◇第百十九話◇心配してくれる人達を怒らせた
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ストヘス区、憲兵団施設はいつ見ても大きくて綺麗だ。
古い建物ばかりの調査兵団の兵舎とは全然違う。
内装はホテルみたいだし、外構はお屋敷のお庭のような作りになっていて、お散歩コースまである。
だから、裁判を終えた後、リヴァイ兵長とエルヴィン団長の会議が終わるまで時間が空いた私は、アニを見つけて一緒に散歩をしていた。
「アンタ、事件の被害者として裁判に出廷したんじゃなかった?」
「そうだよ。すごく緊張した~。」
「殺されかけた割にはピンピンしてんだね。」
アニが、私の身体を頭の先からつま先までジロジロと見た。
嫌な感じがしないのは、感情を隠しているような瞳から、私の心配をしてくれているのが確かに伝わってきたからだと思う。
「壁外の巨人だけじゃなくて、兵団の中にまで自分を殺そうとするやつがいて
アンタよく、調査兵団続けてられるね。辞めてしまえばいいのに。
どうせ、好きで始めたんじゃないんでしょ?」
「今は好きで調査兵団にいるんだよ。
大切な仲間も出来たし、私には、素敵な騎士様がついてるから、大丈夫なの。」
アニに向かって、ピースサインをする。
すると、眉を顰めたアニが、訊ねる。
「騎士?それはー。」
「おい、アニ。その女性は誰だ。」
私達の前に現れたのは、憲兵だった。
この雰囲気から察するに、アニの上官のようだ。
裁判が終わった後、私服に着替えていた私が調査兵だとは思わず、憲兵団施設にいる怪しい民間人だと勘違いしたようだった。
でも、私を頭の先からつま先までジロジロと舐めまわすように見る目が、さっきのアニのときとは違って、すごく嫌な感じがした。
「友人です。散歩コースを見てみたいというので
ちょうど休憩時間だった私が、案内していただけです。」
アニは、威圧的な態度の上官に臆することなく答える。
胸を張って、堂々としているアニが気に入らないのか、上官の男は眉を顰めた。
「もうすぐ休憩も終わるだろう。
俺が代わりに案内してやるから、お前は任務に戻って構わん。」
上官の男はそう言うと、私の方を見て、厭らしく口を歪める。
そして、私の腕を強引に掴んだ。
「アニが任務に戻るなら、私も散歩は終わりでいいですっ。」
「いいですよ、気を遣わなくて。
俺の休憩はこれからなので。」
「嫌がってんですよ。離してやってください。」
腕を引き離そうとする私の抵抗を無視する上官の男は、自分が嫌がられていることにすら気づいている様子がない。
部下であるアニの忠告も耳に入っていないようだ。
「なまえ!!」
行く、行かない、と腕の引っ張り合いをしていると、後ろから私の名前を呼ぶ声がした。
振り向くと、リヴァイ兵長がこっちにやって来ている姿が見える。
エルヴィン団長は一緒にいないけれど、会議は終わったのだろうか。
「げ…、調査兵団のリヴァイじゃねぇか…。
なんで、アイツがこんなとこに。」
「今日、調査兵の起こした事件の裁判に参加するために来たんですよ。
今朝、報告があったはずですけど?」
「チッ…っ、知ってんだよっ!それくらいな!!
もう裁判は終わったはずなのに、どうしてアイツがまだ残ってんのかって言ってんだよ!」
「あぁ、そうですか。なぜでしょうね。」
部下に恥をかかされたとでも思ったのか、上官の男がアニを怒鳴りつける。
それが理不尽にしか見えなくて、私は凄くカチンときたけれど、アニは右から左に聞き流している様子だ。
こういうことは、よくあるのかもしれない。
どんなに綺麗な施設でも、こんな上官がいるんじゃ最低の施設になってしまう。
「おい、忙しい憲兵が、コイツに何か用があるとは思えねぇが?
