◇第百六話◇悪魔の駒
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壁に囲まれた世界を目指し帰還中の調査兵達の視界を、白く分厚い霧が覆い始めていた。
長距離索敵陣形を先導するミケからの信煙弾は、壁内を目指すことを教えてくれた。
一旦どこかで霧が晴れるのを待つ選択肢もあったとは思うが、天候が回復し巨人の動きが活発になる前に帰還しようということだろう。
それはとてもー、都合がいい。
監視役のなまえはジーニー達を先導するように走り、常に背中を確認できる距離にいる。
暴れ馬も一応、なまえの言うことは聞くようだ。
でも、あの自慢の脚力の脚を切られても、走り続けられるだろうか。
きっと、答えはノーだー。
ジーニーの口の端が不自然に上がる。
「なまえをここに置いて行く。」
「え?今、何て言った?」
「だから、なまえをここに置いて行くのよ。
馬から引きずりおろせば、もう二度と壁内には戻ってこれない。」
「えっ!?」
「さすがにあの女も壁外で1人になれば、ジ・エンドよ。」
「でも、そんなことしたらー。」
「この霧に紛れてはぐれたとでも言えばいいわ。
怪しまれない。」
「そうかもしれないけど、でもー。」
「なに、エイク、さっきからどうしてそんな青い顔をしてるの?
アンタも自分を助けてくれたなまえと一緒に、死にたいわけ?」
睨みつけてやれば、エイクがゾクリと震えたのが分かった。
ジーニーにとって、取りまきの彼女達はただの引き立て役、そして駒でしかない。
どうせ、実力もそこまでないエイクがなまえのために残ると言ったって、何の役にも立たないどころか、お荷物になるだけだ。
それなら、それはそれで都合がいい。
誰が死んだって、自分が生きていればどっちだっていい。
「…別に、なまえを助けたいと思ったわけじゃない。
本当に怪しまれないか心配になっただけ。」
「そう、そういうことにしてあげてもいいけど。
じゃ、行くわよ。」
ジーニーが言えば、エイク達がゴクリと唾を飲み込み頷いた。
それを確認して、馬の速度を上げなまえの元へ向かう。
霧がうまくジーニー達の姿を隠してくれているおかげで、コッソリ後ろにつけば、気づかれることはなかった。
しかしー。
(雨…?)
雨が降り始めた。まだ小雨だが、空を次第に分厚い雲が覆い始めている。これから本降りになりそうだ。
なまえも同じようなことを思ったのか、空を見上げようとしてすぐ近くにいるジーニー達に気が付いてしまった。
「あれ?どうしたの?何かあった?」
なまえの瞳が、完全にジーニー達を捉えてしまった。
これではこっそり馬から落とすという作戦は使えない。
でも、この際もうどっちでもいい。
どうせ、ここでなまえを馬から落としてしまえば、二度と壁内には戻ってこない。
そうなれば、自分達がなまえを殺そうとしたことがバレることもないのだからー。
「えぇ、そうなの。」
「どうしたの?」
「アンタにさ、死んでもらおうと思ってね。」
ジーニーが鞘から超硬質スチールを引き抜くのと、なまえが焦ったように暴れ馬の名前を叫んだのは、ほぼ同時だったはずだ。
暴れ馬にも主人を守ろうとする心があったのか、前脚を上げて攻撃をしてきた。
確かに、超硬質スチールの刃の長さを考えれば、避けるよりはその方が主人を守れる確率は高いだろう。
でもその代わり、自分の前脚は超硬質スチールの刃で切りつけられることになるけれどー。
さすが、身体能力の高い馬だけあって、肉をえぐられる前に避けたから切られるだけで済んだが、それでも怪我は怪我だ。
「キャーッ!」
痛みで悲鳴のような声を上げて暴れたテュランから、なまえが落馬した。
自分の手で殺してしまおうと思ったが、まぁ、結局は作戦通りになっただけだ。
ジーニーとその取りまきの馬が、壁外の草原のど真ん中で馬に振り落とされた恋敵を取り囲む。
落ちたときに頭でも打ったのか、なまえは意識がないようで起き上がる様子はない。
