◇第九十五話◇果たし状
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訓練を終えた私は、ハンジさんの執務室兼自室を訪れていた。
私のお願いを聞いて、いつもならなんだかんだと笑顔で許してくれるハンジさんも、さすがに眉を顰めた。
「それは、許可を出せない。」
「どうしてですか?」
「今、兵舎の外は取材だとか言って新聞社が殺到してる。
爆弾犯に狙われた君だって、落ち着くまで外出禁止だと
エルヴィンから指示を出されてるだろ。」
「だから、ハンジさんにお願いをしに来たんです。
私をこっそり兵舎から出させてください。」
「そんなこと許せるわけないだろう。」
「じゃあ、教えてください。調査兵団の報告書に私の名前はありませんでした。
だから、私があの爆発の場所にいたことを、調査兵以外は知りません。
それなのに、どうして、私まで外出禁止令を出されるんですか。」
「なまえには、リヴァイのそばで世話をするという任務を任せている。
それを放り出して、王都に行くなんて許せるわけがない。
そもそも王都なんて、貴族や王族でない限り行けないんだよ。」
ハンジさんは頑なだった。
肝心なことは何も語らず、それでも、絶対に首を縦に振る気はないようだ。
「それは大丈夫です。きっと、ルーカスが迎えに来てくれます。」
「なッ!?」
「会いたいって、ルーカスに手紙を出したんです。」
「どうしてそんな勝手なことをするんだ!!
自分が何をしたか分かってるのかッ!?」
怒鳴ったハンジさんが、デスクを両手で強く叩いた。
大きな音が響いた後、部屋の中がシンと静まり返る。
私を睨みつけるハンジさんから放たれる怒りが、この部屋をピリピリした空気で包んでいた。
こんなに怒ったハンジさんを、私は初めて見た。
この人は、自分の為ではなく、誰かのために怒る人なんだ。
大切な人の為なら、我を忘れるくらい、怒ることが出来る人。
それなのに、今、真相を闇に葬ろうとしている。
私のために、いやきっと、リヴァイ兵長のためにー。
仲間想いのハンジさんは、絶対にそんなこと望んでなんかいないのにー。
「分かってます。」
「分かってないっ!!私達がどんな思いで…っ。」
ハンジさんが、怒りと悔しさ、悲しみに満ちた表情で、唇を噛んだ。
握った拳は、振り上げる場所を貰えず、デスクの上で震えていた。
「どんな思いで…、真相を闇に葬ったのか、ですか。」
「なに…?」
怒りに満ちたハンジさんの瞳の上で、眉が少し上がった。
戸惑いの色も出てきたハンジさんに、私は続ける。
「爆弾事件の真犯人は、ルーカスですよね。」
まだほんの少し、私は信じていたのかもしれない。
だから、ハンジさんが驚いた顔をした後、何と答えればいいか分からないような表情で、目を反らしたのを見て、何かが崩れ落ちるような音を聞いた。
それは、確かに過去に愛した人がそんな人だと信じたくなかったからなのか、自分のせいで人が死んだという事実を受け入れられなかったからなのか。
きっとそれは、そのどちらもで、私は拳を握り、真っすぐにハンジさんを見た。
「ずっと、気になっていたんです。」
「何をだい。」
「廃工場で、モーリという男も、金髪の男も、大金を貰ったと言っていた。
他の誰かが、彼らに指示を出しているのは明らかだった。
そして、その誰かは、私のことを知っているみたいでした。」
「それで、それが、君の元婚約者だって言うのかい?
