その夜に、沈む
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私とリヴァイは、ただじっと見つめ合っていた。
リヴァイの手が触れる頬から、熱がまた上がっていくようだ。
これからもずっと一緒に居たいと、リヴァイが求めてくれている。
あとは、私の気持ち次第だ。
私の返答で、これからの私とリヴァイの未来が決まる。
愛してる———その気持ちだけで生きてもいいのなら、私はきっとリヴァイの腕の中に喜んで飛び込んでいくのだろう。
「リヴァイ、私・・・・、」
その言葉は、続かなかった。
さっき、リヴァイが閉じた扉が、開いたのだ。
そこからは、柔らかい風と共に、甘い香り、それから、可愛らしい声が飛び込んできた。
「おはよー!なまえ!熱があるって、常連のお客さんに聞いて
心配になって、お見舞い、に・・・、き、た・・・。」
2、3歩、部屋に踏み込んで、ペトラが足を止める。
驚愕の表情は、次第に血の気を引かせていく。
私もきっと、同じような表情の流れを見せたと思う。
「なん、で・・・、リヴァ、イ兵長が・・・。」
「ちが———。」
違うの———そう言おうとしたときにはもう、ペトラの手が振り上げられたのが見えた。
怒りと憎しみで吊り上がった目は、躊躇わずに私を叩くつもりなんだろう。
それ相応以上のことをしたのも自覚はあるけれど、思わず、逃げるように目をギュッとつぶってしまう。
パチーーン!
手のひらと頬がぶつかった高い音が激しく響いた。
でも、私の頬に痛みはない。
まさか———。
驚いて目を開ければ、ベッドの上に座ったままの私を庇うように、縁に座った格好で身体を前に出したリヴァイの後頭部が見えた。
背中を向けたままで、リヴァイは後ろ手で、守るように私の腰に触れている。
その姿を見たペトラが、大きな瞳をさらに大きく見開いた後、悔しそうに細めたのが分かった。
「どうして、なまえを庇うんですか…?」
「聞け、ペトラ。なまえは———。」
「どうして!リヴァイ兵長が、なまえを庇うんですか!?
私がリヴァイ兵長と恋人だったことも!別れたことも!それでもまだ好きなことも!
全部知ってるのに!!リヴァイ兵長と一緒にいるなんて、頭がおかしいでしょう!?」
私は悪くない———ペトラが怒りに任せて叫ぶ。
すべてが、その通りだった。
ペトラは、何も悪くない。
妹のように大切に想っているペトラの愛する人との未来を、夢見てしまうなんて、どうかしてる。
頭がおかしいと言われても、仕方ない。
「あぁ、ペトラは何も悪くねぇ。
悪いのは、俺だ。」
「なんで、リヴァイ兵長が———。」
「俺が、なまえに惚———」
「違うの!!」
これ以上、言わせるわけにはいかなかった。
それでもまだ、私はペトラに知られることに怯えていたのだ。
私はリヴァイの肩を掴んで後ろに引くと、代わりに自分が前に出た。
ペトラの視線が、もう一度、私に向く。
「昨日、熱を出して病院に行った帰りに、倒れそうになったのをリヴァイが助けてくれたの。
それで、心配して看病をしてくれていただけ。
私達は何もないの。ペトラの気持ちを知ってたのに、リヴァイの優しさに甘えた私が悪い———。」
「リ、ヴァイ・・・?
いつ、から、リヴァイ兵長のことを、呼び捨てにしてるの。」
ペトラに震える声で指摘されて、ハッとする。
慌てて、口を両手で塞ぐが、もう遅い。
ショックを受けていたペトラの表情が、また怒りへと変わっていく。
「私に隠れて、ずっと2人で会ってたの!?そして、忘れられないって泣いてる私を
2人で笑ってたの!?それとも、可哀想だって哀れんでた!?」
「違う…!そんなことしてない!ねぇ、聞いてっ、ペトラっ。」
「リヴァイ兵長に好きな人がいるなんて、ありえないって…!私のことを思った嘘だって!
