◇第七十四話◇好きすぎて、大嫌い
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廊下の窓を土砂降りの雨が流れて落ちていく。
明日も止みそうにはない。
窓にそっと触れると、ひんやり冷たかった。
「爆発騒ぎかぁ…。誰が担当するのかな。」
自分は嫌だなー、と思ったけれど、たぶん、私にはならないだろうという自信もあった。
たぶん、そういう物騒な事件を追いかける任務は、対人格闘が得意な力の強い兵士になるはずだ。
きっと、私は真っ先に候補から外される。
「ドレスなんて着て、なに黄昏てんだ?」
私の隣に立ったのはゲルガーさんだった。
窓の外を眺めながら、明日は訓練中止か、と残念がっている。
「ハンジさんの部屋に着替え忘れて出てきちゃったんです。
ゲルガーさんは会議に参加しなくていいんですか?」
「ナナバが出てるからな、俺はいい。」
「そう、ですか…?」
よくわからなかったが、まぁ、問題ないということならそれでいいのだろうと無理やり納得する。
ナナバさんとゲルガーさんの班はいつも同じ任務だし、ナナバさんが話を聞けば大丈夫、というのも分からないでもない。
「今日は合同訓練、ご苦労だったな。
まさか、リヴァイ兵長の真似まで出来るなんて驚いたぜ。」
「真似じゃダメです。
私はちゃんと自分の技術を磨いて、体力と筋力をつけなくちゃ。」
私は自分の両手をグッと握った。
他の兵士に比べて、細い腕に細い腰。
今まではなんとかなったかもしれない。
でも、ドレスが着れるような身体じゃ、兵士はダメなのだ。
こんな身体じゃ、本当にキツいときに私はすぐに殺されてしまうー。
「あんまり気張りすぎんな。」
ゲルガーさんが、私の髪をクシャリと撫でた。
ニッと笑った口からは白い歯が覗く。
優しさに、握った拳も、私の心もほぐれていく。
「そのドレス姿が見れなくなるのも、もったいねぇしな。」
ゲルガーさんが、悪戯っぽく笑った。
それから、少し話をして、ゲルガーさんは自分の班の兵士に声をかけられて部屋に戻っていった。
もうそろそろ私も部屋に戻ろうー。
そう思って、窓の向こうから視線を離すと、廊下の向こうから歩いてきたリヴァイ兵長と目があった。
「そんな恰好で、何やってる。」
眉間に皴を寄せて、リヴァイ兵長は私を怖い顔で見た。
急に、雨の向こうで白んで見えた風景がフラッシュバックする。
リヴァイ兵長は、一本の傘の下でジーニーと抱き合っていた。
私に触れたことのある、あの腕でー。
「ハンジさんとナナバさんの友人がご結婚されるそうで、
その彼女にサプライズでドレスを作りたいからと
同じサイズの私の身体を測られたんです。」
「…そのどこにドレスを着る必要があるか、教えてくれ。」
「私も知りたいです。」
「…そうか。」
「リヴァイ兵長はー。」
こんなところで何しているんですか?-、言いかけて私は口を噤んだ。
いや、答えを聞かなくても、気づいてしまった。
ここは精鋭兵の多くが自室を持つフロアで、この廊下の先にはジーニーの部屋もある。
きっと、一緒に過ごしていたのだろう。
「なんだ。」
「何でもないです。おやすみなさい。」
「待て。」
頭を下げてから、横を通り過ぎようとした私の腕をリヴァイ兵長が掴んで引き留めた。
触れられるのは、慣れない。
そして、怖い。
一生、忘れられなくなりそうでー。
「痛いです。」
「あぁ、すまねぇ。」
リヴァイ兵長の手が離れて、ホッとする。
そして、その途端、また触れてほしくなる。
早く、こんな気持ち忘れたいー。
「何ですか?」
「お前、今日ー。」
リヴァイ兵長はそこまで言って、さっきの私のように口を噤んでしまった。
「今日、なんですか?」
「いや、なんでもねぇ。」
「じゃあ、私、もう部屋に戻ります。ドレス脱ぎたいんで。」
逃げるように背を向けた私に、リヴァイ兵長は思いも寄らないことを言った。
「ジャンと付き合うのか。」
思わず、私は振り返った。
リヴァイ兵長と、目が合う。
何を考えて、そんなことを私に聞いているのだろう。
本当に、ヒドイー。
「どうして、そう思うんですか。」
「アイツと一緒にいるところを見た。」
「あぁ…、私も見ましたよ。ジーニーと一緒にいるところ。
幸せそうでなによりです。」
余計なことまで口走ってしまうほど、私はいっぱいいっぱいだった。
これ以上、顔を見ていられなくて今度こそ背を向けたのに「待て。」とリヴァイ兵長の声と手が私を引き留める。
一体、何がしたいのか全く分からない。
これ以上、傷つかないっていうくらいにもうボロボロなのだ。
だからもう本当に、これ以上、傷つけないでー。
「あの男が、好きなのか?」
その言葉が、私の中にあった我慢の糸を叩き切った。
カッと頭に血が上ったのが、自分でも分かった。
勢いよく振り返った私は、乱暴にリヴァイ兵長の手を振りほどいて、感情のままに声を荒げた。
「私が…っ、リヴァイ兵長のこと好きなこと知ってるくせに…っ!
