◇第百三十一話◇互いの胸の内
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調査兵団に籍を置いて5年以上の調査兵しか知らされていない壁外調査の計画は、順調に進んでいた。
エルヴィンの睨んだ通りの事態になれば、恐らく確実に、大勢の調査兵が死ぬことになるだろう。
会議が終わり、長距離索敵陣形の配置図をすぐに畳んだリヴァイの隣で、いつまでも配置図を念入りに確認しているハンジの目は、そこに載っている仲間の名前を焼き付けようとしているようだった。
この中のどれくらいが、無事に帰ってこられるのか。
自分は、帰ってこられるのか。
壁外調査前はいつも、気が狂いそうになる。
続々と会議室から出て行く幹部達を見送り、残ったのはリヴァイとハンジだけになった。
「なまえの様子はどう?明日のこと不安に思ってはなさそう?」
「そんなこと聞くために、無駄に残ったのか。」
至極面倒くさそうに言うリヴァイだったが、席を立つことはしなかった。
長距離索敵陣形の配置図を見ながらも、隣に座る自分のことにも意識を向けていることには気づいていた。
何か確認したことがあるのだろうということ、そしてそれが、恐らくなまえのことなのだろうということは見当がついていた。
背もたれにもたれ、脚を組み、天井を見上げる。
そういえば、トロスト区に残る巨人の掃討作戦で民間人の女が兵士に紛れ込んでいたとハンジから聞いた時も、こうして天井を見上げていた気がする。
本当にクソな話だと思った。
きっとその民間人の女にとっても、クソ以外の何物でもない話だろうと分かっていた。
それが今では恋人にまでなっているのだから、本当にクソみたいな話だー。
「じゃあ、単刀直入に聞くよ。
君達、うまくいってないよね。」
ハンジの指摘に、リヴァイの片眉がピクリと動いた。
その途端に発せられるピリついた空気は、絶対に認めはしないプライドの高い男よりも饒舌だった。
「あの話をなまえは信じてくれなかったってこと?
本当のことなのになぁ…。」
「なまえは、いちいち疑うような面倒くせぇ女じゃねぇ。
どう思ったかは別にして、ちゃんと理解してる。
ただ、もう信じられなくなっちまったんだろう。」
「リヴァイのことを?」
「あぁ…、それもあるかもしれねぇな。」
「それもって?他に何があるの?
リヴァイのことじゃなかったら、自分の気持ちが信じられないとか?」
まさかねー、と首をすくめるハンジに、そのまさかだと言ったらどんな顔をするのだろう。
ふと、そんなことを思ったリヴァイだったけれど、それを言葉にするのは恐ろしくて、聞き流した。
でも、実際、なまえは今、自分の気持ちが分からなくなっているのだと思う。
一緒にいても、彼女はどこか遠くにいて、いつも自分に問いている気がする。
本当に隣にいる男を愛しているのか。その男を選んだことに後悔はしていないのか。
まだ、答えは出ていないのだろう。
だから、その答えを急かしたくはない。
せめて、彼女が答えを出してしまうまでは、そばにいたい。
「あのとき、もっとちゃんとエルヴィンを止めればよかったよ。ごめん。」
「お前が謝ることじゃねぇ。俺もなまえの気持ちを置き去りにして、
何事もなく終わらせようとしたのが悪かった。それにあれは…。」
「あれは?」
「あ?あぁ…、あれはただのきっかけだ。」
「きっかけ?」
「そうだ。だから、お前が気にすることじゃねぇ。
その前から俺達は、もうダメだった。」
自分で言いながら、それを認めようとしていなかった自分に気が付いた。
いや、今でも認めたくはない。
ただ、事実は事実としてあるのだから、誰かが認めるとか認めないとかいう話ではないのだ。
「もうダメって?ねぇ、どういうー。」
「話は終わりだ。」
リヴァイは立ち上がると、たたんだ長距離索敵陣形の配置図を乱暴に手に取った。
強引に立ち去ろうとするリヴァイの腕をハンジが掴む。
面倒くさそうに振り向けば、ハンジは至極真剣な顔で、嫌でも分かっていることをわざわざ言葉にする。
「なんだ。」
「明日は壁外調査だ。危険な作戦もある。もちろん、なまえは私が責任もってポイントまで連れて行く。
でも、絶対とは約束できない。私達調査兵には、今しかないんだよ。
もうダメな2人を、もしリヴァイがどうにかしたいと思うなら、ちゃんと向き合うべきだ。」
「…分かってる。」
リヴァイは、乱暴に手を振りほどいて、部屋を出る。
