◇第百一話◇花占い
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翌日も、同じ朝を過ごした。
訓練の休憩中、私は木陰に腰かけて、固い地面から力強く咲く白い花にそっと触れる。
子供のころに母が教えてくれた花占いで、好きな人の気持ちを確かめるなんていつ以来だろう。
もう遠い昔過ぎて忘れた。
千切られる度に風に乗って飛んでいく花弁を、そっと指で数えながら小さく呟く。
「好き、嫌い、好き、嫌い、好き…。
やっぱ、ナシ。」
棘のない可愛らしい花にまで傷つけられそうだったので、花弁に触れていた指を離す。
顔を上げれば、私のどんよりした気持ちとは正反対の青い空が見えてー。
「何がナシなんだ。」
青い空を遮るように、目の前に立って訝し気に私を見下ろしているリヴァイ兵長がいた。
「…いつからいたんですか?」
「その花に触って、ブツブツ言いだしたところからだ。」
「最初からじゃないですかっ!なんで教えてくれないんですかっ。」
すごく久しぶりに話せて嬉しい気持ちを忘れてしまうくらい、恥ずかしかった。
子供だましの恋占いをいい大人が真剣にして、結果が思わしくないと分かればなかったことにするなんて、情けない。
しかもそれを、好きな人に見られるなんて、末代までの恥だ、と私は思う。
「気づかねぇのが悪ぃ。」
リヴァイ兵長はそう言って、私の隣に腰を下ろす。
少しだけ触れた指から、一気に緊張が身体中を駆け上がっていって、まともに隣が見られなくなってしまう。
「訓練指導中じゃないんですか?」
「休憩だ。」
「私と一緒ですね。」
「そうだな。」
会話が終わった。
沈黙が流れる。
久しぶりなことと、会わなくなった途端に急に実感してしまった“恋人”という関係性への戸惑いと緊張で、ドキドキしすぎてどうすればいいかわからない。
自分はいつも、リヴァイ兵長とどんなことを話していた。
どんな風に話していた。
好きだと自覚する前は、とても簡単だったはずなのにー。
「で、さっきのあれはなんだったんだ。」
話題を振ってくれたのは、リヴァイ兵長の方だった。
でも、地面に咲く花へ向く視線から、あれというのが何かを嫌でも理解する。
沈黙が続くのも嫌だけれど、その話題に触れるのも、嫌だ。
「…何でもないです。」
「俺の気持ちを占ってたのか。」
「…っ!?気づいてたなら、聞かないでくださいよ…。」
折り曲げた膝を両腕で抱き寄せ、顔を埋めて隠す。
もう本当に恥ずかしいし、最悪だ。
ずっとずっと、リヴァイ兵長の恋人でいるために、大人なリヴァイ兵長に釣り合う大人の女性になって、大人の恋をしないといけないのにー。
このまま地面に穴を掘って潜って、冬眠したい。
暖かい春が来るまで、隠れていたい。
「昔、似たようなことをやってるやつを見たことがある。」
「…昔の恋人ですか?」
「なんだ、嫉妬か。」
埋めた顔を横にずらすと、口元を意地悪く歪めたリヴァイ兵長と目が合った。
嫉妬だ。すごく、ものすごく。
今、リヴァイ兵長の頭に、ほんの少し、たとえば一瞬でも、昔の恋人の切ない横顔が浮かんだなんてー。
そんなの、想像もしたくない。
でもー。
「聞いてみただけです。
もうお互いにいい大人なんだから、昔の恋人がいない方が不自然です。」
大人ぶって、平静を装った。
いちいち過去にまで嫉妬して、束縛するような女にはなりたくない。
リヴァイ兵長に重たいと思われたくない。
そんな女じゃ、なかったはずなのにー。
「妹みてぇなやつだ。昔の女なんてとっくに忘れた。」
リヴァイ兵長が、私の髪をクシャリと撫でる。
その仕草が、いつもならすごく嬉しかったはずなのに、まるで拗ねた子供をあやしているみたいで、悲しくなる。
