◇第百四十四話◇囚われの身のお姫様
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ルーカスが痺れを切らして侍女達に持たせたウェディングドレスの中から、試着もしないで適当に選んだ。
もっとちゃんと試着をしてから選んだ方がいいとかなんとか彼女達に説得されたけれど、そもそも本番当日にそこにいるつもりのない私にとってはどれを選んでも同じだった。
仕方ない様子で侍女達が出て行ったのと入れ替わりで、ルーカスが部屋に入ってきた。
すれ違うときに頭を下げた彼女達は、まるで恋をする少女のように頬を染めていて、相変わらずのルーカスの王子様ぶりにむしろ感心した。
「相変わらず、僕のお姫様はご機嫌斜めだな。」
ルーカスは、ソファに座る私の隣に腰を降ろした。
頬を撫でようとする手を振りほどき、近寄るなとばかりに立ち上がる。
壁外調査から生きて帰ればもう諦めるー。
そう言ったはずのルーカスがなぜまた現れたのか。
それは、この屋敷に連れられた日の夜に責めて、嘘を吐いたのはお互い様だと言われてしまった。
ルーカスが立ち上がり、私を後ろから抱きしめると、まるで耳たぶにキスでもするように口元を近づけて囁くように言う。
「もう諦めたら?あの男は今や指名手配犯で君を迎えに行くどころじゃない。
そもそも、ドブネズミは王都には入ってこれないんだよ?
また地下街に戻りたいなら別だけどね。」
「最低ね。」
「自覚はあるよ。」
可笑しそうに言って、ルーカスがクスクスと笑う声が耳をくすぐって最低な気分になる。
離れようとした身体は、腰と胸の前に手をまわされて捕らえられてしまった。
やめてと抵抗するのも虚しく、訓練で少しは鍛えたはずの私の身体は自由を奪われたままで、思い通りにはならない。
ルーカスがこんなに力が強いなんて恋人の頃は知らなかった。
「どうしてそんなに僕を拒むの?また、殺されたい?」
意地悪く言ったルーカスが、私の首元に舌を這わす。
思わず小さな声が漏れ、肩が揺れれば、ルーカスは満足気に続ける。
「君はここが弱いんだもんね。僕は知ってるよ。
君がどうされるのが好きなのか、どんな顔で求めるのか。
僕達は元ある場所に戻っただけさ。」
私を自分の方に向き直させると、ルーカスは唇を重ねてこようとした。
すぐに横を向いて避けて、口元を手で隠す。
不機嫌そうに眉を顰めたルーカスは、さっきまでの王子様のような雰囲気を捨て去り、私を強引にベッドに投げ捨てた。
仰向けに倒れた私の上に馬乗りになったルーカスが、噛みつくような目で私を見下ろす。
「強情な女だな。すぐにあの男より、俺の方がいいってことを思い出させてやるよ。」
「やめて…っ!」
ルーカスは、自分のシャツの胸元を雑に緩めながら言うと、私の首元に噛みついた。
自分の口を手の甲で塞ぎ、必死に声を堪える。
ドレスの裾から入ってきた手に太ももを撫でられて、脚をばたつかせて抵抗した。
「男と女の力の差を考えなよ。バカじゃないだろ。
あの男だって、こうなること分かっててなまえの手を放したんだ。
俺に抱かれてもいいって、許可が出たとは思わないのか。」
抵抗を止めない私に、ルーカスは苛立ちを隠さずに言う。
「私が抵抗することも分かってて、手を放したのよ。」
キッと睨み返す私の態度が余計に気に入らなかったルーカスが、強引に私のドレスの胸元を破ったとき、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、ルーカスの母親だった。
ルーカスは母親似らしく、少しきつい印象を受けるが、それを差し引いても目を見張るほどの美人だ。
年齢不詳で若々しく、豪華なドレスを身に纏い堂々と歩く姿はさながら女王様のようだった。
「部屋に入るときは、ノックくらいしてくれないかな。」
