◇第八十八話◇ほんのひとときのハッピーエンド
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苦い薬に眉を顰めたリヴァイ兵長は、私がコップを渡すと一気に飲み干した。
強引に流し込んだようだ。
もしかして、薬を飲まなくても治せるーのではなくて、薬が苦手なだけなんじゃー。
「なんだ。」
「いえ…。」
睨まれたから、目を反らして、クスクス笑った。
こんなにも長い時間をリヴァイ兵長のそばで過ごすのは初めてで、不謹慎にも、私は毎日がとても楽しかった。
リヴァイ兵長の寝顔を見られることも、好き嫌いを知れることも、知らなかったほんの小さな仕草や癖を知れることもー。
「本の続きを読むんじゃなかったのか。」
珍しく、リヴァイ兵長から本の話題を出した。
どうしても、薬が苦手だということを誤魔化したいらしい。
私も気づかなかったフリを少しだけして、リヴァイ兵長からコップを受け取って、テーブルの上に置くと、代わりに図書室から持ってきていた分厚い本を机の上から取り上げた。
グリム童話がオムニバスで語られている本だ。
まさか、調査兵団の図書室にこんなものがあるとは思わなかったが、内容を見て納得した。
これは、子供を寝かしつけるために改編された夢のあるお話ではなく、グリム童話の原作のようだった。
だから、とても残酷で、だけどとても美しいー。
「どこまで読んだんでしたっけ?」
毛布をめくったリヴァイ兵長が、端に避けて出来たベッドの空いたスペースに腰を降ろし、本をめくりながら訊ねる。
「白い女が、絞め殺されたところだ。」
「そうでしたね、白雪姫が腰紐を売られたところですね。」
何とも物騒な言い方をするのがリヴァイ兵長らしくて、苦笑しながら、続きのページを開いた。
リヴァイ兵長の手が私の肩を抱き寄せて、手元の本を見やすいようにする。
ベッドの上で並んで座って、肩まで抱かれながら本を読み聞かせるようになって、3日が経つ。
まだまだ慣れそうにない。慣れるとも思えない。
緊張しながら、私は本の続きを読み聞かせる。
明日からやっとシャワーが解禁される予定だが、それ以外はベッドから降りることを許されないリヴァイ兵長の一日は長い。
何か暇つぶしは出来ないかと思って、持ってきたのが、図書室で見つけたこのグリム童話の本だった。
せめて読書でもすれば、時間を潰せると思ってー。
それが、どういう流れだったか、私が読み聞かせることになって、挿絵が見えないのが気に入らないと言うリヴァイ兵長に、強引にベッドに来るように言われてー。
「しぶてぇな。」
白雪姫が倒れているところに帰ってきた小人が、彼女の腰を締め付ける腰紐を切って、息を吹き返したところまで読むと、リヴァイ兵長が呟いた。
この場面で、そんな感想が出てくるのはリヴァイ兵長くらいじゃないだろうか。
思わずクスリと笑うと、リヴァイ兵長の手が私の肩から離れた。
そしてー。
「部屋の外で何が起きてるか、お前は何も言わねぇんだな。」
「え?」
思わず、本に落ちていた視線を上げてリヴァイ兵長の顔を見た。
切れ長の瞳がすぐそこで、私の瞳が見てきたあの新聞記事を読もうとしているような気がして、慌てて目を反らす。
「訓練の話なんかしちゃって、
リヴァイ兵長がやりたいなんて言いだしたらいけませんからねっ。」
「…それは、言わねぇな。」
リヴァイ兵長は、私の手元から本を取り上げた。
適当にパラパラと本をめくりながら、口を開いて訊ねたのは、たぶん、ずっと、私に確かめたかったのだろうことだった。
私もずっと、その話には触れないようにしていたからー。
「あの豚野郎から、何か聞いたか。」
「モーリって男ですか?んー…、お兄さんがどうのとは言ってましたけど、
終始怒ってて要領を得ないのでよく分からなかったです。
