◇第二十六話◇104期の新兵達
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ストヘス区への出向から帰ってきてからも、私は長距離索敵陣形の授業やテスト、ルルは訓練で忙しく、あまり話す時間がなかったから、久しぶりの夜の日課の時間だった。
今夜はルルが作ってくれたコーヒーを飲みながら、昼間出会った可愛らしい恋人未満の2人とその仲間達の話で盛り上がっていた。
「アルミンが言ってたんだけど、訓練兵時代は対人格闘もするんだってね。
ルルもしてたの?」
「あ~、してはいたけど。
あんまり点数高くないし、真剣にしてる人は少なかったかな。」
「そうなんだ。」
訓練兵団にいたことのない私にとって、104期の彼らとの会話はとても新鮮だった。
兵団組織の知らないことを、同じ目線から教えてもらえたからこそよくわかったこともある。
それは、アルミンの説明がとても上手だったというのもあると思うけれど。
「私も対人格闘してみたいなぁ。」
「一度くらいはしてみるのもいいかもね。」
「憲兵に行った子で、対人格闘術がすごく得意な子がいるんだって。
その子に教えてもらえないかな~。」
話の内容は、今までの私の生活では絶対にありえないものだけれど、友人と過ごす何でもないこの時間の流れは兵士になる前と変わらない。
あちこち飛んでいく会話がただ楽しくて、あっという間に過ぎていく。
「それで、なまえの気持ちは、まだちょっとだけってことでいいのかな?」
「それは…。」
あの日から、リヴァイ兵長には会っていない。
私が訓練ではなく、新兵と一緒に長距離索敵陣形の授業に参加するようになったからだ。
お互いに旧調査兵団本部にいるのだから、会おうと思えば会えるだろうし、そうは思わなくても食堂なんかで偶然顔を合わせることがあってもおかしくはない。
結局は、あの日から、私がずっとリヴァイ兵長を避けているのだ。
「もしかして、何かあった?」
もしも、ルルが好奇心で聞いているのなら、私は何も話さなかったかもしれない。
でも、心配そうに訊ねるその姿が優しくて、何を言っても受け止めてくれるような気がした。
母親との久しぶりの再会の場であったことをすべて話すと、ルルはじっと聞いてくれた。
「リヴァイ兵長は、私は逃げなくて強いって言ってたけど、違うの。
私が逃げ出したいときとか、助けてほしいときは、いつもリヴァイ兵長がいてくれた。
だから、私はここにいるだけなの。」
好きだと認めるのが怖くて、ずっと考えないようにしていた。
でも、リヴァイ兵長を好きになってしまう理由なんて、本当はいくらでもあって、どんなに否定したって無駄だったのだろう。
リヴァイ兵長の仕事を押し付けられたのは本当に腹が立ったけれど、あのときの私は、調査兵団内に居場所がなくて、ハンジさん達がそばにいなかったらいつもひとりぼっちだった。
任務が終わる夜になると、他の兵士達はお互いの部屋を行き来したり、談話室でお喋りしたりしていた。それがすごく羨ましかった。
でも、一緒にそれを叶えてくれる友人のいない私は部屋に戻るしかなくて、そうすると楽しそうな声が聞こえてきて、孤独を思い知らされた。
だから、リヴァイ兵長が私に無理やり仕事を押し付けてくれたのは、本当は有難かった。
あのときだけは、悲しい気持ちを忘れられたし、適当なアドバイスだったとしても相談できる相手がいるというだけで、なんだか強くなれた気がした。
思い返せば、いつも、私がツラいときにはいつもリヴァイ兵長がいた。
だからこそ、吊り橋効果なんて言葉があるみたいに、これはただの気の迷いだって思いたかったけれど、もうどっちでもいい。
どっちにしろ、好きになってしまったのだから、取り返しはつかないのだ。
ただ―。
「恋人がいるのに…、最低な嘘吐かせちゃった。」
たいして柔らかくない枕を押し付けて、情けない顔を隠した。
「ねぇ、あれからずっと、リヴァイ兵長とペトラのことを見てるんだけどさ。
私には、あの2人が恋人同士のようには見えないんだよね。
どっちかって言うと…。」
そこまで言って、ルルは口を結んでしまった。
何かを考えているようだったし、まだ続くのかと思って待ってみたけれど、その続きが彼女の口から出ることはなかった。
「どうしたの?」
「ううん、なんでも。
とにかく、本当に2人は付き合ってるの?
