◇第百二十六話◇花嫁になり損ねたブライズメイド
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今日の非番は、フロリアンと一緒に過ごした。
次回の壁外調査で調査兵団を退団し、結婚することが決まっているフロリアンが、結婚式前に婚約者を紹介したいと言ってくれたことで、非番の日を合わせたのだ。
巨人に捕食されかけて大けがをしたのが、彼が結婚を決意するきっかけだったことで、あのとき、命を助けた私に礼を言いたいということだった。
カフェで会った婚約者は、おっとりとした印象のとても優しそうな好青年だった。
気の強いフロリアンを愛おしそうに見つめていて、とてもお似合いで、見ているこっちまで幸せな気分になった。
「ね?ボーッとした人だったでしょ?」
夜、兵舎に帰ってきた私は、フロリアンとマレーネの部屋に来ていた。
確かに、少し天然が入っていたかもしれないー。
そんな婚約者のことをボーッとした人だと表現したフロリアンからは、そんなところも好きなのだろうなと分かるくらいに幸せそうなオーラが出ていた。
今日は非番ではなかったマレーネ達は、以前から婚約者とは何度か会ったことがあり、顔見知りなのだそうで、フロリアンのその表現におかしそうに笑う。
「優しそうな人でよかったよ。気の強い人だったら、毎日喧嘩ばかりの夫婦生活だからね。」
「うるさいわね!」
意地悪く言った私に怒るフロリアンだけれど、それでもやっぱり、とても幸せそうなのだ。
今回の壁外調査は、危険な任務があるわけでもない。
行きと帰りに巨人に遭遇さえしなければ、無事に帰ってこれるだろう。
それに、長距離索敵陣形で、フロリアンの配置は、リヴァイ兵長達のちょうど後ろだった。
中央後方はとても安全な配置だ。
結婚が決まっているから、エルヴィン団長が配慮してくれたのかもしれない。
あと少ししたら、フロリアンとこうしてお喋りができなくなるのだと思うと、寂しいけれど、死と共に兵団を去るものがほとんどの調査兵の中で、彼女のように幸せと共に去っていく調査兵がいるのは、私はとても嬉しかった。
人類に心臓を捧げるばかりが、兵士の人生ではないと思うからー。
「結婚かぁ~、アンタも彼氏いたでしょ?しないの?」
「えー、私は勘弁。フロリアンには悪いけど、一生その人って決めるなんてヤだ。」
「悪い女だ~。」
「だってさっ!わかんないじゃん!もっと素敵な人出てくるかもしれないでしょ?」
フロリアン達は、結婚は幸せか、それとも人生の束縛かという難しい話題で盛り上がりだした。
どちらの言っていることも、なんとなくわかる気がする。
だからみんな、結婚というワードが出ると構えてしまうのだろう。
「なまえは?結婚は幸せへの近道よね!?」
フロリアンが猛烈な勢いで、同意を求めてきた。
少し考えて、でもやっぱり答えは一つしかなくて、私は、いつも使っているものではない慣れないティーカップを眺めながら答える。
「近道でも遠回りでも、リヴァイ兵長より素敵な人なんて現れないし、
私の幸せはリヴァイ兵長がいることだから、なんだっていいかなぁ。」
「…アンタに聞いた私がバカだったわ。リヴァイ兵長バカのアンタに。」
ひどい言われようだけれど、マレーネ達もその通りだと乗っかり始める。
そしてやっぱり、結婚はするべきか、しないべきかの難しい議論が続いていくー。
答えが出るとも思えなかったので、私は話題を変えることにした。
「ねぇ、フロリアン。」
「なに?私の幸せな話を聞いて、結婚したくなった?」
「うん、そうね。すごくしたくなった。でさ、話は変わるんだけどー。」
「思ってないでしょっ!アンタ!」
「思った思った。でさ、結婚のお祝い何が欲しい?
