◇第八十四話◇あなたが生きているだけで…
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どれくらい唇を重ねていたかは分からない。
そっと重なるだけの唇から、リヴァイ兵長の体温を感じて、私はそれだけで安心できた。
そうしていると、唇が離れるーというよりも、重なりがずれていくみたいに温もりが消えていくのを感じた。
私が瞳を開けるのと、リヴァイ兵長の身体が崩れるように落ちて行くのは同時だった。
私の膝の上に頭を落としたリヴァイ兵長は、意識を失っているようだった。
さっきまで荒く息苦しそうだった息が、弱弱しくなっている。
「リヴァイ兵長…!?リヴァイ兵長、死なないで…っ。
いやだ…っ、死なないでっ。」
必死に名前を呼んだ。
身体を揺すってもいいのか分からなくて、私はリヴァイ兵長の頬を撫でた。
雨に濡れて冷たい私の手に比べて、リヴァイ兵長の身体は驚くほどに熱かった。
この雨で濡れたせいなのか、傷が熱をもったせいかは分からない。
私には、何も分からない。
リヴァイ兵長が、死んでしまいそうだということしか、分からなくてー。
「助けて…っ。誰か、リヴァイ兵長を助けて…っ。」
私には、泣くことしか出来なかった。
あの物語の結末が、騎士の亡骸に泣きながらキスをするお姫様の悲しい絵が、これからの私達の未来を予言しているような気がして怖くなる。
あの物語が、私を恐怖の世界に突き落とそうとしてくる。
違う。ここは、あの絵本の物語の世界ではない。
私はお姫様じゃないし、リヴァイ兵長は騎士じゃない。
だから、死なない。
死んだら、嫌だー。
「-----。」
「----------。」
小屋の外から人の声がした。
思わず、私は口を噤んで、耳を澄ました。
リヴァイ兵長は、誰かから逃げているみたいだった。
その誰かが追いかけてきたのかもしれない。
でも、ハンジさんが来てくれるとも言っていた。
ハンジさんであることを願いながら、必死に耳を澄ますけれど、雨の音が五月蠅くて、誰かが喋っているということしか分からなかった。
そしてついに、小屋の扉がゆっくりと時間をかけて開いていく。
リヴァイ兵長は虫の息で、立体起動装置も超硬質ブレードもない私は、男の人相手にはきっと何の役にも立たない。
もしも入ってくるのが敵なら、終わりー。
レインコートがチラリと見えた。
ゴクリー、息を呑む。
「なまえっ!!
いたっ!!ハンジさんっ!!いましたっ!!こっちの小屋ですっ!!」
扉を開けたのは、モブリットさんだった。
一度後ろを振り向いて叫ぶと、扉の向こうから、いくつもの聞き覚えのある声も聞こえてきて、張りつめていた糸が切れたみたいに私から力が抜けていった。
「なまえっ、無事かっ!?見つかって、よかっー。
って、えッ!?リヴァイ兵長っ!?」
駆け寄ってきたモブリットさんは、私の膝の上で息も絶え絶えのリヴァイ兵長に気づいて、目を丸くした。
「私を助けに来てくれたんですっ。
でも、私を守るために一方的に暴行を受けて…っ。
ここまで逃げてきたんですけど、さっきから意識がないんですっ。」
私は必死に説明した。
言葉は足りなかったと思うけれど、モブリットさんは瞬時に状況は把握してくれたようだった。
「医療兵士も一緒に来てる。すぐにリヴァイ兵長を診てもらうから安心しろ。
なまえは?怪我はしてないのか?何か…、されなかったか?
