◇第百五十一話◇未来を憂う月
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今夜は、調査兵団の兵士達は、ストヘス区にある憲兵団所有の宿泊施設に滞在することになった。
そして明日、会議のある幹部と数名の調査兵を残して、トロスト区へ帰る予定になっている。
両親の住んでいた家があるあたりは、戦場になった場所から離れていたため、ほとんど被害はなく、その日のうちに王都から戻ってきていた。
そして、夜、私とリヴァイ兵長は両親の家にいた。
わからずやの両親なんてもう知らないー、と梃子でも動かないつもりだったのに、ボロボロのウェディングドレスから兵団服に着替え終わって仲間と久々の再会を喜んでいるところを、リヴァイ兵長に首根っこをつかまれて強引に連れて来させられたのだ。
私とリヴァイ兵長がやって来て、両親は心底驚いてはいたが、家の中には招き入れてくれた。
親不孝娘と勘当されると思っていたから、とても意外だった。
「改めて、お願いする。俺が命を懸けてなまえを守ると誓う。
だから、トロスト区へ連れて帰ることを許してほしい。」
リヴィングに案内されてすぐ、リヴァイ兵長は、あの日のように頭を下げた。
私は、ダメだーと言われても無視するつもりで、リヴァイ兵長の手をギュっと握って、両親を睨みつける。
もうこれ以上、私の大切な人に暴言を吐いたら許さないー。
「命など懸けなくていい。」
ソファに腰かけたまま父親が言った。母親も目を伏せていて、全く私達を見ようとはしない。
ほら、やっぱり、彼らは全く分かっていない。
私がどれほどリヴァイ兵長を愛しているのか。
リヴァイ兵長がどれほど私をいつも力強く守ってくれているのか。
私は、リヴァイ兵長の手を引っ張った。
「もういいよ、帰ろう。リヴァイ兵長。」
「ダメだ。お前の大事な両親だろう。ちゃんと分かってもらえるまで
俺はお前を兵舎に連れて帰る気はねぇ。」
「え!?」
頭を下げたままで、リヴァイ兵長はとんでもないことを言い出した。
そんなの私は一生兵舎には戻れない。
それなのにー。
「許してもらえるまで、俺はここに通って何度でも頭を下げる。」
「無駄ですよっ。いいんですっ。分からず屋の両親とは縁を切ったんです。
私はリヴァイ兵長さえいればいいんですっ。」
「良くねぇ。両親が健在で、お前のことを大切に想ってくれてる。大層なことじゃねぇか。
自分で手を放してんじゃねぇよ。代わりに俺が掴んででも、家族の縁は切らせねぇぞ。」
漸く顔を上げたリヴァイ兵長は、私の頭を鷲掴みにして強引に両親の方を向かせた。
泣きそうな顔で私を見ている彼らは、とても傷ついていて、そしてー。
私のことを愛しているー。
知っている、それくらい。
分かってはいる。
でもー。
「…私はリヴァイ兵長と一緒にいたい。許してもらえなくても、何を失っても。」
私がそう言うと、父親が長い息を吐いた。
そして、リヴァイ兵長の方を向いて口を開く。
「私は、命を懸けて守る必要はないと言っただけだ。
トロスト区へ連れていくなと言った覚えはない。」
首をかしげる私の横で、リヴァイ兵長も意味が分からなかったのか片眉を上げた。
とにかく座りなさいと言われ、私とリヴァイ兵長はソファに腰を下ろした。
「リヴァイくん、君はとても素晴らしい青年だ。娘にはもったいないくらいだ。
そんなことは初めから分かっていた。でも、どうしても娘を死なせたくなかった。
そのために、失礼なことをたくさんした。本当に申し訳なかった。」
父親が頭を下げるから、私はひどく狼狽えた。
そんなところ、もちろん、見たことなんてなかった。
リヴァイ兵長もとても驚いたと思う。
いつものようにあまり顔には出なかったけれど、顔を上げてくれと言うまで数秒、時が止まっていたから。
「だが、親としては、相手がどんな男だろうと娘が離れていくのは心配なものなんだ。
だから、いくつか、約束をしてくれないだろうか。」
頭を下げたまま父親が言う。
そして、リヴァイ兵長から肯定の返事を貰って漸く顔を上げた。
