◇第百七話◇霧と雨が阻む帰り道
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土砂降りの雨は、巨人に味方した。
濡れた睫毛で前がよく見えないし、それにー。
巨人の背中に飛んだ私の足が、雨に濡れて滑った。
バランスを崩して、地面に落ちる。
「い…っ。」
痛みに顔を歪め、なんとか起き上がる。
目の前にいる巨人と目が合った。
気持ちの悪い笑顔を浮かべたまま私を見て、そしてー。
白い蒸気を上げている。
なんとか、全て倒し終えた。
思ったより時間がかかってしまった上、身体に叩きつける雨のせいで体力の消耗が激しい。
テュランはすぐに戻ってきてくれた。
「さぁ、帰ろうか…。」
鞍に手をかけた私は、鐙に足をかけようとして気づいてしまう。
もう、馬に乗る体力すら、残されていないー。
このままここで、体力が戻るまでどこかで身を隠そうか。
そんな考えも過ったが、テュランは脚に怪我を負っている。
このまま放っておいてさらにヒドイ状態になれば、テュランはもう二度と走れなくなるとか、そんなこともあるのだろうか。
自由に走り回るのが何よりも好きな子なのにー。
出来るだけ早く治療させてあげなくてはー。
「ごめんね、テュラン。私はもうここまでだ。」
いつの間にか鞍にしがみついていた私の身体を、ゆっくりと離す。
置いて行かないでー。
心と頭が、違うことを叫んでいて、頬を流れ落ちていくのが、雨なのか涙なのか、自分でも分からなかった。
そんな私の気持ちを察したのか、テュランの鼻が私の頬を撫でる。
あぁ、私は、テュランのこの仕草が凄く好きだった。
凄く、好きだったー。
「このまま街を抜けて走れば壁に着く。その壁沿いに走っていれば、
きっと誰かがあなたの鞍を見て、野生じゃないことに気づいてくれる。
生きてね、テュラン。今まで何度も私を助けてくれてありがとう。大好きだよ。」
さようならー。
最後に優しく愛馬の首を撫でて、彼の腹を両手で勢いよく押した。
テュランが走り出す。
なんとか身体を支えていた脚は震えながら力を失い落ちていく。
濡れた地面に膝をつき、私は天を仰いだ。
もっと体力作り頑張ればよかったかなー。
でも、仲間に殺されかけながらも、なかなか頑張ったと思うのだ。
諦めなかったし、ここまで来れたしー。
私の頬を生温い雨が、止めどなく流れていく。
(あぁ…、会いたいな…。)
ただそれだけを求めて、ここまで走り続けてきた。
でも、もう二度と会うことは叶わない。
もう何も見たくなくて、私は目を閉じた。
今頃、何をしているんだろう。
雨を嘆いて、つまらなそうな顔をして、掃除でもしてるかな。
頑張ったんだよー。
褒めては、くれないな、きっとー。
ごめんなさいー。
ー。
『なまえ、生きてー!』
ルルの最期の声が、リヴァイ兵長の声と重なって、私の耳に届いた。
見開いた私の瞳に、痛いくらいの雨が叩きつけ、ちゃんと前を向けと叱りつける。
拳を握った。
何を、勝手に諦めようとしているのか。
私は約束したじゃないか。
絶対に生きて帰ると、約束した。
世界で一番愛している人に、そう約束したじゃないか。
もう二度と、リヴァイ兵長を独りにはしない。
地獄には落とさないと、誓ったじゃないか。
最後の力を振り絞って立ち上がった。
人はいつか死ぬ。必ず死ぬ。
それは、この世界に生きとし生きるものがすべて、避けては通れない運命だ。
でも少なくとも、私の最期は、ここじゃない。
絶対に、違うー。
白い霧の向こうで、生きようとする私を、大きな顔が嘲笑っていた。
濡れた睫毛で前がよく見えないし、それにー。
巨人の背中に飛んだ私の足が、雨に濡れて滑った。
バランスを崩して、地面に落ちる。
「い…っ。」
痛みに顔を歪め、なんとか起き上がる。
目の前にいる巨人と目が合った。
気持ちの悪い笑顔を浮かべたまま私を見て、そしてー。
白い蒸気を上げている。
なんとか、全て倒し終えた。
思ったより時間がかかってしまった上、身体に叩きつける雨のせいで体力の消耗が激しい。
テュランはすぐに戻ってきてくれた。
「さぁ、帰ろうか…。」
鞍に手をかけた私は、鐙に足をかけようとして気づいてしまう。
もう、馬に乗る体力すら、残されていないー。
このままここで、体力が戻るまでどこかで身を隠そうか。
そんな考えも過ったが、テュランは脚に怪我を負っている。
このまま放っておいてさらにヒドイ状態になれば、テュランはもう二度と走れなくなるとか、そんなこともあるのだろうか。
自由に走り回るのが何よりも好きな子なのにー。
出来るだけ早く治療させてあげなくてはー。
「ごめんね、テュラン。私はもうここまでだ。」
いつの間にか鞍にしがみついていた私の身体を、ゆっくりと離す。
置いて行かないでー。
心と頭が、違うことを叫んでいて、頬を流れ落ちていくのが、雨なのか涙なのか、自分でも分からなかった。
そんな私の気持ちを察したのか、テュランの鼻が私の頬を撫でる。
あぁ、私は、テュランのこの仕草が凄く好きだった。
凄く、好きだったー。
「このまま街を抜けて走れば壁に着く。その壁沿いに走っていれば、
きっと誰かがあなたの鞍を見て、野生じゃないことに気づいてくれる。
生きてね、テュラン。今まで何度も私を助けてくれてありがとう。大好きだよ。」
さようならー。
最後に優しく愛馬の首を撫でて、彼の腹を両手で勢いよく押した。
テュランが走り出す。
なんとか身体を支えていた脚は震えながら力を失い落ちていく。
濡れた地面に膝をつき、私は天を仰いだ。
もっと体力作り頑張ればよかったかなー。
でも、仲間に殺されかけながらも、なかなか頑張ったと思うのだ。
諦めなかったし、ここまで来れたしー。
私の頬を生温い雨が、止めどなく流れていく。
(あぁ…、会いたいな…。)
ただそれだけを求めて、ここまで走り続けてきた。
でも、もう二度と会うことは叶わない。
もう何も見たくなくて、私は目を閉じた。
今頃、何をしているんだろう。
雨を嘆いて、つまらなそうな顔をして、掃除でもしてるかな。
頑張ったんだよー。
褒めては、くれないな、きっとー。
ごめんなさいー。
ー。
『なまえ、生きてー!』
ルルの最期の声が、リヴァイ兵長の声と重なって、私の耳に届いた。
見開いた私の瞳に、痛いくらいの雨が叩きつけ、ちゃんと前を向けと叱りつける。
拳を握った。
何を、勝手に諦めようとしているのか。
私は約束したじゃないか。
絶対に生きて帰ると、約束した。
世界で一番愛している人に、そう約束したじゃないか。
もう二度と、リヴァイ兵長を独りにはしない。
地獄には落とさないと、誓ったじゃないか。
最後の力を振り絞って立ち上がった。
人はいつか死ぬ。必ず死ぬ。
それは、この世界に生きとし生きるものがすべて、避けては通れない運命だ。
でも少なくとも、私の最期は、ここじゃない。
絶対に、違うー。
白い霧の向こうで、生きようとする私を、大きな顔が嘲笑っていた。