◇第百四十三話◇引き裂かれる2人
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3日後、眩しいくらいの綺麗な赤が闇に呑み込まれ始めた頃、私は兵舎の中を転がるように走っていた。
両腕を必死に振り回し、急げ、急げと自分を急かしながら、階段を駆け上がる。
今日は、ラガコ村の調査に向かったハンジさんからの伝達で研究所に籠って、今までの巨人実験についての資料を集めていた。
『あぁ、なまえ!この前は大変だったんだからな。
ご両親に調査兵団に入ってること話してなかったのか?
一応、俺からは何も話せねぇとは言ったが、あれで納得できるわけねぇぞ。』
偶々研究所に用があってやってきたダイに言われて、私は漸く両親に見られてしまっていたことを思い出した。
それでも私はまだ、両親にどうにかして誤魔化そうと考えていた。
でも、相談できるハンジさんはラガコ村の調査でウォール・ローゼに行っているし、エルヴィン団長は重体でまだ話せるような状態じゃない。
そもそも、エルヴィン団長が話せるまで回復したところで、調査兵団の存続や人類の未来、心身ともに疲れ切った身体でいろんなものを背負っている彼に、私の個人的な相談に乗ってもらうわけにもいかない。
どうしようー。
そう考えているところにー。
『なまえ!!やっと見つけたわよ!!』
兵舎まで、両親が来てしまった。
一緒に巨人研究所で資料のまとめをしていた調査兵達が驚くのも無視して、私を怒鳴りつけた両親の話から察するに、たぶん、事情が全部バレてる。
トロスト区への巨人襲来のときに、駐屯兵の勘違いで巨人討伐作戦に強制的に参加させられたところから、全てー。
後ろを振り返る。
追いかけてきていた両親の姿は見えない。
訓練の成果で足が速くなったのかとも思ったけれど、両親がそれだけ歳をとったというだけかもしれない。
とにかく、捕まることなく、なんとか目的の座学室に辿り着いた私は、勢いよく扉を開いた。
座学室の黒板を使って、新リヴァイ班の104期新兵達に、今後の予定の説明をしていたリヴァイ兵長が驚いて目を見開いた。
突然やって来て息切れしている私に、エレン達も驚いているようだった。
「どうした、クソでも漏れそうなのか。」
レディに、しかも恋人に何を言うのか。
でも今は、焦って狼狽している私を落ち着かせようとしてくれるリヴァイ兵長の冗談に付き合う余裕はなかった。
「助けてください…っ!」
教壇に立つリヴァイ兵長に駆け寄ると、そのままの勢いで飛びついた。
片眉を上げ、思案するようにしながらも、リヴァイ兵長は私の背中に手をまわして抱きしめ返す。
「どうした。女型を取り戻しに鎧の巨人でも来たか。」
「両親にすべて、バレました…っ。」
「あぁ…、そうか。」
リヴァイ兵長は、あまり驚かなかった。
どちらかというと、ショックとか焦りよりも、ついにその時が来たかと思っているようだった。
むしろ、エレン達の方が、狼狽えて席を立ち、連れ戻されるのではないかと焦っていた。
「ここまで来てんのか。」
「私を連れて帰るって言うのを振り切って、ここまで逃げてきました…っ。」
「分かった。俺が話してくる。」
リヴァイ兵長は、身体を離すと座学室を出て行くために私に背を向けた。
慌ててその手を掴んで引き留める。
「ダメですっ!」
振り返ったリヴァイ兵長に、私は続けた。
「すごく怒ってて、リヴァイ兵長にももう二度と会わせないって…っ。
話したって、分かってもらえない…っ。」
「だが、逃げ続ける限り、何も始まらねぇ。
それを、俺達は思い知ったばかりだろう。」
「…っ。」
諭すような瞳に、私は唇を噛む。
その通りだ。
でも、それは、私とリヴァイ兵長が分かり合いたいと思ったから、だからうまくいっただけだ。
私の気持ちなんて分かろうともしない、むしろ、分かりたくもないと思っている両親に何を言ったって無駄だ。
私がもう一度、リヴァイ兵長を引き留める言葉を口にしようとしたとき、開いたままだった座学室の扉から怒りに目を血走らせた父親が走り込んできた。
驚いて目を見開くエレン達を乱暴に押しのけ、床を乱暴に蹴ってやってきた父親は、そのままの勢いでリヴァイ兵長の頬を殴りつける。
普通の男ならまだも、リヴァイ兵長なら絶対に避けられたはずだし、私の父親の拳で殴られたくらいで倒れたりするような軟な身体ではない。
それなのに、リヴァイ兵長の身体は後ろに勢いよく倒れて、黒板に背中をぶつけてから、落ちた。
エレン達も言葉をなくすほど驚く中、私は焦ってリヴァイ兵長の元に駆け寄る。
「リヴァイ兵長…っ、大丈夫ですか!?」
肩を抱くようにして起こす。
口の端を切ったのか、リヴァイ兵長は乱暴に親指で血を拭った。
そこへ、目を吊り上げた怒りの表情で近づいた父親がやってきて、憎悪のこもった目でリヴァイ兵長を睨みながら見下ろす。
「お前がうちの娘を無理やり調査兵なんかにしたらしいな!
