◇第百二十話◇母の愛と優しい腕
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部屋に戻った私は、ソファに倒れ込む。
父にお酒に付き合わされたリヴァイ兵長は、全く酔っぱらった様子もなく、女物で溢れた部屋を歩き回り始めた。
「お腹が破裂しそう…。」
ソファに横になった私は、自分のお腹を擦りながら、ゆっくり息を吐く。そうしていないと本当に吐きそうだ。
娘が旦那を連れて帰ってくると喜んだ母が披露してくれたもてなし料理の数々はとても美味しくて、とても食べきれる量ではなかった。
普段は寡黙な父も、リヴァイ兵長と話しているうちにだんだん饒舌になっていった。
お酒の力もあったのかもしれないけれど、とてもいい青年だとしきりに繰り返していて、リヴァイ兵長の方が困っていたくらいだ。
兄弟達も、人類最強の兵士が家にいると盛り上がっていたし、結婚していると嘘をついて、調査兵として命を懸けて戦っていることを黙っている私だけれど、久しぶりに少しは親孝行、家族孝行が出来たんじゃないかと思っている。
それもこれも、裁判のためにストヘス区に出向することが決まったときに、リヴァイ兵長が、私の両親に顔を出しに行こうと言ってくれたおかげだ。
明日も午前中は会議があるリヴァイ兵長は、元々泊る予定だったから、それならーということで両親の住む家に一泊することになった。
それも、私が家族と一緒にいたいだろう、と気を利かせてくれたリヴァイ兵長のおかげだ。
「面白れぇもんを見つけた。」
リヴァイ兵長が意地悪く言って持ってきたのは、見覚えのある絵本だった。
確かに、お気に入りの絵本ではあったけれど、面白いかと言われたらそれは違うような気もするし、そもそもリヴァイ兵長の好みの本だとも思わない。
不思議に思いながら身体を起こした私の隣に、リヴァイ兵長が腰を降ろす。
そして、面白いというページを開いて見せてくれた。
「あ…。」
拙い文字で、勝手に物語が書き変えられていた。
それは誰がどう考えても、幼い私の仕業で、それをリヴァイ兵長は面白れぇと言ったのだと理解する。
「私も忘れてた恥ずかしい過去を見つけ出さないでください。」
「いいじゃねぇーか。これは持って帰って、調査兵団の図書室に補完しよう。」
「やめてくださいよっ。」
「冗談だ。」
「リヴァイ兵長の冗談は、分かりづらいんですよっ。」
私をからかうリヴァイ兵長は、至極楽しそうだ。
大きく口をあけて笑うような人ではないけれど、こういう時は必ず口元が意地悪く歪んでいる。
それに、リヴァイ兵長はきっと、瞳で気持ちを語る人なのだ。
優しかったり、怒っていたり、悲しんでいたり、笑っていたり、いろんな気持ちをその綺麗な瞳で私に教えてくれる。
「家族みんな、うるさくて大変でしたよね?
気を遣わせちゃって、すみませんでした。」
「いい家族だな。なまえが愛されて育ったのがよく分かった。」
「そう言ってもらえると、安心します。ありがとうございます。」
夕食の席でのことを謝ると、リヴァイ兵長はまた優しい瞳で私を見つめた。
その先に、私の家族もいるような気がして、温かい気持ちになる。
甘えるようにリヴァイ兵長の肩に頭を乗せて、ふと、リヴァイ兵長が話してくれた、唯一の家族の話を思い出した。
「リヴァイ兵長は、お母さんのこと、あんまり覚えてないって言ってましたよね?」
「あぁ、まだクソガキだったしな。どうしてだ?」
リヴァイ兵長は私の肩にまわした手で、私の髪をサラサラと遊び出す。
立体起動装置の邪魔になるから切ったらどうか、と一度言われたことがあるけれど、リヴァイ兵長のこの仕草がなくなるのが嫌だから絶対に切らないと決めている。
リヴァイ兵長が隣にいてくれる限り、私はずっと髪を伸ばし続けると言ったら、髪を床に引きずって歩く気かと本気で心配されてしまったけれどー。
「どんな人だったのかなぁ、と思って。
きっと綺麗な人だとは思いますけどね。」
「なんで、そんなこと分かるんだ。」
「だって、親子は似るものでしょう?