金髪の男達も煩かったし。」
もし、リヴァイ兵長に訊ねられたらこう答えようーそう決めていた台詞だったから、私の口からは、驚くほどすんなりと嘘が吐き出された。
私の瞳をじっと見て、リヴァイ兵長は言葉の中の真実を探そうとしているようだった。
「…そうか。なら、いい。」
ようやく、リヴァイ兵長の切れ長の瞳が反らされて、私はホッとする。
新聞記事に面白おかしく書かれたリヴァイ兵長の過去という話の中に、王都地下街にいたときに行動を共にしていた仲間が2人いたことが書いてあった。
名前まではなかったけれど、きっとそのうちの1人が、イザベルという女の子なのだろう。
今のところ、彼女が受けた屈辱のことは記事になっていないようだった。
これからも、その話が世間に出ないことを願う。この世を去って、それでも尚、あの男がしたように、彼女が凌辱されるなんて許せない。
彼女が、リヴァイ兵長にとって、どういう名前で呼ぶ相手だったのかは分からない。
私が知るべきことでもない。
ただ、リヴァイ兵長にとって、彼女がそばにはいない今も、大切で大切で仕方のない存在なのだということは分かっている。
だからきっと、私なんかが、触れてはいけない。
悲しくて、苦しくて、でもきっと、大切な、大切な、宝物の記憶なのだろうからー。
「朝から気になってたんだが、あれは読まねぇのか?」
リヴァイ兵長が指さしたのは、テーブルの上に置いたままの絵本だった。
私の大好きな騎士がいて、最期に命を落としてしまうあの物語。
まさか、それこそ調査兵団の図書室にあるなんて思わなかった。
ところどころ破れていて古いものだった。
後ろに名前が書いてあったから、誰かが読んでいたものなのだろう。
図書室には、壁外に行ったきり主人が帰ってこなかった本も、いくつか置かれている。
きっと、その中のひとつだろう。
「子供の頃、母によく読んでもらってた絵本を見つけて、思わず持ってきたんです。
でも、読まないと思います。」
「読めばいいじゃねぇか。」
「結末が好きじゃないんです。
やっぱり、恋は、ハッピーエンドで終わらないと悲しいから。」
言ってから、ハッとした。
今のは、まるで、自分のことを言っているみたいだ。
きっと、リヴァイ兵長に見返りを求めているように届いたはずだ。
だって、小さな息遣いが一瞬止まったのが聞こえたから。
リヴァイ兵長が何かを言おうとしたのに気づいて、私はそれよりも先に早口で喋り始める。
「私の恋は、ハッピーエンドですよ。
だって、リヴァイ兵長が生きてるから。
私は、それだけで幸せなんです。」
嘘ではないから、私は幸せそうに微笑んだはずだ。
それなのに、リヴァイ兵長は悲しい表情を浮かべて、それを誤魔化すように私の頭を撫でた。
それがなぜか、いつもよりも優しい気がして、胸がきゅっと締め付けられた。
けれど、決して嘘でも強がりでもなく、心のほとんどを占めているのは、嬉しい感情だった。
私の気持ちを知っていて、こうして受け入れてくれる。
優しいリヴァイ兵長は、思うこともあるのかもしれないけれど、私はそれだけで、幸せ以上を貰っている。
「で、白い女はどうなったんだ。」
「だから、白雪姫です。」
私は苦笑して、また続きを読み聞かせる。
リヴァイ兵長が私の肩を抱く。
少しだけ、私はリヴァイ兵長の頭に少しだけ寄り掛かってみた。
私の肩を抱いていたリヴァイ兵長の手が、私の頭に乗せられて、触れるだけだった頭をさらに引き寄せる。
そして、寄り掛かる私の髪を、リヴァイ兵長の指が悪戯に絡めては流して遊び出した。
それがくすぐったくて、心地良くてー。
「それから、白雪姫は、王子様と幸せに暮らしました。」
そっと、本を閉じる。
リヴァイ兵長には、恋の物語はつまらなかったようだ。
白雪姫が命を狙われている場面までは、私の髪で遊んでいた手はベッドの上に落ちて、耳元から寝息が聞こえていた。
