◇第二十三話◇残った貴方の跡は
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リヴァイ兵長の手が、ペトラの前髪を優しく撫でる。
頬を染める可愛いペトラが、そっと目を閉じた。
僅かに止まったリヴァイ兵長の手は、目にかかるペトラの横髪を耳にかけると、そっと顔を近づける。
寝る前のラフな格好の2人は、誰がどう見ても、お休み前の恋人同士。
2人の動きが、まるでスローモーションみたいに、細部にわたってしっかり見えるのが不思議だった。
どうして、私は息を潜めて、リヴァイ兵長とペトラが今まさに唇を重ねようとしている姿を見ているんだっけ。
そうか、紅茶を作ろうと思ってキッチンに来たら、2人が向き合って深刻そうに何か話してたから声をかけづらくて、話が終わったらキッチンに入ろうと思って待ってたら、ラブシーンが始まったんだった。
(あ~、そっか。このティーカップは2人のだったのか。)
両手に持つティーカップを見下ろした。
空っぽになったそれには、甘い紅茶の香りがまだ残っていて、紅茶を飲みながら2人がどんな会話をしていたのかなんとなく想像がつく。
もしかたしらー。
もしかしたら、リヴァイ兵長とペトラは恋人同士ではないんじゃないかって、考えたこともあった。
あの写真はたまたま撮ったものだったとか、そもそも酔っぱらっていた私の見間違いとか。
でも、今、目の前の2人の唇はあと少しで重なって、私は彼らが残したティーカップを両手に持ってひとりぼっちで立ち竦んでいるだけ。
お酒でも飲んでいればよかったのに、今夜の私は意識だけはしっかりしている。
唇を噛んで、私は彼らから逃げるように背を向けようとした。
現実から目を逸らしたかった。
でも、急いでこの場から離れたかった私が勢いよく後ろを向こうとしたせいで、壁にティーカップをぶつけてしまった。
あ!と思ったときには、大きな音を立てた後、ティーカップは床に落ちて粉々に割れてしまった。
慌てて座り込んで、割れたティーカップに手を伸ばす。
気づかないでほしい、なんて思うのも愚かだということは分かっていた。
「なまえ?」
可愛らしい声。
優しく私の名前を呼んだのは、ペトラだった。
歩み寄ってきたペトラとリヴァイ兵長の足元が視界に入ってくる。
でも、顔を上げることは出来なかった。
情けない顔を、2人には見せたくなかったから―。
「驚かせてごめんなさいっ。」
慌てて謝りながら、私は床に散らばったティーカップの破片を拾う。
こんなに惨めなことって今までの人生であったかな、なんて考えてしまって、尚更惨めになる。
自分が不憫で愚かで。
破片を拾う指先が震えるー。
「そのティーカップって私達の?」
「あ、2人がいるの知らなくて、誰かが置いて行ったと思って
片付けようと思って。大丈夫、何も見てないし、誰にも言わないし。
だから、私のことなんて気にしな・・・・っ、痛っ!」
早口で言い訳をまくし立てた私は、この場から逃げ出したい気持ちが先走ってティーカップの破片で指を切ってしまった。
プツリと小さく空いた穴から、血が流れ出てくる。
今の私の心にも、たぶんこれと同じくらい小さな傷が出来ている。
でも、それは本当に小さくて、流れ出る血なんてものはなくて、明日には平気だと笑えるくらいの―。
「貸せっ!」
怒ったようなリヴァイ兵長の声に思わず顔を上げたときには、私の指は、決して大きいとは言えないけれど骨ばった男の人の手に捕まれていた。
少しきつめに私の指を摘まんだリヴァイ兵長は、止まらない血を見てチッと舌打ちをした。
「来いっ!」
「え?」