それでよく、結婚して兵舎に置いてるだけだと嘘を吐いた挙句、
私達の前にぬけぬけと顔を出せたもんだ!吐き気がする!!」
「違うの、お父さん!リヴァイ兵長は私の嘘に付き合ってくれただけよ!
調査兵団に入団したのも私の意思なの!リヴァイ兵長は何も悪くない!!」
「お前には聞いてない!!俺はこの男に言ってるんだ!!
調査兵にしただけに飽き足らず、人の娘をたぶらかして、恥ずかしくないのか!?」
「やめてっ!私が勝手にリヴァイ兵長を好きになっただけなの!!
それに、リヴァイ兵長はいつだって私を守ってくれてー。」
「いい、なまえ。お前の親父の言う通りだ。」
父親に必死に言い返す私の胸の前にリヴァイ兵長の腕が伸びる。
これ以上喋るなとでもいうそれに思わず口を噤めば、リヴァイ兵長がゆっくり立ち上がった。
そして、リヴァイ兵長は頭を下げたー。
人類最強の兵士のまさかの行動に、父親も含めて、誰もが自分の目を疑った。
「悪かった。殴られて当然のことをしていた自覚なら、ある。
本当に、申し訳なかった。」
「…っ、リヴァイ兵長っ、顔を上げてください…!
全部、私がそうお願いしてたからでしょう?
嘘に付き合わされてただけなんだから、リヴァイ兵長は悪くないです…!」
「一緒に嘘を吐いたんだから同罪だ。むしろ、俺は上官としても部下を諭す立場にいた。
それなのに、なまえの好きなようにさせた。俺の方が罪が重い。」
「そんなの、意味が分かりません…っ!
お願いだから、調査兵団の兵士長が、私なんかのために頭を下げないでくださいっ。」
「気にするな。今、俺はお前の男として、頭を下げてる。」
肩を持って、顔を上げるように言っても、リヴァイ兵長は頭を下げ続けた。
父親ですら、人類最強の兵士が自分の非を認めるとは思っていなかったようで、狼狽えているようだった。
「あなた…っ、なまえ…っ!!」
悲痛な声に名前を呼ばれ顔を上げると、涙で目を真っ赤にした母親が私の元へ駆け寄ってきた。
リヴァイ兵長も、母親の声でようやく顔を上げてくれたようだった。
「さぁ、帰りましょう。なまえ。」
「いや…!」
母親の手を振りほどき、私はリヴァイ兵長に抱き着く。
ショックを隠そうともしない母親の真っ青な表情に、胸が痛くなった。
でも、私はリヴァイ兵長と残酷な世界と向き合って生きることを選んだことに後悔はない。
それなのに、自分の腰にまわる私の手をリヴァイ兵長が無理に離すから、ショックを受けた。
だがー。
「ちょうどいい。なまえの母親にも聞いて欲しい。」
リヴァイ兵長はそう言うと、また頭を下げた。
そしてー。
「本当に、悪いと思ってる。だが、俺はなまえに心底惚れてる。
なまえが望む限り、俺の手でアンタの娘を守らせてほしい。命を懸けて守る。
絶対死なさねぇと誓う。だから、そばにいさせてほしい。」
リヴァイ兵長が、頭を下げた理由が分かって、私は胸が引き裂かれそうだった。
深い愛と、痛々しいくらいの想いが、私の心を震わせる。
思わず、誰よりも強いその背中に触れようとした私の手は、空を切る。
私が触れることを許さなかった父親は、リヴァイ兵長の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「惚れてる、だと…?!なまえは何度も死にかけたそうじゃないか!!
