◇第百四十四話◇囚われの身のお姫様
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あれから何日過ぎたのか、愛おしい人の迎えを指折り数えて待っている心の余裕のない私には分からない。
豪華な装飾品に囲まれた贅沢なほどに広い部屋で貴族の娘達が着ているようなドレスを纏い、たったひとりきりで、窓辺のソファに腰を降ろして、ただひたすら外を眺めている。
この部屋から出ることも許されず、窓は外から鉄格子をはめられていた。
囚われの身どころか、抜け殻のような状態で、ただひたすらリヴァイ兵長を想っている。
「…もっとカッコいいんだけどな。」
久しぶりに私から出た声は、愛おしい人に全く似ても似つかない似顔絵への文句だった。
数日前にルーカスが持ってきてくれた新聞記事には、調査兵団が民間人を殺害、団員全員に出頭命令が下ったと書かれてあった。
だが、一部の団員は今だ出頭を拒み逃亡中。その主犯が、似顔絵の主であるリヴァイ兵長なのだそうだ。
私が王都に連れてこられてから、調査兵団はとても大変なことになっているようだった。
(こんなところにいる場合じゃないのに…。)
必ず迎えに行くと言った本人も、こんなことになる予定はなかっただろう。
いや、リヴァイ兵長のことだから、何か悪いことが起こることくらいは予感していたのかもしれない。
下っ端兵士である私には知らされない情報がいくつも届いていたはずだ。
だから、私の手を放してー。
なんて、自分の都合のいいようにシナリオを考えては、いつか必ず迎えに来てくれると信じている。
結婚式の日程が、数日後に決まった今も、信じているー。
「ルーカスさんが、ウェディングドレスを一緒に選びたいって待ってるわよ。
いつまで拗ねてるの?」
母親がやって来て、相変わらず窓の向こうに恋人を探す私を咎めた。
「本当に、拗ねてるだけだと思ってるの?」
新聞記事から顔を上げ、母親を見る。
すぐに目を反らした母親の横顔に、罪悪感が浮かぶ。
それならどうしてー。
「調査兵団の人達が殺人を犯したらしいじゃない。
兵士長さんがその殺人の主犯なのよ。
そんな人に娘を任せられるわけないでしょう。」
母親が、私の手から新聞記事を取り上げた。
そして、ゴミ箱の中に丸めて捨ててしまうと、窓辺に立って外の景色を眺め出す。
私の幸せを、無条件で願ってくれる人だと思っていた。
今も、そうなのだと知っている。
父も母も、こうすることが私の幸せだと信じているのだろう。
彼らのために、私はここで幸せのフリをして生きていくべきなのだろうか。
でもー。
「リヴァイ兵長しか私を幸せには出来ないの。
そんな嘘ばかりの記事で、私が彼に失望すると思ったら大間違いよ。
何度も言うけど、ルーカスはお母さん達が思ってるような人じゃないのよ。」
だから絶対に幸せになれないー。
私が何度そう言ったって、無駄だった。
娘を調査兵団の兵士にして壁外で巨人の前に突き出すようなやつより悪い男はいない、と父も母も聞く耳を持たない。
でも、母の顔を見ていれば、私は分かる。
リヴァイ兵長のことを信じていたときの母と、ルーカスと話しているときの母は、同じようで、別人のように違うから。
「お母さんだって、お父さんだって、リヴァイ兵長がどんな人か知ってるはずでしょう。
ねぇ、本当にこれでいいと思ってるの?
