◇第九十四話◇幸せな一日の、最初の日
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手紙を出し終えた私は、近頃の毎朝の日課になりつつあるリヴァイ兵長の執務室兼自室の掃除を始めていた。
本来は掃除というのはあまり得意でもなければ、好きでもない私だけれど、毎日のように強制的に続けられていれば、三角巾を頭に巻くのも、慣れてくるらしい。
掃除が大好きというより、掃除の行き届いた綺麗な部屋でないと落ち着かないらしいリヴァイ兵長は、私の掃除の仕方が甘いと常々言っている。
だから、本当は自分が掃除をしたいのだろうけれど、エルヴィン団長からも安静にしていろと言われているので、動くわけにもいかず、ベッドの上に座りウズウズしていて、その視線がすごくプレッシャーだ。
「よし!これで完ぺー。」
「デスクの下がまだだ。」
「…はい。」
ベッドの上から指示を出すリヴァイ兵長の厳しい目に、なかなか合格を貰えず。
私の朝は、ほとんど掃除だけで終わっていく。
デスクの椅子を動かして、まずは箒で掃く。そして、デスクを下から布巾で綺麗に拭いた。
「よしっ!これで完ぺー。」
「次は窓だ。」
「えー、さっき拭きましたよ?」
「サッシの隙間を拭いてなかった。」
「…失念しておりました。」
「早急にやれ。」
「はーい…。」
リヴァイ兵長が貸してくれたお掃除セットの中から、小さめのブラシを取り出す。
これでサッシの隙間を拭くのが正しいらしい。
実家にいるときも、調査兵団で自分の部屋を与えられてからも、私だって掃除をしていないわけではない。
でも、私の掃除は、掃除ではなかったのだと、リヴァイ兵長の細かいチェックに教えられた。
「よっしっ!これでどうだっ!!」
それからも何度も厳しい目により不合格を貰いながらも頑張った。
リヴァイ兵長のいつも綺麗でピカピカの部屋も、頑張って掃除をすると一段と輝いて見える。
「…まぁ、良しとしてやろう。」
「よかった~…。」
緊張の糸が解れ、身体から力が抜ける。
でも、のんびりもしていられない。
やっぱりーなんて言われる前に、早急に掃除セットを片付ける。
そして、手を洗ってから、私はソファに腰をおろした。
ローテーブルに置いておいた書類を手に取り、内容を確認する。
今日の書類仕事は、エルヴィン団長から渡された。
以前の職場である立体起動装置修理の請負とのやり取りを、私が一任させられていた。
昔のよしみで安くしてもらえ、と言われているのだけれど、所長もお金に厳しい人だったから、そんなことしてもらえるかあまり自信はない。
「おい、なぜそこに座る。」
書類から顔を上げると、怖い顔で私を睨むリヴァイ兵長がいた。
「書類仕事を終わらせようと思って…。
まだ、お掃除足りないところがありましたか?」
また気になるところが出てきたのかと思って、面倒だなと思いつつも訊ねる。
私はもう、このピカピカの部屋のどこを掃除すればいいのか、教えられても理解できない。
「そこは大目に見てやった。」
「…そうですか。ありがとうございます。」
「あぁ、感謝しろ。
あと、仕事がしてぇなら、こっちでやれ。」
リヴァイ兵長が、自分の座るベッドを指さした。
そこは、今日は特に緊張して絶対に近づけなかった場所ー。
なんだかとても神聖な場所のような気がしてー。
「いいんですか?」
「いいから、来い。」
許可を出されたのにホッとして、私は書類を持って立ち上がった。
そして、ベッドの縁にそっと腰を降ろすと、リヴァイ兵長に少し強引に引き寄せられた。
隣に座るリヴァイ兵長に抱きしめられると、甘くて苦い紅茶の香りがふわりと私を包みこんで、漸く安心する。
よかったー。
「夢じゃなかった…。」
「あ?」
「昨日があんまり幸せ過ぎて、あれは全部夢だったんじゃないかって。
リヴァイ兵長に、そんなこと言ってないって言われたらどうしようって思ってー。」
「バカか。」
呆れた様に言って、リヴァイ兵長は私を抱きしめる腕に力を込めた。
少し痛くて、やっぱり夢じゃないーと、私は幸せを噛みしめる。
今朝、目が覚めたときは、輝いて見えた世界も、リヴァイ兵長の執務室兼自室の扉の前に立つと、不安が霧を作った。
部屋に入るときも、顔を見たときも、私はどんどん自信をなくしていってー。
掃除が終わった後だって、本当は書類仕事をしたかったわけじゃない。
私だけ恋人のつもりだったらー、そう思ったら怖くなって、普段通りを装ってー。
幸せ過ぎると怖くなるー、昔読んだ小説にそんなフレーズがあったのを思い出した。
その意味を、私は漸く理解する。
本当の幸せを知ってしまったから、失ってしまったときのことを想像して怖くなるのだ。
もう、元の日常には、戻れないからー。
「ずっと、好きです。」
「知ってる。昨日も聞いた。」
「何度だって言いたいんです。
リヴァイ兵長は?」
「昨日、言った。」
