白い霧と土砂降りの雨の中、馬まで失ったなまえに生きる道は残されていなかった。
それでも、彼女は強かった。
一度は諦めたものの、生きようとする力を瞳に宿し、立ち上がった。
でも、華奢な身体が、その気持ちについていけない。
訓練兵団時代から体力作りをしてきた兵士達と違って、付け焼刃と呼んだ方がしっくりくる体力しかない彼女の脚は、立っているだけでやっとだ。
そこへ、必死に生きようともがく彼女を嘲笑うように、巨人が気味の悪い笑みを浮かべて歩み寄る。
細く綺麗な手が、鞘から超硬質スチールを抜き出した。
巨人を見上げる瞳は、決して生きることを諦めていない。
戦えー。
死ぬ気で戦え。
そして、死ぬなー。
無垢な彼女には似つかわしくない願いを込める。
それすらも嘲笑うように、超硬質スチールを振り上げる力すら残されていなかったなまえの身体を、大きな手が捕まえた。
気持ちの悪い顔の前まで持ち上げた巨人は、泣きながら愛する人に助けを求めるなまえの顔を眺めながら、ゆっくりと握りしめる手に力を込める。
そして、あまり強く抱きしめると折れそうだとリヴァイを心配させたなまえの細い腰を、力づくで折った。
最期まで戦い続けようとしたなまえが握りしめ続けた超硬質スチールがその手から離れ、雨に濡れた地面に落ちて割れる。
大きな手の中で、腰から折れ曲がった身体は仰向けに倒れ、土砂降りの雨を叩きつけられる。
優しい笑みを作り続けた綺麗な顔にはもう生気はなく、瞳には生きる気力どころか、もう何も映っていない。
巨人が大きく口を開いた。
生きろとなまえを呼ぶ声が、逝かないでくれと懇願する声が、土砂降りの雨にかき消される。
血しぶきが飛ぶ。
彼女が生きていた証が、赤く散って雨に色をつけた。
この世界は残酷だ。
それでも、彼女がいれば美しかったー。
美しかったのだー。
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