写真を見ただけで、本人に聞いたわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど…。でも、キスしようとしてたんだよ。
そんなこと、恋人同士じゃないと、しないでしょ?」
言わせないでよーと私はまた顔を枕で隠す。
談話室のキッチンに行くと必ずあの日の2人がフラッシュバックするから、あれから美味しい紅茶を作れてない。
「それがなまえの見間違いってことはないの?」
「違う、と思う。」
「本当に?」
「…そんなに聞かれたら、自信がなくなるけど。」
あのキッチンでのことはあまり思い出したくない。
でも、私には2人がキスをしようとしているようにしか見えなかった。
私には、恋人同士にしか見えなかったのだ。
枕を抱きしめる腕に力が入る。
恋というのは、こんなに胸が痛いものだっただろうか。
もっと、ワクワクしていた気がするのに―。
「リヴァイ兵長のことを良く知ってるわけじゃないけど、
たぶん、あの人は、恋人がいるのに他の人の旦那さんのフリするような
そんな人じゃないと思うよ。」
「…私もそう思うよ。
でも、あのときは、母が傷つくと思って嘘をついてくれたんだと思う。」
「うーん。それもあるかもしれないけど…。
ねぇ、リヴァイ兵長はあの日のことを何か言ってこなかったの?」
「何かって?」
「例えば、本当にペトラと付き合ってるんだとして、
誰にも言わないでほしいってお願いしたりとか。」
「あ~…。」
リヴァイ兵長があの日のことを何か言いたげにしていたことを話した。
私が、聞こえないふりをしたり、誤魔化したりしたことも。
「やっぱり、ちゃんと聞いた方がいい。」
「え?」
「もしかしたら、誤解されてると思って弁解しようとしたのかもしれないでしょ?」
「すごく可能性低い…。」
「大丈夫!もし、リヴァイ兵長がなまえを傷つけるようなことがあれば
私が、うなじを削いであげるから!」
「なにそれ。リヴァイ兵長は巨人じゃないよ。」
「チビだし?」
「それは言っちゃダメなやつ。」
2人で顔を見合わせて、お腹が痛くなるくらい笑った。
私の胸を恋という刃がチクリチクリと刺すけれど、死にはしないから大丈夫だと思えた。
「もし、失恋しちゃったら、私が抱きしめてあげるからいつでもおいで。」
ルルはそう言って、一足早く私を抱きしめる。
リヴァイ兵長とそんなに身長は変わらないけれど、抱きしめられる感覚はだいぶ違う。
華奢な彼女の優しい温もりは、彼とは違う安心感があった。
「私はどんなときだって、世界が敵になったって、なまえの世界一の味方だからね。」
「ふふ、何それ~、大げさ~。」
「いいのーっ。」
クスクス笑いながらルルの背中に手をまわす私を、ルルは優しく抱きしめ返してくれた。
なんだか、ルルは、本当にいつだって私の世界一の味方でいてくれるような気がした。
ずっと、ずっと―。
今夜はルルが作ってくれたコーヒーを飲みながら、昼間出会った可愛らしい恋人未満の2人とその仲間達の話で盛り上がっていた。
「アルミンが言ってたんだけど、訓練兵時代は対人格闘もするんだってね。
ルルもしてたの?」
「あ~、してはいたけど。
あんまり点数高くないし、真剣にしてる人は少なかったかな。」
「そうなんだ。」
訓練兵団にいたことのない私にとって、104期の彼らとの会話はとても新鮮だった。
兵団組織の知らないことを、同じ目線から教えてもらえたからこそよくわかったこともある。
それは、アルミンの説明がとても上手だったというのもあると思うけれど。
「私も対人格闘してみたいなぁ。」
「一度くらいはしてみるのもいいかもね。」
「憲兵に行った子で、対人格闘術がすごく得意な子がいるんだって。
その子に教えてもらえないかな~。」
話の内容は、今までの私の生活では絶対にありえないものだけれど、友人と過ごす何でもないこの時間の流れは兵士になる前と変わらない。
あちこち飛んでいく会話がただ楽しくて、あっという間に過ぎていく。
「それで、なまえの気持ちは、まだちょっとだけってことでいいのかな?」
「それは…。」
あの日から、リヴァイ兵長には会っていない。
私が訓練ではなく、新兵と一緒に長距離索敵陣形の授業に参加するようになったからだ。
お互いに旧調査兵団本部にいるのだから、会おうと思えば会えるだろうし、そうは思わなくても食堂なんかで偶然顔を合わせることがあってもおかしくはない。
結局は、あの日から、私がずっとリヴァイ兵長を避けているのだ。
「もしかして、何かあった?」
もしも、ルルが好奇心で聞いているのなら、私は何も話さなかったかもしれない。
でも、心配そうに訊ねるその姿が優しくて、何を言っても受け止めてくれるような気がした。
母親との久しぶりの再会の場であったことをすべて話すと、ルルはじっと聞いてくれた。
「リヴァイ兵長は、私は逃げなくて強いって言ってたけど、違うの。