ルーカスはつまらなそうに言うと、馬乗りになっていた私の身体の上から降りて、ベッドの縁に腰を降ろす。
その隙に私も身体を起こし、破れたドレスの端をなんとか引っ張って、はだけた胸元を隠した。
「私の大切な息子をたぶらかして、本当に汚らわしい女ね。」
私の姿をチラリと見たルーカスの母親は、嫌悪感を隠しもせずに眉を歪めた。
まるで、私がルーカスを襲ったような言い方に腹が立ったが、何も言い返すことはしなかった。
恋人の母親として初めて会ったときから、苦手だった。
私が息子の恋人だということを快く思っていないようだった。
いや、実際、ルーカスのいない場所で嫌味を言われたことだってあった。
それが、やっと別れてくれたと思ったら、いきなり結婚の日取りまで決まって宿敵が戻ってくるのだから、気に入らないに決まっている。
「それで、どうしたの。何か用があったんでしょう。」
自分がどんな場面を母親に見られたのか、気にも留めていない様子のルーカスは、その用事にはあまり興味はないようで、母親の方を見ることもなく、抵抗した時に乱れて露になっていた私の太ももをいやらしく撫でた。
「…っ。」
私がドレスの裾を戻して脚を隠すのとほぼ同時に、ルーカスは手首を母親に掴まれた。
でもそれは、女性に対しての態度を咎めるためのものではなかった。
母親は汚いものを触るなというように眉を顰めた後に私を睨み、ルーカスはお気に入りの玩具を取り上げられた子供のように不機嫌そうに口を尖らせる。
「その女に確認をしに来たのよ。」
ルーカスの母親はそう言うと、私の方を見た。
こんな風に真っすぐに顔を見られたのは初めてだった。
破れたドレスの胸元をギュッと握りしめ、憎悪しか宿っていない彼女の瞳に対峙する。
「あなた、今までに巨人を数えきれないほど殺してきたそうね。」
「だったらなんですか。」
「あぁ、本当におぞましい娘だこと。でも、まぁ、それが本当ならいいわ。
分かってるでしょうけど、あなたにはこれから、私達家族を命を懸けて守ってもらいますからね。」
いくらでも代えの利く駒に過ぎない兵士でも見下ろすような母親の言葉で、私は漸く、こんなに急だったのにも関わらずルーカスとの結婚話が順調に進展している理由を理解した。
私は、タダで自由に使える都合のいい兵士にされようとしているのか。
ルーカスの母親は、汚らわしい遊びはやめろとルーカスに釘を刺した後、部屋を出て行った。
「君はどうしても巨人と戦いたいみたいだから、僕が母親に言っておいてあげたんだよ。
この前、調査兵団のせいでストヘス区に巨人が出てから母が不安になっていてね。
君が調査兵だったことが、こんな風に役に立つとは夢にも思ってなったよ。」
ルーカスが私を抱きしめる。
とても満足気に、面白そうに。
もっとちゃんと試着をしてから選んだ方がいいとかなんとか彼女達に説得されたけれど、そもそも本番当日にそこにいるつもりのない私にとってはどれを選んでも同じだった。
仕方ない様子で侍女達が出て行ったのと入れ替わりで、ルーカスが部屋に入ってきた。
すれ違うときに頭を下げた彼女達は、まるで恋をする少女のように頬を染めていて、相変わらずのルーカスの王子様ぶりにむしろ感心した。
「相変わらず、僕のお姫様はご機嫌斜めだな。」
ルーカスは、ソファに座る私の隣に腰を降ろした。
頬を撫でようとする手を振りほどき、近寄るなとばかりに立ち上がる。
壁外調査から生きて帰ればもう諦めるー。
そう言ったはずのルーカスがなぜまた現れたのか。
それは、この屋敷に連れられた日の夜に責めて、嘘を吐いたのはお互い様だと言われてしまった。
ルーカスが立ち上がり、私を後ろから抱きしめると、まるで耳たぶにキスでもするように口元を近づけて囁くように言う。
「もう諦めたら?あの男は今や指名手配犯で君を迎えに行くどころじゃない。
そもそも、ドブネズミは王都には入ってこれないんだよ?