『ルーカス様より、お嬢様方に最後のお願いがございます。
次の壁外任務になまえ様と一緒に出て、彼女を永久にこの世界から葬って頂きたい。
もう二度と、ルーカス様の前に現れることがないようにー。』
どうやって非番の日を調べてきたのか、外に出たところで待ち構えていたのは、ルーカスの執事だった。
殺せーとは言わないのは、さすがあの執事だと思った。
爆弾事件に紛れてなまえを殺すはずの作戦が、復讐心に溺れたモーリのせいで失敗し、そのせいでリヴァイと恋人にまでなってしまって最低な気分のところにやってきた次のチャンスー。
ジーニー達が生かさないわけがなかった。
だって、ここでなまえを始末することが出来たら、王都に住ませてくれると約束までしてくれたのだ。
リヴァイがもう手に入らないことは理解している。嫌というほどにー。
それなら、優雅な生活を手に入れるだけだー。
やられてばかりだと思ったら、大間違いなのだ。
「さようなら、調査兵団のお姫様。
私は、本物のお姫様になるわ。」
意識のないなまえの華奢な身体に、強くなりだした雨が打ち付ける。
主人を振り落としてしまった暴れ馬が、心配そうにその頬を鼻でつつくが反応はない。
(ざまーみろ。)
泣きそうな顔でなまえを見下ろすエイクをひと睨みし、ジーニーはその場を離れた。
1人、また1人、と取り巻きが彼女の後を追う。
最後に、エイクも追いかけてきた。
結局みんな、自分の命が、自分の幸せが大切なのだ。
どんなに命懸けで助けようが、最後はこうして裏切られるのがこの世界の真実の姿ー。
ジーニーの後ろにつき、エイクが振り返った。
白い霧と雨の中、地面に横たわるなまえの姿が遠く見える。
その姿から逃げるように、エイクは前を向く。
唇を噛み、手綱を強く握り、壁内を目指す。
もう二度と、彼女が振り返ることはなかった。
雨はいつの間にか、本降りになっていた。
長距離索敵陣形を先導するミケからの信煙弾は、壁内を目指すことを教えてくれた。
一旦どこかで霧が晴れるのを待つ選択肢もあったとは思うが、天候が回復し巨人の動きが活発になる前に帰還しようということだろう。
それはとてもー、都合がいい。
監視役のなまえはジーニー達を先導するように走り、常に背中を確認できる距離にいる。
暴れ馬も一応、なまえの言うことは聞くようだ。
でも、あの自慢の脚力の脚を切られても、走り続けられるだろうか。
きっと、答えはノーだー。
ジーニーの口の端が不自然に上がる。
「なまえをここに置いて行く。」
「え?今、何て言った?」
「だから、なまえをここに置いて行くのよ。
馬から引きずりおろせば、もう二度と壁内には戻ってこれない。」
「えっ!?」
「さすがにあの女も壁外で1人になれば、ジ・エンドよ。」
「でも、そんなことしたらー。」
「この霧に紛れてはぐれたとでも言えばいいわ。
怪しまれない。」
「そうかもしれないけど、でもー。」
「なに、エイク、さっきからどうしてそんな青い顔をしてるの?
アンタも自分を助けてくれたなまえと一緒に、死にたいわけ?」
睨みつけてやれば、エイクがゾクリと震えたのが分かった。
ジーニーにとって、取りまきの彼女達はただの引き立て役、そして駒でしかない。
どうせ、実力もそこまでないエイクがなまえのために残ると言ったって、何の役にも立たないどころか、お荷物になるだけだ。
それなら、それはそれで都合がいい。
誰が死んだって、自分が生きていればどっちだっていい。
「…別に、なまえを助けたいと思ったわけじゃない。
本当に怪しまれないか心配になっただけ。」
「そう、そういうことにしてあげてもいいけど。
じゃ、行くわよ。」
ジーニーが言えば、エイク達がゴクリと唾を飲み込み頷いた。
それを確認して、馬の速度を上げなまえの元へ向かう。
霧がうまくジーニー達の姿を隠してくれているおかげで、コッソリ後ろにつけば、気づかれることはなかった。
しかしー。
(雨…?)