なまえが言ったんだよ!?どんな気持ちで、私を慰めてたの!?よくそんなことが出来たよね!
最低だよ!なまえなんて、最低だ!大っ嫌い!大っ嫌いなんだから!!」
ペトラが、泣きながら叫ぶように怒りをぶちまける。
肩で息をするように上下に揺らす彼女は、頬を涙でいっぱいにしていた。
よく見れば、彼女の足元には、果物や私のお気に入りのお菓子が散らばっている。
お見舞いに来た———扉が開いた時に、ペトラがそう言っていたのを思い出して、泣きそうになる。
でも、今この場で、泣いていいのはペトラだけだ。
「落ち着け、ペトラ。」
リヴァイが、両手を前に出すようにして上げて、ペトラを落ち着かせようとしている。
そんなこと、私だって無理だと分かる。
小説や恋愛話で、よく修羅場と表現されるこの場で、冷静でいられるのはきっと、リヴァイだけだ。
「リヴァイ兵長、そこをどいてください!!」
「出来ねぇ。」
「どうして!!」
「俺が、なまえに惚れてるからだ。」
ペトラが、息を呑んだのが分かった。
「初めて、なまえを紹介された日からだ。
目が合った瞬間、もう会うのは最後にするべきだと分かった。
でも、出来なかった。俺は、気づいたら、なまえに会いに——。」
「聞きたくない!!」
「聞かなくても、事実だ。悪いのは俺だけだ。
なまえは、40度も熱があるのに、それでも看病しようとする俺を帰そうとした。
俺が、恋人が姉のように慕う大切な友人に惚れちまった、最低な男だからだ。」
いつの間にか、リヴァイに手を握られていた。
その手は、微かに震えている。
きっと今、リヴァイも苦しんでいる。
ペトラのことを大切に想うのは、私だけじゃない。
リヴァイだって本当は、ずっと、ずっと、ペトラを愛していたかったのだ。
きっと、私がさっき、リヴァイとの未来を夢見たように、リヴァイもまた、ペトラとの穏やかな未来を信じていたに違いない。
私が、現れたせいだ。
私が———。
「ごめんなさい…。」
私は、頭を下げた。
謝らなければいけないことは、沢山ある。
ペトラのことを、傷つけ過ぎた。
でも、一番は————。
「リヴァイが…、好きなの…。」
リヴァイに握られている手が、ビクッと震えた。
もしかしたら、一番驚いたのは、リヴァイだったのかもしれない。
「初めて会ったときから、リヴァイに会っちゃいけないことは、分かってた。
でも、会う度に、気持ちが止められなくなってしまったの。
ペトラを悲しませると分かってたのに、私…、どうしても…、リヴァイを———。」
「聞け、ペトラ。なまえは悪くねぇんだ。
俺が、なまえに迷惑がられても、毎日のように会いに行った。
恋人がいるのに、自分の気持ちのままになまえを誘った。」
「聞きたくない!!」
「なまえは、それでも、ペトラのことを思って俺を拒んだんだ。
その時に、俺も諦めるべきだった。でも、出来なかった。
誰を傷つけても、ペトラを傷つけても、なまえを愛して———。」
「いや、聞きたくない!!」
ペトラが耳を塞いで、叫ぶ。
きっと、これが、私とリヴァイが想像した最悪のシナリオの中でも、一番望まなかったものだ。
こんなはずじゃなかった———私達は皆、そう思ってる。
私達にはもっと、幸せな未来があったはずだ。
道を間違えたのは、私とリヴァイ。
そして、私とリヴァイは、間違った道を歩きたいと望んでしまっている。
「ペトラ!!」
大きな声でペトラの名前を叫ぶように呼んで、突然、部屋に駆け込んできたのは、オルオだった。
ペトラが、何度か店に連れて来たことがある調査兵の同僚で友人だ。
とぼけているけれど明るくて、優しい青年だ。