扉を閉めるときにチラリと見えたハンジの顔は、呆れを通り越して、無念そうだった。
それはそうだろう。
分かってると答えた本人が、分かっていないことを自覚しているのだから。
壁外調査前の廊下は、緊張感が漂っていて、リヴァイが怖い顔で歩いていても、不自然ではなかった。
ちゃんと向き合えー。
そんなことは分かっている。おそらく、なまえも分かっている。
でも、それが出来ずに、自分の胸の内を隠したまま過ごしていくうちに、自分達ではどうしようも出来ないくらいに大きな溝が出来てしまった。
そう、あれはきっかけだ。その前から、2人の間には綻びがあった。
それを作ったのは、自分だという自覚もある。
もし、結婚したいと言えば、今の関係は少しは改善するだろうか。
ふと、そんな考えがリヴァイの頭に過る。
でもすぐに却下される。
結婚をして、それからどうなる。
死ぬ気でなまえを守ることは変わらない。誰よりも愛しているということも、それが一生続くことも変わらない。
でも、自分が死んだ後のなまえの人生は大きく変わる。
恋人が死んだのであれば、自分のことなんて忘れて新しい恋をすればいい。
でも、結婚相手が死んだら、彼女はきっと一生縛られる。
他の誰かを愛することも、新しい幸せを見つけることも出来ずにー。
それは本当に、一番クソな未来だ。
なまえには幸せになってほしい。
せめて、喧嘩でも出来ればよかったのかもしれない。
胸の内をさらけ出してー。
いや、無理だ。
今、なまえの気持ちを聞けば、正気でいられる気がしない。
失いたくない。
あぁ、どうしてこの世界は残酷なのだろうか。
なぜ、兵士なのだろうか。
もしも、もっと平和な世界で出逢えていたのなら、自信を持って指輪を贈れたかもしれない。
赤ん坊を抱くなまえを見れたかもしれないし、あの美味しい料理を毎日食べられたのかもしれない。
そんな未来を、想像するだけじゃなくて、現実として生きて行けたかもしれないのにー。
「あ、おかえりなさい。会議、お疲れさまでした。」
自分の部屋ではなくて、なまえの部屋の扉を開ければ、それに困ったような素振りもなく、むしろそれが自然であるかのように、なまえは笑顔を見せてくれる。
今は、それだけでいいー。
その思いが、なまえを苦しめて、傷つけていることも知らないで、また自分勝手に彼女を腕の中に閉じ込めたー。
エルヴィンの睨んだ通りの事態になれば、恐らく確実に、大勢の調査兵が死ぬことになるだろう。
会議が終わり、長距離索敵陣形の配置図をすぐに畳んだリヴァイの隣で、いつまでも配置図を念入りに確認しているハンジの目は、そこに載っている仲間の名前を焼き付けようとしているようだった。
この中のどれくらいが、無事に帰ってこられるのか。
自分は、帰ってこられるのか。
壁外調査前はいつも、気が狂いそうになる。
続々と会議室から出て行く幹部達を見送り、残ったのはリヴァイとハンジだけになった。
「なまえの様子はどう?明日のこと不安に思ってはなさそう?」
「そんなこと聞くために、無駄に残ったのか。」
至極面倒くさそうに言うリヴァイだったが、席を立つことはしなかった。
長距離索敵陣形の配置図を見ながらも、隣に座る自分のことにも意識を向けていることには気づいていた。
何か確認したことがあるのだろうということ、そしてそれが、恐らくなまえのことなのだろうということは見当がついていた。
背もたれにもたれ、脚を組み、天井を見上げる。
そういえば、トロスト区に残る巨人の掃討作戦で民間人の女が兵士に紛れ込んでいたとハンジから聞いた時も、こうして天井を見上げていた気がする。
本当にクソな話だと思った。
きっとその民間人の女にとっても、クソ以外の何物でもない話だろうと分かっていた。
それが今では恋人にまでなっているのだから、本当にクソみたいな話だー。
「じゃあ、単刀直入に聞くよ。
君達、うまくいってないよね。」
ハンジの指摘に、リヴァイの片眉がピクリと動いた。
その途端に発せられるピリついた空気は、絶対に認めはしないプライドの高い男よりも饒舌だった。
「あの話をなまえは信じてくれなかったってこと?
本当のことなのになぁ…。」
「なまえは、いちいち疑うような面倒くせぇ女じゃねぇ。
どう思ったかは別にして、ちゃんと理解してる。
ただ、もう信じられなくなっちまったんだろう。」
「リヴァイのことを?」
「あぁ…、それもあるかもしれねぇな。」
「それもって?他に何があるの?