「娘は、将来安泰の生活よりも、君と苦難を共にすることを選んだ。
だからこそ、これからも娘はいろんな酷な選択をする場面に立たされるんだろう。
そのとき君には、誰よりも娘の理解者でいてあげてほしい。きっと、私達では無理だろうから…。」
「わかった。約束しよう。」
「たまには、私達のもとに娘を連れてきてくれたら嬉しい。」
「あぁ、それも約束する。」
「それから、命を懸けなくてもいいと言ったのは、言葉のままだ。
なまえは自分の意志で調査兵でいることを選んだ。その責任は自分の命でとらないといけない。
だから、命を懸けてまで守らなくていい。」
「悪いが、それは約束出来ない。」
「いいか、リヴァイくん。なまえは本当に君を愛しているようなんだ。
今日、それを嫌というほどに思い知った。その君が、自分を守って死んでしまったら生きていけないよ。
だからどうか、生きていてくれ。なまえに君を見送らせないと約束してほしい。」
「それは…。」
リヴァイ兵長は言葉に詰まっていた。
でも、私の気持ちそのままを父親が彼にお願いしたのが信じられなくて、私は両手で口を押えた。
鼻の奥が苦しくなって、何かが押しあがってきて目頭を熱くする。
「それを約束できないのなら、私達は娘を君には託せない。
共に生きると約束してくれ。どちらかが、どちらかのために命を落としたらいけないよ。
そして、究極の選択のとき、兵士として生きなさい。それが、君たちが選んだ道なんだろう?」
「…わかった。約束する、必ず。」
「君なら、分かってくれると思ったよ。」
ホッとしたように言った父親だったけれど、目頭は赤くなっていて、拳は小さく震えていた。
気づいたら、私はソファから立ち上がっていた。
飛びつくように父親を抱きしめる。そんな私を母親が抱きしめた。
「私、幸せだから…っ。パパがいて、ママがいて、大好きな人が一緒に生きてくれる…っ。
不幸には、ならない…っ!絶対に…っ!」
「当たり前だ。幸せにならないと許さん。」
父親の手が私を撫でた。
子供のころはもっと大きかったはずなのに、やけに頼りなく感じて、私は久しぶりに父親に抱き着いて泣いた。
そして明日、会議のある幹部と数名の調査兵を残して、トロスト区へ帰る予定になっている。
両親の住んでいた家があるあたりは、戦場になった場所から離れていたため、ほとんど被害はなく、その日のうちに王都から戻ってきていた。
そして、夜、私とリヴァイ兵長は両親の家にいた。
わからずやの両親なんてもう知らないー、と梃子でも動かないつもりだったのに、ボロボロのウェディングドレスから兵団服に着替え終わって仲間と久々の再会を喜んでいるところを、リヴァイ兵長に首根っこをつかまれて強引に連れて来させられたのだ。
私とリヴァイ兵長がやって来て、両親は心底驚いてはいたが、家の中には招き入れてくれた。
親不孝娘と勘当されると思っていたから、とても意外だった。
「改めて、お願いする。俺が命を懸けてなまえを守ると誓う。
だから、トロスト区へ連れて帰ることを許してほしい。」
リヴィングに案内されてすぐ、リヴァイ兵長は、あの日のように頭を下げた。
私は、ダメだーと言われても無視するつもりで、リヴァイ兵長の手をギュっと握って、両親を睨みつける。
もうこれ以上、私の大切な人に暴言を吐いたら許さないー。
「命など懸けなくていい。」
ソファに腰かけたまま父親が言った。母親も目を伏せていて、全く私達を見ようとはしない。
ほら、やっぱり、彼らは全く分かっていない。
私がどれほどリヴァイ兵長を愛しているのか。
リヴァイ兵長がどれほど私をいつも力強く守ってくれているのか。
私は、リヴァイ兵長の手を引っ張った。
「もういいよ、帰ろう。リヴァイ兵長。」
「ダメだ。お前の大事な両親だろう。ちゃんと分かってもらえるまで
俺はお前を兵舎に連れて帰る気はねぇ。」
「え!?」
頭を下げたままで、リヴァイ兵長はとんでもないことを言い出した。
そんなの私は一生兵舎には戻れない。
それなのにー。
「許してもらえるまで、俺はここに通って何度でも頭を下げる。」