また地下街に戻りたいなら別だけどね。」
「最低ね。」
「自覚はあるよ。」
可笑しそうに言って、ルーカスがクスクスと笑う声が耳をくすぐって最低な気分になる。
離れようとした身体は、腰と胸の前に手をまわされて捕らえられてしまった。
やめてと抵抗するのも虚しく、訓練で少しは鍛えたはずの私の身体は自由を奪われたままで、思い通りにはならない。
ルーカスがこんなに力が強いなんて恋人の頃は知らなかった。
「どうしてそんなに僕を拒むの?また、殺されたい?」
意地悪く言ったルーカスが、私の首元に舌を這わす。
思わず小さな声が漏れ、肩が揺れれば、ルーカスは満足気に続ける。
「君はここが弱いんだもんね。僕は知ってるよ。
君がどうされるのが好きなのか、どんな顔で求めるのか。
僕達は元ある場所に戻っただけさ。」
私を自分の方に向き直させると、ルーカスは唇を重ねてこようとした。
すぐに横を向いて避けて、口元を手で隠す。
不機嫌そうに眉を顰めたルーカスは、さっきまでの王子様のような雰囲気を捨て去り、私を強引にベッドに投げ捨てた。
仰向けに倒れた私の上に馬乗りになったルーカスが、噛みつくような目で私を見下ろす。
「強情な女だな。すぐにあの男より、俺の方がいいってことを思い出させてやるよ。」
「やめて…っ!」
ルーカスは、自分のシャツの胸元を雑に緩めながら言うと、私の首元に噛みついた。
自分の口を手の甲で塞ぎ、必死に声を堪える。
ドレスの裾から入ってきた手に太ももを撫でられて、脚をばたつかせて抵抗した。
「男と女の力の差を考えなよ。バカじゃないだろ。
あの男だって、こうなること分かっててなまえの手を放したんだ。
俺に抱かれてもいいって、許可が出たとは思わないのか。」
抵抗を止めない私に、ルーカスは苛立ちを隠さずに言う。
「私が抵抗することも分かってて、手を放したのよ。」
キッと睨み返す私の態度が余計に気に入らなかったルーカスが、強引に私のドレスの胸元を破ったとき、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、ルーカスの母親だった。
ルーカスは母親似らしく、少しきつい印象を受けるが、それを差し引いても目を見張るほどの美人だ。
年齢不詳で若々しく、豪華なドレスを身に纏い堂々と歩く姿はさながら女王様のようだった。
「部屋に入るときは、ノックくらいしてくれないかな。」
ルーカスはつまらなそうに言うと、馬乗りになっていた私の身体の上から降りて、ベッドの縁に腰を降ろす。
その隙に私も身体を起こし、破れたドレスの端をなんとか引っ張って、はだけた胸元を隠した。
「私の大切な息子をたぶらかして、本当に汚らわしい女ね。」
私の姿をチラリと見たルーカスの母親は、嫌悪感を隠しもせずに眉を歪めた。
まるで、私がルーカスを襲ったような言い方に腹が立ったが、何も言い返すことはしなかった。
恋人の母親として初めて会ったときから、苦手だった。
私が息子の恋人だということを快く思っていないようだった。
いや、実際、ルーカスのいない場所で嫌味を言われたことだってあった。
それが、やっと別れてくれたと思ったら、いきなり結婚の日取りまで決まって宿敵が戻ってくるのだから、気に入らないに決まっている。
「それで、どうしたの。何か用があったんでしょう。」
自分がどんな場面を母親に見られたのか、気にも留めていない様子のルーカスは、その用事にはあまり興味はないようで、母親の方を見ることもなく、抵抗した時に乱れて露になっていた私の太ももをいやらしく撫でた。
「…っ。」
私がドレスの裾を戻して脚を隠すのとほぼ同時に、ルーカスは手首を母親に掴まれた。
でもそれは、女性に対しての態度を咎めるためのものではなかった。
母親は汚いものを触るなというように眉を顰めた後に私を睨み、ルーカスはお気に入りの玩具を取り上げられた子供のように不機嫌そうに口を尖らせる。
「その女に確認をしに来たのよ。」
ルーカスの母親はそう言うと、私の方を見た。
こんな風に真っすぐに顔を見られたのは初めてだった。
破れたドレスの胸元をギュッと握りしめ、憎悪しか宿っていない彼女の瞳に対峙する。
「あなた、今までに巨人を数えきれないほど殺してきたそうね。」
「だったらなんですか。」
「あぁ、本当におぞましい娘だこと。でも、まぁ、それが本当ならいいわ。
分かってるでしょうけど、あなたにはこれから、私達家族を命を懸けて守ってもらいますからね。」
いくらでも代えの利く駒に過ぎない兵士でも見下ろすような母親の言葉で、私は漸く、こんなに急だったのにも関わらずルーカスとの結婚話が順調に進展している理由を理解した。
私は、タダで自由に使える都合のいい兵士にされようとしているのか。
ルーカスの母親は、汚らわしい遊びはやめろとルーカスに釘を刺した後、部屋を出て行った。
「君はどうしても巨人と戦いたいみたいだから、僕が母親に言っておいてあげたんだよ。
この前、調査兵団のせいでストヘス区に巨人が出てから母が不安になっていてね。
君が調査兵だったことが、こんな風に役に立つとは夢にも思ってなったよ。」
ルーカスが私を抱きしめる。
とても満足気に、面白そうに。