◇第二十四話◇好きになった人
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玄関まで見送りに出た母は、とても名残惜しそうに私の手に触れた。
子供の頃、いつも握ってくれていた大きな母の手。
大人になっても小さめの私の手より、少し大きいだけの今の母の手は、皴が増えていて、あの頃の感触とは違う気がする。
何度か出た壁外任務とは違い、今度の壁外調査は数日間を予定している。エルヴィン団長が言っていた通り、そこで3割の兵士が命を落とすことになるとしたら、私がその数字の中に入っていないとは言い切れない。
むしろ、初めて参加する私や新兵はその中に入っている確率が、他の兵士よりも数段高いのだろう。
私はこの手を、もう一度、握ることは出来るのだろうか。
また触れてもらうことは、出来るのだろうか。
「また、遊びに来るね。」
母の手を強く握った。
これはおまじない。必ず、生きて帰ってくるというおまじない。
また、母に会えますように。
今度は、父にも、兄弟にも会えますように。
「何言ってんの。お母さんのところに遊びに来る暇があるなら、
兵士長さんに、力のつくものでも食べさせてあげなさい。」
困った顔でそう言う母だって、握りしめる私の手を離そうとはしない。
本当に離れたくないのは、私だろうか。母だろうか。
そっと手を離すと、ゆっくりと母の手も離れていった。
「アンタの娘は確かに気が強ぇ。」
「え?」
「しかも、相当だ。誰に聞いても、気の強ぇ女だと言うだろう。」
「…すみません、本当に。」
急に喋り出したリヴァイ兵長に、私はなぜか猛烈なダメ出しをされている。
もう逃げて帰りたい。
兵舎まで、走って帰りたいくらいだ。
「だが、芯がある。」
「え?」
「時々、おれ達が心配になるくらいに無理をすることもあるが、
そうやってアンタの娘は、自分の居場所を自分で作った。
自分の決めたことに真っすぐ向き合うなまえを、今はもう誰も異物者だとは思わない。」
「そうですか。なまえはそちらでちゃんとやってるんですね。」
「ガキの頃の話をしていたが、ちっとも変ってねぇってことだ。
なんでも器用にこなして、頼りにされてるし、周りにはいつも誰かがいる。
これからアンタの娘が帰る場所には、味方しかいねぇんだ。」
リヴァイ兵長は急に何を言い出すのかと思ったけれど、恥ずかしさで耳が熱くなる。
でも、とても有難かった。
だって、さっきまで心配で仕方がないという顔をしていた母が、少しホッとしているのが分かったから。
「それもきっと、大好きなリヴァイ兵士長さんがいてくれたおかげですよ。
ありがとうございます。」
「さぁ…、それはわからねぇが…。
自分よりも他の誰かのために生きるってのは、誰にでも出来ることじゃねぇ。
アンタの娘にはそれが出来る強さがある。」
だから、心配いらないのだというリヴァイ兵長に、母はしきりに礼を繰り返した。
驚いた。
そんなことを言ってくれるなんて。
私の嘘に付き合ってくれているリヴァイ兵長だけれど、褒めるなんてことを嘘や方便で言う人ではないと思う。
本当に、私のことをそう思ってくれているのだろうか。
そんな風に私を見てくれているのだろうか。
母を騙しているこんな時に、私は上がる口角をどうすることも出来ない。
「なまえ。」
今度こそ最後の挨拶も済ませて、リヴァイ兵長とハンジさんの後から馬車に向かおうとしたら、母に腕を掴まれた。
驚いて振り返った私に、母は楽しそうな笑みを浮かべていた。
「リヴァイ兵長ってとても素敵な人ね。
ルーカスくんがいたのに、あなたが好きになってしまったのも分かったわ。」
「そう…、そう、とても素敵な人なの。
私が好きになった人はね、世界一カッコよくて、優しくて、素敵なのっ。」
「惚気ちゃって。今度、惚気話を聞かせてね。」
「それはダメ~。」
笑って言って、私は母にサヨナラと手を振った。
惚気話なんて出来るわけがないし、振られた話すら出来ない娘を許してほしい。
でも、あなたの娘が好きになった男の人は、とても素敵な人だよ。
好きだと認めた途端、気持ちは止められなくなるものだ。
今までの経験上、それくらい知っていた。
だから、どうしても認めたくなかった。
でも、どうやら、私はまだ、本当の意味での恋を知らなかっただけらしい。
心から想ってしまったら、どんなに理性で気持ちを抑えつけたところで、どうにもならないようだ。
どうしよう。
私は、口が悪いのに優しくて、温かくて、背が小さいのにとても大きいリヴァイ兵長が、心底好きだ。