どうしてそんな無神経なこと言えるんですか…っ!!」
窓を叩きつける雨音が、静かな廊下で、私達のことを笑っているみたいだ。
私の声に驚いたのか、涙に驚いたのかは分からない。
でも、目を見開いたリヴァイ兵長は、スッと目を反らしてから、額に手をあてて表情を隠した。
私が、リヴァイ兵長じゃない誰かを好きになったと知って、安心でもしたかったのだろうか。
本当に、本当に、ヒドイ。
もう、ツラい。
ジャンの言う通りだ。
泣いているのに、いつも泣いているのに、私は幸せなわけが、ないー。
「もう…、ただの上司じゃなくていいです。」
目を伏せて、グッと拳を握る。
もう、ツラい恋に涙なんて流したくない。
こんなの、もう嫌だ。
「また、私を避けてください。」
「おい、何言ってやがる。」
「もういいです。リヴァイ兵長なんて、嫌いです…。
だから、私のこと、嫌いなままでいいです。」
「おい、聞け。俺はー。」
「もう何もっ、何も聞きたくありませんっ。」
触れようとしたリヴァイ兵長の手を、私は叩いてしまった。
そんなこと初めてで、リヴァイ兵長も驚いて、叩かれた自分の手を見下ろしていた。
私も、自分がしたことが信じられなくて、ひどいことをしてしまった自分の手をギュっと握りしめて、唇を噛んだ。
こんなこと、望んでない。
言いたくないのにー。
恋心が悲鳴をあげる、助けてくれと泣いてる。
「もう二度と、私に話しかけないでください。お願い、します。」
私は頭を下げた。
そして、返事のないリヴァイ兵長を残して、走って逃げた。
部屋に入って、ベッドに倒れ込む。
枕に顔を押し付けて、泣き声を殺して泣いた。
最初から、こうしておけばよかった。
リヴァイ兵長に避けられ続けているままなら、こんな風に傷つくことはなかったのにー。
ジャンのことだって、傷つけずに済んだかもしれないのにー。
どうして私は、大嫌いで大嫌いで大嫌いなのに、リヴァイ兵長だけが恋しいんだろう。
リヴァイ兵長じゃなくちゃ、いやなんだろう。
バカ、みたいー。
明日も止みそうにはない。
窓にそっと触れると、ひんやり冷たかった。
「爆発騒ぎかぁ…。誰が担当するのかな。」
自分は嫌だなー、と思ったけれど、たぶん、私にはならないだろうという自信もあった。
たぶん、そういう物騒な事件を追いかける任務は、対人格闘が得意な力の強い兵士になるはずだ。
きっと、私は真っ先に候補から外される。
「ドレスなんて着て、なに黄昏てんだ?」
私の隣に立ったのはゲルガーさんだった。
窓の外を眺めながら、明日は訓練中止か、と残念がっている。
「ハンジさんの部屋に着替え忘れて出てきちゃったんです。
ゲルガーさんは会議に参加しなくていいんですか?」
「ナナバが出てるからな、俺はいい。」
「そう、ですか…?」
よくわからなかったが、まぁ、問題ないということならそれでいいのだろうと無理やり納得する。
ナナバさんとゲルガーさんの班はいつも同じ任務だし、ナナバさんが話を聞けば大丈夫、というのも分からないでもない。
「今日は合同訓練、ご苦労だったな。
まさか、リヴァイ兵長の真似まで出来るなんて驚いたぜ。」
「真似じゃダメです。
私はちゃんと自分の技術を磨いて、体力と筋力をつけなくちゃ。」
私は自分の両手をグッと握った。
他の兵士に比べて、細い腕に細い腰。
今まではなんとかなったかもしれない。
でも、ドレスが着れるような身体じゃ、兵士はダメなのだ。
こんな身体じゃ、本当にキツいときに私はすぐに殺されてしまうー。
「あんまり気張りすぎんな。」
ゲルガーさんが、私の髪をクシャリと撫でた。
ニッと笑った口からは白い歯が覗く。
優しさに、握った拳も、私の心もほぐれていく。
「そのドレス姿が見れなくなるのも、もったいねぇしな。」
ゲルガーさんが、悪戯っぽく笑った。
それから、少し話をして、ゲルガーさんは自分の班の兵士に声をかけられて部屋に戻っていった。
もうそろそろ私も部屋に戻ろうー。
そう思って、窓の向こうから視線を離すと、廊下の向こうから歩いてきたリヴァイ兵長と目があった。
「そんな恰好で、何やってる。」
眉間に皴を寄せて、リヴァイ兵長は私を怖い顔で見た。
急に、雨の向こうで白んで見えた風景がフラッシュバックする。
リヴァイ兵長は、一本の傘の下でジーニーと抱き合っていた。
私に触れたことのある、あの腕でー。
「ハンジさんとナナバさんの友人がご結婚されるそうで、