リヴァイのことじゃなかったら、自分の気持ちが信じられないとか?」
まさかねー、と首をすくめるハンジに、そのまさかだと言ったらどんな顔をするのだろう。
ふと、そんなことを思ったリヴァイだったけれど、それを言葉にするのは恐ろしくて、聞き流した。
でも、実際、なまえは今、自分の気持ちが分からなくなっているのだと思う。
一緒にいても、彼女はどこか遠くにいて、いつも自分に問いている気がする。
本当に隣にいる男を愛しているのか。その男を選んだことに後悔はしていないのか。
まだ、答えは出ていないのだろう。
だから、その答えを急かしたくはない。
せめて、彼女が答えを出してしまうまでは、そばにいたい。
「あのとき、もっとちゃんとエルヴィンを止めればよかったよ。ごめん。」
「お前が謝ることじゃねぇ。俺もなまえの気持ちを置き去りにして、
何事もなく終わらせようとしたのが悪かった。それにあれは…。」
「あれは?」
「あ?あぁ…、あれはただのきっかけだ。」
「きっかけ?」
「そうだ。だから、お前が気にすることじゃねぇ。
その前から俺達は、もうダメだった。」
自分で言いながら、それを認めようとしていなかった自分に気が付いた。
いや、今でも認めたくはない。
ただ、事実は事実としてあるのだから、誰かが認めるとか認めないとかいう話ではないのだ。
「もうダメって?ねぇ、どういうー。」
「話は終わりだ。」
リヴァイは立ち上がると、たたんだ長距離索敵陣形の配置図を乱暴に手に取った。
強引に立ち去ろうとするリヴァイの腕をハンジが掴む。
面倒くさそうに振り向けば、ハンジは至極真剣な顔で、嫌でも分かっていることをわざわざ言葉にする。
「なんだ。」
「明日は壁外調査だ。危険な作戦もある。もちろん、なまえは私が責任もってポイントまで連れて行く。
でも、絶対とは約束できない。私達調査兵には、今しかないんだよ。
もうダメな2人を、もしリヴァイがどうにかしたいと思うなら、ちゃんと向き合うべきだ。」
「…分かってる。」
リヴァイは、乱暴に手を振りほどいて、部屋を出る。
扉を閉めるときにチラリと見えたハンジの顔は、呆れを通り越して、無念そうだった。
それはそうだろう。
分かってると答えた本人が、分かっていないことを自覚しているのだから。
壁外調査前の廊下は、緊張感が漂っていて、リヴァイが怖い顔で歩いていても、不自然ではなかった。
ちゃんと向き合えー。
そんなことは分かっている。おそらく、なまえも分かっている。
でも、それが出来ずに、自分の胸の内を隠したまま過ごしていくうちに、自分達ではどうしようも出来ないくらいに大きな溝が出来てしまった。
そう、あれはきっかけだ。その前から、2人の間には綻びがあった。
それを作ったのは、自分だという自覚もある。
もし、結婚したいと言えば、今の関係は少しは改善するだろうか。
ふと、そんな考えがリヴァイの頭に過る。
でもすぐに却下される。
結婚をして、それからどうなる。
死ぬ気でなまえを守ることは変わらない。誰よりも愛しているということも、それが一生続くことも変わらない。
でも、自分が死んだ後のなまえの人生は大きく変わる。
恋人が死んだのであれば、自分のことなんて忘れて新しい恋をすればいい。
でも、結婚相手が死んだら、彼女はきっと一生縛られる。
他の誰かを愛することも、新しい幸せを見つけることも出来ずにー。
それは本当に、一番クソな未来だ。
なまえには幸せになってほしい。
せめて、喧嘩でも出来ればよかったのかもしれない。
胸の内をさらけ出してー。
いや、無理だ。
今、なまえの気持ちを聞けば、正気でいられる気がしない。
失いたくない。
あぁ、どうしてこの世界は残酷なのだろうか。
なぜ、兵士なのだろうか。
もしも、もっと平和な世界で出逢えていたのなら、自信を持って指輪を贈れたかもしれない。
赤ん坊を抱くなまえを見れたかもしれないし、あの美味しい料理を毎日食べられたのかもしれない。
そんな未来を、想像するだけじゃなくて、現実として生きて行けたかもしれないのにー。
「あ、おかえりなさい。会議、お疲れさまでした。」
自分の部屋ではなくて、なまえの部屋の扉を開ければ、それに困ったような素振りもなく、むしろそれが自然であるかのように、なまえは笑顔を見せてくれる。
今は、それだけでいいー。
その思いが、なまえを苦しめて、傷つけていることも知らないで、また自分勝手に彼女を腕の中に閉じ込めたー。
