◇第百三十五話◇覚悟と最善策
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何が起こったのか分からなかった。
なぜ、エルヴィン団長達が捕らえたはずの女型の巨人が自分達を追いかけてこられたのかー。
疑問は幾つもあったが、考えるのは後だ。
ただ分かるのは、グンタが死んだこと。そして、ここで戦わなければ、また人類は負けるということだ。
エルドの指示で、最善策をとったリヴァイ班は、自らが命を懸けて女型の巨人に応戦し、その間にエレンを逃がすことに決めた。
大切な仲間達を殺した女型の巨人を許しはしない。
捕獲なんて甘いことは言っていられない。エルドを囮にして、ペトラとオルオが隙を狙って女型の巨人の両目を切りつけた。
(今殺す!!)
(ここで惨めに死ね!!)
(クソ女型に報いを!!)
ペトラ達の強い意思とは裏腹に、女型の巨人は、捕獲されたときと同じように両手でうなじを守り、後ろの木に背中を預けた。
この状態で視力が回復するまで待つつもりのようだ。
だが、少なくとも1分間は、女型の巨人は暗闇の世界から抜け出せはしない。
エルドが自分の左脇を叩いたのを見て、ペトラとオルオは瞬時に指示の意味を理解する。
左右に別れて飛び、一気に飛び上がると、そのまま急降下しながら女型の巨人の両脇を同時に削いだ。
何度も、何度も、同じことを繰り返せば、支えるための筋肉を失った腕がだらしなく下に落ちる。
それまで数秒の間だった。
大丈夫、やれるー。
両手が使えなくなった女型の巨人は、後ろの木で首の後ろを隠しうなじを守りだした。
だが、それも、首を支える筋肉を削げば、うなじが狙えるようになる。
まずはエルドが飛んだー。
「エルド!!!退がってッ!!!」
後ろから聞こえた焦ったような声は、なまえのものだった。
なぜ彼女がー。
咄嗟に動きを止めたエルドのすぐ上を、超硬質スチールの替刃が猛烈な勢いで飛んでいったのと、じっとしていたはずの女型の巨人が動いたのはほぼ同時だった。
女型の巨人が立てた歯が、エルドの身体に触れる寸前のところで、何も噛めないまま大きな音を立てる。
その瞬間に、なまえが投げた超硬質スチールの替刃が女型の巨人の右目を切れば、また女型の巨人はおとなしくなった。
もし、なまえが叫ばなければ、エルドはー。
ゾッとしたー。
(まだ30秒しか経ってないのに…。まさか、右目だけ…!?)
片目だけ優先し回復させたというのか。
そんなことが出来るというのか。
狼狽えるペトラ達の横を、颯爽と現れたなまえが風を切って飛んでいき、女型の巨人の左目を切った。
これでまた、せめて30秒の安穏が訪れる、はずだー。
「なまえ!!どうしてここに!?」
「お前、ハンジ班はどうなったんだ!?ていうか、この状況はなんだ!?」
「リヴァイ兵長はどうしたの!?」
なまえへの、今のこの状況への疑問が、矢継ぎ早に飛ぶ。
ペトラ達の元にすぐに戻ってきたなまえは早口で捲し立てるように答えた。
「作戦は失敗した。女型の捕獲はもう無理。」
「ハァ!?どういうことだよ!!今、ここで俺達がやれば、ヤツを殺せる!!」
「リヴァイ兵長とミケ分隊長でもうなじを削げなかった。
私達にどうにか出来る相手じゃない。」
「じゃあ、ここで尻尾巻いて逃げろって言うのかよ!?
俺達の任務はあのガキを守ることだ!!」
「分かってる!だから、エルド達はすぐにリヴァイ兵長を呼んできて。」
「それじゃ、その間にエレンが奪われてしまう!!」
「リヴァイ兵長が来るまで、私がここで食い止める。」
「なッ!?無理だっ!!俺達でも危なかったのに、なまえだけなんてー。」
「女型は、私を殺さない。」
暗闇と光、怒りと悲しみ、諦めと覚悟、相反する色を宿したなまえの瞳に、エルド達は思わず言葉を飲み込んだ。
なまえのそれは、確信しているような言い方だった。
たくさんの仲間が、グンタが、あの女型の巨人に殺されたのに、自分は殺されないという自信がどうしてー。
「どうして、殺さないなんて言えるの!?」
「これが最善策なの!お願い、早く行って!時間がない!!」
「だから!!危険なところになまえを置いて行くなんて出来ない!
私達も一緒に戦う!!」
「うるさいな!!!わかんないの!?
ここで一番生存確率が高いのは誰っ!?私は、あなた達なんかよりよっぽど強いの!!
