◇第百四十一話◇彼女を救うのに武器は要らない
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エレンが、攫われたー。
正直、何が起こってるのかを私が把握していたのかは自信がない。
ミケ分隊長の予想通り、ライナーとベルトルトは知性のある巨人だった。
でも、ユミルも巨人だったのか。
どうして、自分達は大勢の犠牲を払い、巨人の大群を連れて馬を走らせたのだろう。
今、巨人の大群に襲われている鎧の巨人はライナーで、超大型巨人のベルトルトと一緒にエレンをどこかへ連れて行こうとしている。
あぁもう。
頭が痛いー。
「進め!進め!!エレンはすぐそこだ!!」
エルヴィン団長が巨人に右腕を食われながら、叫ぶ。
狂気の沙汰だ。
それでも、兵士達は止まれない。
ここは地獄だろうか。
「クッ…!」
私は、悔しさに歯を鳴らす。
でもここで、後悔をしてる暇はない。
あの巨人の大群を掻い潜って、誰が鎧の巨人に近づけるのか。
誰かがそんなことを言った声が聞こえたー。
「テュラン、あっちで待ってて!」
テュランの背中を蹴った後、私はその背に立ち上がる。
近くの巨人を柱にすれば、鎧の巨人の元へー。いや、ライナー達の元へ行ける。
アンカーを飛ばして、私も飛び上がる。
邪魔な巨人を討伐しながら、私は一気にライナー達の元へ近づいた。
ミカサやジャンもすぐそこまで来れたのに、巨人に邪魔され落ちていく。
助けに行く余裕も、時間もないー。
鎧の巨人の肩に飛び乗れば、大きな手の上で守られているベルトルトが超硬質スチールを私に向けた。
穏やかな笑みを浮かべてお喋りをしていたベルトルトを覚えているのに、頭の中で彼の正体が書き変えられていくのが怖かった。
彼が背負っているのは、身体を拘束されているエレンだ。
あぁ、本当に敵なのか。
ずっと騙されていたことが、悔しいのか、悲しいのか、憎いのか。
もう何も分からない。
ただー。
私は、今でもやっぱり、彼らのことが好きだ。
憎むことは出来るのに、どうしても嫌いに、なれないからー。
だから、超硬質スチールを投げ捨てた。
「え…?」
ベルトルトが目を見開く。
落ちていく超硬質スチールを、私の隣に飛び乗ったアルミンが信じられないという目で追いかける。
そして、怒鳴った。
「なまえさんっ、正気ですか!?」
「正気じゃないよ!こんなの正気でいられるわけない!!」
叫ぶ私に、アルミンは唇を噛んでベルトルトを見た。
きっと、同じ。みんな同じだ。
悔しい、苦しい。
こんな残酷な世界、誰も望んでいない。
「私がここに来たのは、ライナーとベルトルトを捕まえるためでも、殺すためでもない。
ただ、ひとつ、お願いがあって来たの。」
「…何ですか。」
相変わらず超硬質スチールを私に向けたまま、ベルトルトは不安気に言う。
私達の周りでは、巨人と戦ってたくさんの血が飛んでいる。
あぁ、もう早く、帰りたいー。
「アニを、助けてあげて。」
えー。
戸惑うような声は、アルミンだったのだろうか。
それとも、ベルトルトだったのだろうか。
私はただ、懇願するように続けた。
「アニが言ってたの。ライナーとベルトルトはすごく頑張ってる。
だから、絶対に一緒に生きて故郷に帰りたいって。」
「…っ!僕だって!!アニを連れて帰ってやりたい!!でも、無理なんだ!!」
「無理じゃない!!大切な人のそばにいることが無理になる日なんて、来るわけない。
自分が望みさえすれば、守りさえすれば、ずっとそばにいられるよ。
だから、お願い…。アニをひとりにしないであげて。置いて、行かないで…。」
誰かの血を浴びた頬を洗い流すように、涙が零れた。
あの日、女型の巨人を泣かせたのは、私だ。
酷い言葉を投げつけた。
惨い仕打ちをした。
もっと早く、アニのSOSに気づいてあげられていたらー。
可愛い妹だと言いながら、何もしてやれなかった私に出来るのは、アニをひとりぼっちにはしない未来を作ること。
もうそれしか、残っていないー。
ベルトルトが刃を振り上げた腕が、ゆっくりと落ちていく。
届いたー、そう思ったけれど、ベルトルトは目を伏せて言う。
「ダメなんだ…。僕たちの手はもう、汚れてしまったから。」
悲しそうなその横顔は、悲鳴を上げているようだった。
助けてやりたい。
壁の世界に囚われている人類ごと、彼らのことも助けてやれたらー。
でも、ちっぽけな私に出来ることなんてひとつもなく、仲間と自分の命を懸けることが出来る強さを持ったエルヴィン団長の刃が、ベルトルトとエレンを繋ぐ紐を切り落とした。
落ちていくエレンをミカサが受け止める。
「総員撤退!!」
エルヴィン団長が最後の指示を叫ぶ。
目標は達成された。
きっと故郷という場所に逃げていく彼らは、アニの元へ戻らないー。
「いや…っ、待ってっ!ねぇ、ベルトルト!ライナー!!