お願い、私の幸せのためだというのなら、今すぐ彼のところに行かせて。」
窓を眺めていた母親は、深呼吸するように一度目を閉じると、カーテンを閉めて、外の世界とこの部屋を遮断した。
それから、私の隣に腰を降ろして、私をまっすぐに見て口を開く。
「生きてこその、幸せよ、なまえ。リヴァイさんが素晴らしい青年だってことは知ってる。
でも、最後の最後にあなたを守ることが出来るのは、王都に暮らすルーカスさんよ。
彼ならきっと、どんな手段を使ってでも、あなたを守るわ。」
意志の強さを感じる瞳、そして、言葉ー。
もしかしてー。
「お母さん、ルーカスが本当はー。」
「あの人があなたを愛していることに間違いはないの。
だから、何も心配しなくていい。分かったわね。」
私の言葉を遮った母親は、有無を言わさぬ瞳でそれだけ告げ、部屋を出て行った。
もし、ルーカスの正体に気づいていて、それでも結婚させようとしているのなら、私は何を訴えて抵抗すればいいのか分からなくなる。
それこそもう、愛に訴えるしかない。
もしかして今、リヴァイ兵長が迎えに来てないかと窓を見ても、重たいカーテンに閉ざされ、小さな光すらも漏れていなかった。
豪華な装飾品に囲まれた贅沢なほどに広い部屋で貴族の娘達が着ているようなドレスを纏い、たったひとりきりで、窓辺のソファに腰を降ろして、ただひたすら外を眺めている。
この部屋から出ることも許されず、窓は外から鉄格子をはめられていた。
囚われの身どころか、抜け殻のような状態で、ただひたすらリヴァイ兵長を想っている。
「…もっとカッコいいんだけどな。」
久しぶりに私から出た声は、愛おしい人に全く似ても似つかない似顔絵への文句だった。
数日前にルーカスが持ってきてくれた新聞記事には、調査兵団が民間人を殺害、団員全員に出頭命令が下ったと書かれてあった。
だが、一部の団員は今だ出頭を拒み逃亡中。その主犯が、似顔絵の主であるリヴァイ兵長なのだそうだ。
私が王都に連れてこられてから、調査兵団はとても大変なことになっているようだった。
(こんなところにいる場合じゃないのに…。)
必ず迎えに行くと言った本人も、こんなことになる予定はなかっただろう。
いや、リヴァイ兵長のことだから、何か悪いことが起こることくらいは予感していたのかもしれない。
下っ端兵士である私には知らされない情報がいくつも届いていたはずだ。
だから、私の手を放してー。
なんて、自分の都合のいいようにシナリオを考えては、いつか必ず迎えに来てくれると信じている。
結婚式の日程が、数日後に決まった今も、信じているー。
「ルーカスさんが、ウェディングドレスを一緒に選びたいって待ってるわよ。
いつまで拗ねてるの?」
母親がやって来て、相変わらず窓の向こうに恋人を探す私を咎めた。
「本当に、拗ねてるだけだと思ってるの?」
新聞記事から顔を上げ、母親を見る。
すぐに目を反らした母親の横顔に、罪悪感が浮かぶ。
それならどうしてー。
「調査兵団の人達が殺人を犯したらしいじゃない。
兵士長さんがその殺人の主犯なのよ。
そんな人に娘を任せられるわけないでしょう。」
母親が、私の手から新聞記事を取り上げた。
そして、ゴミ箱の中に丸めて捨ててしまうと、窓辺に立って外の景色を眺め出す。
私の幸せを、無条件で願ってくれる人だと思っていた。
今も、そうなのだと知っている。
父も母も、こうすることが私の幸せだと信じているのだろう。
彼らのために、私はここで幸せのフリをして生きていくべきなのだろうか。
でもー。
「リヴァイ兵長しか私を幸せには出来ないの。
そんな嘘ばかりの記事で、私が彼に失望すると思ったら大間違いよ。
何度も言うけど、ルーカスはお母さん達が思ってるような人じゃないのよ。」
だから絶対に幸せになれないー。
私が何度そう言ったって、無駄だった。
娘を調査兵団の兵士にして壁外で巨人の前に突き出すようなやつより悪い男はいない、と父も母も聞く耳を持たない。
でも、母の顔を見ていれば、私は分かる。
リヴァイ兵長のことを信じていたときの母と、ルーカスと話しているときの母は、同じようで、別人のように違うから。
「お母さんだって、お父さんだって、リヴァイ兵長がどんな人か知ってるはずでしょう。
ねぇ、本当にこれでいいと思ってるの?
お願い、私の幸せのためだというのなら、今すぐ彼のところに行かせて。」
窓を眺めていた母親は、深呼吸するように一度目を閉じると、カーテンを閉めて、外の世界とこの部屋を遮断した。
それから、私の隣に腰を降ろして、私をまっすぐに見て口を開く。
「生きてこその、幸せよ、なまえ。リヴァイさんが素晴らしい青年だってことは知ってる。
でも、最後の最後にあなたを守ることが出来るのは、王都に暮らすルーカスさんよ。
彼ならきっと、どんな手段を使ってでも、あなたを守るわ。」
意志の強さを感じる瞳、そして、言葉ー。
もしかしてー。
「お母さん、ルーカスが本当はー。」
「あの人があなたを愛していることに間違いはないの。
だから、何も心配しなくていい。分かったわね。」
私の言葉を遮った母親は、有無を言わさぬ瞳でそれだけ告げ、部屋を出て行った。
もし、ルーカスの正体に気づいていて、それでも結婚させようとしているのなら、私は何を訴えて抵抗すればいいのか分からなくなる。
それこそもう、愛に訴えるしかない。
もしかして今、リヴァイ兵長が迎えに来てないかと窓を見ても、重たいカーテンに閉ざされ、小さな光すらも漏れていなかった。