その夜に、沈む
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「ん…。」
ゆっくりと浮上していく意識の中で、私は夢の続きを願っていた気がする。
とても幸せな夢を見たのだ。
それは、決して叶うことのない、誰もが幸せそうに笑っている未来。
そんなもの、今も昔も、あるわけがない。誰かが笑っている陰で、他の誰かが泣いている。それがこの世の常だ。
昨晩は、一度眠った後、目が覚めると、リヴァイが作ってくれた野菜スープを飲ませてもらった。
煮込む時間があまりなかった代わりに小さく刻んだ野菜が、すごく柔らかくなっていたおかげで、食べる力があまりなかった私にも飲みやすく、美味しかった。
『朝まで居てやるから、何かあれば言え。』
もう一度、薬を飲んでから寝ようとした私に、自分はリビングのソファで寝るからと、心配して泊ってくれた。
甘えるべきではなかったのに————。
『誰が許さなくても、惚れてる女くらい守る。』
耳の奥に残る低い声が、私の想いを募らせる。
今日だけだ。
独り身の不憫な女が、風邪をひいて弱っているときだけ、神様がくれた特別な時間なのだ。
風邪が治れば、元の生活に戻ろう。
「起きたか。」
扉が開く音がして、リヴァイが濡れた髪を拭きながら入ってくる。
「うん。おはよう。」
ゆっくりと身体を起こす。
高熱に苦しんだダルさは残っているものの、明らかに、昨日よりもだいぶ身体が軽くなっている。
「体調はどうだ?
———だいぶ、下がったみたいだな。」
ベッドの縁に腰かけたリヴァイは、私の額に手のひらをあてると、少しホッとしたように言う。
それでも、ベッドのヘッドボードにおいていた体温計で熱を測らされ、きちんと下がっていることを確認する。
まだ平熱には戻ってはいないが、昨日のように日常生活もままならない程の高熱ではない。
ずっと眠っていられたのが、きっと良かったのだろう。
あれから、献身的に看病をしてくれたリヴァイのおかげだ。
「お風呂に入ってたの?」
ありがとう、もう帰って大丈夫だよ———言おうとしていた言葉は、全く違うものになっていた。
出来るだけ、リヴァイを引き留めようとしてる。
惨めで、虚しくて、諦めの悪い恋心の仕業だ。
「シャワーだ。昨日入りそびれたからな。
石鹸が少なくなってたから、隣に新しいのを出しておいた。」
「まるで自分の家みたいに自由ね。」
リヴァイらしい———そんなことを思ってしまって、自嘲気味にクスリと笑う。
らしい、と思うほど、私はリヴァイのことを知らない。
「本当に俺の家にしてくれても構わねぇが?」
リヴァイが、私の頬に手を添える。
意地悪な口元とは不似合いな、真剣な瞳に捕らえられた私は、視線を逸らせないままで「え。」と掠れた声を漏らす。
「兵舎とは別に自分の家を持つ調査兵も少なくねぇ。
夜勤任務のときは帰ってこれねぇが、それ以外はこの家に帰ってくれば、
いつなまえが熱でぶっ倒れても、すぐに助けてやれる。」
リヴァイは、私をまっすぐに見つめたままで言う。
少しだけ早口だったけれど、覚えてきたセリフみたいに、スラスラと口から出てくる姿を見て、気づいてしまった。
私を守りたいと言ってくれたリヴァイは、昨晩、ずっとこれからのことを考えていたのだ。
そうして、そばにいることを選んだのだろうか。
でも、私にはまだ、勇気がない。
これから先、ペトラの涙の上で幸せになる勇気なんて、もてるとも思えない。
あぁ、でも、もし、リヴァイとの未来を選んだらどうなるのだろう。
リヴァイと一緒に、この家で暮らせたら————。
「わ、たしは、」
第一声が、震えてしまった。
リヴァイが、私を見つめている。
