◇第六十九話◇彼女の王子様は誰?
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
応接室に漂う緊張感は、ペトラを委縮させた。
ソファに腰をおろしたルーカスの背筋の伸びた後ろ姿は、王子様の雰囲気をいまだに漂わせている。
扉の横に立ち、自分はついてくるべきではなかったかーとも思ったが、なまえを返してもうと宣言した男を見過ごすことは出来なかった。
ペトラの隣に立つナナバからも、ピリピリとした空気が伝わってくる。
王子様こと、ルーカス・ユーリヒと名乗ったその男は、この応接室に案内する間も、たくさんの兵士の目に触れた。
誰もが一歩引いてしまう、リヴァイとはまた違ったオーラを持った男だ。
彼は、王都の貴族で、爵位は侯爵。
貴族の中でも身分の高い、普段ならば調査兵団が関わることすらないような存在だ。
「なまえの“元”婚約者様のユーリヒ候が一体どういうご用件かな。」
向かい合うようにテーブルを挟みソファに座るハンジが、敢えて“元”に力を込めて言うと、ルーカスは困ったように眉尻を下げた。
なまえを返してもらうと宣言したときの、威圧的な雰囲気は今の彼からは一切感じられない。
一体、どれが本当のルーカスなのかー。
ペトラは、ルーカスという人間を計りかねていた。
「お手紙を何度も出したはずですよ。
なまえが調査兵団に入団するに至った経緯を説明してほしいだけです。」
「説明しないと今後の壁外調査は禁止するって脅しの手紙のことを言ってるのか。
どんな理由でなまえがここにいたとしても
無理やり自分のものにするのがお前の目的なんだろ。」
思わず、と言った様子でナナバが食ってかかる。
だが、そんな言葉を気にする素振りもなく、ルーカスは答えた。
「無理やりとは人聞きが悪いですね。
そういう言葉が自然と出てきてしまうということは、
自分達がそんな乱暴なことをしたと自覚がある証拠だと思ってしまいますよ。」
「…っ。」
ナナバが悔しそうに唇を噛む。
なまえの調査兵団入団の経緯については、ペトラも簡単に聞いている。
無理やりーというと言葉が悪いかもしれないけれど、そうとられても仕方がないようなきっかけではあったかもしれない。
でも、今のなまえは違う。
少なくとも、自分の足で、言葉で、意志で、調査兵団に戻ってきたのだから。
だから、ルーカスを見据えるエルヴィンは、堂々としているのだろうか。
でも、ペトラは不安で仕方がなかった。
ペトラの隣でピリピリした空気を放っているナナバも、エルヴィンの隣でソワソワしているハンジもきっと同じだ。
ルルの死を乗り越えて調査兵団に戻ってきたときのなまえなら、元婚約者が迎えに来ても、ここから去ることはなかったと思う。
でも、今のなまえはー。
「なまえ・みょうじは、人類にとって必要な兵士だ。
彼女を調査兵団から奪うということは、人類の勝利を奪うことに等しいと
私は思っている。それでも、君は自分の欲のために彼女を奪い返すか。」
エルヴィンも負けてはいなかった。
挑発的な言葉で、ルーカスの意志の固さを確認しようとしている。
でも、調査兵団にいるからこそ、人類が今危機的状況にいることを理解しているのだ。
王都にいる男が、その言葉の本当の恐ろしさに気づけるとは思えない。
案の定、ルーカスは失笑を浮かべた。
「たった3人程度の男に乱暴されそうになっていたか弱い女性が
人類の希望ですか?そんな世界なら、明日、滅んでしまってもおかしくない。
それなら僕は、愛する人と共に過ごしたい。」
「なまえが乱暴されそうに?」
思わず訊ねてしまってから、ペトラは慌てて口を手で押さえた。
だが、もう遅く、しっかりと声はルーカスに届いていたようだった。
後ろを振り向いてペトラを見たルーカスが、昼間、久しぶりに再会した時のなまえのことを教えてくれた。
リヴァイとうまくいかず心が落ち込んでいるときに、男に襲われそうになっていたところを助けてくれたのが、昔愛した王子様ー。
小説にでもなれそうな筋書きが、ペトラの心の不安の色を濃くしていった。
「幼い頃から護身術として武術を身に着けていたことを、あれほど感謝したことはありません。
自分の力というのは、愛する人を守るために使うものですからね。
恐ろしい巨人の前に突き出すためにあるわけじゃありません。」
ルーカスは、エルヴィンをもう一度見ると、力強い声で言う。