俺の知らねぇ問題でも起きたってことか?」
すぐにリヴァイ兵長がやってきて、私の腰に手を回して自分の方へと引き寄せた。
人類最強の兵士の睨みは、自己中心的で空気の読めない男でも、怖ろしいと感じるらしい。
顔を引きつらせていた。
「もしかして…、リヴァイの女か…?」
「あぁ、他の男にくれてやる気はねぇ。
その汚ぇ手を離しやがれ。」
リヴァイ兵長にすごまれて、上官の男が慌てて手を離した。
そして、仕事がどうの―と言いながら逃げ去っていく。
ホッとして礼を言うと、今度は怒った顔が私の方を向いた。
「会議室前のホールで待ってろと言ったはずだが。」
「ごめんなさい…。すごく暇でウロウロしてたら、可愛い妹見つけて、散歩してたんです。
ちゃんと憲兵団施設からは出ないと約束します。」
「チッ、仕方ねぇな。絶対に、施設からは出るな。分かったな。」
「はい!それで、リヴァイ兵長は会議は終わったんですか?」
「いや、長引きそうだから先に昼飯食っとけと伝えようとしたら
お前がいねぇから、探してたところだ。」
「すみません…。」
「まぁ、施設から出てねぇならいい。
その妹ってやつと昼飯でも食って待っとけ。」
「分かりました。会議、頑張ってくださいね。」
「あぁ、お前もおとなしく待っとけよ。
あと、憲兵のクソ野郎に言い寄られんじゃねぇぞ。」
リヴァイ兵長は、私の髪をクシャリと撫でる。
アニの見ている前で、子供のように甘やかされるそれが照れ臭くて、無意識に頬が染まった。
まだ会議の途中だというリヴァイ兵長がすぐに、元来た道を引き返していく。
その後姿をジーッと眺めていたアニが、不意に口を開いた。
「なぁ、もしかして、さっきアンタが言ってた、騎士様って、
リヴァイ兵士長のこと?」
「そうなの。ずーっと片想いだったんだけど、やっと恋が叶ったから
アニにも教えてあげたくってー。」
「へぇ。じゃあ、アンタはもう絶対に、調査兵団からも
壁外からも逃げられないんだね。」
「え?」
アニは、まるで敵の背中を追いかけるみたいに、ただじーっと会議室へ戻っていくリヴァイ兵長の背中を睨みつけている。
知らないアニがそこにいるような気がして、声が出なかった。
それでも、なんとか、どうかしたのかと聞こうとした私を、漸くリヴァイ兵長の背中から視線を外したアニが見た。
さっきまでの冷たい瞳はもうなくて、ただ、とてもショックを受けているように見えた。
「アンタが前にここに来た時からさ、あの男のことが好きなの気づいてたよ。」
「えッ!?」
「あの男がアンタに声かけたとき、顔見てすぐわかった。」
「うそ…、恥ずかしい…。」
バレていたなんて。
両手で頬を覆って、染まる頬を隠す。
でも、アニがそんな私を見ることも、からかうこともなかった。
ただ、両手で拳を握り、目を伏せたアニは、地面に投げ捨てるように言葉を吐き出す。
「だから嫌だったんだ…。あぁ、ホント。最悪だ。」
怒りか、悲しみか、震えた声が何を言ったのかは分からなかった。
でも、いつもとは違うアニが、とても苦しんでいるように思えて、どうかしたのかと訊ねたけれど、答えてはくれなかった。
ただ、私とリヴァイ兵長が恋人だということが、アニにとって良くないことだということだけ。
それだけは、分かった。
古い建物ばかりの調査兵団の兵舎とは全然違う。
内装はホテルみたいだし、外構はお屋敷のお庭のような作りになっていて、お散歩コースまである。
だから、裁判を終えた後、リヴァイ兵長とエルヴィン団長の会議が終わるまで時間が空いた私は、アニを見つけて一緒に散歩をしていた。
「アンタ、事件の被害者として裁判に出廷したんじゃなかった?」
「そうだよ。すごく緊張した~。」
「殺されかけた割にはピンピンしてんだね。」
アニが、私の身体を頭の先からつま先までジロジロと見た。
嫌な感じがしないのは、感情を隠しているような瞳から、私の心配をしてくれているのが確かに伝わってきたからだと思う。
「壁外の巨人だけじゃなくて、兵団の中にまで自分を殺そうとするやつがいて
アンタよく、調査兵団続けてられるね。辞めてしまえばいいのに。
どうせ、好きで始めたんじゃないんでしょ?」
「今は好きで調査兵団にいるんだよ。
大切な仲間も出来たし、私には、素敵な騎士様がついてるから、大丈夫なの。」
アニに向かって、ピースサインをする。
すると、眉を顰めたアニが、訊ねる。
「騎士?それはー。」
「おい、アニ。その女性は誰だ。」
私達の前に現れたのは、憲兵だった。
この雰囲気から察するに、アニの上官のようだ。
裁判が終わった後、私服に着替えていた私が調査兵だとは思わず、憲兵団施設にいる怪しい民間人だと勘違いしたようだった。
でも、私を頭の先からつま先までジロジロと舐めまわすように見る目が、さっきのアニのときとは違って、すごく嫌な感じがした。
「友人です。散歩コースを見てみたいというので
ちょうど休憩時間だった私が、案内していただけです。」
アニは、威圧的な態度の上官に臆することなく答える。
胸を張って、堂々としているアニが気に入らないのか、上官の男は眉を顰めた。
「もうすぐ休憩も終わるだろう。
俺が代わりに案内してやるから、お前は任務に戻って構わん。」
上官の男はそう言うと、私の方を見て、厭らしく口を歪める。
そして、私の腕を強引に掴んだ。
「アニが任務に戻るなら、私も散歩は終わりでいいですっ。」
「いいですよ、気を遣わなくて。
俺の休憩はこれからなので。」
「嫌がってんですよ。離してやってください。」
腕を引き離そうとする私の抵抗を無視する上官の男は、自分が嫌がられていることにすら気づいている様子がない。
部下であるアニの忠告も耳に入っていないようだ。
「なまえ!!」
行く、行かない、と腕の引っ張り合いをしていると、後ろから私の名前を呼ぶ声がした。
振り向くと、リヴァイ兵長がこっちにやって来ている姿が見える。
エルヴィン団長は一緒にいないけれど、会議は終わったのだろうか。
「げ…、調査兵団のリヴァイじゃねぇか…。
なんで、アイツがこんなとこに。」
「今日、調査兵の起こした事件の裁判に参加するために来たんですよ。
今朝、報告があったはずですけど?」
「チッ…っ、知ってんだよっ!それくらいな!!