こっそり買おうとも思ったんだけど、やっぱり欲しいものを贈った方がいいかなと思って。」
私が変えた話題で、ヒートアップしていたフロリアンはようやく静かになった。
マレーネ達も同じことを考えていたらしく、ぜひ教えてくれと訊ねる。
だがー。
「いいわよ、そんなもの。雀の涙の給料なことは私が一番わかってんだから。」
「そんなこと気にしなくていいよ。せっかくのお祝い事なんだし。」
「そうよ、高価なものが欲しいなら、私達みんなでお金出し合って買うよ。」
「その場合は、みんなで一個だけどねっ。」
幸せになる友人にどうしても祝いをしてやりたいのだと私達がお願いすれば、しばらく考えた後、フロリアンが口を開いた。
「じゃあ、さ。結婚式の日、アンタ達が私のブライズメイドしてよ。」
「私達が?」
「なまえは化粧も上手だし、それもお願いしたい。
とにかく、私はなまえ達に一番近くで見ててほしい。それが一番嬉しい。
…お願いできる?」
照れくさそうに頬を染めて、でもどこか不安そうなフロリアンを見て、私達は漸く気づいた。
結婚は幸せへの近道だと必死に説得していたのは、きっと自分自身だったのだということも、住み慣れた兵舎を離れ、友人と離れ、新しい人生を生きることが本当は不安なのだということにも。
「もちろんだよ。フロリアンが世界一幸せな花嫁になるところを
私達に一番近くで見せてもらえるなんて、むしろ贅沢なプレゼントだよ。」
「精一杯、サポートするからね。」
「絶対、私達が世界一幸せな花嫁にしてあげるから、安心して結婚してよ。」
「そして、結婚してからも、ずっと友達だよ。」
フロリアンを抱きしめる。私も、マレーネも、みんなで。
こうして、女友達で集まって夜を過ごせるのはあと数日。
「もう暑苦しいわっ!」
「いいじゃん、いいじゃん。」
「照れてる~っ。」
楽しそうな笑い声が上がる。少しだけ、みんな涙目になっているのはご愛敬だ。
きっと、幸せになってねー。
次回の壁外調査で調査兵団を退団し、結婚することが決まっているフロリアンが、結婚式前に婚約者を紹介したいと言ってくれたことで、非番の日を合わせたのだ。
巨人に捕食されかけて大けがをしたのが、彼が結婚を決意するきっかけだったことで、あのとき、命を助けた私に礼を言いたいということだった。
カフェで会った婚約者は、おっとりとした印象のとても優しそうな好青年だった。
気の強いフロリアンを愛おしそうに見つめていて、とてもお似合いで、見ているこっちまで幸せな気分になった。
「ね?ボーッとした人だったでしょ?」
夜、兵舎に帰ってきた私は、フロリアンとマレーネの部屋に来ていた。
確かに、少し天然が入っていたかもしれないー。
そんな婚約者のことをボーッとした人だと表現したフロリアンからは、そんなところも好きなのだろうなと分かるくらいに幸せそうなオーラが出ていた。
今日は非番ではなかったマレーネ達は、以前から婚約者とは何度か会ったことがあり、顔見知りなのだそうで、フロリアンのその表現におかしそうに笑う。
「優しそうな人でよかったよ。気の強い人だったら、毎日喧嘩ばかりの夫婦生活だからね。」
「うるさいわね!」
意地悪く言った私に怒るフロリアンだけれど、それでもやっぱり、とても幸せそうなのだ。
今回の壁外調査は、危険な任務があるわけでもない。
行きと帰りに巨人に遭遇さえしなければ、無事に帰ってこれるだろう。
それに、長距離索敵陣形で、フロリアンの配置は、リヴァイ兵長達のちょうど後ろだった。
中央後方はとても安全な配置だ。
結婚が決まっているから、エルヴィン団長が配慮してくれたのかもしれない。