そんな危険な場所に連れて行って、それで惚れてるだと!?守る!?どの口が言ってる!?
とにかくっ!うちの娘を調査兵にする気なんかない!!今すぐ連れて帰る!!」
「待ってよ!!人類のために命を懸けられるなんて素晴らしいって
お父さん、言ってたじゃない!!ずっと生きて帰って、リヴァイ兵長は凄いって!!
私だって同じよ!命を懸けて世界のために戦ってるの!!どうして褒めてくれないの!?」
リヴァイ兵長の胸ぐらを掴み上げる父親の腕を、乱暴に揺さぶった。
すると、父親は怒りのままに声を張り上げた。
「そんなのコイツが壁外に行って命を懸けるのとお前とじゃ、全然話が違うだろうが!!
他の調査兵達が命を懸けて死んで帰って来ようがどうでもいい!!
娘が壁外に出て巨人と戦うのを褒める父親がどこにいるって言うんだ!!」
その腕を振り下ろして、リヴァイ兵長を地面に叩きつける。
また、だ。
リヴァイ兵長はそれくらい避けられるし、平気なはずなのに、また思いっきり床に腰を打ちつける。
まるでわざと、父親の好きにさせているみたいにー。
リヴァイ兵長は、そんなに強くて優しい人なのに。
父親の言った言葉が、許せなかった。
「お父さん、それ…、本気で言ってるの…。」
私は初めて、父親を軽蔑の目で見たと思う。
ここにいる調査兵達はみんな、命を懸けて人類のために戦っている勇敢な兵士達だ。
私は、彼らのことを心から尊敬している。
そんな彼らの仲間として、隣に立たせてもらっていることをとても誇りに、思っているのにー。
「話にならない。リヴァイ兵長だけじゃない。ここにいるのは、みんな、私の心から大切な人よ。
その人達のことを、死んで帰ってきてもどうでもいいなんて言う人は、私の父親じゃない。
帰って。」
父親に背を向けた時だった。
腰をかがめ、リヴァイ兵長に触れようとした私の背中に刺さるように聞こえてきた甘い声。
「帰るのは、君だよ。なまえ。僕と一緒にね。」
それは、ルーカスのものだった。
両腕を必死に振り回し、急げ、急げと自分を急かしながら、階段を駆け上がる。
今日は、ラガコ村の調査に向かったハンジさんからの伝達で研究所に籠って、今までの巨人実験についての資料を集めていた。
『あぁ、なまえ!この前は大変だったんだからな。
ご両親に調査兵団に入ってること話してなかったのか?
一応、俺からは何も話せねぇとは言ったが、あれで納得できるわけねぇぞ。』
偶々研究所に用があってやってきたダイに言われて、私は漸く両親に見られてしまっていたことを思い出した。
それでも私はまだ、両親にどうにかして誤魔化そうと考えていた。
でも、相談できるハンジさんはラガコ村の調査でウォール・ローゼに行っているし、エルヴィン団長は重体でまだ話せるような状態じゃない。
そもそも、エルヴィン団長が話せるまで回復したところで、調査兵団の存続や人類の未来、心身ともに疲れ切った身体でいろんなものを背負っている彼に、私の個人的な相談に乗ってもらうわけにもいかない。
どうしようー。
そう考えているところにー。
『なまえ!!やっと見つけたわよ!!』
兵舎まで、両親が来てしまった。
一緒に巨人研究所で資料のまとめをしていた調査兵達が驚くのも無視して、私を怒鳴りつけた両親の話から察するに、たぶん、事情が全部バレてる。
トロスト区への巨人襲来のときに、駐屯兵の勘違いで巨人討伐作戦に強制的に参加させられたところから、全てー。
後ろを振り返る。
追いかけてきていた両親の姿は見えない。
訓練の成果で足が速くなったのかとも思ったけれど、両親がそれだけ歳をとったというだけかもしれない。
とにかく、捕まることなく、なんとか目的の座学室に辿り着いた私は、勢いよく扉を開いた。
座学室の黒板を使って、新リヴァイ班の104期新兵達に、今後の予定の説明をしていたリヴァイ兵長が驚いて目を見開いた。
突然やって来て息切れしている私に、エレン達も驚いているようだった。
