◇第八十三話◇愛しい騎士を悲劇から救って
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モーリの指示で、側近の男達がリヴァイ兵長の腕を掴んだ。
「クソ野郎っ!!放しやがれっ!!」
低い声は力強くても、抵抗する力は悲しいくらいに弱く、左腕は骨が折れているのか動かないようだった。
私からリヴァイ兵長が離れて、漸く、私はどれだけの暴行をその身体に受けていたのかを思い知らされた。
凛々しかったタキシードは、濡れて泥水で汚れるどころか、蹴られた靴跡が砂汚れで白く残っていて、鉄パイプで殴られたせいなのか、ところどころ破れていた。
剥き出しになった肌は、赤黒いあざと傷を作って、赤い血を流している。
その血が、白かったはずのシャツを染めていた。
「よう、女。お前、殺してくれっつったか?」
モーリが、曲げた膝に両肘を乗せ屈みこみ、私の顔を覗き込んだ。
「もう…、許してください…。何でも、します…。
何をされても、いい。死んでも、いい。
だから…、リヴァイ兵長は、助けて…。その人を、誰からも、奪わないで…っ。」
私は両手を地面について、頭を下げた。
リヴァイ兵長が死んでしまうくらいなら、私が死んだ方がいい。
だって、彼は人類最強の兵士で、彼がこの世から消えるということは、人類の未来も消えるということだ。
それは絶対に避けなければならない。それが、私が今出来る精一杯の兵士としての務めだ。
それに、彼には帰りを待っている仲間がたくさんいる。尊敬されて、頼りにされて、調査兵団の兵士達にとってかけがえのない存在だ。
私なんかのために、消えてもいいような安い命ではない。
それにー。
「俺はリヴァイを殺すつもりだったんだが、
お前がそこまで言うなら、代わりに殺してやってもいいぜ?
自分の女が、自分のために死ぬってのも、それもまた良い演出の復讐だ。」
「死にます、だから、リヴァイ兵長は助けて、ください。」
「お前が死んだら、きっとお前の騎士様は悲しむぜ?それでもいいのか?」
「すぐ…、忘れるから、大丈夫。」
言いながら、私は唇を噛んだ。
流れる涙は、リヴァイ兵長に忘れられたくないと泣いていた。
ずっと、ずっと、一緒にいたいとー。
でも、そんな我儘な願いを無視をする選択肢しか、私には残されていなかった。
「なまえっ!勝手なこと言ってんじゃねぇっ!!」
リヴァイ兵長の怒鳴り声が廃工場に響いた。
よかったー。
それだけ大きな声で叫べるのなら、まだ少しは余力が残っているということだ。
兵舎に戻れれば、調査兵団の優秀な医療兵士が助けてくれる。
「そうだぜ?あの男は、お前のことなんかすぐ忘れちまうような冷酷なヤツだ。
だから、自分の子分を殺した男の下でのうのうと生きてられる。
そんなやつのために、お前は死ぬのか?」
「…自分より、大切な人なの。お願い…、もう、傷つけないで…。」
「健気だねぇ。あの野郎には、もったいねぇ。」
モーリは哀れそうに私を見下ろすと、銃口を私の頭に向けた。
そっと閉じた瞳から、最後の涙が零れ落ちる。
あの物語の結末は残酷で、私はいつも母が最後まで読むのを嫌がっていた。
だから、無意識に結末を忘れようとしていたのだろう。
でも、私は、誰よりも優しくて、強い騎士の勇敢で壮絶で、そしてとても悲しい最期を思い出せた。
騎士は、最後の戦いで、悪魔が化けた王子様の魔の手からお姫様を守るために死ぬのだ。
そうするしか、お姫様を守ることが出来なくて、騎士は躊躇わずに自分の命を捨てた。
そして、お姫様はそのときはじめて、自分の命を懸けて助けてくれた騎士を愛していたことに気づいてしまう。
泣きながら、騎士の亡骸にキスをするお姫様の絵が悲しくて、私はいつも最後に泣いていた。
でも、ここは、絵本の世界ではないし、私はお姫様なんかじゃない。
そして、私は、自分が本当は誰を愛しているのかもちゃんと分かってる。
これはあの悲劇の物語ではない。
私の、私だけの、恋の物語ー。