あと少ししたら、フロリアンとこうしてお喋りができなくなるのだと思うと、寂しいけれど、死と共に兵団を去るものがほとんどの調査兵の中で、彼女のように幸せと共に去っていく調査兵がいるのは、私はとても嬉しかった。
人類に心臓を捧げるばかりが、兵士の人生ではないと思うからー。
「結婚かぁ~、アンタも彼氏いたでしょ?しないの?」
「えー、私は勘弁。フロリアンには悪いけど、一生その人って決めるなんてヤだ。」
「悪い女だ~。」
「だってさっ!わかんないじゃん!もっと素敵な人出てくるかもしれないでしょ?」
フロリアン達は、結婚は幸せか、それとも人生の束縛かという難しい話題で盛り上がりだした。
どちらの言っていることも、なんとなくわかる気がする。
だからみんな、結婚というワードが出ると構えてしまうのだろう。
「なまえは?結婚は幸せへの近道よね!?」
フロリアンが猛烈な勢いで、同意を求めてきた。
少し考えて、でもやっぱり答えは一つしかなくて、私は、いつも使っているものではない慣れないティーカップを眺めながら答える。
「近道でも遠回りでも、リヴァイ兵長より素敵な人なんて現れないし、
私の幸せはリヴァイ兵長がいることだから、なんだっていいかなぁ。」
「…アンタに聞いた私がバカだったわ。リヴァイ兵長バカのアンタに。」
ひどい言われようだけれど、マレーネ達もその通りだと乗っかり始める。
そしてやっぱり、結婚はするべきか、しないべきかの難しい議論が続いていくー。
答えが出るとも思えなかったので、私は話題を変えることにした。
「ねぇ、フロリアン。」
「なに?私の幸せな話を聞いて、結婚したくなった?」
「うん、そうね。すごくしたくなった。でさ、話は変わるんだけどー。」
「思ってないでしょっ!アンタ!」
「思った思った。でさ、結婚のお祝い何が欲しい?
こっそり買おうとも思ったんだけど、やっぱり欲しいものを贈った方がいいかなと思って。」
私が変えた話題で、ヒートアップしていたフロリアンはようやく静かになった。
マレーネ達も同じことを考えていたらしく、ぜひ教えてくれと訊ねる。
だがー。
「いいわよ、そんなもの。雀の涙の給料なことは私が一番わかってんだから。」
「そんなこと気にしなくていいよ。せっかくのお祝い事なんだし。」
「そうよ、高価なものが欲しいなら、私達みんなでお金出し合って買うよ。」
「その場合は、みんなで一個だけどねっ。」
幸せになる友人にどうしても祝いをしてやりたいのだと私達がお願いすれば、しばらく考えた後、フロリアンが口を開いた。
「じゃあ、さ。結婚式の日、アンタ達が私のブライズメイドしてよ。」
「私達が?」
「なまえは化粧も上手だし、それもお願いしたい。
とにかく、私はなまえ達に一番近くで見ててほしい。それが一番嬉しい。
…お願いできる?」
照れくさそうに頬を染めて、でもどこか不安そうなフロリアンを見て、私達は漸く気づいた。
結婚は幸せへの近道だと必死に説得していたのは、きっと自分自身だったのだということも、住み慣れた兵舎を離れ、友人と離れ、新しい人生を生きることが本当は不安なのだということにも。
「もちろんだよ。フロリアンが世界一幸せな花嫁になるところを
私達に一番近くで見せてもらえるなんて、むしろ贅沢なプレゼントだよ。」
「精一杯、サポートするからね。」
「絶対、私達が世界一幸せな花嫁にしてあげるから、安心して結婚してよ。」
「そして、結婚してからも、ずっと友達だよ。」
フロリアンを抱きしめる。私も、マレーネも、みんなで。
こうして、女友達で集まって夜を過ごせるのはあと数日。
「もう暑苦しいわっ!」
「いいじゃん、いいじゃん。」
「照れてる~っ。」
楽しそうな笑い声が上がる。少しだけ、みんな涙目になっているのはご愛敬だ。
きっと、幸せになってねー。