私の髪を優しく撫でて、リヴァイ兵長の顔が近づく。
そして、重なる唇が、愛を語る。
私の最初の、幸せな一日が、始まったー。
本来は掃除というのはあまり得意でもなければ、好きでもない私だけれど、毎日のように強制的に続けられていれば、三角巾を頭に巻くのも、慣れてくるらしい。
掃除が大好きというより、掃除の行き届いた綺麗な部屋でないと落ち着かないらしいリヴァイ兵長は、私の掃除の仕方が甘いと常々言っている。
だから、本当は自分が掃除をしたいのだろうけれど、エルヴィン団長からも安静にしていろと言われているので、動くわけにもいかず、ベッドの上に座りウズウズしていて、その視線がすごくプレッシャーだ。
「よし!これで完ぺー。」
「デスクの下がまだだ。」
「…はい。」
ベッドの上から指示を出すリヴァイ兵長の厳しい目に、なかなか合格を貰えず。
私の朝は、ほとんど掃除だけで終わっていく。
デスクの椅子を動かして、まずは箒で掃く。そして、デスクを下から布巾で綺麗に拭いた。
「よしっ!これで完ぺー。」
「次は窓だ。」
「えー、さっき拭きましたよ?」
「サッシの隙間を拭いてなかった。」
「…失念しておりました。」
「早急にやれ。」
「はーい…。」
リヴァイ兵長が貸してくれたお掃除セットの中から、小さめのブラシを取り出す。
これでサッシの隙間を拭くのが正しいらしい。
実家にいるときも、調査兵団で自分の部屋を与えられてからも、私だって掃除をしていないわけではない。
でも、私の掃除は、掃除ではなかったのだと、リヴァイ兵長の細かいチェックに教えられた。
「よっしっ!これでどうだっ!!」
それからも何度も厳しい目により不合格を貰いながらも頑張った。
リヴァイ兵長のいつも綺麗でピカピカの部屋も、頑張って掃除をすると一段と輝いて見える。
「…まぁ、良しとしてやろう。」
「よかった~…。」
緊張の糸が解れ、身体から力が抜ける。
でも、のんびりもしていられない。
やっぱりーなんて言われる前に、早急に掃除セットを片付ける。
そして、手を洗ってから、私はソファに腰をおろした。
ローテーブルに置いておいた書類を手に取り、内容を確認する。
今日の書類仕事は、エルヴィン団長から渡された。
以前の職場である立体起動装置修理の請負とのやり取りを、私が一任させられていた。
昔のよしみで安くしてもらえ、と言われているのだけれど、所長もお金に厳しい人だったから、そんなことしてもらえるかあまり自信はない。
「おい、なぜそこに座る。」
書類から顔を上げると、怖い顔で私を睨むリヴァイ兵長がいた。
「書類仕事を終わらせようと思って…。
まだ、お掃除足りないところがありましたか?」
また気になるところが出てきたのかと思って、面倒だなと思いつつも訊ねる。
私はもう、このピカピカの部屋のどこを掃除すればいいのか、教えられても理解できない。
「そこは大目に見てやった。」
「…そうですか。ありがとうございます。」
「あぁ、感謝しろ。
あと、仕事がしてぇなら、こっちでやれ。」
リヴァイ兵長が、自分の座るベッドを指さした。
そこは、今日は特に緊張して絶対に近づけなかった場所ー。
なんだかとても神聖な場所のような気がしてー。
「いいんですか?」
「いいから、来い。」
許可を出されたのにホッとして、私は書類を持って立ち上がった。
そして、ベッドの縁にそっと腰を降ろすと、リヴァイ兵長に少し強引に引き寄せられた。
隣に座るリヴァイ兵長に抱きしめられると、甘くて苦い紅茶の香りがふわりと私を包みこんで、漸く安心する。
よかったー。
「夢じゃなかった…。」
「あ?」
「昨日があんまり幸せ過ぎて、あれは全部夢だったんじゃないかって。
リヴァイ兵長に、そんなこと言ってないって言われたらどうしようって思ってー。」
「バカか。」
呆れた様に言って、リヴァイ兵長は私を抱きしめる腕に力を込めた。
少し痛くて、やっぱり夢じゃないーと、私は幸せを噛みしめる。
今朝、目が覚めたときは、輝いて見えた世界も、リヴァイ兵長の執務室兼自室の扉の前に立つと、不安が霧を作った。
部屋に入るときも、顔を見たときも、私はどんどん自信をなくしていってー。
掃除が終わった後だって、本当は書類仕事をしたかったわけじゃない。
私だけ恋人のつもりだったらー、そう思ったら怖くなって、普段通りを装ってー。
幸せ過ぎると怖くなるー、昔読んだ小説にそんなフレーズがあったのを思い出した。
その意味を、私は漸く理解する。
本当の幸せを知ってしまったから、失ってしまったときのことを想像して怖くなるのだ。
もう、元の日常には、戻れないからー。
「ずっと、好きです。」
「知ってる。昨日も聞いた。」
「何度だって言いたいんです。
リヴァイ兵長は?」
「昨日、言った。」
私の髪を優しく撫でて、リヴァイ兵長の顔が近づく。
そして、重なる唇が、愛を語る。
私の最初の、幸せな一日が、始まったー。