馬鹿馬鹿しくて、話にもならないね。
あの事件は、主犯のモーリを含めた犯人グループの爆死で解決だ。」
これで話は終わりだー、とばかりに、ハンジさんはデスクの椅子を引いて腰を降ろすと、私に背を向けてしまった。
背中が、部屋を出て行けと言っている。
正義感の強いハンジさんは、本当は誰より、真犯人を捕まえてやりたいと思っているはずなのにー。
「真相は、そのままでいいです。
だからお願いです、私をルーカスの元にー。」
「早く部屋を出て行きなさい。」
「絶対に迷惑をかけません。ちゃんと帰ってきます、だからー。」
「お願いだ、もう喋らないでくれ。
私は君を殴りつけて、ここに閉じ込めてしまう。」
「あぁ、それならーー。
心配しないでください、私にはコレがありますから。」
立体起動装置から引き抜き、私が伸ばした超硬質スチールがハンジさんの眼鏡のフレームをかする。
「確かに私は、ハンジさんよりも弱いかもしれない。
でも、無防備な状態の相手になら、勝てると思うんです。」
どうせ、頑なに断られることくらい、分かっていた。
ハンジさんは、誰よりも仲間想いで、正義感に溢れた人だ。
きっと、リヴァイ兵長の決断を、無下にするようなことはしない。
それに、上官達の会議で決まってしまったことを今さらどうにもできない。
その会議で何度も私の名前が口に出されたところで、どちらにしろ、下っ端の私の願いなど聞き入れてはもらえるはずもない。
だから、強行突破するつもりだった。
もしかしてー、そんな期待も、なかったわけでは、ないけれどー。
「上官を脅すとはいい度胸だね。
君もリヴァイと一緒に兵団を去るかい。」
ハンジさんは、背中を向けたままだった。
ピクリとも動かない身体には、私の本気が伝わっているのだと信じたい。
「ハンジさんにしては、最低な冗談ですね。
私はともかく、リヴァイ兵長が兵団を去る理由なんてないことを
よくご存知でしょう。」
「知ってるさ。でも、どうしようもないんだ。
人類には剣が必要だ。調査兵団がなくなれば、人類はもう勝てない。」
「リヴァイ兵長がいなくても、勝てません。」
「じゃあ、私達はどうすればよかったんだ。
リヴァイがそれを望んだのに。」
「私のために、ですか。」
「…そこまで分かっているなら、こんな馬鹿な真似はやめなさい。」
「お願いです、ハンジさん。
私にも、リヴァイ兵長を守らせてください。」
「ダメだ、あの男の元へ行けば、なまえはもう帰ってこられなくなる。
そんなことになったら、リヴァイは、兵士としての立場だけじゃなく
君まで失うことになる。それこそ、あの男の思う壷じゃないか。」
「そんなことさせません。
誰にも、リヴァイ兵長から大切なものを奪わせたりしない。絶対に。」
ついに、ハンジさんは認めた。
主犯はルーカス。リヴァイ兵長は、私を守るために犠牲になろうとしている。
そして、私は、それを許さない。
私は、あの物語のか弱いお姫様じゃない。
私は、兵士だ。
そして、この欺瞞に溢れた世界で、私に戦う術を与えてくれたのは、他の誰でもないハンジさんだ。
沈黙が続く中、少しずつハンジさんから放たれる殺気が薄れていくのを感じている。
私の気持ちが、本気が、届いていると信じるしかない。
そして、不本意で不公平な未来が来ないように、行動に移してくれることをー。
しばらく待っていると、ハンジさんが息を吸った。そして、口を開く。
「…何か、策はあるのかい。」
「だから、私は、ハンジさんのところに来たんですよ。」
言いながら、私は、超硬質スチールを立体起動装置の鞘に戻した。
ゆっくりとハンジさんが振り返る。そして、首を傾げた。
「だから?」
「ハンジさん、頭がいいから。何かいい案を考えてくれるかなって。」
「…もしかして、君は何の策もなくあの男に手紙を出したのか。」
「どうしようもなかったら、土下座でもしようかなって思ってました。
最悪、裸で王都一周するとか、罰ゲームで許してもらおうとかいろいろ…。」
「君ってやつは、本当に…。」
ハンジさんが、頭を抱えて大きくため息を吐いた。
そして、そのまま、堪えられないとばかりに吹き出すと、お腹を抱えて笑い出す。
ひと通り笑い終えた後、ハンジさんはデスクに肘をつき、両手を組むとニヤリと口元を歪めた。
「よし、考えようじゃないか。
人類最強の騎士とじゃじゃ馬姫が、史上最悪の悪魔王子に勝つ策をね。」
「はいっ!!」
私は笑顔で敬礼する。
負ける気は、しなかった。
だって、よく言うでしょう?