たぶん、ペトラに好意があるのだろう、となんとなく感じたのを覚えている。
目を真っ赤にして泣いているペトラと、ベッドの上に座り込む私とリヴァイを見た後、オルオは、これでもかというほどに眉間に皴を寄せて、嫌悪感を丸出しにする。
「リヴァイ兵長、ペトラは俺が連れて帰りますけど、いいっすよね。」
オルオは、ペトラの手を握ると、リヴァイの方を向いて言う。
棘のある言い方は、部下から上司へのそれとはかけ離れていた。
「あぁ、構わねぇ。」
リヴァイがそう答えると、オルオから放たれる空気に怒りが走った。
「俺が今、必死に、怒りを抑えてるの分かりますか。
今ここに、刃があれば、リヴァイ兵長を殺そうとしてます。
返り討ちにあうんだろうけど、それくらいの覚悟でぶっ殺そうと出来る自信があります。」
「だろうな。」
「っ。なら、これ以上、俺を軽蔑させないでください。
帰ってきてからでいいんで、しっかりペトラと向き合ってやってくださいよ。
これ以上、ペトラを傷つけることは、俺が許さねぇから…!」
オルオは、真っ直ぐにリヴァイを見据えた。
大好きな娘が、傷つけられたのだ。
きっと、気が狂いそうなくらいに怒っているのだろう。
それでも、怒りに我を忘れることもせず、ペトラを守ろうとしているオルオは、とても男らしかった。
「あぁ、わかった。」
頷いたリヴァイを見届けて、オルオは、泣きじゃくるペトラを連れて部屋を出て行った。
パタン、と閉まる音が、ひどく虚しい。
でも、繋がれた手が一度も離れたかったことが、私はもうひとりではないのだと思わせてくれて、嬉しかったのだ。
嬉しくて、幸せで、悲しくて、胸が苦しい。
「悪かった。」
ポツリ、とリヴァイが呟くように謝る。
その視線はずっと、ペトラとオルオが出て行った扉に向かっていた。
「リヴァイが謝ることじゃ、」
「なまえとペトラの仲を壊したのは、俺だ。
俺が、選択を誤った。」
何の選択を誤ったのだろう———。
そう思ってしまって、私は返事が出来なかった。
もし、私を愛したことを誤った選択だと後悔していたら———ありえなくもない。
リヴァイは、信頼する部下で、愛おしい恋人だったペトラを失った。そして、慕ってくれている部下にまで、背を向けられた。
私を愛したことで、彼が得たものとは何だろう。そんなもの、あるのだろうか———考えれば考える程、誤った選択は、私だとしか思えない。
「でも、俺は、」
リヴァイは、そこまで言ってから振り返る。
私をまっすぐに見つめる瞳から、逃げたくなる。
でも、決して離れない手を、信じてみたくもなる。
「なまえを愛したことは、死んでも謝らねぇ。」
息が、止まった———そんな気がした。
驚きと苦しみで、キュッと唇が結ばれる。
許されないまま壊れた朝
「まだ熱があるんだから、寝とけ。」
私の頭を優しく撫でた彼に、ベッドに寝かされる。
しばらく待っていれば、昨夜の残りの野菜スープと、慣れない手つきで作ってくれた御粥を持って彼が戻ってくる。
窓の外では、朝の光が柔らかく揺れている。
幾ら私達が愛したことを間違っていないと叫んだところで、大切な人を傷つけた罪が消えることはない。
彼女の笑顔も、彼女の涙も、私達を許してくれないのなら、壊れたままの朝を抱えた私達の夜はずっと明けないのだろう。
今日は非番だという彼は、残してきた仕事があるからと昼過ぎに部屋を出て行こうとする。
きっと、彼女に会いに行くのだ。
私には何も告げず、本当にすべての罪を背負うつもりなのだと思う。
「愛してる。」
まるで、心配するなとでも言うように、彼が私の頬をそっと撫でる。
だから、私も伝える———。
愛してる、あなたとならこの世で最も重たい罪を背負って生きても構わない程に———。