起こさないように、ベッドから抜け出そうとした私の腰を、リヴァイ兵長の腕が強く抱き寄せる。
起きているのだろうか、と思って顔を覗き込んだけれど、意外と幼い寝顔があっただけだった。
無意識に引き寄せてしまっただけのようだが、腕を無理やり引き剥がしたら、起きてしまいそうだった。
それにー。
もう少し、私もこうしていたいー。
白雪姫のハッピーエンドは、王子様と想いを通じ合わせて結婚することだった。
でも、私のハッピーエンドは、両想いでも、結婚でもない。
ただただ、リヴァイ兵長が生きていることー。
私が望む幸せはそれだけだ。
それが叶うのならば、どんなに残酷な世界でも、どんなに惨めで苦しみに満ちた世界でも、愛する人が生きている世界なら、どんな生き様だって構わない。
それこそが、私のハッピーエンド。
リヴァイ兵長の頭にそっと自分の頭を乗せて、目を閉じた。
私は今、幸せだ。
ーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
「なまえ~、リヴァイは薬飲んだ~?」
開いた扉から、ハンジが入ってきた。
だが、あっという間に夢の世界に入ってしまったなまえが気づくことはない。
ベッドの上で、仲良く並んで座って眠るリヴァイとなまえの寝顔に気づいて、ハンジは驚いた顔をした後、クスリと笑う。
「なまえはいるか?ナナバが探してー。」
「しー。今、2人とも寝てるから。」
ハンジに口の前に指を立てられ、ミケは口を閉じてから、思わずベッドが見えるように部屋をを覗き込んでしまう。
「…ナナバには、見つからなかったと言っておこう。」
「ありがとう。助かるよ。
リヴァイもなまえもきっと、夜はよく眠れないんだろうから。」
「そうだな。」
これから、きっと2人にはとてもツラい日々が待っている。
だから今だけ、この扉の向こうで過ごせる今だけは、そっとしてあげたい。
幸せを、少しでも長く、感じていられるようにー。
ハンジは、そっと、扉を閉めた。
強引に流し込んだようだ。
もしかして、薬を飲まなくても治せるーのではなくて、薬が苦手なだけなんじゃー。
「なんだ。」
「いえ…。」
睨まれたから、目を反らして、クスクス笑った。
こんなにも長い時間をリヴァイ兵長のそばで過ごすのは初めてで、不謹慎にも、私は毎日がとても楽しかった。
リヴァイ兵長の寝顔を見られることも、好き嫌いを知れることも、知らなかったほんの小さな仕草や癖を知れることもー。
「本の続きを読むんじゃなかったのか。」
珍しく、リヴァイ兵長から本の話題を出した。
どうしても、薬が苦手だということを誤魔化したいらしい。
私も気づかなかったフリを少しだけして、リヴァイ兵長からコップを受け取って、テーブルの上に置くと、代わりに図書室から持ってきていた分厚い本を机の上から取り上げた。
グリム童話がオムニバスで語られている本だ。
まさか、調査兵団の図書室にこんなものがあるとは思わなかったが、内容を見て納得した。
これは、子供を寝かしつけるために改編された夢のあるお話ではなく、グリム童話の原作のようだった。
だから、とても残酷で、だけどとても美しいー。
「どこまで読んだんでしたっけ?」
毛布をめくったリヴァイ兵長が、端に避けて出来たベッドの空いたスペースに腰を降ろし、本をめくりながら訊ねる。
「白い女が、絞め殺されたところだ。」
「そうでしたね、白雪姫が腰紐を売られたところですね。」
何とも物騒な言い方をするのがリヴァイ兵長らしくて、苦笑しながら、続きのページを開いた。
リヴァイ兵長の手が私の肩を抱き寄せて、手元の本を見やすいようにする。
ベッドの上で並んで座って、肩まで抱かれながら本を読み聞かせるようになって、3日が経つ。
まだまだ慣れそうにない。慣れるとも思えない。