だからー。
遠くから雷鳴が轟く。
悪魔の叫びのような恐ろしい轟音が、愛しい人が呼ぶ私の名前をかき消した。
「クソ野郎っ!!放しやがれっ!!」
低い声は力強くても、抵抗する力は悲しいくらいに弱く、左腕は骨が折れているのか動かないようだった。
私からリヴァイ兵長が離れて、漸く、私はどれだけの暴行をその身体に受けていたのかを思い知らされた。
凛々しかったタキシードは、濡れて泥水で汚れるどころか、蹴られた靴跡が砂汚れで白く残っていて、鉄パイプで殴られたせいなのか、ところどころ破れていた。
剥き出しになった肌は、赤黒いあざと傷を作って、赤い血を流している。
その血が、白かったはずのシャツを染めていた。
「よう、女。お前、殺してくれっつったか?」
モーリが、曲げた膝に両肘を乗せ屈みこみ、私の顔を覗き込んだ。
「もう…、許してください…。何でも、します…。
何をされても、いい。死んでも、いい。
だから…、リヴァイ兵長は、助けて…。その人を、誰からも、奪わないで…っ。」
私は両手を地面について、頭を下げた。
リヴァイ兵長が死んでしまうくらいなら、私が死んだ方がいい。
だって、彼は人類最強の兵士で、彼がこの世から消えるということは、人類の未来も消えるということだ。
それは絶対に避けなければならない。それが、私が今出来る精一杯の兵士としての務めだ。
それに、彼には帰りを待っている仲間がたくさんいる。尊敬されて、頼りにされて、調査兵団の兵士達にとってかけがえのない存在だ。
私なんかのために、消えてもいいような安い命ではない。
それにー。
「俺はリヴァイを殺すつもりだったんだが、
お前がそこまで言うなら、代わりに殺してやってもいいぜ?
自分の女が、自分のために死ぬってのも、それもまた良い演出の復讐だ。」
「死にます、だから、リヴァイ兵長は助けて、ください。」
「お前が死んだら、きっとお前の騎士様は悲しむぜ?それでもいいのか?」
「すぐ…、忘れるから、大丈夫。」
言いながら、私は唇を噛んだ。
流れる涙は、リヴァイ兵長に忘れられたくないと泣いていた。
ずっと、ずっと、一緒にいたいとー。
でも、そんな我儘な願いを無視をする選択肢しか、私には残されていなかった。
「なまえっ!勝手なこと言ってんじゃねぇっ!!」
リヴァイ兵長の怒鳴り声が廃工場に響いた。
よかったー。
それだけ大きな声で叫べるのなら、まだ少しは余力が残っているということだ。
兵舎に戻れれば、調査兵団の優秀な医療兵士が助けてくれる。
「そうだぜ?あの男は、お前のことなんかすぐ忘れちまうような冷酷なヤツだ。
だから、自分の子分を殺した男の下でのうのうと生きてられる。
そんなやつのために、お前は死ぬのか?」
「…自分より、大切な人なの。お願い…、もう、傷つけないで…。」
「健気だねぇ。あの野郎には、もったいねぇ。」
モーリは哀れそうに私を見下ろすと、銃口を私の頭に向けた。
そっと閉じた瞳から、最後の涙が零れ落ちる。
あの物語の結末は残酷で、私はいつも母が最後まで読むのを嫌がっていた。
だから、無意識に結末を忘れようとしていたのだろう。
でも、私は、誰よりも優しくて、強い騎士の勇敢で壮絶で、そしてとても悲しい最期を思い出せた。
騎士は、最後の戦いで、悪魔が化けた王子様の魔の手からお姫様を守るために死ぬのだ。
そうするしか、お姫様を守ることが出来なくて、騎士は躊躇わずに自分の命を捨てた。
そして、お姫様はそのときはじめて、自分の命を懸けて助けてくれた騎士を愛していたことに気づいてしまう。
泣きながら、騎士の亡骸にキスをするお姫様の絵が悲しくて、私はいつも最後に泣いていた。
でも、ここは、絵本の世界ではないし、私はお姫様なんかじゃない。
そして、私は、自分が本当は誰を愛しているのかもちゃんと分かってる。
これはあの悲劇の物語ではない。
私の、私だけの、恋の物語ー。
だからー。
遠くから雷鳴が轟く。
悪魔の叫びのような恐ろしい轟音が、愛しい人が呼ぶ私の名前をかき消した。