その彼女にサプライズでドレスを作りたいからと
同じサイズの私の身体を測られたんです。」
「…そのどこにドレスを着る必要があるか、教えてくれ。」
「私も知りたいです。」
「…そうか。」
「リヴァイ兵長はー。」
こんなところで何しているんですか?-、言いかけて私は口を噤んだ。
いや、答えを聞かなくても、気づいてしまった。
ここは精鋭兵の多くが自室を持つフロアで、この廊下の先にはジーニーの部屋もある。
きっと、一緒に過ごしていたのだろう。
「なんだ。」
「何でもないです。おやすみなさい。」
「待て。」
頭を下げてから、横を通り過ぎようとした私の腕をリヴァイ兵長が掴んで引き留めた。
触れられるのは、慣れない。
そして、怖い。
一生、忘れられなくなりそうでー。
「痛いです。」
「あぁ、すまねぇ。」
リヴァイ兵長の手が離れて、ホッとする。
そして、その途端、また触れてほしくなる。
早く、こんな気持ち忘れたいー。
「何ですか?」
「お前、今日ー。」
リヴァイ兵長はそこまで言って、さっきの私のように口を噤んでしまった。
「今日、なんですか?」
「いや、なんでもねぇ。」
「じゃあ、私、もう部屋に戻ります。ドレス脱ぎたいんで。」
逃げるように背を向けた私に、リヴァイ兵長は思いも寄らないことを言った。
「ジャンと付き合うのか。」
思わず、私は振り返った。
リヴァイ兵長と、目が合う。
何を考えて、そんなことを私に聞いているのだろう。
本当に、ヒドイー。
「どうして、そう思うんですか。」
「アイツと一緒にいるところを見た。」
「あぁ…、私も見ましたよ。ジーニーと一緒にいるところ。
幸せそうでなによりです。」
余計なことまで口走ってしまうほど、私はいっぱいいっぱいだった。
これ以上、顔を見ていられなくて今度こそ背を向けたのに「待て。」とリヴァイ兵長の声と手が私を引き留める。
一体、何がしたいのか全く分からない。
これ以上、傷つかないっていうくらいにもうボロボロなのだ。
だからもう本当に、これ以上、傷つけないでー。
「あの男が、好きなのか?」
その言葉が、私の中にあった我慢の糸を叩き切った。
カッと頭に血が上ったのが、自分でも分かった。
勢いよく振り返った私は、乱暴にリヴァイ兵長の手を振りほどいて、感情のままに声を荒げた。
「私が…っ、リヴァイ兵長のこと好きなこと知ってるくせに…っ!
どうしてそんな無神経なこと言えるんですか…っ!!」
窓を叩きつける雨音が、静かな廊下で、私達のことを笑っているみたいだ。
私の声に驚いたのか、涙に驚いたのかは分からない。
でも、目を見開いたリヴァイ兵長は、スッと目を反らしてから、額に手をあてて表情を隠した。
私が、リヴァイ兵長じゃない誰かを好きになったと知って、安心でもしたかったのだろうか。
本当に、本当に、ヒドイ。
もう、ツラい。
ジャンの言う通りだ。
泣いているのに、いつも泣いているのに、私は幸せなわけが、ないー。
「もう…、ただの上司じゃなくていいです。」
目を伏せて、グッと拳を握る。
もう、ツラい恋に涙なんて流したくない。
こんなの、もう嫌だ。
「また、私を避けてください。」
「おい、何言ってやがる。」
「もういいです。リヴァイ兵長なんて、嫌いです…。
だから、私のこと、嫌いなままでいいです。」
「おい、聞け。俺はー。」
「もう何もっ、何も聞きたくありませんっ。」
触れようとしたリヴァイ兵長の手を、私は叩いてしまった。
そんなこと初めてで、リヴァイ兵長も驚いて、叩かれた自分の手を見下ろしていた。
私も、自分がしたことが信じられなくて、ひどいことをしてしまった自分の手をギュっと握りしめて、唇を噛んだ。
こんなこと、望んでない。
言いたくないのにー。
恋心が悲鳴をあげる、助けてくれと泣いてる。
「もう二度と、私に話しかけないでください。お願い、します。」
私は頭を下げた。
そして、返事のないリヴァイ兵長を残して、走って逃げた。
部屋に入って、ベッドに倒れ込む。
枕に顔を押し付けて、泣き声を殺して泣いた。
最初から、こうしておけばよかった。
リヴァイ兵長に避けられ続けているままなら、こんな風に傷つくことはなかったのにー。
ジャンのことだって、傷つけずに済んだかもしれないのにー。
どうして私は、大嫌いで大嫌いで大嫌いなのに、リヴァイ兵長だけが恋しいんだろう。
リヴァイ兵長じゃなくちゃ、いやなんだろう。
バカ、みたいー。