◇第九十七話◇悪魔との交渉
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なまえが部屋を出てすぐ、真っ赤な絨毯の上に、怒りのままにバラバラに破られた新聞記事が散らばった。
汚い灰のようにハラハラと落ちていく姿が、やけに滑稽で、ルーカスはハッと鼻で笑って、デスクの椅子に腰をおろした。
本当に、腹が立つ。
部屋にやってきた執事に、汚い新聞記事を片付けるよう指示を出して、ルーカスは窓辺に立った。
ちょうど、屋敷の門からなまえの乗った馬車が出て行くのが見える。
今から、巨人の待つ壁外へ向かうためだけにこの屋敷から出て行くなんて本当に愚かな女だ。
それでも、欲しいー。
そう思う自分の気持ちが、なにより許せないのかもしれない。
ふと、そんなことを思う。
「珍しいですね、お坊ちゃまがこのようなものをお読みになるなんて。」
そう言って、執事がデスクの上に置いていた絵本を手に取る。
偶々、暇すぎて書庫に行ったときに見つけた子供騙しの御伽噺だ。
子供の頃、一番嫌いだった物語。
お金があって美しい王子ではなく、お金もなくただ戦うことしか出来ない騎士を愛するお姫様が、大嫌いだった。
悪魔だってなんだって、権力のあるものがいいに決まっているのだ。
それなのに、わざわざ、騎士を選ぶお姫様の気が知れない。
思わず手に取って持ってきてしまったのはいいものの、読む気にはならず、ずっとデスクの上に置きっぱなしにしていた。
「知ってるか、クレーエ。」
ルーカスは、小さくなっていく馬車を眺めながら言う。
「何でしょう、お坊ちゃま。」
「その物語で、お姫様の大好きな騎士は、お姫様を守るために死ぬんだ。」
「はぁ…、それはそれは…、お労しい。」
「ハッ、それ、本気で言ってるのか?
そんなことするやつはただの馬鹿だ。他人のために死んで何になる。」
「それほど、大切な方だったのでしょう。
自分の命にかえても守りたいほど。」
「だから間抜けだと言ってるんだ。
知ってるか、クレーエ。騎士は、蘇るんだよ。」
「まぁ、なんてことでしょう。それはそれは、喜ばしい。」
「だから、馬鹿だと言ってるんだ。
騎士はな、お姫様の真実の愛のキスとやらで蘇るんだ。
お姫様の、命と引き換えになー。」
とうとう、窓の外の景色からなまえの乗っている馬車が消えた。
ルーカスの口の端が、ニヒルに上がる。
あの物語のクライマックスで、お姫様は、泣きながら騎士にキスをした。
すると、騎士の身体は光で包まれ、そして命を蘇らせて目を覚ます。
その傍らで、愛する人のために自らの命を捧げたお姫様が、冷たくなっていることも知らずにー。
あのリヴァイという男も、せいぜい泣き喚けばいい。
自分を愛してしまったばかりに、無残に死んでしまったなまえの亡骸の傍らでー。
汚い灰のようにハラハラと落ちていく姿が、やけに滑稽で、ルーカスはハッと鼻で笑って、デスクの椅子に腰をおろした。
本当に、腹が立つ。
部屋にやってきた執事に、汚い新聞記事を片付けるよう指示を出して、ルーカスは窓辺に立った。
ちょうど、屋敷の門からなまえの乗った馬車が出て行くのが見える。
今から、巨人の待つ壁外へ向かうためだけにこの屋敷から出て行くなんて本当に愚かな女だ。
それでも、欲しいー。
そう思う自分の気持ちが、なにより許せないのかもしれない。
ふと、そんなことを思う。
「珍しいですね、お坊ちゃまがこのようなものをお読みになるなんて。」
そう言って、執事がデスクの上に置いていた絵本を手に取る。
偶々、暇すぎて書庫に行ったときに見つけた子供騙しの御伽噺だ。
子供の頃、一番嫌いだった物語。
お金があって美しい王子ではなく、お金もなくただ戦うことしか出来ない騎士を愛するお姫様が、大嫌いだった。
悪魔だってなんだって、権力のあるものがいいに決まっているのだ。
それなのに、わざわざ、騎士を選ぶお姫様の気が知れない。
思わず手に取って持ってきてしまったのはいいものの、読む気にはならず、ずっとデスクの上に置きっぱなしにしていた。
「知ってるか、クレーエ。」
ルーカスは、小さくなっていく馬車を眺めながら言う。
「何でしょう、お坊ちゃま。」
「その物語で、お姫様の大好きな騎士は、お姫様を守るために死ぬんだ。」
「はぁ…、それはそれは…、お労しい。」
「ハッ、それ、本気で言ってるのか?
そんなことするやつはただの馬鹿だ。他人のために死んで何になる。」
「それほど、大切な方だったのでしょう。
自分の命にかえても守りたいほど。」
「だから間抜けだと言ってるんだ。
知ってるか、クレーエ。騎士は、蘇るんだよ。」
「まぁ、なんてことでしょう。それはそれは、喜ばしい。」
「だから、馬鹿だと言ってるんだ。
騎士はな、お姫様の真実の愛のキスとやらで蘇るんだ。
お姫様の、命と引き換えになー。」
とうとう、窓の外の景色からなまえの乗っている馬車が消えた。
ルーカスの口の端が、ニヒルに上がる。
あの物語のクライマックスで、お姫様は、泣きながら騎士にキスをした。
すると、騎士の身体は光で包まれ、そして命を蘇らせて目を覚ます。
その傍らで、愛する人のために自らの命を捧げたお姫様が、冷たくなっていることも知らずにー。
あのリヴァイという男も、せいぜい泣き喚けばいい。
自分を愛してしまったばかりに、無残に死んでしまったなまえの亡骸の傍らでー。