私のヤキモチなんて、見透かされているみたいでー。
リヴァイ兵長なら、もっと素敵な大人の女性と恋をすることだって出来るのに、どうして私なんかとー。
「ほら、これをやるから、もう拗ねるな。」
そう言うと、リヴァイ兵長は、自分の腰のあたりに咲いていた花を摘んで私の髪にさした。
そしてー。
「占いのための花なら、俺がいくらでも持ってきてやる。」
リヴァイ兵長に言われて、私は自分の髪に咲いている花を手に取った。
掌の上に乗せた花にそっと指で触れる。
(好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い…、好き。)
心の中で数えた花弁。
リヴァイ兵長がくれた花は、私に愛を教えてくれた。
心配しなくていいよ、と言ってくれるみたに、優しくー。
私の不安をとかしていくー。
「俺の気持ちは分かったか?」
「たぶん、花が嘘をついてなかったら。」
「俺が嘘をつかさねぇから、問題ねぇ。」
自慢気に言うリヴァイ兵長を見て、ようやく私から少しの笑みが零れた。
両手にそっと包み込んで、優しい愛の花を見つめる。
やっぱり、リヴァイ兵長は凄い。
だって、私の心の天気を操ってしまうんだから。
「寂しかったなら、俺に言え。いつでも会いに行く。」
リヴァイ兵長が、私の髪をクシャリと撫でる。
さっきと同じ仕草なのに、私の胸を温かくする。
本当に不思議だ。
リヴァイ兵長は、魔法使いみたいだ。
「でも…、忙しいでしょう?」
「忙しくても、会いに行く時間を作るくらいできる。」
「そんなことしてたら、疲れちゃいます。」
「それはお前が癒してくれるんだろ?」
「…毎日、ほんの少しでいいから顔が見たいんです。」
「そりゃいいな、俺も同じことを思ってたところだ。」
照りつける太陽と青い空、それに白い花と、そして、リヴァイ兵長。
今日もこれからも、私の心を晴れにしてくれるのは、他の何でもなくてリヴァイ兵長ただひとりだけだ。
訓練の休憩中、私は木陰に腰かけて、固い地面から力強く咲く白い花にそっと触れる。
子供のころに母が教えてくれた花占いで、好きな人の気持ちを確かめるなんていつ以来だろう。
もう遠い昔過ぎて忘れた。
千切られる度に風に乗って飛んでいく花弁を、そっと指で数えながら小さく呟く。
「好き、嫌い、好き、嫌い、好き…。
やっぱ、ナシ。」
棘のない可愛らしい花にまで傷つけられそうだったので、花弁に触れていた指を離す。
顔を上げれば、私のどんよりした気持ちとは正反対の青い空が見えてー。
「何がナシなんだ。」
青い空を遮るように、目の前に立って訝し気に私を見下ろしているリヴァイ兵長がいた。
「…いつからいたんですか?」
「その花に触って、ブツブツ言いだしたところからだ。」
「最初からじゃないですかっ!なんで教えてくれないんですかっ。」
すごく久しぶりに話せて嬉しい気持ちを忘れてしまうくらい、恥ずかしかった。
子供だましの恋占いをいい大人が真剣にして、結果が思わしくないと分かればなかったことにするなんて、情けない。
しかもそれを、好きな人に見られるなんて、末代までの恥だ、と私は思う。
「気づかねぇのが悪ぃ。」
リヴァイ兵長はそう言って、私の隣に腰を下ろす。
少しだけ触れた指から、一気に緊張が身体中を駆け上がっていって、まともに隣が見られなくなってしまう。
「訓練指導中じゃないんですか?」
「休憩だ。」
「私と一緒ですね。」
「そうだな。」
会話が終わった。
沈黙が流れる。
久しぶりなことと、会わなくなった途端に急に実感してしまった“恋人”という関係性への戸惑いと緊張で、ドキドキしすぎてどうすればいいかわからない。
自分はいつも、リヴァイ兵長とどんなことを話していた。
どんな風に話していた。
