◇第百三十話◇深い愛は試されて、傷をつけて
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真夜中、兵舎の見回り担当がまわってきた私は、シフト交代の為に自分の持ち場へと向かっていた。
厩舎横を通って、広場に出ると空には満月が浮かんでいた。
優しい心で今の夜空を見上げることが出来れば、綺麗だと思えたのだろう。
でも、心に棘が幾つも刺さっている今の私には何も響かず、すぐにどうでもいいように視線を落とし、歩みを進める。
きっと、隣にリヴァイ兵長がいたとしても、私は同じように、あの星も月も、綺麗だとは思えないのだろう。
そんな心の余裕は、ない。
「お疲れ様。交代に来たよ。」
声をかけると、暇そうにベンチに座って夜空を見上げていたダイが振り向いた。
厩舎横の広場は兵舎の中でも特に長閑で、ここで何を見回ればいいのか、正直分からない。
「おう、お疲れ。」
ダイは手を軽くあげただけで、立ち上がろうとはしなかった。
見回りの交代のとき、すぐに宿舎に戻る調査兵もいれば、雑談をしていく調査兵もいる。
だから、私も特に気にすることもなく、ダイの隣に腰を降ろした。
「リヴァイ兵長のこと、誤解で良かったな。」
「あぁ…、そうだね。」
その話がしたかったのか、と私は憂鬱な気持ちになる。
昨日の今日で、ダイの耳にも届いていたなんて。
さすが、調査兵団の兵長様の恋愛事情だ。
まぁ、調査兵達が集まっている訓練場で、あれだけ堂々とリヴァイ兵長に抱き着き、挙句の果てに、私が泣いて逃亡すれば噂になるのも仕方がないかー。
「もしかして、さ…。
リヴァイ兵長が出張から帰ってこないって言ってたあの日から、だった?」
私が頷くと、ダイは大きく息を吐いて、私に謝った。
「実は、あの後、ゲルガーさん達がリヴァイ兵長が他の女に会いに行ってるって
そんな話してるの聞いてさ。なまえに言うべきか悩んだんだけど、
わざわざ教えることでもねぇと思って…。ごめん、俺がもっと早く言ってやれば。」
まるで自分が私を傷つけたみたいに、ダイは何度も謝った。
彼こそ、何も悪くないのに。
それに、そういうことじゃないのだ。
私が傷ついたのは、リヴァイ兵長が浮気をしたと思ったからじゃない。
心変わりされたと思ったからじゃない。
それは悲しくて、苦しくて、息が出来ないくらいツラかった。
でも、傷ついたのは、そこじゃない。
私はー。
「言い返せなかったの…。」
「え?」
ダイが顔を上げて、私を見た。
でも、遠くをじっと見つめる私の目は、あの日、どんな理由があったにしろ、追いかけてはくれなかった恋人を必死に探していた。
「結婚してくれない男と一緒にいるのはツラいでしょう?って言われて、言い返せなかった…っ。
それでも一緒にいたいって、リヴァイ兵長がいればいいって…思ってるのに…っ。
私、言い返せなくて…っ、悔しい…っ、好きなのに…っ、誰よりっ、愛してるのに…っ。」
「…っ。」
ダイが私の腕を引いて、自分の身体に押しつけるように抱きしめる。
身長差のないリヴァイ兵長とは違って、私の顔はダイの胸元にあるから、心臓の音がよく聞こえた。
少し早めのその音は、私の愛おしい音とは違っていて、涙が止まらなかった。
好き。好きなのだ。リヴァイ兵長のことが大好きだ。
結婚なんてしなくていい。
そばにいてくれるなら、それでいい。
リヴァイ兵長が愛してくれたら、そんなに幸せなことはない。
それだけでいい、はずなのにー。
「…チッ。」
私とダイの死角、建物の角。
リヴァイ兵長が一緒に寒い夜を過ごそうと思ってくれたことも、全て聞かれていたことも、私は知らなくてー。
怒りに任せて壁を叩き、悔しそうに唇を噛んでいるリヴァイ兵長がいたなんて、私は知らなくてー。
「リヴァイ兵長…っ。」
ダイに縋りついて、抱きしめてはくれない恋人を思って惨めに泣いた。
世界で一番、リヴァイ兵長を愛していると信じていた。
誰よりも深い愛で、愛していると信じていた。