リヴァイ兵長に強引に立たせられ、キッチンに連れて行かれた私は、水道の水で傷口を洗われた。
後ろから抱きしめるようにして私の指を洗うリヴァイ兵長の胸板が背中にあたる。そこから身体中に熱が広がっていって、あっという間に身体中が熱くなった。
心臓の音と水道の音が混ざり合ってうるさい。
自分でするから大丈夫だと言う私に、リヴァイ兵長は傷口にカップの破片が残っていたことを教えてくれた。
こういうのは他人にやってもらった方が、傷口から破片を出しやすいと言われたら、断れなくなる。
「カップは私が片付けるから、気にしないでね。」
「うん…、ごめんね、ペトラ。」
「いいよ。じゃあ、リヴァイ兵長、なまえをお願いします。」
優しいペトラの背中が、寂しいと言っていたのに、確かに胸は痛んでいるのに、私の心の中は、嬉しいに似ている感情がほとんどを支配していた。
今この時だけ、リヴァイ兵長は恋人ではなくて、私のそばにいてくれる。
リヴァイ兵長とペトラがキスすることもないし、愛の言葉を交わすことだってない。
ただ、逢瀬を邪魔した迷惑な部下の傷の心配だけをしてくれる。
私ってなんてー。
迷惑な部下、同僚だけではなくて、なんて性格の悪い女なんだろう。知らなかったし、知らずにいたかった。
そんな自分が嫌でたまらなくても、嬉しい気持ちが消えるわけじゃない。
私の邪な気持ちなんて知りもしないリヴァイ兵長は、苛立った様子で、私の指に残るティーカップの破片を水で流そうとしている。
私の心に空いた小さな傷口にも、もしかしたら、私が知ってしまったリヴァイ兵長の優しさとかそういうものが残っているのかもしれない。
それなら、苛立つリヴァイ兵長に、その傷口も洗って欲しい。きれいさっぱり消えてなくなるように、洗い流してほしい。
それなのに、背中にあたる熱に意識を集中する私は、巨人から助けてもらったあとに抱きしめてくれたリヴァイ兵長の優しい腕の温もりを、ただひたすら忘れないようにしていた。
頬を染める可愛いペトラが、そっと目を閉じた。
僅かに止まったリヴァイ兵長の手は、目にかかるペトラの横髪を耳にかけると、そっと顔を近づける。
寝る前のラフな格好の2人は、誰がどう見ても、お休み前の恋人同士。
2人の動きが、まるでスローモーションみたいに、細部にわたってしっかり見えるのが不思議だった。
どうして、私は息を潜めて、リヴァイ兵長とペトラが今まさに唇を重ねようとしている姿を見ているんだっけ。
そうか、紅茶を作ろうと思ってキッチンに来たら、2人が向き合って深刻そうに何か話してたから声をかけづらくて、話が終わったらキッチンに入ろうと思って待ってたら、ラブシーンが始まったんだった。
(あ~、そっか。このティーカップは2人のだったのか。)
両手に持つティーカップを見下ろした。
空っぽになったそれには、甘い紅茶の香りがまだ残っていて、紅茶を飲みながら2人がどんな会話をしていたのかなんとなく想像がつく。
もしかたしらー。
もしかしたら、リヴァイ兵長とペトラは恋人同士ではないんじゃないかって、考えたこともあった。
あの写真はたまたま撮ったものだったとか、そもそも酔っぱらっていた私の見間違いとか。
でも、今、目の前の2人の唇はあと少しで重なって、私は彼らが残したティーカップを両手に持ってひとりぼっちで立ち竦んでいるだけ。
お酒でも飲んでいればよかったのに、今夜の私は意識だけはしっかりしている。
唇を噛んで、私は彼らから逃げるように背を向けようとした。
現実から目を逸らしたかった。
でも、急いでこの場から離れたかった私が勢いよく後ろを向こうとしたせいで、壁にティーカップをぶつけてしまった。