特に男の人は、母親に似るらしですよ。」
「へぇ。知らなかったな。
あぁ、そういえば、名前なら覚えてる。」
「お母さんの名前ですか?」
「クシェル。それが、俺の母親の名だ。」
リヴァイ兵長が教えてくれた母親の名前を聞くと、胸の中にその名前がストンと落ちていく不思議な感覚に襲われた。
彼の母親の名前は、それしかないと確信するような、不思議な感覚。
それはきっと、リヴァイ兵長のこの腕が、母親の記憶を忘れていなかったからだと思う。
「素敵な名前ですね。」
「そうか?よく分からねぇが。」
「クシェルっていう名前の由来は、優しく抱きしめる、なんですよ。」
だからきっとー。
私はそっとリヴァイ兵長から身体を離すと、いつも私を抱きしめてくれる力強い腕に触れる。
「お母さんが、リヴァイ兵長と一緒にいられた時間は短かったかもしれないけど、
きっと、ずっと、とても大切に優しく抱きしめていたんですね。」
「さぁ、ベッドで寝てた記憶しかねぇがな。」
「そんなことないですよ。リヴァイ兵長は覚えてなくても、ちゃんとこの腕が覚えてる。
誰かに優しく抱きしめてもらったことがない人が、誰かを優しく抱きしめることなんて出来ないもの。
だから私は、リヴァイ兵長がどんな風にお母さんに抱きしめられていたか、この世界で二番目によく知ってるんです。」
リヴァイ兵長のお母さんに私も感謝しなくちゃー。
そう言って微笑めば、力強い腕に、少しだけ強引に抱きしめられた。
一瞬だけ見えたリヴァイ兵長の表情を、私は一生忘れないと思う。
そして、幼い頃から強く生きてきた、本当は弱くあってもよかったはずのこの人を、これからは私が抱きしめていきたいと思った。
優しく、優しく、強く、お母さんが本当はもっとそうしてあげたかったように、ギュッと、強く、優しく、どんな苦労も厭わないほどに深く大きな愛情でー。
「俺も感謝しねぇとな。
母さんのおかげで、なまえをこうして抱きしめてやれてる。」
私を抱きしめる腕も、声も、少しだけ震えていた。
楽しそうに、嬉しそうに、私の家族がリヴァイ兵長に話しかける度に、少し寂しそうな影が出来ているのに気づいていた。
でも、これからは、無性に家族が恋しくなった時、リヴァイ兵長は自分の腕を見て、お母さんの愛情を、優しい温もりを、思い出すことが出来るだろうか。
感じることが出来るだろうか。
もし、それでも、寂しさが消えないのならー。
「私もずっと、リヴァイ兵長をー。」
抱きしめてあげたいー。
そう続くはずだった言葉は、扉を激しく叩くノックの音に邪魔された。
「なぁ、リヴァイくんっ。母さんが美味いつまみを作ったんだっ。
一緒に酒はどうかなっ。」
酔っ払いの父親の声に、私は大きくため息を吐いた。
「リヴァイ兵長は明日も朝から会議で忙しいって言ったでしょう。
もうそろそろ寝るからー。」
「構わねぇよ。」
リヴァイ兵長はソファから立ち上がると、私の髪をクシャリと撫でる。
扉を開けてくれたのがリヴァイ兵長だと知った父は、とても嬉しそうでー。
「よしっ!今夜は、父と息子として飲み明かそうじゃないかっ!!」
リヴァイ兵長の肩をくんで、父がとんでもない宣言をする。
「だから、リヴァイ兵長は明日も朝が早いんだってばっ。」
アハハハー。
リヴァイ兵長の肩を組んだまま、強引に階段を降りて行った父親の背中は大袈裟な笑い声をあげていて、私は苦笑する。
「お母さーんっ!お父さんが、またリヴァイ兵長を困らせてるーっ!」
凸凹だけれど、寡黙で瞳で気持ちを語るところが似ている父と息子の背中を追いかけて、階段を駆け下りる。
いつか、こんな風に、本当に家族になれたらいいのにー。
ほんの一瞬、そんなことを考えて、頭を横に振る。
リヴァイ兵長が、自分は結婚しないと言っていたのを、覚えているから。
ううん、違う。
これ以上の幸せを望んでしまったら、今ある幸せの全てが、崩れ落ちる気がして怖くなった。
砂で出来た城が、青い海の波に飲み込まれて消えていくイメージが脳裏に過る。
「リヴァイ兵長…っ!」
急に怖くなって、リヴァイ兵長に抱き着く。
