兵団服を着た男性が部屋に入ってきた様子が見えた——気がした。
(夢———?)
熱に浮かされた夢かと思っていたら、リヴァイがベッドの縁に腰をこけかけたことで、古いベッドが軋んで、これは現実だと理解する。
リヴァイは帰ったのだと思っていたのに、まだ残っていたらしい。
どうして———。
「着替えてもいねぇのに寝るんじゃねぇ。
悪ぃが、勝手にクローゼットを開けて、適当にパジャマらしい服を選んだ。」
リヴァイはそう言いながら、私の背中に手をまわしてゆっくりと身体を起こした。
そういうことか、と理解する。
家に帰ったら、着替えなければならないと思っていたのだ。
いろいろとそれどころではなくて、忘れていた。
だから、パジャマだ、と出された服に手を伸ばそうとしたら、止められてしまう。
「おい、着替える前に身体を拭け。タオルをお湯で濡らしてきた。」
風邪で頭が回らないが、リヴァイが、気が利く男だということは分かった。
「熱があるなら風呂には入れねぇだろ。
ほら、身体を拭いてやるから。服を脱がすぞ。」
「いい…、自分で、脱ぐ…。」
そう言ってはみたものの、座っていることすらうまくできずに身体が倒れてしまう。
小さなため息が聞こえてすぐに、シャツのボタンにリヴァイの指が触れた。
熱があっても、そういう意味ではないと分かっている。
それなのに、ドキリ、としてしまう。
抵抗する力も元気もない私は、ひとつひとつ丁寧にボタンを外すリヴァイの指にすべてを任せる。
熱のある私の少し荒い息遣いだけしか聞こえない部屋が、やけに静かで緊張する。
リヴァイも何も喋ろうとはしないから、余計に気になってしまうのだ。
今、私のシャツのボタンを外しながら、リヴァイは何を考えているのだろう———。
「脱がすぞ。」
「いち、いち、言わなく、ていい。」
「そうか。」
リヴァイが、ククッと喉を鳴らした音がした。
笑ったのだろうか。
視界がぼんやりとして、リヴァイの笑顔を見れなかったのが、悔しい。
そんなことを考えていると、リヴァイの指が私の肩に触れた。
急にドキドキが再燃したけれど、それを感じている間に、あっという間にシャツを脱がされていた。
「コレはどうする。」
リヴァイが、ブラジャーの肩ひもに指をかける。
「・・・・はずして、ほしい。苦しい。」
少し考えて、素直に甘えることにした。
嫌というほどに見られたことのある胸を、今更隠す必要はないと思ったのだ。
たぶん、私は大胆だった。
それは、熱のせいなのもあるのかもしれない。
ブラジャーのホックをリヴァイが外した途端に、胸を押さえつけられていた圧迫感から解放されて、ホッと息を吐く。
「じゃあ、今から拭くぞ。」
コクリ、と頷いた後、まずは、背中の辺りに温かいタオルを感じた。
優しく撫でるように背中を滑るタオルの温度が気持ちよくて、目を閉じてしまう。
背中から腰を拭いたら、今度は、胸元にタオルが触れた。
その途端に、思わず肩が跳ねてしまう。
でも、私も、リヴァイも、お互いに気づかなかったフリをする。
ギュッと目を閉じて、優しいタオルの温もりを、母親のものだと思い込むことにした。
目を開けてしまったら、私はリヴァイを見つけてしまう。
目が合ったら、私達は、どうなるのだろう———試してみたい。試しちゃいけない。
そんなことを考えているうちに、タオルの温もりが身体から離れた。
リヴァイが持ってきてくれたのは、ワンピースのパジャマだった。
手伝ってもらいながら、ワンピースに袖を通してから、着ていたスカートを脱いで、リヴァイに渡す。
脱いだ服を持って部屋を出て行ったリヴァイは、病院から貰って来た薬と白湯を入れたグラスを持って戻ってきた。
リヴァイからグラスを受け取り薬を飲んだ後、今度は熱を測るようにと体温計を渡される。
何処までも準備がいい———ぼんやりとそんなことを考えていると、口にくわえた体温計が測り終える。
体温計をそっととりあげ、熱を確認したリヴァイの表情が僅かに歪んだように見えた。
「なん、ど?」
「40度だ、クソが。」
「あぁ…、また、あがった、んだ…。」
「いいから寝とけ。起きたら何か食えるように、適当に飯でも作っとく。
期待はすんなよ。」
私をベッドに寝かせた後、リヴァイが立ち上がった。
力を振り絞って、筋力を失ったかと思うほどに弱弱しい腕を伸ばし、リヴァイの太ももの辺りに漸く触れた。
「どうした?」
「も、かえ、って、いいで、す…。」
優しい声色に、胸が痛くなったけれど、弱弱しい声で、ちゃんと伝える。