絶対に、死なないわっ!!」
なまえが乱暴にペトラの肩を押した。
冷たく突き放す彼女の言葉は、いつもの彼女らしくはなかった。
でも、覚悟を決めた瞳は、ペトラ達の知っている優しい彼女のままでー。
「行くぞ、ペトラ!」
「クソッ!絶対に死ぬんじゃねーぞ!!」
エルドとオルオが、ペトラの兵団マントを引っ張った。
そうだ。分かっている。
なまえの実力は今や、この調査兵団の中でトップ5に入るものになっている。
確かに、今この場で最も生存率が高いのは彼女だろう。
でも、違う。
なまえは、自分が一番生存率が高いと声高に言うタイプでもないし、恐らく、自分の実力を理解していない彼女はそんなこと露程にも思っていない節がある。
短い付き合いだけれど、そばで見て来たから分かる。
なまえは、私達を守る気だー。
自分の命を懸けて、守る気なのだ。
エルドとオルオが、ペトラを連れて飛んだのを確認してすぐ、なまえは女型の巨人へ向かっていった。
調査兵団の中でも特に華奢なその身体でも、巨人に立ち向かっていけるようになまえが必死に身に着けた人類最強の技。
それを惜しげもなく披露するように、なまえは勢いよく回転する身体と刃で、まずは女型の巨人の口の筋肉を削いだ後、執拗に腕を狙っていた。
そうやって、視力が回復してからも女型の巨人が攻撃が出来ないようにして、時間を稼ごうということのようだ。
まだ視力の回復していない女型の巨人は一方的な攻撃を受け続ける。
「嘘だろ…、速い…!」
「硬貨で塞ぐ暇もねぇな…!」
後ろをチラリと見たエルドとオルオも、想像していた以上のなまえの成長に、驚きを隠せないようだった。
正直、ショックだった。
精鋭兵と呼ばれ、リヴァイに指名までされてリヴァイ班に入った。
確かにその頃は、なまえの方が実力はだいぶ低かった。
それが、突然やってきた異例の新兵に、あっという間に自分達よりもだいぶ上のステージにいかれ、こうして守られるている。
『ここで一番生存確率が高いのは誰っ!?私は、あなた達なんかよりよっぽど強いの!!』
それが、自分達を守るためのなまえの覚悟だと分かっていながら、何もー。
何も言い返せなかったことがー。
ペトラは唇を噛むと、ワイヤーを飛ばした。
早急に、この場から離れるためにー。
大丈夫、なまえは強い。死なない。
そのためにも自分達はー。
「早くリヴァイ兵長の元へ…!」
生きて、なまえをリヴァイの元へ帰してやろう。
それが今、自分達に出来る最善策だ。
なぜ、エルヴィン団長達が捕らえたはずの女型の巨人が自分達を追いかけてこられたのかー。
疑問は幾つもあったが、考えるのは後だ。
ただ分かるのは、グンタが死んだこと。そして、ここで戦わなければ、また人類は負けるということだ。
エルドの指示で、最善策をとったリヴァイ班は、自らが命を懸けて女型の巨人に応戦し、その間にエレンを逃がすことに決めた。
大切な仲間達を殺した女型の巨人を許しはしない。
捕獲なんて甘いことは言っていられない。エルドを囮にして、ペトラとオルオが隙を狙って女型の巨人の両目を切りつけた。
(今殺す!!)
(ここで惨めに死ね!!)
(クソ女型に報いを!!)
ペトラ達の強い意思とは裏腹に、女型の巨人は、捕獲されたときと同じように両手でうなじを守り、後ろの木に背中を預けた。
この状態で視力が回復するまで待つつもりのようだ。
だが、少なくとも1分間は、女型の巨人は暗闇の世界から抜け出せはしない。
エルドが自分の左脇を叩いたのを見て、ペトラとオルオは瞬時に指示の意味を理解する。
左右に別れて飛び、一気に飛び上がると、そのまま急降下しながら女型の巨人の両脇を同時に削いだ。
何度も、何度も、同じことを繰り返せば、支えるための筋肉を失った腕がだらしなく下に落ちる。
それまで数秒の間だった。
大丈夫、やれるー。
両手が使えなくなった女型の巨人は、後ろの木で首の後ろを隠しうなじを守りだした。
だが、それも、首を支える筋肉を削げば、うなじが狙えるようになる。
まずはエルドが飛んだー。
「エルド!!!退がってッ!!!」
後ろから聞こえた焦ったような声は、なまえのものだった。
なぜ彼女がー。
咄嗟に動きを止めたエルドのすぐ上を、超硬質スチールの替刃が猛烈な勢いで飛んでいったのと、じっとしていたはずの女型の巨人が動いたのはほぼ同時だった。
女型の巨人が立てた歯が、エルドの身体に触れる寸前のところで、何も噛めないまま大きな音を立てる。
その瞬間に、なまえが投げた超硬質スチールの替刃が女型の巨人の右目を切れば、また女型の巨人はおとなしくなった。
もし、なまえが叫ばなければ、エルドはー。
ゾッとしたー。
(まだ30秒しか経ってないのに…。まさか、右目だけ…!?)