私が逃げ出したいときとか、助けてほしいときは、いつもリヴァイ兵長がいてくれた。
だから、私はここにいるだけなの。」
好きだと認めるのが怖くて、ずっと考えないようにしていた。
でも、リヴァイ兵長を好きになってしまう理由なんて、本当はいくらでもあって、どんなに否定したって無駄だったのだろう。
リヴァイ兵長の仕事を押し付けられたのは本当に腹が立ったけれど、あのときの私は、調査兵団内に居場所がなくて、ハンジさん達がそばにいなかったらいつもひとりぼっちだった。
任務が終わる夜になると、他の兵士達はお互いの部屋を行き来したり、談話室でお喋りしたりしていた。それがすごく羨ましかった。
でも、一緒にそれを叶えてくれる友人のいない私は部屋に戻るしかなくて、そうすると楽しそうな声が聞こえてきて、孤独を思い知らされた。
だから、リヴァイ兵長が私に無理やり仕事を押し付けてくれたのは、本当は有難かった。
あのときだけは、悲しい気持ちを忘れられたし、適当なアドバイスだったとしても相談できる相手がいるというだけで、なんだか強くなれた気がした。
思い返せば、いつも、私がツラいときにはいつもリヴァイ兵長がいた。
だからこそ、吊り橋効果なんて言葉があるみたいに、これはただの気の迷いだって思いたかったけれど、もうどっちでもいい。
どっちにしろ、好きになってしまったのだから、取り返しはつかないのだ。
ただ―。
「恋人がいるのに…、最低な嘘吐かせちゃった。」
たいして柔らかくない枕を押し付けて、情けない顔を隠した。
「ねぇ、あれからずっと、リヴァイ兵長とペトラのことを見てるんだけどさ。
私には、あの2人が恋人同士のようには見えないんだよね。
どっちかって言うと…。」
そこまで言って、ルルは口を結んでしまった。
何かを考えているようだったし、まだ続くのかと思って待ってみたけれど、その続きが彼女の口から出ることはなかった。
「どうしたの?」
「ううん、なんでも。
とにかく、本当に2人は付き合ってるの?
写真を見ただけで、本人に聞いたわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど…。でも、キスしようとしてたんだよ。
そんなこと、恋人同士じゃないと、しないでしょ?」
言わせないでよーと私はまた顔を枕で隠す。
談話室のキッチンに行くと必ずあの日の2人がフラッシュバックするから、あれから美味しい紅茶を作れてない。
「それがなまえの見間違いってことはないの?」
「違う、と思う。」
「本当に?」
「…そんなに聞かれたら、自信がなくなるけど。」
あのキッチンでのことはあまり思い出したくない。
でも、私には2人がキスをしようとしているようにしか見えなかった。
私には、恋人同士にしか見えなかったのだ。
枕を抱きしめる腕に力が入る。
恋というのは、こんなに胸が痛いものだっただろうか。
もっと、ワクワクしていた気がするのに―。
「リヴァイ兵長のことを良く知ってるわけじゃないけど、
たぶん、あの人は、恋人がいるのに他の人の旦那さんのフリするような
そんな人じゃないと思うよ。」
「…私もそう思うよ。
でも、あのときは、母が傷つくと思って嘘をついてくれたんだと思う。」
「うーん。それもあるかもしれないけど…。
ねぇ、リヴァイ兵長はあの日のことを何か言ってこなかったの?」
「何かって?」
「例えば、本当にペトラと付き合ってるんだとして、
誰にも言わないでほしいってお願いしたりとか。」
「あ~…。」
リヴァイ兵長があの日のことを何か言いたげにしていたことを話した。
私が、聞こえないふりをしたり、誤魔化したりしたことも。
「やっぱり、ちゃんと聞いた方がいい。」
「え?」
「もしかしたら、誤解されてると思って弁解しようとしたのかもしれないでしょ?」
「すごく可能性低い…。」
「大丈夫!もし、リヴァイ兵長がなまえを傷つけるようなことがあれば
私が、うなじを削いであげるから!」
「なにそれ。リヴァイ兵長は巨人じゃないよ。」
「チビだし?」
「それは言っちゃダメなやつ。」
2人で顔を見合わせて、お腹が痛くなるくらい笑った。
私の胸を恋という刃がチクリチクリと刺すけれど、死にはしないから大丈夫だと思えた。
「もし、失恋しちゃったら、私が抱きしめてあげるからいつでもおいで。」
ルルはそう言って、一足早く私を抱きしめる。
リヴァイ兵長とそんなに身長は変わらないけれど、抱きしめられる感覚はだいぶ違う。
華奢な彼女の優しい温もりは、彼とは違う安心感があった。
「私はどんなときだって、世界が敵になったって、なまえの世界一の味方だからね。」
「ふふ、何それ~、大げさ~。」
「いいのーっ。」
クスクス笑いながらルルの背中に手をまわす私を、ルルは優しく抱きしめ返してくれた。
なんだか、ルルは、本当にいつだって私の世界一の味方でいてくれるような気がした。
ずっと、ずっと―。