俺に言いづらいなら、マレーネも来てる、ハンジさんでもいい。そっちにー。」
「私は何もされてません。リヴァイ兵長がひとりで…、全部…。」
「そうか。それなら、よかった。」
「よく、ないです…っ。」
「よかったんだよ。
君が無事なら、リヴァイ兵長が頑張った甲斐があるだろ?」
モブリットさんは、安心させるような優しい笑みを浮かべて、私の頭を撫でた。
そうしていると、続々と見覚えのある顔が小屋に入ってきた。
主に、私の所属するハンジ班のメンバーで、それから、仲の良いマレーネ、その他にも顔馴染みがいくつも、私を見つけて駆け寄ってきては、リヴァイ兵長に気づいて驚きの声を上げた。
「なまえは、手首にすり傷があるだけのようだが、それより、リヴァイ兵長が問題だ。
重傷で意識不明。すぐに担架を用意してくれ。
その他は早馬でなまえの発見を他の班に報告だ。」
「はっ!」
モブリットさんの指示が飛び、医療兵士を残し、若い兵士達が小屋を飛び出していった。
それと入れ違いに、扉から転がるように走って入ってきたのはハンジさんだった。
「なまえっ!!怪我はないかー、って、えッ!?リヴァイっ!?」
私の元に駆け寄ってきて、やっぱり、他の兵士達と同じようにリヴァイ兵長に気づいて驚きの声を上げた。
どうしてーとパニック気味に訊ねるハンジさんをとりあえず無視して、数名の医療兵士とモブリットさんが、リヴァイ兵長の身体をゆっくりと持ち上げ、私はソファから立ち上がった。
そして、またそっとリヴァイ兵長をソファの上に寝かせる。
「なぁ、どうしてリヴァイがいるの?
走っていなくなった後、すぐになまえを見つけたってこと?
じゃないと、私達より先にこの小屋にくるなんて無理だろ?」
「よくわかりませんが、なまえが言うには、
リヴァイ兵長が助けに入って、代わりに暴行を受けたと…。」
「なんでっ?!リヴァイなら、チンピラごときすぐ蹴散らせるだろっ?!」
「なまえを人質にとられていて、手を出せなかったのでしょう…。」
ハンジさんとモブリットさんが話をしている横で、私は、医療兵士達がリヴァイ兵長の脈や傷の状態を確認し始めたのを不安そうに見ていた。
すると、医療兵の1人が立ち上がり、私の元へやってきた。
そして、私の手をとってから口を開く。
「両手を縛られてたの?」
「え?あ…、そうでした。」
そういえば、そうだったー。
自分の両手首を見ると、擦り傷が出来ていた。
どうにか外れないかと手首を動かしたときに出来たのだろう。
「薬を塗っておこう。」
「大丈夫ですっ。それより、リヴァイ兵長をー。」
「あっちは、アイツらがやってるから大丈夫だ。
それより、なまえに擦り傷の痕ひとつでも残しちまったら、
リヴァイ兵長が目を覚ました時に、俺が怒られちまう。」
大袈裟に冗談っぽく言って、医療兵士は私をソファの端に座らせた。
そして、私の手首に傷薬を塗りながら、他に痛いところや、怪我はないかと訊ねてくる。
本当に、そんなことどうでもよかった。
どこか痛いところがあるのかないのか、それすらも分からないくらいに、リヴァイ兵長の容態が気になって仕方がなかった。
「ルル・クレーデルのご両親が持ってきた包丁で
リヴァイ兵長が怪我をしたとき、俺が処置をしたんだ。」
医療兵士は、傷薬を塗りながら言う。
「あのときの傷を見てるから、俺は分かったんだ。」
「何が分かったんですか?」
「リヴァイ兵長は、どうしても、君に向く刃に耐えられなかったんだろうって。
君が傷つくのが許せなかったんだ。傷ひとつもつけたくないくらいに。」
「そんなの…、私だって、リヴァイ兵長が傷つくのは、嫌です…。」
「きっと、それはリヴァイ兵長だって分かってるさ。
それでも、そう想ってくれる優しい君のためだから、
リヴァイ兵長も死ぬ気で戦えるんだと思う。」
医療兵士はそう言うと、傷薬の入れ物の蓋を閉めた。
そして、傷テープを貼ってから、私の手や腕に他に傷がないか確認をし始めた。