リヴァイの手が触れる頬から、熱がまた上がっていくようだ。
これからもずっと一緒に居たいと、リヴァイが求めてくれている。
あとは、私の気持ち次第だ。
私の返答で、これからの私とリヴァイの未来が決まる。
愛してる———その気持ちだけで生きてもいいのなら、私はきっとリヴァイの腕の中に喜んで飛び込んでいくのだろう。
「リヴァイ、私・・・・、」
その言葉は、続かなかった。
さっき、リヴァイが閉じた扉が、開いたのだ。
そこからは、柔らかい風と共に、甘い香り、それから、可愛らしい声が飛び込んできた。
「おはよー!なまえ!熱があるって、常連のお客さんに聞いて
心配になって、お見舞い、に・・・、き、た・・・。」
2、3歩、部屋に踏み込んで、ペトラが足を止める。
驚愕の表情は、次第に血の気を引かせていく。
私もきっと、同じような表情の流れを見せたと思う。
「なん、で・・・、リヴァ、イ兵長が・・・。」
「ちが———。」
違うの———そう言おうとしたときにはもう、ペトラの手が振り上げられたのが見えた。
怒りと憎しみで吊り上がった目は、躊躇わずに私を叩くつもりなんだろう。
それ相応以上のことをしたのも自覚はあるけれど、思わず、逃げるように目をギュッとつぶってしまう。
パチーーン!
手のひらと頬がぶつかった高い音が激しく響いた。
でも、私の頬に痛みはない。
まさか———。
驚いて目を開ければ、ベッドの上に座ったままの私を庇うように、縁に座った格好で身体を前に出したリヴァイの後頭部が見えた。
背中を向けたままで、リヴァイは後ろ手で、守るように私の腰に触れている。
その姿を見たペトラが、大きな瞳をさらに大きく見開いた後、悔しそうに細めたのが分かった。
「どうして、なまえを庇うんですか…?」
「聞け、ペトラ。なまえは———。」
「どうして!リヴァイ兵長が、なまえを庇うんですか!?
私がリヴァイ兵長と恋人だったことも!別れたことも!それでもまだ好きなことも!
全部知ってるのに!!リヴァイ兵長と一緒にいるなんて、頭がおかしいでしょう!?」
私は悪くない———ペトラが怒りに任せて叫ぶ。
すべてが、その通りだった。
ペトラは、何も悪くない。
妹のように大切に想っているペトラの愛する人との未来を、夢見てしまうなんて、どうかしてる。
頭がおかしいと言われても、仕方ない。
「あぁ、ペトラは何も悪くねぇ。
悪いのは、俺だ。」
「なんで、リヴァイ兵長が———。」
「俺が、なまえに惚———」
「違うの!!」
これ以上、言わせるわけにはいかなかった。
それでもまだ、私はペトラに知られることに怯えていたのだ。
私はリヴァイの肩を掴んで後ろに引くと、代わりに自分が前に出た。
ペトラの視線が、もう一度、私に向く。
「昨日、熱を出して病院に行った帰りに、倒れそうになったのをリヴァイが助けてくれたの。
それで、心配して看病をしてくれていただけ。
私達は何もないの。ペトラの気持ちを知ってたのに、リヴァイの優しさに甘えた私が悪い———。」
「リ、ヴァイ・・・?
いつ、から、リヴァイ兵長のことを、呼び捨てにしてるの。」
ペトラに震える声で指摘されて、ハッとする。
慌てて、口を両手で塞ぐが、もう遅い。
ショックを受けていたペトラの表情が、また怒りへと変わっていく。
「私に隠れて、ずっと2人で会ってたの!?そして、忘れられないって泣いてる私を
2人で笑ってたの!?それとも、可哀想だって哀れんでた!?」
「違う…!そんなことしてない!ねぇ、聞いてっ、ペトラっ。」
「リヴァイ兵長に好きな人がいるなんて、ありえないって…!私のことを思った嘘だって!
