◇第七十七話◇絵本の世界へようこそ
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以前のパーティーのときのように、エルヴィン団長は挨拶回りで忙しいようだった。
パーティーに来るようにという指示を出したシャイセ伯爵に挨拶をした後も、いろんな人たちと言葉を交わし始めた。
兵士長もそういうことが必要なのだと思ったが、見た目通りそういうのが得意ではないらしいリヴァイ兵長は、自由に動き回ることを許されているようで、そこに加わることはなかった。
「お前、本当に兵士長の女だったんだな。」
父親が去っていったのを見計らったように、シャイセの息子のクローテが私とリヴァイ兵長の元へ近づいてきた。
そして、私の手がまわるリヴァイ兵長の腕をジロジロとなめまわす。
すごく嫌な感じがして、私は腕を握る手に無意識に力を入れてしまった。
「てめぇのことは、ナナバから聞いてる。
よかったな、おとなしく忠告を聞いておいて。
そうじゃなきゃ、お前は大好きな肉も食えずにそれ以上肥えることは出来なかっただろうな。」
リヴァイ兵長が何を言っているのかは分からなかったけれど、クローテは少し顔を青くした。
でも、すぐに意地悪く口元を歪めて、私とリヴァイ兵長を交互に見て口を開いた。
「お前ら、怒らせちゃいけねぇ悪魔を起こしちまったみてぇだな。」
「あぁ、そうみてぇだな。」
「なんだ、知ってんのか。」
途端に、クローテはつまらなそうな顔をした。
そしてー。
「言っとくが、俺はもう悪魔の女なんてもう興味ねぇからな!
巻き込まれるのは御免なんだ!死ぬなら勝手に死んでくれ。」
クローテは捨て台詞を吐いて、さっさとどこかへ行ってしまう。
何の話をしていたのか、私にはさっぱり分からなかった。
でも、リヴァイ兵長は、クローテが何を言っているのか分かっているようだ。
「…何の話ですか?私は今、フラれたんですか?死ぬんですか?」
「気にするな。頭まで脂肪で出来ちまって、おかしくなってんだろ。」
リヴァイ兵長はそう言うと、腕を組む私を連れて歩き始めた。
迷わずに私を連れて行ったのは壁際に置いてあったソファだった。
私をソファに座らせてから、リヴァイ兵長も隣に腰をおろした。
「そんな靴じゃ歩くのも痛ぇだろ。」
「ありがとうございます…。」
躊躇いがちに、礼を言う。
膝の上に乗せた自分の手を見下ろしながら、数日前の光景を思い出していた。
嫌いだーリヴァイ兵長にそんな言葉を投げ捨ててから、まだ数日しか経っていない。
あれからずっと顔も合わせていなくて、いきなりパーティーに参加させられることになった上、リヴァイ兵長とは恋人同士のフリをさせられてー。
しかも、リヴァイ兵長が凄く優しいー。
全部、演技なのだろうか。
リヴァイ兵長は演技なんて得意じゃなさそうなのに、恋人に対してはこんな風になるということなのだろうか。
それともー。
『他の女ならそれでいい。お前に誤解されるのは気に入らねぇ。』
リヴァイ兵長が階段で言った言葉が頭の中をグルグル回っている。
あの言葉の意味を、聞いてみたい。
でも、怖いー。
「リヴァイ兵長、さっきのー。」
「なまえ、久しぶりだね。」
勇気を振り絞って出した声は、優しい声にかき消された。
やっぱり、エルヴィン団長の言っていた通り、ルーカスはこのパーティに参加していたらしい。
王都に住む貴族がなぜ―とも思ったけれど、このパーティーの開催者が王都の貴族らしい。
「ルーカス…。」
あの日の悲しそうなルーカスの瞳と声が蘇り、私は何と言えばいいか分からなくなる。
でも、ルーカスは優しく微笑んだ。
「そんな顔しないで、僕はもう大丈夫だから。
こんなカタチだけれど、君に会えて嬉しいよ。」
ルーカスはそう言うと、ソファに座る私と目線が合うように跪き、私の手の甲にキスを落とす。
近くで彼の姿を見ていた貴族の女の子達が、小さな悲鳴を上げたのが聞こえた。
王子様を見つめる女の子達の瞳がハートのカタチに見えるのも久しぶりだ。
懐かしい嫉妬の混ざった痛い視線を感じながら、ストヘス区での彼の周りには、いつも綺麗で可愛らしい女性が囲んでいたのを思い出す。
このパーティーでも、ルーカスは王子様のようだ。
「…ごめんなさい。ありがとう。」
私の手の甲から、ルーカスの唇が離れる。
ルーカスは、変わらない優しい微笑みを私に向けてからそっと手を放した。
そして、リヴァイ兵長の方を見て、困った顔をした。
「そんなに怖い顔で睨まないでくれよ。これはただの挨拶だよ。」
「あぁ、そうか。
もう二度と、挨拶はいらねぇ。覚えとけ。」
リヴァイ兵長は不機嫌そうに言って、私の肩を抱き、自分の方に引き寄せた。
まるで、悪い敵でも相手にしているかのようなリヴァイ兵長の態度に、私は違和感を覚えた。
だって、確かに、ルーカスは、私に結婚して調査兵団を辞めることを望んだ。
でも、それは、私がちゃんと別れの言葉も言わずに調査兵団に入団したせいだし、ルーカスは、それでも私のことを愛してくれていた心の広い優しい人だ。
決して、悪い人ではないのにー。
「調査兵団の兵士長が恋人を連れてきていると聞いて、
少しでも顔が見られたらと思っただけなんだよ。
君の恋人を強引に奪うような野蛮な真似はしないから心配しないで。」
ルーカスは立ち上がると、苦笑交じりに言う。
それをリヴァイ兵長は、信じてもいなさそうな顔で睨み上げていた。
「ルーカスは悪い人じゃないです。
悪いのは、勝手なことをした私だから、怒らないでください。」
たまらず、私はリヴァイ兵長の腕に手を添えて懇願した。
「…分かった。」
リヴァイ兵長が頷いてくれて、私はホッと胸を撫でおろす。
「それならよかった。それじゃ、君の恋人を少し借りてもいいかい?