リヴァイ兵長を愛してるー、それが私の全てだったから、そのすべてが崩れ落ちていくのが、ひどく怖かったー。
厩舎横を通って、広場に出ると空には満月が浮かんでいた。
優しい心で今の夜空を見上げることが出来れば、綺麗だと思えたのだろう。
でも、心に棘が幾つも刺さっている今の私には何も響かず、すぐにどうでもいいように視線を落とし、歩みを進める。
きっと、隣にリヴァイ兵長がいたとしても、私は同じように、あの星も月も、綺麗だとは思えないのだろう。
そんな心の余裕は、ない。
「お疲れ様。交代に来たよ。」
声をかけると、暇そうにベンチに座って夜空を見上げていたダイが振り向いた。
厩舎横の広場は兵舎の中でも特に長閑で、ここで何を見回ればいいのか、正直分からない。
「おう、お疲れ。」
ダイは手を軽くあげただけで、立ち上がろうとはしなかった。
見回りの交代のとき、すぐに宿舎に戻る調査兵もいれば、雑談をしていく調査兵もいる。
だから、私も特に気にすることもなく、ダイの隣に腰を降ろした。
「リヴァイ兵長のこと、誤解で良かったな。」
「あぁ…、そうだね。」
その話がしたかったのか、と私は憂鬱な気持ちになる。
昨日の今日で、ダイの耳にも届いていたなんて。
さすが、調査兵団の兵長様の恋愛事情だ。
まぁ、調査兵達が集まっている訓練場で、あれだけ堂々とリヴァイ兵長に抱き着き、挙句の果てに、私が泣いて逃亡すれば噂になるのも仕方がないかー。
「もしかして、さ…。
リヴァイ兵長が出張から帰ってこないって言ってたあの日から、だった?」
私が頷くと、ダイは大きく息を吐いて、私に謝った。
「実は、あの後、ゲルガーさん達がリヴァイ兵長が他の女に会いに行ってるって
そんな話してるの聞いてさ。なまえに言うべきか悩んだんだけど、
わざわざ教えることでもねぇと思って…。ごめん、俺がもっと早く言ってやれば。」
まるで自分が私を傷つけたみたいに、ダイは何度も謝った。
彼こそ、何も悪くないのに。
それに、そういうことじゃないのだ。
私が傷ついたのは、リヴァイ兵長が浮気をしたと思ったからじゃない。
心変わりされたと思ったからじゃない。
それは悲しくて、苦しくて、息が出来ないくらいツラかった。
でも、傷ついたのは、そこじゃない。
私はー。
「言い返せなかったの…。」
「え?」
ダイが顔を上げて、私を見た。
でも、遠くをじっと見つめる私の目は、あの日、どんな理由があったにしろ、追いかけてはくれなかった恋人を必死に探していた。
「結婚してくれない男と一緒にいるのはツラいでしょう?って言われて、言い返せなかった…っ。
それでも一緒にいたいって、リヴァイ兵長がいればいいって…思ってるのに…っ。
私、言い返せなくて…っ、悔しい…っ、好きなのに…っ、誰よりっ、愛してるのに…っ。」
「…っ。」
ダイが私の腕を引いて、自分の身体に押しつけるように抱きしめる。
身長差のないリヴァイ兵長とは違って、私の顔はダイの胸元にあるから、心臓の音がよく聞こえた。
少し早めのその音は、私の愛おしい音とは違っていて、涙が止まらなかった。
好き。好きなのだ。リヴァイ兵長のことが大好きだ。
結婚なんてしなくていい。
そばにいてくれるなら、それでいい。
リヴァイ兵長が愛してくれたら、そんなに幸せなことはない。
それだけでいい、はずなのにー。
「…チッ。」
私とダイの死角、建物の角。
リヴァイ兵長が一緒に寒い夜を過ごそうと思ってくれたことも、全て聞かれていたことも、私は知らなくてー。
怒りに任せて壁を叩き、悔しそうに唇を噛んでいるリヴァイ兵長がいたなんて、私は知らなくてー。
「リヴァイ兵長…っ。」
ダイに縋りついて、抱きしめてはくれない恋人を思って惨めに泣いた。
世界で一番、リヴァイ兵長を愛していると信じていた。
誰よりも深い愛で、愛していると信じていた。
リヴァイ兵長を愛してるー、それが私の全てだったから、そのすべてが崩れ落ちていくのが、ひどく怖かったー。