なまえが言ったんだよ!?どんな気持ちで、私を慰めてたの!?よくそんなことが出来たよね!
最低だよ!なまえなんて、最低だ!大っ嫌い!大っ嫌いなんだから!!」
ペトラが、泣きながら叫ぶように怒りをぶちまける。
肩で息をするように上下に揺らす彼女は、頬を涙でいっぱいにしていた。
よく見れば、彼女の足元には、果物や私のお気に入りのお菓子が散らばっている。
お見舞いに来た———扉が開いた時に、ペトラがそう言っていたのを思い出して、泣きそうになる。
でも、今この場で、泣いていいのはペトラだけだ。
「落ち着け、ペトラ。」
リヴァイが、両手を前に出すようにして上げて、ペトラを落ち着かせようとしている。
そんなこと、私だって無理だと分かる。
小説や恋愛話で、よく修羅場と表現されるこの場で、冷静でいられるのはきっと、リヴァイだけだ。
「リヴァイ兵長、そこをどいてください!!」
「出来ねぇ。」
「どうして!!」
「俺が、なまえに惚れてるからだ。」
ペトラが、息を呑んだのが分かった。
「初めて、なまえを紹介された日からだ。
目が合った瞬間、もう会うのは最後にするべきだと分かった。
でも、出来なかった。俺は、気づいたら、なまえに会いに——。」
「聞きたくない!!」
「聞かなくても、事実だ。悪いのは俺だけだ。
なまえは、40度も熱があるのに、それでも看病しようとする俺を帰そうとした。
俺が、恋人が姉のように慕う大切な友人に惚れちまった、最低な男だからだ。」
いつの間にか、リヴァイに手を握られていた。
その手は、微かに震えている。
きっと今、リヴァイも苦しんでいる。
ペトラのことを大切に想うのは、私だけじゃない。
リヴァイだって本当は、ずっと、ずっと、ペトラを愛していたかったのだ。
きっと、私がさっき、リヴァイとの未来を夢見たように、リヴァイもまた、ペトラとの穏やかな未来を信じていたに違いない。
私が、現れたせいだ。
私が———。
「ごめんなさい…。」
私は、頭を下げた。
謝らなければいけないことは、沢山ある。
ペトラのことを、傷つけ過ぎた。
でも、一番は————。
「リヴァイが…、好きなの…。」
リヴァイに握られている手が、ビクッと震えた。
もしかしたら、一番驚いたのは、リヴァイだったのかもしれない。
「初めて会ったときから、リヴァイに会っちゃいけないことは、分かってた。
でも、会う度に、気持ちが止められなくなってしまったの。
ペトラを悲しませると分かってたのに、私…、どうしても…、リヴァイを———。」
「聞け、ペトラ。なまえは悪くねぇんだ。
俺が、なまえに迷惑がられても、毎日のように会いに行った。
恋人がいるのに、自分の気持ちのままになまえを誘った。」
「聞きたくない!!」
「なまえは、それでも、ペトラのことを思って俺を拒んだんだ。
その時に、俺も諦めるべきだった。でも、出来なかった。
誰を傷つけても、ペトラを傷つけても、なまえを愛して———。」
「いや、聞きたくない!!」
ペトラが耳を塞いで、叫ぶ。
きっと、これが、私とリヴァイが想像した最悪のシナリオの中でも、一番望まなかったものだ。
こんなはずじゃなかった———私達は皆、そう思ってる。
私達にはもっと、幸せな未来があったはずだ。
道を間違えたのは、私とリヴァイ。
そして、私とリヴァイは、間違った道を歩きたいと望んでしまっている。
「ペトラ!!」
大きな声でペトラの名前を叫ぶように呼んで、突然、部屋に駆け込んできたのは、オルオだった。
ペトラが、何度か店に連れて来たことがある調査兵の同僚で友人だ。
とぼけているけれど明るくて、優しい青年だ。
たぶん、ペトラに好意があるのだろう、となんとなく感じたのを覚えている。