片目だけ優先し回復させたというのか。
そんなことが出来るというのか。
狼狽えるペトラ達の横を、颯爽と現れたなまえが風を切って飛んでいき、女型の巨人の左目を切った。
これでまた、せめて30秒の安穏が訪れる、はずだー。
「なまえ!!どうしてここに!?」
「お前、ハンジ班はどうなったんだ!?ていうか、この状況はなんだ!?」
「リヴァイ兵長はどうしたの!?」
なまえへの、今のこの状況への疑問が、矢継ぎ早に飛ぶ。
ペトラ達の元にすぐに戻ってきたなまえは早口で捲し立てるように答えた。
「作戦は失敗した。女型の捕獲はもう無理。」
「ハァ!?どういうことだよ!!今、ここで俺達がやれば、ヤツを殺せる!!」
「リヴァイ兵長とミケ分隊長でもうなじを削げなかった。
私達にどうにか出来る相手じゃない。」
「じゃあ、ここで尻尾巻いて逃げろって言うのかよ!?
俺達の任務はあのガキを守ることだ!!」
「分かってる!だから、エルド達はすぐにリヴァイ兵長を呼んできて。」
「それじゃ、その間にエレンが奪われてしまう!!」
「リヴァイ兵長が来るまで、私がここで食い止める。」
「なッ!?無理だっ!!俺達でも危なかったのに、なまえだけなんてー。」
「女型は、私を殺さない。」
暗闇と光、怒りと悲しみ、諦めと覚悟、相反する色を宿したなまえの瞳に、エルド達は思わず言葉を飲み込んだ。
なまえのそれは、確信しているような言い方だった。
たくさんの仲間が、グンタが、あの女型の巨人に殺されたのに、自分は殺されないという自信がどうしてー。
「どうして、殺さないなんて言えるの!?」
「これが最善策なの!お願い、早く行って!時間がない!!」
「だから!!危険なところになまえを置いて行くなんて出来ない!
私達も一緒に戦う!!」
「うるさいな!!!わかんないの!?
ここで一番生存確率が高いのは誰っ!?私は、あなた達なんかよりよっぽど強いの!!
絶対に、死なないわっ!!」
なまえが乱暴にペトラの肩を押した。
冷たく突き放す彼女の言葉は、いつもの彼女らしくはなかった。
でも、覚悟を決めた瞳は、ペトラ達の知っている優しい彼女のままでー。
「行くぞ、ペトラ!」
「クソッ!絶対に死ぬんじゃねーぞ!!」
エルドとオルオが、ペトラの兵団マントを引っ張った。
そうだ。分かっている。
なまえの実力は今や、この調査兵団の中でトップ5に入るものになっている。
確かに、今この場で最も生存率が高いのは彼女だろう。
でも、違う。
なまえは、自分が一番生存率が高いと声高に言うタイプでもないし、恐らく、自分の実力を理解していない彼女はそんなこと露程にも思っていない節がある。
短い付き合いだけれど、そばで見て来たから分かる。
なまえは、私達を守る気だー。
自分の命を懸けて、守る気なのだ。
エルドとオルオが、ペトラを連れて飛んだのを確認してすぐ、なまえは女型の巨人へ向かっていった。
調査兵団の中でも特に華奢なその身体でも、巨人に立ち向かっていけるようになまえが必死に身に着けた人類最強の技。
それを惜しげもなく披露するように、なまえは勢いよく回転する身体と刃で、まずは女型の巨人の口の筋肉を削いだ後、執拗に腕を狙っていた。
そうやって、視力が回復してからも女型の巨人が攻撃が出来ないようにして、時間を稼ごうということのようだ。
まだ視力の回復していない女型の巨人は一方的な攻撃を受け続ける。
「嘘だろ…、速い…!」
「硬貨で塞ぐ暇もねぇな…!」
後ろをチラリと見たエルドとオルオも、想像していた以上のなまえの成長に、驚きを隠せないようだった。
正直、ショックだった。
精鋭兵と呼ばれ、リヴァイに指名までされてリヴァイ班に入った。
確かにその頃は、なまえの方が実力はだいぶ低かった。
それが、突然やってきた異例の新兵に、あっという間に自分達よりもだいぶ上のステージにいかれ、こうして守られるている。
『ここで一番生存確率が高いのは誰っ!?私は、あなた達なんかよりよっぽど強いの!!』
それが、自分達を守るためのなまえの覚悟だと分かっていながら、何もー。
何も言い返せなかったことがー。
ペトラは唇を噛むと、ワイヤーを飛ばした。
早急に、この場から離れるためにー。
大丈夫、なまえは強い。死なない。
そのためにも自分達はー。
「早くリヴァイ兵長の元へ…!」
生きて、なまえをリヴァイの元へ帰してやろう。
それが今、自分達に出来る最善策だ。