もう裁判は終わったはずなのに、どうしてアイツがまだ残ってんのかって言ってんだよ!」
「あぁ、そうですか。なぜでしょうね。」
部下に恥をかかされたとでも思ったのか、上官の男がアニを怒鳴りつける。
それが理不尽にしか見えなくて、私は凄くカチンときたけれど、アニは右から左に聞き流している様子だ。
こういうことは、よくあるのかもしれない。
どんなに綺麗な施設でも、こんな上官がいるんじゃ最低の施設になってしまう。
「おい、忙しい憲兵が、コイツに何か用があるとは思えねぇが?
俺の知らねぇ問題でも起きたってことか?」
すぐにリヴァイ兵長がやってきて、私の腰に手を回して自分の方へと引き寄せた。
人類最強の兵士の睨みは、自己中心的で空気の読めない男でも、怖ろしいと感じるらしい。
顔を引きつらせていた。
「もしかして…、リヴァイの女か…?」
「あぁ、他の男にくれてやる気はねぇ。
その汚ぇ手を離しやがれ。」
リヴァイ兵長にすごまれて、上官の男が慌てて手を離した。
そして、仕事がどうの―と言いながら逃げ去っていく。
ホッとして礼を言うと、今度は怒った顔が私の方を向いた。
「会議室前のホールで待ってろと言ったはずだが。」
「ごめんなさい…。すごく暇でウロウロしてたら、可愛い妹見つけて、散歩してたんです。
ちゃんと憲兵団施設からは出ないと約束します。」
「チッ、仕方ねぇな。絶対に、施設からは出るな。分かったな。」
「はい!それで、リヴァイ兵長は会議は終わったんですか?」
「いや、長引きそうだから先に昼飯食っとけと伝えようとしたら
お前がいねぇから、探してたところだ。」
「すみません…。」
「まぁ、施設から出てねぇならいい。
その妹ってやつと昼飯でも食って待っとけ。」
「分かりました。会議、頑張ってくださいね。」
「あぁ、お前もおとなしく待っとけよ。
あと、憲兵のクソ野郎に言い寄られんじゃねぇぞ。」
リヴァイ兵長は、私の髪をクシャリと撫でる。
アニの見ている前で、子供のように甘やかされるそれが照れ臭くて、無意識に頬が染まった。
まだ会議の途中だというリヴァイ兵長がすぐに、元来た道を引き返していく。
その後姿をジーッと眺めていたアニが、不意に口を開いた。
「なぁ、もしかして、さっきアンタが言ってた、騎士様って、
リヴァイ兵士長のこと?」
「そうなの。ずーっと片想いだったんだけど、やっと恋が叶ったから
アニにも教えてあげたくってー。」
「へぇ。じゃあ、アンタはもう絶対に、調査兵団からも
壁外からも逃げられないんだね。」
「え?」
アニは、まるで敵の背中を追いかけるみたいに、ただじーっと会議室へ戻っていくリヴァイ兵長の背中を睨みつけている。
知らないアニがそこにいるような気がして、声が出なかった。
それでも、なんとか、どうかしたのかと聞こうとした私を、漸くリヴァイ兵長の背中から視線を外したアニが見た。
さっきまでの冷たい瞳はもうなくて、ただ、とてもショックを受けているように見えた。
「アンタが前にここに来た時からさ、あの男のことが好きなの気づいてたよ。」
「えッ!?」
「あの男がアンタに声かけたとき、顔見てすぐわかった。」
「うそ…、恥ずかしい…。」
バレていたなんて。
両手で頬を覆って、染まる頬を隠す。
でも、アニがそんな私を見ることも、からかうこともなかった。
ただ、両手で拳を握り、目を伏せたアニは、地面に投げ捨てるように言葉を吐き出す。
「だから嫌だったんだ…。あぁ、ホント。最悪だ。」
怒りか、悲しみか、震えた声が何を言ったのかは分からなかった。
でも、いつもとは違うアニが、とても苦しんでいるように思えて、どうかしたのかと訊ねたけれど、答えてはくれなかった。
ただ、私とリヴァイ兵長が恋人だということが、アニにとって良くないことだということだけ。
それだけは、分かった。