「どうした、クソでも漏れそうなのか。」
レディに、しかも恋人に何を言うのか。
でも今は、焦って狼狽している私を落ち着かせようとしてくれるリヴァイ兵長の冗談に付き合う余裕はなかった。
「助けてください…っ!」
教壇に立つリヴァイ兵長に駆け寄ると、そのままの勢いで飛びついた。
片眉を上げ、思案するようにしながらも、リヴァイ兵長は私の背中に手をまわして抱きしめ返す。
「どうした。女型を取り戻しに鎧の巨人でも来たか。」
「両親にすべて、バレました…っ。」
「あぁ…、そうか。」
リヴァイ兵長は、あまり驚かなかった。
どちらかというと、ショックとか焦りよりも、ついにその時が来たかと思っているようだった。
むしろ、エレン達の方が、狼狽えて席を立ち、連れ戻されるのではないかと焦っていた。
「ここまで来てんのか。」
「私を連れて帰るって言うのを振り切って、ここまで逃げてきました…っ。」
「分かった。俺が話してくる。」
リヴァイ兵長は、身体を離すと座学室を出て行くために私に背を向けた。
慌ててその手を掴んで引き留める。
「ダメですっ!」
振り返ったリヴァイ兵長に、私は続けた。
「すごく怒ってて、リヴァイ兵長にももう二度と会わせないって…っ。
話したって、分かってもらえない…っ。」
「だが、逃げ続ける限り、何も始まらねぇ。
それを、俺達は思い知ったばかりだろう。」
「…っ。」
諭すような瞳に、私は唇を噛む。
その通りだ。
でも、それは、私とリヴァイ兵長が分かり合いたいと思ったから、だからうまくいっただけだ。
私の気持ちなんて分かろうともしない、むしろ、分かりたくもないと思っている両親に何を言ったって無駄だ。
私がもう一度、リヴァイ兵長を引き留める言葉を口にしようとしたとき、開いたままだった座学室の扉から怒りに目を血走らせた父親が走り込んできた。
驚いて目を見開くエレン達を乱暴に押しのけ、床を乱暴に蹴ってやってきた父親は、そのままの勢いでリヴァイ兵長の頬を殴りつける。
普通の男ならまだも、リヴァイ兵長なら絶対に避けられたはずだし、私の父親の拳で殴られたくらいで倒れたりするような軟な身体ではない。
それなのに、リヴァイ兵長の身体は後ろに勢いよく倒れて、黒板に背中をぶつけてから、落ちた。
エレン達も言葉をなくすほど驚く中、私は焦ってリヴァイ兵長の元に駆け寄る。
「リヴァイ兵長…っ、大丈夫ですか!?」
肩を抱くようにして起こす。
口の端を切ったのか、リヴァイ兵長は乱暴に親指で血を拭った。
そこへ、目を吊り上げた怒りの表情で近づいた父親がやってきて、憎悪のこもった目でリヴァイ兵長を睨みながら見下ろす。
「お前がうちの娘を無理やり調査兵なんかにしたらしいな!
それでよく、結婚して兵舎に置いてるだけだと嘘を吐いた挙句、
私達の前にぬけぬけと顔を出せたもんだ!吐き気がする!!」
「違うの、お父さん!リヴァイ兵長は私の嘘に付き合ってくれただけよ!
調査兵団に入団したのも私の意思なの!リヴァイ兵長は何も悪くない!!」
「お前には聞いてない!!俺はこの男に言ってるんだ!!
調査兵にしただけに飽き足らず、人の娘をたぶらかして、恥ずかしくないのか!?」
「やめてっ!私が勝手にリヴァイ兵長を好きになっただけなの!!
それに、リヴァイ兵長はいつだって私を守ってくれてー。」
「いい、なまえ。お前の親父の言う通りだ。」
父親に必死に言い返す私の胸の前にリヴァイ兵長の腕が伸びる。
これ以上喋るなとでもいうそれに思わず口を噤めば、リヴァイ兵長がゆっくり立ち上がった。
そして、リヴァイ兵長は頭を下げたー。
人類最強の兵士のまさかの行動に、父親も含めて、誰もが自分の目を疑った。
「悪かった。殴られて当然のことをしていた自覚なら、ある。
本当に、申し訳なかった。」
「…っ、リヴァイ兵長っ、顔を上げてください…!
全部、私がそうお願いしてたからでしょう?