好きだと自覚する前は、とても簡単だったはずなのにー。
「で、さっきのあれはなんだったんだ。」
話題を振ってくれたのは、リヴァイ兵長の方だった。
でも、地面に咲く花へ向く視線から、あれというのが何かを嫌でも理解する。
沈黙が続くのも嫌だけれど、その話題に触れるのも、嫌だ。
「…何でもないです。」
「俺の気持ちを占ってたのか。」
「…っ!?気づいてたなら、聞かないでくださいよ…。」
折り曲げた膝を両腕で抱き寄せ、顔を埋めて隠す。
もう本当に恥ずかしいし、最悪だ。
ずっとずっと、リヴァイ兵長の恋人でいるために、大人なリヴァイ兵長に釣り合う大人の女性になって、大人の恋をしないといけないのにー。
このまま地面に穴を掘って潜って、冬眠したい。
暖かい春が来るまで、隠れていたい。
「昔、似たようなことをやってるやつを見たことがある。」
「…昔の恋人ですか?」
「なんだ、嫉妬か。」
埋めた顔を横にずらすと、口元を意地悪く歪めたリヴァイ兵長と目が合った。
嫉妬だ。すごく、ものすごく。
今、リヴァイ兵長の頭に、ほんの少し、たとえば一瞬でも、昔の恋人の切ない横顔が浮かんだなんてー。
そんなの、想像もしたくない。
でもー。
「聞いてみただけです。
もうお互いにいい大人なんだから、昔の恋人がいない方が不自然です。」
大人ぶって、平静を装った。
いちいち過去にまで嫉妬して、束縛するような女にはなりたくない。
リヴァイ兵長に重たいと思われたくない。
そんな女じゃ、なかったはずなのにー。
「妹みてぇなやつだ。昔の女なんてとっくに忘れた。」
リヴァイ兵長が、私の髪をクシャリと撫でる。
その仕草が、いつもならすごく嬉しかったはずなのに、まるで拗ねた子供をあやしているみたいで、悲しくなる。
私のヤキモチなんて、見透かされているみたいでー。
リヴァイ兵長なら、もっと素敵な大人の女性と恋をすることだって出来るのに、どうして私なんかとー。
「ほら、これをやるから、もう拗ねるな。」
そう言うと、リヴァイ兵長は、自分の腰のあたりに咲いていた花を摘んで私の髪にさした。
そしてー。
「占いのための花なら、俺がいくらでも持ってきてやる。」
リヴァイ兵長に言われて、私は自分の髪に咲いている花を手に取った。
掌の上に乗せた花にそっと指で触れる。
(好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い…、好き。)
心の中で数えた花弁。
リヴァイ兵長がくれた花は、私に愛を教えてくれた。
心配しなくていいよ、と言ってくれるみたに、優しくー。
私の不安をとかしていくー。
「俺の気持ちは分かったか?」
「たぶん、花が嘘をついてなかったら。」
「俺が嘘をつかさねぇから、問題ねぇ。」
自慢気に言うリヴァイ兵長を見て、ようやく私から少しの笑みが零れた。
両手にそっと包み込んで、優しい愛の花を見つめる。
やっぱり、リヴァイ兵長は凄い。
だって、私の心の天気を操ってしまうんだから。
「寂しかったなら、俺に言え。いつでも会いに行く。」
リヴァイ兵長が、私の髪をクシャリと撫でる。
さっきと同じ仕草なのに、私の胸を温かくする。
本当に不思議だ。
リヴァイ兵長は、魔法使いみたいだ。
「でも…、忙しいでしょう?」
「忙しくても、会いに行く時間を作るくらいできる。」
「そんなことしてたら、疲れちゃいます。」
「それはお前が癒してくれるんだろ?」
「…毎日、ほんの少しでいいから顔が見たいんです。」
「そりゃいいな、俺も同じことを思ってたところだ。」
照りつける太陽と青い空、それに白い花と、そして、リヴァイ兵長。
今日もこれからも、私の心を晴れにしてくれるのは、他の何でもなくてリヴァイ兵長ただひとりだけだ。