緊張しながら、私は本の続きを読み聞かせる。
明日からやっとシャワーが解禁される予定だが、それ以外はベッドから降りることを許されないリヴァイ兵長の一日は長い。
何か暇つぶしは出来ないかと思って、持ってきたのが、図書室で見つけたこのグリム童話の本だった。
せめて読書でもすれば、時間を潰せると思ってー。
それが、どういう流れだったか、私が読み聞かせることになって、挿絵が見えないのが気に入らないと言うリヴァイ兵長に、強引にベッドに来るように言われてー。
「しぶてぇな。」
白雪姫が倒れているところに帰ってきた小人が、彼女の腰を締め付ける腰紐を切って、息を吹き返したところまで読むと、リヴァイ兵長が呟いた。
この場面で、そんな感想が出てくるのはリヴァイ兵長くらいじゃないだろうか。
思わずクスリと笑うと、リヴァイ兵長の手が私の肩から離れた。
そしてー。
「部屋の外で何が起きてるか、お前は何も言わねぇんだな。」
「え?」
思わず、本に落ちていた視線を上げてリヴァイ兵長の顔を見た。
切れ長の瞳がすぐそこで、私の瞳が見てきたあの新聞記事を読もうとしているような気がして、慌てて目を反らす。
「訓練の話なんかしちゃって、
リヴァイ兵長がやりたいなんて言いだしたらいけませんからねっ。」
「…それは、言わねぇな。」
リヴァイ兵長は、私の手元から本を取り上げた。
適当にパラパラと本をめくりながら、口を開いて訊ねたのは、たぶん、ずっと、私に確かめたかったのだろうことだった。
私もずっと、その話には触れないようにしていたからー。
「あの豚野郎から、何か聞いたか。」
「モーリって男ですか?んー…、お兄さんがどうのとは言ってましたけど、
終始怒ってて要領を得ないのでよく分からなかったです。
金髪の男達も煩かったし。」
もし、リヴァイ兵長に訊ねられたらこう答えようーそう決めていた台詞だったから、私の口からは、驚くほどすんなりと嘘が吐き出された。
私の瞳をじっと見て、リヴァイ兵長は言葉の中の真実を探そうとしているようだった。
「…そうか。なら、いい。」
ようやく、リヴァイ兵長の切れ長の瞳が反らされて、私はホッとする。
新聞記事に面白おかしく書かれたリヴァイ兵長の過去という話の中に、王都地下街にいたときに行動を共にしていた仲間が2人いたことが書いてあった。
名前まではなかったけれど、きっとそのうちの1人が、イザベルという女の子なのだろう。
今のところ、彼女が受けた屈辱のことは記事になっていないようだった。
これからも、その話が世間に出ないことを願う。この世を去って、それでも尚、あの男がしたように、彼女が凌辱されるなんて許せない。
彼女が、リヴァイ兵長にとって、どういう名前で呼ぶ相手だったのかは分からない。
私が知るべきことでもない。
ただ、リヴァイ兵長にとって、彼女がそばにはいない今も、大切で大切で仕方のない存在なのだということは分かっている。
だからきっと、私なんかが、触れてはいけない。
悲しくて、苦しくて、でもきっと、大切な、大切な、宝物の記憶なのだろうからー。
「朝から気になってたんだが、あれは読まねぇのか?」
リヴァイ兵長が指さしたのは、テーブルの上に置いたままの絵本だった。
私の大好きな騎士がいて、最期に命を落としてしまうあの物語。
まさか、それこそ調査兵団の図書室にあるなんて思わなかった。
ところどころ破れていて古いものだった。
後ろに名前が書いてあったから、誰かが読んでいたものなのだろう。
図書室には、壁外に行ったきり主人が帰ってこなかった本も、いくつか置かれている。
きっと、その中のひとつだろう。
「子供の頃、母によく読んでもらってた絵本を見つけて、思わず持ってきたんです。
でも、読まないと思います。」
「読めばいいじゃねぇか。」
「結末が好きじゃないんです。