偶然居合わせたリヴァイが、私にしてくれたことはすべて、まるで恋人のようだった。私が求める、優しくて、とても大切にしてくれる恋人みたいだった。
でも、リヴァイは恋人じゃない。
恋人になっては、いけない。
本心は違っていたって、私はリヴァイをもう求めないと決めたのだ。
そうではなくとも、熱で弱ってる今、誰かにそばにいてほしいと思ってしまってる。
リヴァイに、甘えたい。
でも、40度の熱が、私の脳みそを溶かそうとしていても、瞼の裏に焼き付いたペトラの悲しそうな顔は消えないのだ。
熱のせいで、想いのままリヴァイを求められたらよかったのに———。
「泣きながら、何言ってやがる。」
リヴァイが、ベッドの縁に腰かける。
ベッドが苦し気に軋んだ音が、私達の許されない恋の悲鳴に聞こえた。
仲間を導き、ペトラを守ってきた、細くて綺麗な指が、私の目尻に触れて、しっとりと濡れてしまった。
「熱、のせい…。」
「言っただろ。俺に放っておいてほしいなら、俺の前で弱ってる姿を晒すんじゃねぇ。
離れられるわけねぇだろ。」
リヴァイが、私の頬に触れる。
ひんやりとしていて、気持ちが良い。
リヴァイに触れられると、心臓は鼓動を速めるのに、心が穏やかになって、ひどく心地が良いのだ。
だから私は、リヴァイから離れがたくなる———。
そっと目を閉じると、涙が頬を流れて落ちたのを感じた。
「誰が許さなくても、惚れてる女くらい守る。」
真っ暗闇の世界で、リヴァイの声だけが私の心を包み込む。
流れた涙を拭ってくれる優しい手が、泣いてしまうくらいに幸せな夢の世界へと私を導いていく————。
わざわざ店の裏口にまわったリヴァイは、鍵をまわして扉を開くとき、そんな言い訳のようなことを言った。
そうやって、自分の行動を正当化しようとしている。少しだけ、私に似ているような気もして、ホッとする。
中に入ったリヴァイは、私を抱えたまま、細い階段を上がって自宅になっている2階へと向かう。
一人暮らしの1LDKのよくある間取りだ。
リヴァイにも、すぐに寝室の場所が分かったらしく、私に訊ねることもなくリビング奥の部屋の扉を開いた。
「降ろすぞ。」
リヴァイが、ゆっくりとベッドに私の身体を降ろす。
熱い身体から離れていくひんやりと気持ちのいい体温が恋しくて、無意識に手が伸びていた。
でも、すぐに力を失くしてベッドに落ちてくれたおかげで、リヴァイに気づかれずにすんで助かった。
「ありがとう。」
ベッドに入って、礼を告げたときにはもう、リヴァイは部屋を出て行っていた。
あぁ、そうか———初めから、本当に家に送るだけのつもりだったのだろう。
もう会わない、そう決めたのだから当然だ。
期待もしていなかった。
ただ、少し、いや、すごく、寂しいと思ってしまっただけ———。
ベッドにもぐりこんで、熱からくる苦しさと、叶わない恋からくる息苦しさに堪えていると、扉が開く音がした。
リヴァイが帰ってしまった今、この家にいるのは自分だけのはずだ。
聞き間違いだろうとは思いながら、おずおずとベッドから顔を出す。
熱でぼんやりとする視界に、兵団服を着た男性が部屋に入ってきた様子が見えた——気がした。
(夢———?)
熱に浮かされた夢かと思っていたら、リヴァイがベッドの縁に腰をこけかけたことで、古いベッドが軋んで、これは現実だと理解する。
リヴァイは帰ったのだと思っていたのに、まだ残っていたらしい。
どうして———。
「着替えてもいねぇのに寝るんじゃねぇ。
悪ぃが、勝手にクローゼットを開けて、適当にパジャマらしい服を選んだ。」
リヴァイはそう言いながら、私の背中に手をまわしてゆっくりと身体を起こした。
そういうことか、と理解する。
家に帰ったら、着替えなければならないと思っていたのだ。
いろいろとそれどころではなくて、忘れていた。
だから、パジャマだ、と出された服に手を伸ばそうとしたら、止められてしまう。
「おい、着替える前に身体を拭け。タオルをお湯で濡らしてきた。」
風邪で頭が回らないが、リヴァイが、気が利く男だということは分かった。
「熱があるなら風呂には入れねぇだろ。
ほら、身体を拭いてやるから。服を脱がすぞ。」
「いい…、自分で、脱ぐ…。」
そう言ってはみたものの、座っていることすらうまくできずに身体が倒れてしまう。
小さなため息が聞こえてすぐに、シャツのボタンにリヴァイの指が触れた。
熱があっても、そういう意味ではないと分かっている。
それなのに、ドキリ、としてしまう。
抵抗する力も元気もない私は、ひとつひとつ丁寧にボタンを外すリヴァイの指にすべてを任せる。
熱のある私の少し荒い息遣いだけしか聞こえない部屋が、やけに静かで緊張する。