目を真っ赤にして泣いているペトラと、ベッドの上に座り込む私とリヴァイを見た後、オルオは、これでもかというほどに眉間に皴を寄せて、嫌悪感を丸出しにする。
「リヴァイ兵長、ペトラは俺が連れて帰りますけど、いいっすよね。」
オルオは、ペトラの手を握ると、リヴァイの方を向いて言う。
棘のある言い方は、部下から上司へのそれとはかけ離れていた。
「あぁ、構わねぇ。」
リヴァイがそう答えると、オルオから放たれる空気に怒りが走った。
「俺が今、必死に、怒りを抑えてるの分かりますか。
今ここに、刃があれば、リヴァイ兵長を殺そうとしてます。
返り討ちにあうんだろうけど、それくらいの覚悟でぶっ殺そうと出来る自信があります。」
「だろうな。」
「っ。なら、これ以上、俺を軽蔑させないでください。
帰ってきてからでいいんで、しっかりペトラと向き合ってやってくださいよ。
これ以上、ペトラを傷つけることは、俺が許さねぇから…!」
オルオは、真っ直ぐにリヴァイを見据えた。
大好きな娘が、傷つけられたのだ。
きっと、気が狂いそうなくらいに怒っているのだろう。
それでも、怒りに我を忘れることもせず、ペトラを守ろうとしているオルオは、とても男らしかった。
「あぁ、わかった。」
頷いたリヴァイを見届けて、オルオは、泣きじゃくるペトラを連れて部屋を出て行った。
パタン、と閉まる音が、ひどく虚しい。
でも、繋がれた手が一度も離れたかったことが、私はもうひとりではないのだと思わせてくれて、嬉しかったのだ。
嬉しくて、幸せで、悲しくて、胸が苦しい。
「悪かった。」
ポツリ、とリヴァイが呟くように謝る。
その視線はずっと、ペトラとオルオが出て行った扉に向かっていた。
「リヴァイが謝ることじゃ、」
「なまえとペトラの仲を壊したのは、俺だ。
俺が、選択を誤った。」
何の選択を誤ったのだろう———。
そう思ってしまって、私は返事が出来なかった。
もし、私を愛したことを誤った選択だと後悔していたら———ありえなくもない。
リヴァイは、信頼する部下で、愛おしい恋人だったペトラを失った。そして、慕ってくれている部下にまで、背を向けられた。
私を愛したことで、彼が得たものとは何だろう。そんなもの、あるのだろうか———考えれば考える程、誤った選択は、私だとしか思えない。
「でも、俺は、」
リヴァイは、そこまで言ってから振り返る。
私をまっすぐに見つめる瞳から、逃げたくなる。
でも、決して離れない手を、信じてみたくもなる。
「なまえを愛したことは、死んでも謝らねぇ。」
息が、止まった———そんな気がした。
驚きと苦しみで、キュッと唇が結ばれる。
許されないまま壊れた朝
「まだ熱があるんだから、寝とけ。」
私の頭を優しく撫でた彼に、ベッドに寝かされる。
しばらく待っていれば、昨夜の残りの野菜スープと、慣れない手つきで作ってくれた御粥を持って彼が戻ってくる。
窓の外では、朝の光が柔らかく揺れている。
幾ら私達が愛したことを間違っていないと叫んだところで、大切な人を傷つけた罪が消えることはない。
彼女の笑顔も、彼女の涙も、私達を許してくれないのなら、壊れたままの朝を抱えた私達の夜はずっと明けないのだろう。
今日は非番だという彼は、残してきた仕事があるからと昼過ぎに部屋を出て行こうとする。
きっと、彼女に会いに行くのだ。
私には何も告げず、本当にすべての罪を背負うつもりなのだと思う。
「愛してる。」
まるで、心配するなとでも言うように、彼が私の頬をそっと撫でる。
だから、私も伝える———。
愛してる、あなたとならこの世で最も重たい罪を背負って生きても構わない程に———。
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