一曲、一緒に踊ってもらいたいんだ。」
「調子に乗るんじゃねぇ。」
リヴァイ兵長がギロリとルーカスを睨みつける。
「君は浮気をして僕からなまえを奪ったんだったね。
それなら、お詫びのしるしとして、それくらい、叶えてくれてもいいだろう?」
「悪いが、俺はお前に詫びる気は欠片もねぇ。」
「それなら、僕は今ここで泣き喚いてしまうけどいいかい?
調査兵団の兵士長が貴族から恋人を奪ったなんて、
しかも浮気だなんて、世間はどう思うだろうね。」
「ルーカス、そんなこと…。」
「ヒドイことを言っているのは、僕も分かっているよ。
でも、どうしても最後の想い出が欲しいんだ。
お願いだよ、僕の願いを叶えてくれ。」
切なそうに懇願するルーカスに、リヴァイ兵長はしばらく黙り込んだ後、仕方なく了承した。
ルーカスに対して罪悪感のある私に、断る理由なんてない。
ホッと胸を撫でおろしたルーカスが、嬉しそうに私に差し出した手をとって、立ち上がった。
パーティーに来るようにという指示を出したシャイセ伯爵に挨拶をした後も、いろんな人たちと言葉を交わし始めた。
兵士長もそういうことが必要なのだと思ったが、見た目通りそういうのが得意ではないらしいリヴァイ兵長は、自由に動き回ることを許されているようで、そこに加わることはなかった。
「お前、本当に兵士長の女だったんだな。」
父親が去っていったのを見計らったように、シャイセの息子のクローテが私とリヴァイ兵長の元へ近づいてきた。
そして、私の手がまわるリヴァイ兵長の腕をジロジロとなめまわす。
すごく嫌な感じがして、私は腕を握る手に無意識に力を入れてしまった。
「てめぇのことは、ナナバから聞いてる。
よかったな、おとなしく忠告を聞いておいて。
そうじゃなきゃ、お前は大好きな肉も食えずにそれ以上肥えることは出来なかっただろうな。」
リヴァイ兵長が何を言っているのかは分からなかったけれど、クローテは少し顔を青くした。
でも、すぐに意地悪く口元を歪めて、私とリヴァイ兵長を交互に見て口を開いた。
「お前ら、怒らせちゃいけねぇ悪魔を起こしちまったみてぇだな。」
「あぁ、そうみてぇだな。」
「なんだ、知ってんのか。」
途端に、クローテはつまらなそうな顔をした。
そしてー。
「言っとくが、俺はもう悪魔の女なんてもう興味ねぇからな!