先に馬車に乗って待っていたリヴァイ兵長が、早くしろと窓から顔を出した。
子供の頃、いつも握ってくれていた大きな母の手。
大人になっても小さめの私の手より、少し大きいだけの今の母の手は、皴が増えていて、あの頃の感触とは違う気がする。
何度か出た壁外任務とは違い、今度の壁外調査は数日間を予定している。エルヴィン団長が言っていた通り、そこで3割の兵士が命を落とすことになるとしたら、私がその数字の中に入っていないとは言い切れない。
むしろ、初めて参加する私や新兵はその中に入っている確率が、他の兵士よりも数段高いのだろう。
私はこの手を、もう一度、握ることは出来るのだろうか。
また触れてもらうことは、出来るのだろうか。
「また、遊びに来るね。」
母の手を強く握った。
これはおまじない。必ず、生きて帰ってくるというおまじない。
また、母に会えますように。
今度は、父にも、兄弟にも会えますように。
「何言ってんの。お母さんのところに遊びに来る暇があるなら、
兵士長さんに、力のつくものでも食べさせてあげなさい。」
困った顔でそう言う母だって、握りしめる私の手を離そうとはしない。
本当に離れたくないのは、私だろうか。母だろうか。
そっと手を離すと、ゆっくりと母の手も離れていった。
「アンタの娘は確かに気が強ぇ。」
「え?」
「しかも、相当だ。誰に聞いても、気の強ぇ女だと言うだろう。」
「…すみません、本当に。」
急に喋り出したリヴァイ兵長に、私はなぜか猛烈なダメ出しをされている。
もう逃げて帰りたい。
兵舎まで、走って帰りたいくらいだ。
「だが、芯がある。」
「え?」
「時々、おれ達が心配になるくらいに無理をすることもあるが、
そうやってアンタの娘は、自分の居場所を自分で作った。
自分の決めたことに真っすぐ向き合うなまえを、今はもう誰も異物者だとは思わない。」
「そうですか。なまえはそちらでちゃんとやってるんですね。」
「ガキの頃の話をしていたが、ちっとも変ってねぇってことだ。
なんでも器用にこなして、頼りにされてるし、周りにはいつも誰かがいる。
これからアンタの娘が帰る場所には、味方しかいねぇんだ。」
リヴァイ兵長は急に何を言い出すのかと思ったけれど、恥ずかしさで耳が熱くなる。
でも、とても有難かった。
だって、さっきまで心配で仕方がないという顔をしていた母が、少しホッとしているのが分かったから。
「それもきっと、大好きなリヴァイ兵士長さんがいてくれたおかげですよ。
ありがとうございます。」
「さぁ…、それはわからねぇが…。
自分よりも他の誰かのために生きるってのは、誰にでも出来ることじゃねぇ。
アンタの娘にはそれが出来る強さがある。」
だから、心配いらないのだというリヴァイ兵長に、母はしきりに礼を繰り返した。
驚いた。
そんなことを言ってくれるなんて。
私の嘘に付き合ってくれているリヴァイ兵長だけれど、褒めるなんてことを嘘や方便で言う人ではないと思う。
本当に、私のことをそう思ってくれているのだろうか。
そんな風に私を見てくれているのだろうか。
母を騙しているこんな時に、私は上がる口角をどうすることも出来ない。
「なまえ。」
今度こそ最後の挨拶も済ませて、リヴァイ兵長とハンジさんの後から馬車に向かおうとしたら、母に腕を掴まれた。
驚いて振り返った私に、母は楽しそうな笑みを浮かべていた。
「リヴァイ兵長ってとても素敵な人ね。
ルーカスくんがいたのに、あなたが好きになってしまったのも分かったわ。」
「そう…、そう、とても素敵な人なの。
私が好きになった人はね、世界一カッコよくて、優しくて、素敵なのっ。」
「惚気ちゃって。今度、惚気話を聞かせてね。」
「それはダメ~。」
笑って言って、私は母にサヨナラと手を振った。
惚気話なんて出来るわけがないし、振られた話すら出来ない娘を許してほしい。
でも、あなたの娘が好きになった男の人は、とても素敵な人だよ。
好きだと認めた途端、気持ちは止められなくなるものだ。
今までの経験上、それくらい知っていた。
だから、どうしても認めたくなかった。
でも、どうやら、私はまだ、本当の意味での恋を知らなかっただけらしい。
心から想ってしまったら、どんなに理性で気持ちを抑えつけたところで、どうにもならないようだ。
どうしよう。
私は、口が悪いのに優しくて、温かくて、背が小さいのにとても大きいリヴァイ兵長が、心底好きだ。
先に馬車に乗って待っていたリヴァイ兵長が、早くしろと窓から顔を出した。