「無駄ですよっ。いいんですっ。分からず屋の両親とは縁を切ったんです。
私はリヴァイ兵長さえいればいいんですっ。」
「良くねぇ。両親が健在で、お前のことを大切に想ってくれてる。大層なことじゃねぇか。
自分で手を放してんじゃねぇよ。代わりに俺が掴んででも、家族の縁は切らせねぇぞ。」
漸く顔を上げたリヴァイ兵長は、私の頭を鷲掴みにして強引に両親の方を向かせた。
泣きそうな顔で私を見ている彼らは、とても傷ついていて、そしてー。
私のことを愛しているー。
知っている、それくらい。
分かってはいる。
でもー。
「…私はリヴァイ兵長と一緒にいたい。許してもらえなくても、何を失っても。」
私がそう言うと、父親が長い息を吐いた。
そして、リヴァイ兵長の方を向いて口を開く。
「私は、命を懸けて守る必要はないと言っただけだ。
トロスト区へ連れていくなと言った覚えはない。」
首をかしげる私の横で、リヴァイ兵長も意味が分からなかったのか片眉を上げた。
とにかく座りなさいと言われ、私とリヴァイ兵長はソファに腰を下ろした。
「リヴァイくん、君はとても素晴らしい青年だ。娘にはもったいないくらいだ。
そんなことは初めから分かっていた。でも、どうしても娘を死なせたくなかった。
そのために、失礼なことをたくさんした。本当に申し訳なかった。」
父親が頭を下げるから、私はひどく狼狽えた。
そんなところ、もちろん、見たことなんてなかった。
リヴァイ兵長もとても驚いたと思う。
いつものようにあまり顔には出なかったけれど、顔を上げてくれと言うまで数秒、時が止まっていたから。
「だが、親としては、相手がどんな男だろうと娘が離れていくのは心配なものなんだ。
だから、いくつか、約束をしてくれないだろうか。」
頭を下げたまま父親が言う。
そして、リヴァイ兵長から肯定の返事を貰って漸く顔を上げた。
「娘は、将来安泰の生活よりも、君と苦難を共にすることを選んだ。
だからこそ、これからも娘はいろんな酷な選択をする場面に立たされるんだろう。
そのとき君には、誰よりも娘の理解者でいてあげてほしい。きっと、私達では無理だろうから…。」
「わかった。約束しよう。」
「たまには、私達のもとに娘を連れてきてくれたら嬉しい。」
「あぁ、それも約束する。」
「それから、命を懸けなくてもいいと言ったのは、言葉のままだ。
なまえは自分の意志で調査兵でいることを選んだ。その責任は自分の命でとらないといけない。
だから、命を懸けてまで守らなくていい。」
「悪いが、それは約束出来ない。」
「いいか、リヴァイくん。なまえは本当に君を愛しているようなんだ。
今日、それを嫌というほどに思い知った。その君が、自分を守って死んでしまったら生きていけないよ。
だからどうか、生きていてくれ。なまえに君を見送らせないと約束してほしい。」
「それは…。」
リヴァイ兵長は言葉に詰まっていた。
でも、私の気持ちそのままを父親が彼にお願いしたのが信じられなくて、私は両手で口を押えた。
鼻の奥が苦しくなって、何かが押しあがってきて目頭を熱くする。
「それを約束できないのなら、私達は娘を君には託せない。
共に生きると約束してくれ。どちらかが、どちらかのために命を落としたらいけないよ。
そして、究極の選択のとき、兵士として生きなさい。それが、君たちが選んだ道なんだろう?」
「…わかった。約束する、必ず。」
「君なら、分かってくれると思ったよ。」
ホッとしたように言った父親だったけれど、目頭は赤くなっていて、拳は小さく震えていた。
気づいたら、私はソファから立ち上がっていた。
飛びつくように父親を抱きしめる。そんな私を母親が抱きしめた。
「私、幸せだから…っ。パパがいて、ママがいて、大好きな人が一緒に生きてくれる…っ。
不幸には、ならない…っ!絶対に…っ!」
「当たり前だ。幸せにならないと許さん。」
父親の手が私を撫でた。
子供のころはもっと大きかったはずなのに、やけに頼りなく感じて、私は久しぶりに父親に抱き着いて泣いた。