あ!と思ったときには、大きな音を立てた後、ティーカップは床に落ちて粉々に割れてしまった。
慌てて座り込んで、割れたティーカップに手を伸ばす。
気づかないでほしい、なんて思うのも愚かだということは分かっていた。
「なまえ?」
可愛らしい声。
優しく私の名前を呼んだのは、ペトラだった。
歩み寄ってきたペトラとリヴァイ兵長の足元が視界に入ってくる。
でも、顔を上げることは出来なかった。
情けない顔を、2人には見せたくなかったから―。
「驚かせてごめんなさいっ。」
慌てて謝りながら、私は床に散らばったティーカップの破片を拾う。
こんなに惨めなことって今までの人生であったかな、なんて考えてしまって、尚更惨めになる。
自分が不憫で愚かで。
破片を拾う指先が震えるー。
「そのティーカップって私達の?」
「あ、2人がいるの知らなくて、誰かが置いて行ったと思って
片付けようと思って。大丈夫、何も見てないし、誰にも言わないし。
だから、私のことなんて気にしな・・・・っ、痛っ!」
早口で言い訳をまくし立てた私は、この場から逃げ出したい気持ちが先走ってティーカップの破片で指を切ってしまった。
プツリと小さく空いた穴から、血が流れ出てくる。
今の私の心にも、たぶんこれと同じくらい小さな傷が出来ている。
でも、それは本当に小さくて、流れ出る血なんてものはなくて、明日には平気だと笑えるくらいの―。
「貸せっ!」
怒ったようなリヴァイ兵長の声に思わず顔を上げたときには、私の指は、決して大きいとは言えないけれど骨ばった男の人の手に捕まれていた。
少しきつめに私の指を摘まんだリヴァイ兵長は、止まらない血を見てチッと舌打ちをした。
「来いっ!」
「え?」
リヴァイ兵長に強引に立たせられ、キッチンに連れて行かれた私は、水道の水で傷口を洗われた。
後ろから抱きしめるようにして私の指を洗うリヴァイ兵長の胸板が背中にあたる。そこから身体中に熱が広がっていって、あっという間に身体中が熱くなった。
心臓の音と水道の音が混ざり合ってうるさい。
自分でするから大丈夫だと言う私に、リヴァイ兵長は傷口にカップの破片が残っていたことを教えてくれた。
こういうのは他人にやってもらった方が、傷口から破片を出しやすいと言われたら、断れなくなる。
「カップは私が片付けるから、気にしないでね。」
「うん…、ごめんね、ペトラ。」
「いいよ。じゃあ、リヴァイ兵長、なまえをお願いします。」
優しいペトラの背中が、寂しいと言っていたのに、確かに胸は痛んでいるのに、私の心の中は、嬉しいに似ている感情がほとんどを支配していた。
今この時だけ、リヴァイ兵長は恋人ではなくて、私のそばにいてくれる。
リヴァイ兵長とペトラがキスすることもないし、愛の言葉を交わすことだってない。
ただ、逢瀬を邪魔した迷惑な部下の傷の心配だけをしてくれる。
私ってなんてー。
迷惑な部下、同僚だけではなくて、なんて性格の悪い女なんだろう。知らなかったし、知らずにいたかった。
そんな自分が嫌でたまらなくても、嬉しい気持ちが消えるわけじゃない。
私の邪な気持ちなんて知りもしないリヴァイ兵長は、苛立った様子で、私の指に残るティーカップの破片を水で流そうとしている。
私の心に空いた小さな傷口にも、もしかしたら、私が知ってしまったリヴァイ兵長の優しさとかそういうものが残っているのかもしれない。
それなら、苛立つリヴァイ兵長に、その傷口も洗って欲しい。きれいさっぱり消えてなくなるように、洗い流してほしい。
それなのに、背中にあたる熱に意識を集中する私は、巨人から助けてもらったあとに抱きしめてくれたリヴァイ兵長の優しい腕の温もりを、ただひたすら忘れないようにしていた。