雨が降り始めた。まだ小雨だが、空を次第に分厚い雲が覆い始めている。これから本降りになりそうだ。
なまえも同じようなことを思ったのか、空を見上げようとしてすぐ近くにいるジーニー達に気が付いてしまった。
「あれ?どうしたの?何かあった?」
なまえの瞳が、完全にジーニー達を捉えてしまった。
これではこっそり馬から落とすという作戦は使えない。
でも、この際もうどっちでもいい。
どうせ、ここでなまえを馬から落としてしまえば、二度と壁内には戻ってこない。
そうなれば、自分達がなまえを殺そうとしたことがバレることもないのだからー。
「えぇ、そうなの。」
「どうしたの?」
「アンタにさ、死んでもらおうと思ってね。」
ジーニーが鞘から超硬質スチールを引き抜くのと、なまえが焦ったように暴れ馬の名前を叫んだのは、ほぼ同時だったはずだ。
暴れ馬にも主人を守ろうとする心があったのか、前脚を上げて攻撃をしてきた。
確かに、超硬質スチールの刃の長さを考えれば、避けるよりはその方が主人を守れる確率は高いだろう。
でもその代わり、自分の前脚は超硬質スチールの刃で切りつけられることになるけれどー。
さすが、身体能力の高い馬だけあって、肉をえぐられる前に避けたから切られるだけで済んだが、それでも怪我は怪我だ。
「キャーッ!」
痛みで悲鳴のような声を上げて暴れたテュランから、なまえが落馬した。
自分の手で殺してしまおうと思ったが、まぁ、結局は作戦通りになっただけだ。
ジーニーとその取りまきの馬が、壁外の草原のど真ん中で馬に振り落とされた恋敵を取り囲む。
落ちたときに頭でも打ったのか、なまえは意識がないようで起き上がる様子はない。
『ルーカス様より、お嬢様方に最後のお願いがございます。
次の壁外任務になまえ様と一緒に出て、彼女を永久にこの世界から葬って頂きたい。
もう二度と、ルーカス様の前に現れることがないようにー。』
どうやって非番の日を調べてきたのか、外に出たところで待ち構えていたのは、ルーカスの執事だった。
殺せーとは言わないのは、さすがあの執事だと思った。
爆弾事件に紛れてなまえを殺すはずの作戦が、復讐心に溺れたモーリのせいで失敗し、そのせいでリヴァイと恋人にまでなってしまって最低な気分のところにやってきた次のチャンスー。
ジーニー達が生かさないわけがなかった。
だって、ここでなまえを始末することが出来たら、王都に住ませてくれると約束までしてくれたのだ。
リヴァイがもう手に入らないことは理解している。嫌というほどにー。
それなら、優雅な生活を手に入れるだけだー。
やられてばかりだと思ったら、大間違いなのだ。
「さようなら、調査兵団のお姫様。
私は、本物のお姫様になるわ。」
意識のないなまえの華奢な身体に、強くなりだした雨が打ち付ける。
主人を振り落としてしまった暴れ馬が、心配そうにその頬を鼻でつつくが反応はない。
(ざまーみろ。)
泣きそうな顔でなまえを見下ろすエイクをひと睨みし、ジーニーはその場を離れた。
1人、また1人、と取り巻きが彼女の後を追う。
最後に、エイクも追いかけてきた。
結局みんな、自分の命が、自分の幸せが大切なのだ。
どんなに命懸けで助けようが、最後はこうして裏切られるのがこの世界の真実の姿ー。
ジーニーの後ろにつき、エイクが振り返った。
白い霧と雨の中、地面に横たわるなまえの姿が遠く見える。
その姿から逃げるように、エイクは前を向く。
唇を噛み、手綱を強く握り、壁内を目指す。
もう二度と、彼女が振り返ることはなかった。
雨はいつの間にか、本降りになっていた。