愛は勝つってー。
私には、リヴァイ兵長がついてるから、敵が巨人だろうが悪魔だろうが、何も怖くないー。
私のお願いを聞いて、いつもならなんだかんだと笑顔で許してくれるハンジさんも、さすがに眉を顰めた。
「それは、許可を出せない。」
「どうしてですか?」
「今、兵舎の外は取材だとか言って新聞社が殺到してる。
爆弾犯に狙われた君だって、落ち着くまで外出禁止だと
エルヴィンから指示を出されてるだろ。」
「だから、ハンジさんにお願いをしに来たんです。
私をこっそり兵舎から出させてください。」
「そんなこと許せるわけないだろう。」
「じゃあ、教えてください。調査兵団の報告書に私の名前はありませんでした。
だから、私があの爆発の場所にいたことを、調査兵以外は知りません。
それなのに、どうして、私まで外出禁止令を出されるんですか。」
「なまえには、リヴァイのそばで世話をするという任務を任せている。
それを放り出して、王都に行くなんて許せるわけがない。
そもそも王都なんて、貴族や王族でない限り行けないんだよ。」
ハンジさんは頑なだった。
肝心なことは何も語らず、それでも、絶対に首を縦に振る気はないようだ。
「それは大丈夫です。きっと、ルーカスが迎えに来てくれます。」
「なッ!?」
「会いたいって、ルーカスに手紙を出したんです。」
「どうしてそんな勝手なことをするんだ!!
自分が何をしたか分かってるのかッ!?」
怒鳴ったハンジさんが、デスクを両手で強く叩いた。
大きな音が響いた後、部屋の中がシンと静まり返る。
私を睨みつけるハンジさんから放たれる怒りが、この部屋をピリピリした空気で包んでいた。
こんなに怒ったハンジさんを、私は初めて見た。
この人は、自分の為ではなく、誰かのために怒る人なんだ。
大切な人の為なら、我を忘れるくらい、怒ることが出来る人。
それなのに、今、真相を闇に葬ろうとしている。
私のために、いやきっと、リヴァイ兵長のためにー。
仲間想いのハンジさんは、絶対にそんなこと望んでなんかいないのにー。
「分かってます。」
「分かってないっ!!私達がどんな思いで…っ。」
ハンジさんが、怒りと悔しさ、悲しみに満ちた表情で、唇を噛んだ。
握った拳は、振り上げる場所を貰えず、デスクの上で震えていた。
「どんな思いで…、真相を闇に葬ったのか、ですか。」
「なに…?」
怒りに満ちたハンジさんの瞳の上で、眉が少し上がった。
戸惑いの色も出てきたハンジさんに、私は続ける。
「爆弾事件の真犯人は、ルーカスですよね。」
まだほんの少し、私は信じていたのかもしれない。
だから、ハンジさんが驚いた顔をした後、何と答えればいいか分からないような表情で、目を反らしたのを見て、何かが崩れ落ちるような音を聞いた。
それは、確かに過去に愛した人がそんな人だと信じたくなかったからなのか、自分のせいで人が死んだという事実を受け入れられなかったからなのか。
きっとそれは、そのどちらもで、私は拳を握り、真っすぐにハンジさんを見た。
「ずっと、気になっていたんです。」
「何をだい。」
「廃工場で、モーリという男も、金髪の男も、大金を貰ったと言っていた。
他の誰かが、彼らに指示を出しているのは明らかだった。
そして、その誰かは、私のことを知っているみたいでした。」
「それで、それが、君の元婚約者だって言うのかい?