「よし、本当に怪我は手首だけだな。
さすが、リヴァイ兵長だ。」
医療兵士が、さっきモブリットさんがしたよりも少し強く、押すように頭を撫でるから、強引に下を向いてしまう。
そうすると、さっき医療兵士が貼ってくれた傷テープに、雫がポタポタと落ちた。
また、私は泣いていたようだ。
グッと拳を握る。
リヴァイ兵長に助けられたのは、もう何度目だろう。
その度に私は泣いて、泣いて、泣くばかりでー。
「大丈夫だ。リヴァイ兵長は今まで、巨人の大群を前にしたって生きてきたんだ。
俺達を残して、死んだりしないよ。それに、俺は、傷だらけの自分達を頼むと
リヴァイ兵長から直接言われてるんだ。絶対に死なせたりしない。」
力強く言った医療兵士は、爪が食い込むほど強く、拳を握っていた。
そっと重なるだけの唇から、リヴァイ兵長の体温を感じて、私はそれだけで安心できた。
そうしていると、唇が離れるーというよりも、重なりがずれていくみたいに温もりが消えていくのを感じた。
私が瞳を開けるのと、リヴァイ兵長の身体が崩れるように落ちて行くのは同時だった。
私の膝の上に頭を落としたリヴァイ兵長は、意識を失っているようだった。
さっきまで荒く息苦しそうだった息が、弱弱しくなっている。
「リヴァイ兵長…!?リヴァイ兵長、死なないで…っ。
いやだ…っ、死なないでっ。」
必死に名前を呼んだ。
身体を揺すってもいいのか分からなくて、私はリヴァイ兵長の頬を撫でた。
雨に濡れて冷たい私の手に比べて、リヴァイ兵長の身体は驚くほどに熱かった。
この雨で濡れたせいなのか、傷が熱をもったせいかは分からない。
私には、何も分からない。
リヴァイ兵長が、死んでしまいそうだということしか、分からなくてー。
「助けて…っ。誰か、リヴァイ兵長を助けて…っ。」
私には、泣くことしか出来なかった。
あの物語の結末が、騎士の亡骸に泣きながらキスをするお姫様の悲しい絵が、これからの私達の未来を予言しているような気がして怖くなる。
あの物語が、私を恐怖の世界に突き落とそうとしてくる。
違う。ここは、あの絵本の物語の世界ではない。
私はお姫様じゃないし、リヴァイ兵長は騎士じゃない。
だから、死なない。
死んだら、嫌だー。
「-----。」
「----------。」
小屋の外から人の声がした。
思わず、私は口を噤んで、耳を澄ました。
リヴァイ兵長は、誰かから逃げているみたいだった。
その誰かが追いかけてきたのかもしれない。
でも、ハンジさんが来てくれるとも言っていた。
ハンジさんであることを願いながら、必死に耳を澄ますけれど、雨の音が五月蠅くて、誰かが喋っているということしか分からなかった。
そしてついに、小屋の扉がゆっくりと時間をかけて開いていく。
リヴァイ兵長は虫の息で、立体起動装置も超硬質ブレードもない私は、男の人相手にはきっと何の役にも立たない。
もしも入ってくるのが敵なら、終わりー。
レインコートがチラリと見えた。
ゴクリー、息を呑む。
「なまえっ!!
いたっ!!ハンジさんっ!!いましたっ!!こっちの小屋ですっ!!」
扉を開けたのは、モブリットさんだった。
一度後ろを振り向いて叫ぶと、扉の向こうから、いくつもの聞き覚えのある声も聞こえてきて、張りつめていた糸が切れたみたいに私から力が抜けていった。
「なまえっ、無事かっ!?見つかって、よかっー。
って、えッ!?リヴァイ兵長っ!?」
駆け寄ってきたモブリットさんは、私の膝の上で息も絶え絶えのリヴァイ兵長に気づいて、目を丸くした。
「私を助けに来てくれたんですっ。
でも、私を守るために一方的に暴行を受けて…っ。
ここまで逃げてきたんですけど、さっきから意識がないんですっ。」
私は必死に説明した。
言葉は足りなかったと思うけれど、モブリットさんは瞬時に状況は把握してくれたようだった。
「医療兵士も一緒に来てる。すぐにリヴァイ兵長を診てもらうから安心しろ。
なまえは?怪我はしてないのか?何か…、されなかったか?