巻き込まれるのは御免なんだ!死ぬなら勝手に死んでくれ。」
クローテは捨て台詞を吐いて、さっさとどこかへ行ってしまう。
何の話をしていたのか、私にはさっぱり分からなかった。
でも、リヴァイ兵長は、クローテが何を言っているのか分かっているようだ。
「…何の話ですか?私は今、フラれたんですか?死ぬんですか?」
「気にするな。頭まで脂肪で出来ちまって、おかしくなってんだろ。」
リヴァイ兵長はそう言うと、腕を組む私を連れて歩き始めた。
迷わずに私を連れて行ったのは壁際に置いてあったソファだった。
私をソファに座らせてから、リヴァイ兵長も隣に腰をおろした。
「そんな靴じゃ歩くのも痛ぇだろ。」
「ありがとうございます…。」
躊躇いがちに、礼を言う。
膝の上に乗せた自分の手を見下ろしながら、数日前の光景を思い出していた。
嫌いだーリヴァイ兵長にそんな言葉を投げ捨ててから、まだ数日しか経っていない。
あれからずっと顔も合わせていなくて、いきなりパーティーに参加させられることになった上、リヴァイ兵長とは恋人同士のフリをさせられてー。
しかも、リヴァイ兵長が凄く優しいー。
全部、演技なのだろうか。
リヴァイ兵長は演技なんて得意じゃなさそうなのに、恋人に対してはこんな風になるということなのだろうか。
それともー。
『他の女ならそれでいい。お前に誤解されるのは気に入らねぇ。』
リヴァイ兵長が階段で言った言葉が頭の中をグルグル回っている。
あの言葉の意味を、聞いてみたい。
でも、怖いー。
「リヴァイ兵長、さっきのー。」
「なまえ、久しぶりだね。」
勇気を振り絞って出した声は、優しい声にかき消された。
やっぱり、エルヴィン団長の言っていた通り、ルーカスはこのパーティに参加していたらしい。
王都に住む貴族がなぜ―とも思ったけれど、このパーティーの開催者が王都の貴族らしい。
「ルーカス…。」
あの日の悲しそうなルーカスの瞳と声が蘇り、私は何と言えばいいか分からなくなる。
でも、ルーカスは優しく微笑んだ。
「そんな顔しないで、僕はもう大丈夫だから。
こんなカタチだけれど、君に会えて嬉しいよ。」
ルーカスはそう言うと、ソファに座る私と目線が合うように跪き、私の手の甲にキスを落とす。
近くで彼の姿を見ていた貴族の女の子達が、小さな悲鳴を上げたのが聞こえた。
王子様を見つめる女の子達の瞳がハートのカタチに見えるのも久しぶりだ。
懐かしい嫉妬の混ざった痛い視線を感じながら、ストヘス区での彼の周りには、いつも綺麗で可愛らしい女性が囲んでいたのを思い出す。
このパーティーでも、ルーカスは王子様のようだ。
「…ごめんなさい。ありがとう。」
私の手の甲から、ルーカスの唇が離れる。
ルーカスは、変わらない優しい微笑みを私に向けてからそっと手を放した。
そして、リヴァイ兵長の方を見て、困った顔をした。
「そんなに怖い顔で睨まないでくれよ。これはただの挨拶だよ。」
「あぁ、そうか。
もう二度と、挨拶はいらねぇ。覚えとけ。」
リヴァイ兵長は不機嫌そうに言って、私の肩を抱き、自分の方に引き寄せた。
まるで、悪い敵でも相手にしているかのようなリヴァイ兵長の態度に、私は違和感を覚えた。
だって、確かに、ルーカスは、私に結婚して調査兵団を辞めることを望んだ。
でも、それは、私がちゃんと別れの言葉も言わずに調査兵団に入団したせいだし、ルーカスは、それでも私のことを愛してくれていた心の広い優しい人だ。
決して、悪い人ではないのにー。
「調査兵団の兵士長が恋人を連れてきていると聞いて、
少しでも顔が見られたらと思っただけなんだよ。
君の恋人を強引に奪うような野蛮な真似はしないから心配しないで。」
ルーカスは立ち上がると、苦笑交じりに言う。
それをリヴァイ兵長は、信じてもいなさそうな顔で睨み上げていた。
「ルーカスは悪い人じゃないです。
悪いのは、勝手なことをした私だから、怒らないでください。」
たまらず、私はリヴァイ兵長の腕に手を添えて懇願した。
「…分かった。」
リヴァイ兵長が頷いてくれて、私はホッと胸を撫でおろす。
「それならよかった。それじゃ、君の恋人を少し借りてもいいかい?
一曲、一緒に踊ってもらいたいんだ。」
「調子に乗るんじゃねぇ。」
リヴァイ兵長がギロリとルーカスを睨みつける。
「君は浮気をして僕からなまえを奪ったんだったね。
それなら、お詫びのしるしとして、それくらい、叶えてくれてもいいだろう?」
「悪いが、俺はお前に詫びる気は欠片もねぇ。」
「それなら、僕は今ここで泣き喚いてしまうけどいいかい?
調査兵団の兵士長が貴族から恋人を奪ったなんて、
しかも浮気だなんて、世間はどう思うだろうね。」
「ルーカス、そんなこと…。」
「ヒドイことを言っているのは、僕も分かっているよ。
でも、どうしても最後の想い出が欲しいんだ。
お願いだよ、僕の願いを叶えてくれ。」
切なそうに懇願するルーカスに、リヴァイ兵長はしばらく黙り込んだ後、仕方なく了承した。
ルーカスに対して罪悪感のある私に、断る理由なんてない。
ホッと胸を撫でおろしたルーカスが、嬉しそうに私に差し出した手をとって、立ち上がった。