馬鹿馬鹿しくて、話にもならないね。
あの事件は、主犯のモーリを含めた犯人グループの爆死で解決だ。」
これで話は終わりだー、とばかりに、ハンジさんはデスクの椅子を引いて腰を降ろすと、私に背を向けてしまった。
背中が、部屋を出て行けと言っている。
正義感の強いハンジさんは、本当は誰より、真犯人を捕まえてやりたいと思っているはずなのにー。
「真相は、そのままでいいです。
だからお願いです、私をルーカスの元にー。」
「早く部屋を出て行きなさい。」
「絶対に迷惑をかけません。ちゃんと帰ってきます、だからー。」
「お願いだ、もう喋らないでくれ。
私は君を殴りつけて、ここに閉じ込めてしまう。」
「あぁ、それならーー。
心配しないでください、私にはコレがありますから。」
立体起動装置から引き抜き、私が伸ばした超硬質スチールがハンジさんの眼鏡のフレームをかする。
「確かに私は、ハンジさんよりも弱いかもしれない。
でも、無防備な状態の相手になら、勝てると思うんです。」
どうせ、頑なに断られることくらい、分かっていた。
ハンジさんは、誰よりも仲間想いで、正義感に溢れた人だ。
きっと、リヴァイ兵長の決断を、無下にするようなことはしない。
それに、上官達の会議で決まってしまったことを今さらどうにもできない。
その会議で何度も私の名前が口に出されたところで、どちらにしろ、下っ端の私の願いなど聞き入れてはもらえるはずもない。
だから、強行突破するつもりだった。
もしかしてー、そんな期待も、なかったわけでは、ないけれどー。
「上官を脅すとはいい度胸だね。
君もリヴァイと一緒に兵団を去るかい。」
ハンジさんは、背中を向けたままだった。
ピクリとも動かない身体には、私の本気が伝わっているのだと信じたい。
「ハンジさんにしては、最低な冗談ですね。
私はともかく、リヴァイ兵長が兵団を去る理由なんてないことを
よくご存知でしょう。」
「知ってるさ。でも、どうしようもないんだ。
人類には剣が必要だ。調査兵団がなくなれば、人類はもう勝てない。」
「リヴァイ兵長がいなくても、勝てません。」
「じゃあ、私達はどうすればよかったんだ。
リヴァイがそれを望んだのに。」
「私のために、ですか。」
「…そこまで分かっているなら、こんな馬鹿な真似はやめなさい。」
「お願いです、ハンジさん。
私にも、リヴァイ兵長を守らせてください。」
「ダメだ、あの男の元へ行けば、なまえはもう帰ってこられなくなる。
そんなことになったら、リヴァイは、兵士としての立場だけじゃなく
君まで失うことになる。それこそ、あの男の思う壷じゃないか。」
「そんなことさせません。
誰にも、リヴァイ兵長から大切なものを奪わせたりしない。絶対に。」
ついに、ハンジさんは認めた。
主犯はルーカス。リヴァイ兵長は、私を守るために犠牲になろうとしている。
そして、私は、それを許さない。
私は、あの物語のか弱いお姫様じゃない。
私は、兵士だ。
そして、この欺瞞に溢れた世界で、私に戦う術を与えてくれたのは、他の誰でもないハンジさんだ。
沈黙が続く中、少しずつハンジさんから放たれる殺気が薄れていくのを感じている。
私の気持ちが、本気が、届いていると信じるしかない。
そして、不本意で不公平な未来が来ないように、行動に移してくれることをー。
しばらく待っていると、ハンジさんが息を吸った。そして、口を開く。
「…何か、策はあるのかい。」
「だから、私は、ハンジさんのところに来たんですよ。」
言いながら、私は、超硬質スチールを立体起動装置の鞘に戻した。
ゆっくりとハンジさんが振り返る。そして、首を傾げた。
「だから?」
「ハンジさん、頭がいいから。何かいい案を考えてくれるかなって。」
「…もしかして、君は何の策もなくあの男に手紙を出したのか。」
「どうしようもなかったら、土下座でもしようかなって思ってました。
最悪、裸で王都一周するとか、罰ゲームで許してもらおうとかいろいろ…。」
「君ってやつは、本当に…。」
ハンジさんが、頭を抱えて大きくため息を吐いた。
そして、そのまま、堪えられないとばかりに吹き出すと、お腹を抱えて笑い出す。
ひと通り笑い終えた後、ハンジさんはデスクに肘をつき、両手を組むとニヤリと口元を歪めた。
「よし、考えようじゃないか。
人類最強の騎士とじゃじゃ馬姫が、史上最悪の悪魔王子に勝つ策をね。」
「はいっ!!」
私は笑顔で敬礼する。
負ける気は、しなかった。
だって、よく言うでしょう?
愛は勝つってー。
私には、リヴァイ兵長がついてるから、敵が巨人だろうが悪魔だろうが、何も怖くないー。