俺に言いづらいなら、マレーネも来てる、ハンジさんでもいい。そっちにー。」
「私は何もされてません。リヴァイ兵長がひとりで…、全部…。」
「そうか。それなら、よかった。」
「よく、ないです…っ。」
「よかったんだよ。
君が無事なら、リヴァイ兵長が頑張った甲斐があるだろ?」
モブリットさんは、安心させるような優しい笑みを浮かべて、私の頭を撫でた。
そうしていると、続々と見覚えのある顔が小屋に入ってきた。
主に、私の所属するハンジ班のメンバーで、それから、仲の良いマレーネ、その他にも顔馴染みがいくつも、私を見つけて駆け寄ってきては、リヴァイ兵長に気づいて驚きの声を上げた。
「なまえは、手首にすり傷があるだけのようだが、それより、リヴァイ兵長が問題だ。
重傷で意識不明。すぐに担架を用意してくれ。
その他は早馬でなまえの発見を他の班に報告だ。」
「はっ!」
モブリットさんの指示が飛び、医療兵士を残し、若い兵士達が小屋を飛び出していった。
それと入れ違いに、扉から転がるように走って入ってきたのはハンジさんだった。
「なまえっ!!怪我はないかー、って、えッ!?リヴァイっ!?」
私の元に駆け寄ってきて、やっぱり、他の兵士達と同じようにリヴァイ兵長に気づいて驚きの声を上げた。
どうしてーとパニック気味に訊ねるハンジさんをとりあえず無視して、数名の医療兵士とモブリットさんが、リヴァイ兵長の身体をゆっくりと持ち上げ、私はソファから立ち上がった。
そして、またそっとリヴァイ兵長をソファの上に寝かせる。
「なぁ、どうしてリヴァイがいるの?
走っていなくなった後、すぐになまえを見つけたってこと?
じゃないと、私達より先にこの小屋にくるなんて無理だろ?」
「よくわかりませんが、なまえが言うには、
リヴァイ兵長が助けに入って、代わりに暴行を受けたと…。」
「なんでっ?!リヴァイなら、チンピラごときすぐ蹴散らせるだろっ?!」
「なまえを人質にとられていて、手を出せなかったのでしょう…。」
ハンジさんとモブリットさんが話をしている横で、私は、医療兵士達がリヴァイ兵長の脈や傷の状態を確認し始めたのを不安そうに見ていた。
すると、医療兵の1人が立ち上がり、私の元へやってきた。
そして、私の手をとってから口を開く。
「両手を縛られてたの?」
「え?あ…、そうでした。」
そういえば、そうだったー。
自分の両手首を見ると、擦り傷が出来ていた。
どうにか外れないかと手首を動かしたときに出来たのだろう。
「薬を塗っておこう。」
「大丈夫ですっ。それより、リヴァイ兵長をー。」
「あっちは、アイツらがやってるから大丈夫だ。
それより、なまえに擦り傷の痕ひとつでも残しちまったら、
リヴァイ兵長が目を覚ました時に、俺が怒られちまう。」
大袈裟に冗談っぽく言って、医療兵士は私をソファの端に座らせた。
そして、私の手首に傷薬を塗りながら、他に痛いところや、怪我はないかと訊ねてくる。
本当に、そんなことどうでもよかった。
どこか痛いところがあるのかないのか、それすらも分からないくらいに、リヴァイ兵長の容態が気になって仕方がなかった。
「ルル・クレーデルのご両親が持ってきた包丁で
リヴァイ兵長が怪我をしたとき、俺が処置をしたんだ。」
医療兵士は、傷薬を塗りながら言う。
「あのときの傷を見てるから、俺は分かったんだ。」
「何が分かったんですか?」
「リヴァイ兵長は、どうしても、君に向く刃に耐えられなかったんだろうって。
君が傷つくのが許せなかったんだ。傷ひとつもつけたくないくらいに。」
「そんなの…、私だって、リヴァイ兵長が傷つくのは、嫌です…。」
「きっと、それはリヴァイ兵長だって分かってるさ。
それでも、そう想ってくれる優しい君のためだから、
リヴァイ兵長も死ぬ気で戦えるんだと思う。」
医療兵士はそう言うと、傷薬の入れ物の蓋を閉めた。
そして、傷テープを貼ってから、私の手や腕に他に傷がないか確認をし始めた。
「よし、本当に怪我は手首だけだな。
さすが、リヴァイ兵長だ。」
医療兵士が、さっきモブリットさんがしたよりも少し強く、押すように頭を撫でるから、強引に下を向いてしまう。
そうすると、さっき医療兵士が貼ってくれた傷テープに、雫がポタポタと落ちた。
また、私は泣いていたようだ。
グッと拳を握る。
リヴァイ兵長に助けられたのは、もう何度目だろう。
その度に私は泣いて、泣いて、泣くばかりでー。
「大丈夫だ。リヴァイ兵長は今まで、巨人の大群を前にしたって生きてきたんだ。
俺達を残して、死んだりしないよ。それに、俺は、傷だらけの自分達を頼むと
リヴァイ兵長から直接言われてるんだ。絶対に死なせたりしない。」
力強く言った医療兵士は、爪が食い込むほど強く、拳を握っていた。