なまえが眠い目をこすって兵舎に戻ってくる頃には、姫様の望んだ通りの新聞記事が世界中にバラまかれていた。
兵舎では、兵士達が嬉しそうに朝刊記事を読んでは、歓喜の雄叫びを上げ、上官達は驚きの表情を隠せずにいた。
相変わらず兵門に集まっている新聞記者達の顔は、昨日までとは別人のようで、英雄のインタビューを取りたいと声を上げる。
そんな彼らを追い返そうとしている兵士達の顔は、堂々としていて、どこか誇らしげだった。

「ハンジ分隊長！！なまえ！！
　よくやりましたっ！！お疲れさまでしたっ！！」

馬車から降りた途端、ニファが駆け寄ってきた。
その後ろから、ケイジ達も嬉しそうにやってくる。
興奮冷めやらぬ様子のニファから新聞を受け取ったハンジの瞳が、世話しなく上下に動く。
そこに書かれているのは、調査兵団の兵士長の勇姿だった。
パーティー会場での爆発をいち早く察知し、貴族達の避難を速やかに行ったことで、被害を最小限にとどめたことや、廃工場で人質にとられていた調査兵を命懸けで守ったこと。そのために、大怪我をおい意識不明になりながらも、奇跡的に回復したということが、英雄の復活のように書かれていた。
そして、今まで出ていたリヴァイの黒い過去については噂の域を出ず、そもそもそういうものを鵜呑みにして爆弾事件を起こしたモーリという男が、まさに事件の元凶であるとまでハッキリ記載されている。
まさに、なまえがルーカスに、記事にしてほしいとお願いした内容そのもので、いや、それ以上で、寝ぼけまねこだった瞳は次第に見開かれていき、口の端が自然と上がっていく。
それは、隣で新聞を覗き込んだなまえも、目の下に隈を作っているモブリットも同じだった。

「やったーーーーーーっ！！」

ハンジは、なまえとモブリットとハイタッチを交わした。
事実だろうが、そうでなかろうが、新聞記事になることで、それがどれだけ世界の人達の心に影響するのかは、嫌というほどに味わった。
だから、この新聞記事は、必ずリヴァイを救う。
ハンジを、なまえを、調査兵団を、人類を、救うはずだ。
真相は握り潰した。
今回は、握り潰されたわけじゃない。握り潰したのだ。
たったひとり、なまえの願いで、たったひとり、リヴァイのためだけに。
この戦争は、なまえとリヴァイの完全勝利になるはずだ。

「よか…っ、よかったぁぁぁああっ。よかったよぉぉぉおおっ。」

泣きながらニファに抱き着いて、人目もはばからず声を上げるなまえにハンジは苦笑する。
ホッとしたのだろう。
ずっとひとりで、緊張の糸を張り詰めていたから。

「まだこれからだよ。
　あとは、この記事を見て、世間がどんな反応をするか。
　それによって、リヴァイの進退も変わってくる。」

気を引き締めなければー、自分で言いつつも、ハンジの頬も緩むばかりだった。