まだまだ尋問を続けるつもりの様子のルルに、飲み物をとってくると逃げて部屋を出た私は、扉に背中を預けて大きく息を吐く。

『好きになる理由なんてないから。』

無理やり吐き出したような私の言葉を、ルルがどれくらい信じてくれたかは分からない。
でも、今の私にとっては、それしか言えない。
それが真実、そのはずなのだ。
だって、リヴァイ兵長のことを男性として好きか、と問われたら、男性としての私の理想とは正反対だと答える。
性格は穏やかな方がいい。優しくて、温かく笑う人がいい。
確かにイケメンは好きだし、リヴァイ兵長は綺麗な顔をしているけれど、身長が低いじゃないか。
自分の身長よりも10㎝以上は高くないと絶対にイヤだと、友人達にいつも語っていたのは、他の誰でもなく私だ。
最初の印象は最悪だったとしても、今ではリヴァイ兵長のことを悪く思うことはない。
強引で勝手なところもあるけれど、いつも部下のことを見ていて、冷たい言葉の端々に優しさがあることも知った。
わざわざ、入団祝いをくれたのもリヴァイ兵長だし、兵舎での初めての夜、寂しさと不安で押しつぶされそうな私のために、疲れた身体でお喋りに付き合ってくれた。
巨人に捕まった私を助けてくれたし、それに―。

「バカみたい。」

無表情で呟き、私は談話室へと足を動かす。
どんなにリヴァイ兵長のいいところを頭の中で並べてみたところで、現実は変わらない。
私には、他の人の恋人を奪うような趣味はないし、邪魔したいとも思わない。それが、大切な友人なら尚更。
そもそもリヴァイ兵長は私の理想とは正反対で、好きになるはずがない。
そして、ペトラは、調査兵団に入団して初めて出来た大切な友人で、リヴァイ兵長は彼女の恋人。
だから、私は、リヴァイ兵長のことを男性として好きになることはない、という答えで間違ってない。
間違いない。
談話室に入ると、シンと静まり返る誰もいない空間にティーカップが2カップだけ残されていた。
最後に残っていた誰かが、片付けずに部屋に戻ったようだ。

(…見つけた人が片付けるしかないよね…。)

面倒くさいが、どうせ紅茶を作るつもりだったわけだから、ついでに他のティーカップを洗うだけだと諦めるしかない。
仕方なくティーカップを手に取ってキッチンに向かった。