愛してる人に、拒絶の言葉なんて、言いたくない。
でも———。
ゆっくりと浮上していく意識の中で、私は夢の続きを願っていた気がする。
とても幸せな夢を見たのだ。
それは、決して叶うことのない、誰もが幸せそうに笑っている未来。
そんなもの、今も昔も、あるわけがない。誰かが笑っている陰で、他の誰かが泣いている。それがこの世の常だ。
昨晩は、一度眠った後、目が覚めると、リヴァイが作ってくれた野菜スープを飲ませてもらった。
煮込む時間があまりなかった代わりに小さく刻んだ野菜が、すごく柔らかくなっていたおかげで、食べる力があまりなかった私にも飲みやすく、美味しかった。
『朝まで居てやるから、何かあれば言え。』
もう一度、薬を飲んでから寝ようとした私に、自分はリビングのソファで寝るからと、心配して泊ってくれた。
甘えるべきではなかったのに————。
『誰が許さなくても、惚れてる女くらい守る。』
耳の奥に残る低い声が、私の想いを募らせる。
今日だけだ。
独り身の不憫な女が、風邪をひいて弱っているときだけ、神様がくれた特別な時間なのだ。
風邪が治れば、元の生活に戻ろう。
「起きたか。」
扉が開く音がして、リヴァイが濡れた髪を拭きながら入ってくる。
「うん。おはよう。」
ゆっくりと身体を起こす。
高熱に苦しんだダルさは残っているものの、明らかに、昨日よりもだいぶ身体が軽くなっている。
「体調はどうだ?
———だいぶ、下がったみたいだな。」
ベッドの縁に腰かけたリヴァイは、私の額に手のひらをあてると、少しホッとしたように言う。
それでも、ベッドのヘッドボードにおいていた体温計で熱を測らされ、きちんと下がっていることを確認する。
まだ平熱には戻ってはいないが、昨日のように日常生活もままならない程の高熱ではない。
ずっと眠っていられたのが、きっと良かったのだろう。
あれから、献身的に看病をしてくれたリヴァイのおかげだ。
「お風呂に入ってたの?」
ありがとう、もう帰って大丈夫だよ———言おうとしていた言葉は、全く違うものになっていた。
出来るだけ、リヴァイを引き留めようとしてる。
惨めで、虚しくて、諦めの悪い恋心の仕業だ。
「シャワーだ。昨日入りそびれたからな。
石鹸が少なくなってたから、隣に新しいのを出しておいた。」
「まるで自分の家みたいに自由ね。」
リヴァイらしい———そんなことを思ってしまって、自嘲気味にクスリと笑う。
らしい、と思うほど、私はリヴァイのことを知らない。
「本当に俺の家にしてくれても構わねぇが?」
リヴァイが、私の頬に手を添える。
意地悪な口元とは不似合いな、真剣な瞳に捕らえられた私は、視線を逸らせないままで「え。」と掠れた声を漏らす。
「兵舎とは別に自分の家を持つ調査兵も少なくねぇ。
夜勤任務のときは帰ってこれねぇが、それ以外はこの家に帰ってくれば、
いつなまえが熱でぶっ倒れても、すぐに助けてやれる。」
リヴァイは、私をまっすぐに見つめたままで言う。
少しだけ早口だったけれど、覚えてきたセリフみたいに、スラスラと口から出てくる姿を見て、気づいてしまった。
私を守りたいと言ってくれたリヴァイは、昨晩、ずっとこれからのことを考えていたのだ。
そうして、そばにいることを選んだのだろうか。
でも、私にはまだ、勇気がない。
これから先、ペトラの涙の上で幸せになる勇気なんて、もてるとも思えない。
あぁ、でも、もし、リヴァイとの未来を選んだらどうなるのだろう。
リヴァイと一緒に、この家で暮らせたら————。
「わ、たしは、」
第一声が、震えてしまった。
リヴァイが、私を見つめている。
愛してる人に、拒絶の言葉なんて、言いたくない。
でも———。