嘘に付き合わされてただけなんだから、リヴァイ兵長は悪くないです…!」
「一緒に嘘を吐いたんだから同罪だ。むしろ、俺は上官としても部下を諭す立場にいた。
それなのに、なまえの好きなようにさせた。俺の方が罪が重い。」
「そんなの、意味が分かりません…っ!
お願いだから、調査兵団の兵士長が、私なんかのために頭を下げないでくださいっ。」
「気にするな。今、俺はお前の男として、頭を下げてる。」
肩を持って、顔を上げるように言っても、リヴァイ兵長は頭を下げ続けた。
父親ですら、人類最強の兵士が自分の非を認めるとは思っていなかったようで、狼狽えているようだった。
「あなた…っ、なまえ…っ!!」
悲痛な声に名前を呼ばれ顔を上げると、涙で目を真っ赤にした母親が私の元へ駆け寄ってきた。
リヴァイ兵長も、母親の声でようやく顔を上げてくれたようだった。
「さぁ、帰りましょう。なまえ。」
「いや…!」
母親の手を振りほどき、私はリヴァイ兵長に抱き着く。
ショックを隠そうともしない母親の真っ青な表情に、胸が痛くなった。
でも、私はリヴァイ兵長と残酷な世界と向き合って生きることを選んだことに後悔はない。
それなのに、自分の腰にまわる私の手をリヴァイ兵長が無理に離すから、ショックを受けた。
だがー。
「ちょうどいい。なまえの母親にも聞いて欲しい。」
リヴァイ兵長はそう言うと、また頭を下げた。
そしてー。
「本当に、悪いと思ってる。だが、俺はなまえに心底惚れてる。
なまえが望む限り、俺の手でアンタの娘を守らせてほしい。命を懸けて守る。
絶対死なさねぇと誓う。だから、そばにいさせてほしい。」
リヴァイ兵長が、頭を下げた理由が分かって、私は胸が引き裂かれそうだった。
深い愛と、痛々しいくらいの想いが、私の心を震わせる。
思わず、誰よりも強いその背中に触れようとした私の手は、空を切る。
私が触れることを許さなかった父親は、リヴァイ兵長の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「惚れてる、だと…?!なまえは何度も死にかけたそうじゃないか!!
そんな危険な場所に連れて行って、それで惚れてるだと!?守る!?どの口が言ってる!?
とにかくっ!うちの娘を調査兵にする気なんかない!!今すぐ連れて帰る!!」
「待ってよ!!人類のために命を懸けられるなんて素晴らしいって
お父さん、言ってたじゃない!!ずっと生きて帰って、リヴァイ兵長は凄いって!!
私だって同じよ!命を懸けて世界のために戦ってるの!!どうして褒めてくれないの!?」
リヴァイ兵長の胸ぐらを掴み上げる父親の腕を、乱暴に揺さぶった。
すると、父親は怒りのままに声を張り上げた。
「そんなのコイツが壁外に行って命を懸けるのとお前とじゃ、全然話が違うだろうが!!
他の調査兵達が命を懸けて死んで帰って来ようがどうでもいい!!
娘が壁外に出て巨人と戦うのを褒める父親がどこにいるって言うんだ!!」
その腕を振り下ろして、リヴァイ兵長を地面に叩きつける。
また、だ。
リヴァイ兵長はそれくらい避けられるし、平気なはずなのに、また思いっきり床に腰を打ちつける。
まるでわざと、父親の好きにさせているみたいにー。
リヴァイ兵長は、そんなに強くて優しい人なのに。
父親の言った言葉が、許せなかった。
「お父さん、それ…、本気で言ってるの…。」
私は初めて、父親を軽蔑の目で見たと思う。
ここにいる調査兵達はみんな、命を懸けて人類のために戦っている勇敢な兵士達だ。
私は、彼らのことを心から尊敬している。
そんな彼らの仲間として、隣に立たせてもらっていることをとても誇りに、思っているのにー。
「話にならない。リヴァイ兵長だけじゃない。ここにいるのは、みんな、私の心から大切な人よ。
その人達のことを、死んで帰ってきてもどうでもいいなんて言う人は、私の父親じゃない。
帰って。」
父親に背を向けた時だった。
腰をかがめ、リヴァイ兵長に触れようとした私の背中に刺さるように聞こえてきた甘い声。
「帰るのは、君だよ。なまえ。僕と一緒にね。」
それは、ルーカスのものだった。