やっぱり、恋は、ハッピーエンドで終わらないと悲しいから。」
言ってから、ハッとした。
今のは、まるで、自分のことを言っているみたいだ。
きっと、リヴァイ兵長に見返りを求めているように届いたはずだ。
だって、小さな息遣いが一瞬止まったのが聞こえたから。
リヴァイ兵長が何かを言おうとしたのに気づいて、私はそれよりも先に早口で喋り始める。
「私の恋は、ハッピーエンドですよ。
だって、リヴァイ兵長が生きてるから。
私は、それだけで幸せなんです。」
嘘ではないから、私は幸せそうに微笑んだはずだ。
それなのに、リヴァイ兵長は悲しい表情を浮かべて、それを誤魔化すように私の頭を撫でた。
それがなぜか、いつもよりも優しい気がして、胸がきゅっと締め付けられた。
けれど、決して嘘でも強がりでもなく、心のほとんどを占めているのは、嬉しい感情だった。
私の気持ちを知っていて、こうして受け入れてくれる。
優しいリヴァイ兵長は、思うこともあるのかもしれないけれど、私はそれだけで、幸せ以上を貰っている。
「で、白い女はどうなったんだ。」
「だから、白雪姫です。」
私は苦笑して、また続きを読み聞かせる。
リヴァイ兵長が私の肩を抱く。
少しだけ、私はリヴァイ兵長の頭に少しだけ寄り掛かってみた。
私の肩を抱いていたリヴァイ兵長の手が、私の頭に乗せられて、触れるだけだった頭をさらに引き寄せる。
そして、寄り掛かる私の髪を、リヴァイ兵長の指が悪戯に絡めては流して遊び出した。
それがくすぐったくて、心地良くてー。
「それから、白雪姫は、王子様と幸せに暮らしました。」
そっと、本を閉じる。
リヴァイ兵長には、恋の物語はつまらなかったようだ。
白雪姫が命を狙われている場面までは、私の髪で遊んでいた手はベッドの上に落ちて、耳元から寝息が聞こえていた。
起こさないように、ベッドから抜け出そうとした私の腰を、リヴァイ兵長の腕が強く抱き寄せる。
起きているのだろうか、と思って顔を覗き込んだけれど、意外と幼い寝顔があっただけだった。
無意識に引き寄せてしまっただけのようだが、腕を無理やり引き剥がしたら、起きてしまいそうだった。
それにー。
もう少し、私もこうしていたいー。
白雪姫のハッピーエンドは、王子様と想いを通じ合わせて結婚することだった。
でも、私のハッピーエンドは、両想いでも、結婚でもない。
ただただ、リヴァイ兵長が生きていることー。
私が望む幸せはそれだけだ。
それが叶うのならば、どんなに残酷な世界でも、どんなに惨めで苦しみに満ちた世界でも、愛する人が生きている世界なら、どんな生き様だって構わない。
それこそが、私のハッピーエンド。
リヴァイ兵長の頭にそっと自分の頭を乗せて、目を閉じた。
私は今、幸せだ。
ーーーーーーーーー
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ー
「なまえ~、リヴァイは薬飲んだ~?」
開いた扉から、ハンジが入ってきた。
だが、あっという間に夢の世界に入ってしまったなまえが気づくことはない。
ベッドの上で、仲良く並んで座って眠るリヴァイとなまえの寝顔に気づいて、ハンジは驚いた顔をした後、クスリと笑う。
「なまえはいるか?ナナバが探してー。」
「しー。今、2人とも寝てるから。」
ハンジに口の前に指を立てられ、ミケは口を閉じてから、思わずベッドが見えるように部屋をを覗き込んでしまう。
「…ナナバには、見つからなかったと言っておこう。」
「ありがとう。助かるよ。
リヴァイもなまえもきっと、夜はよく眠れないんだろうから。」
「そうだな。」
これから、きっと2人にはとてもツラい日々が待っている。
だから今だけ、この扉の向こうで過ごせる今だけは、そっとしてあげたい。
幸せを、少しでも長く、感じていられるようにー。
ハンジは、そっと、扉を閉めた。