リヴァイも何も喋ろうとはしないから、余計に気になってしまうのだ。
今、私のシャツのボタンを外しながら、リヴァイは何を考えているのだろう———。
「脱がすぞ。」
「いち、いち、言わなく、ていい。」
「そうか。」
リヴァイが、ククッと喉を鳴らした音がした。
笑ったのだろうか。
視界がぼんやりとして、リヴァイの笑顔を見れなかったのが、悔しい。
そんなことを考えていると、リヴァイの指が私の肩に触れた。
急にドキドキが再燃したけれど、それを感じている間に、あっという間にシャツを脱がされていた。
「コレはどうする。」
リヴァイが、ブラジャーの肩ひもに指をかける。
「・・・・はずして、ほしい。苦しい。」
少し考えて、素直に甘えることにした。
嫌というほどに見られたことのある胸を、今更隠す必要はないと思ったのだ。
たぶん、私は大胆だった。
それは、熱のせいなのもあるのかもしれない。
ブラジャーのホックをリヴァイが外した途端に、胸を押さえつけられていた圧迫感から解放されて、ホッと息を吐く。
「じゃあ、今から拭くぞ。」
コクリ、と頷いた後、まずは、背中の辺りに温かいタオルを感じた。
優しく撫でるように背中を滑るタオルの温度が気持ちよくて、目を閉じてしまう。
背中から腰を拭いたら、今度は、胸元にタオルが触れた。
その途端に、思わず肩が跳ねてしまう。
でも、私も、リヴァイも、お互いに気づかなかったフリをする。
ギュッと目を閉じて、優しいタオルの温もりを、母親のものだと思い込むことにした。
目を開けてしまったら、私はリヴァイを見つけてしまう。
目が合ったら、私達は、どうなるのだろう———試してみたい。試しちゃいけない。
そんなことを考えているうちに、タオルの温もりが身体から離れた。
リヴァイが持ってきてくれたのは、ワンピースのパジャマだった。
手伝ってもらいながら、ワンピースに袖を通してから、着ていたスカートを脱いで、リヴァイに渡す。
脱いだ服を持って部屋を出て行ったリヴァイは、病院から貰って来た薬と白湯を入れたグラスを持って戻ってきた。
リヴァイからグラスを受け取り薬を飲んだ後、今度は熱を測るようにと体温計を渡される。
何処までも準備がいい———ぼんやりとそんなことを考えていると、口にくわえた体温計が測り終える。
体温計をそっととりあげ、熱を確認したリヴァイの表情が僅かに歪んだように見えた。
「なん、ど?」
「40度だ、クソが。」
「あぁ…、また、あがった、んだ…。」
「いいから寝とけ。起きたら何か食えるように、適当に飯でも作っとく。
期待はすんなよ。」
私をベッドに寝かせた後、リヴァイが立ち上がった。
力を振り絞って、筋力を失ったかと思うほどに弱弱しい腕を伸ばし、リヴァイの太ももの辺りに漸く触れた。
「どうした?」
「も、かえ、って、いいで、す…。」
優しい声色に、胸が痛くなったけれど、弱弱しい声で、ちゃんと伝える。
偶然居合わせたリヴァイが、私にしてくれたことはすべて、まるで恋人のようだった。私が求める、優しくて、とても大切にしてくれる恋人みたいだった。
でも、リヴァイは恋人じゃない。
恋人になっては、いけない。
本心は違っていたって、私はリヴァイをもう求めないと決めたのだ。
そうではなくとも、熱で弱ってる今、誰かにそばにいてほしいと思ってしまってる。
リヴァイに、甘えたい。
でも、40度の熱が、私の脳みそを溶かそうとしていても、瞼の裏に焼き付いたペトラの悲しそうな顔は消えないのだ。
熱のせいで、想いのままリヴァイを求められたらよかったのに———。
「泣きながら、何言ってやがる。」
リヴァイが、ベッドの縁に腰かける。
ベッドが苦し気に軋んだ音が、私達の許されない恋の悲鳴に聞こえた。
仲間を導き、ペトラを守ってきた、細くて綺麗な指が、私の目尻に触れて、しっとりと濡れてしまった。
「熱、のせい…。」
「言っただろ。俺に放っておいてほしいなら、俺の前で弱ってる姿を晒すんじゃねぇ。
離れられるわけねぇだろ。」
リヴァイが、私の頬に触れる。
ひんやりとしていて、気持ちが良い。
リヴァイに触れられると、心臓は鼓動を速めるのに、心が穏やかになって、ひどく心地が良いのだ。
だから私は、リヴァイから離れがたくなる———。
そっと目を閉じると、涙が頬を流れて落ちたのを感じた。
「誰が許さなくても、惚れてる女くらい守る。」
真っ暗闇の世界で、リヴァイの声だけが私の心を包み込む。
流れた涙を拭ってくれる優しい手が、泣いてしまうくらいに幸せな夢の世界へと私を導いていく————。