父親から酒を酌されているところだったせいで、リヴァイ兵長が持っていたグラスから、お酒が零れて落ちていく。
それすらも、幸せが流れて落ちていくみたいで不安になってー。
「なまえは本当にリヴァイさんが好きなのねぇ。」
リヴァイ兵長から離れない私を見て、母親がとても嬉しそうに笑った。
父にお酒に付き合わされたリヴァイ兵長は、全く酔っぱらった様子もなく、女物で溢れた部屋を歩き回り始めた。
「お腹が破裂しそう…。」
ソファに横になった私は、自分のお腹を擦りながら、ゆっくり息を吐く。そうしていないと本当に吐きそうだ。
娘が旦那を連れて帰ってくると喜んだ母が披露してくれたもてなし料理の数々はとても美味しくて、とても食べきれる量ではなかった。
普段は寡黙な父も、リヴァイ兵長と話しているうちにだんだん饒舌になっていった。
お酒の力もあったのかもしれないけれど、とてもいい青年だとしきりに繰り返していて、リヴァイ兵長の方が困っていたくらいだ。
兄弟達も、人類最強の兵士が家にいると盛り上がっていたし、結婚していると嘘をついて、調査兵として命を懸けて戦っていることを黙っている私だけれど、久しぶりに少しは親孝行、家族孝行が出来たんじゃないかと思っている。
それもこれも、裁判のためにストヘス区に出向することが決まったときに、リヴァイ兵長が、私の両親に顔を出しに行こうと言ってくれたおかげだ。
明日も午前中は会議があるリヴァイ兵長は、元々泊る予定だったから、それならーということで両親の住む家に一泊することになった。
それも、私が家族と一緒にいたいだろう、と気を利かせてくれたリヴァイ兵長のおかげだ。
「面白れぇもんを見つけた。」
リヴァイ兵長が意地悪く言って持ってきたのは、見覚えのある絵本だった。
確かに、お気に入りの絵本ではあったけれど、面白いかと言われたらそれは違うような気もするし、そもそもリヴァイ兵長の好みの本だとも思わない。
不思議に思いながら身体を起こした私の隣に、リヴァイ兵長が腰を降ろす。
そして、面白いというページを開いて見せてくれた。
「あ…。」
拙い文字で、勝手に物語が書き変えられていた。
それは誰がどう考えても、幼い私の仕業で、それをリヴァイ兵長は面白れぇと言ったのだと理解する。
「私も忘れてた恥ずかしい過去を見つけ出さないでください。」
「いいじゃねぇーか。これは持って帰って、調査兵団の図書室に補完しよう。」
「やめてくださいよっ。」
「冗談だ。」
「リヴァイ兵長の冗談は、分かりづらいんですよっ。」
私をからかうリヴァイ兵長は、至極楽しそうだ。
大きく口をあけて笑うような人ではないけれど、こういう時は必ず口元が意地悪く歪んでいる。
それに、リヴァイ兵長はきっと、瞳で気持ちを語る人なのだ。
優しかったり、怒っていたり、悲しんでいたり、笑っていたり、いろんな気持ちをその綺麗な瞳で私に教えてくれる。
「家族みんな、うるさくて大変でしたよね?
気を遣わせちゃって、すみませんでした。」
「いい家族だな。なまえが愛されて育ったのがよく分かった。」
「そう言ってもらえると、安心します。ありがとうございます。」
夕食の席でのことを謝ると、リヴァイ兵長はまた優しい瞳で私を見つめた。
その先に、私の家族もいるような気がして、温かい気持ちになる。
甘えるようにリヴァイ兵長の肩に頭を乗せて、ふと、リヴァイ兵長が話してくれた、唯一の家族の話を思い出した。
「リヴァイ兵長は、お母さんのこと、あんまり覚えてないって言ってましたよね?」
「あぁ、まだクソガキだったしな。どうしてだ?」
リヴァイ兵長は私の肩にまわした手で、私の髪をサラサラと遊び出す。
立体起動装置の邪魔になるから切ったらどうか、と一度言われたことがあるけれど、リヴァイ兵長のこの仕草がなくなるのが嫌だから絶対に切らないと決めている。
リヴァイ兵長が隣にいてくれる限り、私はずっと髪を伸ばし続けると言ったら、髪を床に引きずって歩く気かと本気で心配されてしまったけれどー。
「どんな人だったのかなぁ、と思って。
きっと綺麗な人だとは思いますけどね。」
「なんで、そんなこと分かるんだ。」
「だって、親子は似るものでしょう?