話をしよう!!お願いだから、アニをひとりにしなー。」
「さぁ、なまえも行くよ!」
ナナバさんが私を片腕で抱えて、ライナーから飛び降りる。
続々と集まる巨人達が、鎧の巨人を隠していく。
それでも私は、叫び続けた。
どうかお願い、アニをひとりにしないでー。
私達は、彼女の仲間には、なってあげられないからー。
正直、何が起こってるのかを私が把握していたのかは自信がない。
ミケ分隊長の予想通り、ライナーとベルトルトは知性のある巨人だった。
でも、ユミルも巨人だったのか。
どうして、自分達は大勢の犠牲を払い、巨人の大群を連れて馬を走らせたのだろう。
今、巨人の大群に襲われている鎧の巨人はライナーで、超大型巨人のベルトルトと一緒にエレンをどこかへ連れて行こうとしている。
あぁもう。
頭が痛いー。
「進め!進め!!エレンはすぐそこだ!!」
エルヴィン団長が巨人に右腕を食われながら、叫ぶ。
狂気の沙汰だ。
それでも、兵士達は止まれない。
ここは地獄だろうか。
「クッ…!」
私は、悔しさに歯を鳴らす。
でもここで、後悔をしてる暇はない。
あの巨人の大群を掻い潜って、誰が鎧の巨人に近づけるのか。
誰かがそんなことを言った声が聞こえたー。
「テュラン、あっちで待ってて!」
テュランの背中を蹴った後、私はその背に立ち上がる。
近くの巨人を柱にすれば、鎧の巨人の元へー。いや、ライナー達の元へ行ける。
アンカーを飛ばして、私も飛び上がる。
邪魔な巨人を討伐しながら、私は一気にライナー達の元へ近づいた。
ミカサやジャンもすぐそこまで来れたのに、巨人に邪魔され落ちていく。
助けに行く余裕も、時間もないー。
鎧の巨人の肩に飛び乗れば、大きな手の上で守られているベルトルトが超硬質スチールを私に向けた。
穏やかな笑みを浮かべてお喋りをしていたベルトルトを覚えているのに、頭の中で彼の正体が書き変えられていくのが怖かった。
彼が背負っているのは、身体を拘束されているエレンだ。
あぁ、本当に敵なのか。
ずっと騙されていたことが、悔しいのか、悲しいのか、憎いのか。
もう何も分からない。
ただー。
私は、今でもやっぱり、彼らのことが好きだ。
憎むことは出来るのに、どうしても嫌いに、なれないからー。
だから、超硬質スチールを投げ捨てた。
「え…?」
ベルトルトが目を見開く。
落ちていく超硬質スチールを、私の隣に飛び乗ったアルミンが信じられないという目で追いかける。
そして、怒鳴った。
「なまえさんっ、正気ですか!?」
「正気じゃないよ!こんなの正気でいられるわけない!!」
叫ぶ私に、アルミンは唇を噛んでベルトルトを見た。
きっと、同じ。みんな同じだ。
悔しい、苦しい。
こんな残酷な世界、誰も望んでいない。
「私がここに来たのは、ライナーとベルトルトを捕まえるためでも、殺すためでもない。
ただ、ひとつ、お願いがあって来たの。」
「…何ですか。」
相変わらず超硬質スチールを私に向けたまま、ベルトルトは不安気に言う。
私達の周りでは、巨人と戦ってたくさんの血が飛んでいる。
あぁ、もう早く、帰りたいー。
「アニを、助けてあげて。」
えー。
戸惑うような声は、アルミンだったのだろうか。
それとも、ベルトルトだったのだろうか。
私はただ、懇願するように続けた。
「アニが言ってたの。ライナーとベルトルトはすごく頑張ってる。
だから、絶対に一緒に生きて故郷に帰りたいって。」
「…っ!僕だって!!アニを連れて帰ってやりたい!!でも、無理なんだ!!」
「無理じゃない!!大切な人のそばにいることが無理になる日なんて、来るわけない。
自分が望みさえすれば、守りさえすれば、ずっとそばにいられるよ。
だから、お願い…。アニをひとりにしないであげて。置いて、行かないで…。」
誰かの血を浴びた頬を洗い流すように、涙が零れた。
あの日、女型の巨人を泣かせたのは、私だ。
酷い言葉を投げつけた。
惨い仕打ちをした。
もっと早く、アニのSOSに気づいてあげられていたらー。
可愛い妹だと言いながら、何もしてやれなかった私に出来るのは、アニをひとりぼっちにはしない未来を作ること。
もうそれしか、残っていないー。
ベルトルトが刃を振り上げた腕が、ゆっくりと落ちていく。
届いたー、そう思ったけれど、ベルトルトは目を伏せて言う。
「ダメなんだ…。僕たちの手はもう、汚れてしまったから。」
悲しそうなその横顔は、悲鳴を上げているようだった。
助けてやりたい。
壁の世界に囚われている人類ごと、彼らのことも助けてやれたらー。
でも、ちっぽけな私に出来ることなんてひとつもなく、仲間と自分の命を懸けることが出来る強さを持ったエルヴィン団長の刃が、ベルトルトとエレンを繋ぐ紐を切り落とした。
落ちていくエレンをミカサが受け止める。
「総員撤退!!」
エルヴィン団長が最後の指示を叫ぶ。
目標は達成された。
きっと故郷という場所に逃げていく彼らは、アニの元へ戻らないー。
「いや…っ、待ってっ!ねぇ、ベルトルト!ライナー!!
話をしよう!!お願いだから、アニをひとりにしなー。」
「さぁ、なまえも行くよ!」
ナナバさんが私を片腕で抱えて、ライナーから飛び降りる。
続々と集まる巨人達が、鎧の巨人を隠していく。
それでも私は、叫び続けた。
どうかお願い、アニをひとりにしないでー。
私達は、彼女の仲間には、なってあげられないからー。