特に男の人は、母親に似るらしですよ。」
「へぇ。知らなかったな。
あぁ、そういえば、名前なら覚えてる。」
「お母さんの名前ですか?」
「クシェル。それが、俺の母親の名だ。」
リヴァイ兵長が教えてくれた母親の名前を聞くと、胸の中にその名前がストンと落ちていく不思議な感覚に襲われた。
彼の母親の名前は、それしかないと確信するような、不思議な感覚。
それはきっと、リヴァイ兵長のこの腕が、母親の記憶を忘れていなかったからだと思う。
「素敵な名前ですね。」
「そうか?よく分からねぇが。」
「クシェルっていう名前の由来は、優しく抱きしめる、なんですよ。」
だからきっとー。
私はそっとリヴァイ兵長から身体を離すと、いつも私を抱きしめてくれる力強い腕に触れる。
「お母さんが、リヴァイ兵長と一緒にいられた時間は短かったかもしれないけど、
きっと、ずっと、とても大切に優しく抱きしめていたんですね。」
「さぁ、ベッドで寝てた記憶しかねぇがな。」
「そんなことないですよ。リヴァイ兵長は覚えてなくても、ちゃんとこの腕が覚えてる。
誰かに優しく抱きしめてもらったことがない人が、誰かを優しく抱きしめることなんて出来ないもの。
だから私は、リヴァイ兵長がどんな風にお母さんに抱きしめられていたか、この世界で二番目によく知ってるんです。」
リヴァイ兵長のお母さんに私も感謝しなくちゃー。
そう言って微笑めば、力強い腕に、少しだけ強引に抱きしめられた。
一瞬だけ見えたリヴァイ兵長の表情を、私は一生忘れないと思う。
そして、幼い頃から強く生きてきた、本当は弱くあってもよかったはずのこの人を、これからは私が抱きしめていきたいと思った。
優しく、優しく、強く、お母さんが本当はもっとそうしてあげたかったように、ギュッと、強く、優しく、どんな苦労も厭わないほどに深く大きな愛情でー。
「俺も感謝しねぇとな。
母さんのおかげで、なまえをこうして抱きしめてやれてる。」
私を抱きしめる腕も、声も、少しだけ震えていた。
楽しそうに、嬉しそうに、私の家族がリヴァイ兵長に話しかける度に、少し寂しそうな影が出来ているのに気づいていた。
でも、これからは、無性に家族が恋しくなった時、リヴァイ兵長は自分の腕を見て、お母さんの愛情を、優しい温もりを、思い出すことが出来るだろうか。
感じることが出来るだろうか。
もし、それでも、寂しさが消えないのならー。
「私もずっと、リヴァイ兵長をー。」
抱きしめてあげたいー。
そう続くはずだった言葉は、扉を激しく叩くノックの音に邪魔された。
「なぁ、リヴァイくんっ。母さんが美味いつまみを作ったんだっ。
一緒に酒はどうかなっ。」
酔っ払いの父親の声に、私は大きくため息を吐いた。
「リヴァイ兵長は明日も朝から会議で忙しいって言ったでしょう。
もうそろそろ寝るからー。」
「構わねぇよ。」
リヴァイ兵長はソファから立ち上がると、私の髪をクシャリと撫でる。
扉を開けてくれたのがリヴァイ兵長だと知った父は、とても嬉しそうでー。
「よしっ!今夜は、父と息子として飲み明かそうじゃないかっ!!」
リヴァイ兵長の肩をくんで、父がとんでもない宣言をする。
「だから、リヴァイ兵長は明日も朝が早いんだってばっ。」
アハハハー。
リヴァイ兵長の肩を組んだまま、強引に階段を降りて行った父親の背中は大袈裟な笑い声をあげていて、私は苦笑する。
「お母さーんっ!お父さんが、またリヴァイ兵長を困らせてるーっ!」
凸凹だけれど、寡黙で瞳で気持ちを語るところが似ている父と息子の背中を追いかけて、階段を駆け下りる。
いつか、こんな風に、本当に家族になれたらいいのにー。
ほんの一瞬、そんなことを考えて、頭を横に振る。
リヴァイ兵長が、自分は結婚しないと言っていたのを、覚えているから。
ううん、違う。
これ以上の幸せを望んでしまったら、今ある幸せの全てが、崩れ落ちる気がして怖くなった。
砂で出来た城が、青い海の波に飲み込まれて消えていくイメージが脳裏に過る。
「リヴァイ兵長…っ!」
急に怖くなって、リヴァイ兵長に抱き着く。
父親から酒を酌されているところだったせいで、リヴァイ兵長が持っていたグラスから、お酒が零れて落ちていく。
それすらも、幸せが流れて落ちていくみたいで不安になってー。
「なまえは本当にリヴァイさんが好きなのねぇ。」
リヴァイ兵長から離れない私を見て、母親がとても嬉しそうに笑った。