本当にその通りだー、そう思ってしまって、ペトラは諦めてしまいそうになる。
ここで、自分達が必死になまえの手を握らないと、掴んでいないと、奪われてしまう。
きっと、なまえは自分で望んで、王子様の元へ行ってしまうー。
不安は確信になって、ペトラを襲う。
でも、それは本当に悪いことなのだろうか。
きっと、ルーカスは、なまえを王都に連れて行く気だ。
そうすれば、少なくとも、巨人が襲来しない限り、なまえの命は長くなるだろう。
怖い思いをしなくて良くなるし、死と隣り合わせの戦いもなくなる。
リヴァイのことで泣くことも、きっとなくなるのだろう。
今、なまえを本当の意味で救えるのは、誰なのか。
ペトラは、分からなかった。
ソファに腰をおろしたルーカスの背筋の伸びた後ろ姿は、王子様の雰囲気をいまだに漂わせている。
扉の横に立ち、自分はついてくるべきではなかったかーとも思ったが、なまえを返してもうと宣言した男を見過ごすことは出来なかった。
ペトラの隣に立つナナバからも、ピリピリとした空気が伝わってくる。
王子様こと、ルーカス・ユーリヒと名乗ったその男は、この応接室に案内する間も、たくさんの兵士の目に触れた。
誰もが一歩引いてしまう、リヴァイとはまた違ったオーラを持った男だ。
彼は、王都の貴族で、爵位は侯爵。
貴族の中でも身分の高い、普段ならば調査兵団が関わることすらないような存在だ。
「なまえの“元”婚約者様のユーリヒ候が一体どういうご用件かな。」
向かい合うようにテーブルを挟みソファに座るハンジが、敢えて“元”に力を込めて言うと、ルーカスは困ったように眉尻を下げた。
なまえを返してもらうと宣言したときの、威圧的な雰囲気は今の彼からは一切感じられない。
一体、どれが本当のルーカスなのかー。
ペトラは、ルーカスという人間を計りかねていた。
「お手紙を何度も出したはずですよ。
なまえが調査兵団に入団するに至った経緯を説明してほしいだけです。」
「説明しないと今後の壁外調査は禁止するって脅しの手紙のことを言ってるのか。
どんな理由でなまえがここにいたとしても
無理やり自分のものにするのがお前の目的なんだろ。」
思わず、と言った様子でナナバが食ってかかる。
だが、そんな言葉を気にする素振りもなく、ルーカスは答えた。
「無理やりとは人聞きが悪いですね。
そういう言葉が自然と出てきてしまうということは、
自分達がそんな乱暴なことをしたと自覚がある証拠だと思ってしまいますよ。」
「…っ。」
ナナバが悔しそうに唇を噛む。
なまえの調査兵団入団の経緯については、ペトラも簡単に聞いている。
無理やりーというと言葉が悪いかもしれないけれど、そうとられても仕方がないようなきっかけではあったかもしれない。
でも、今のなまえは違う。
少なくとも、自分の足で、言葉で、意志で、調査兵団に戻ってきたのだから。
だから、ルーカスを見据えるエルヴィンは、堂々としているのだろうか。
でも、ペトラは不安で仕方がなかった。
ペトラの隣でピリピリした空気を放っているナナバも、エルヴィンの隣でソワソワしているハンジもきっと同じだ。
ルルの死を乗り越えて調査兵団に戻ってきたときのなまえなら、元婚約者が迎えに来ても、ここから去ることはなかったと思う。
でも、今のなまえはー。
「なまえ・みょうじは、人類にとって必要な兵士だ。
彼女を調査兵団から奪うということは、人類の勝利を奪うことに等しいと
私は思っている。それでも、君は自分の欲のために彼女を奪い返すか。」
エルヴィンも負けてはいなかった。
挑発的な言葉で、ルーカスの意志の固さを確認しようとしている。
でも、調査兵団にいるからこそ、人類が今危機的状況にいることを理解しているのだ。
王都にいる男が、その言葉の本当の恐ろしさに気づけるとは思えない。
案の定、ルーカスは失笑を浮かべた。
「たった3人程度の男に乱暴されそうになっていたか弱い女性が
人類の希望ですか?そんな世界なら、明日、滅んでしまってもおかしくない。
それなら僕は、愛する人と共に過ごしたい。」
「なまえが乱暴されそうに?」
思わず訊ねてしまってから、ペトラは慌てて口を手で押さえた。
だが、もう遅く、しっかりと声はルーカスに届いていたようだった。
後ろを振り向いてペトラを見たルーカスが、昼間、久しぶりに再会した時のなまえのことを教えてくれた。
リヴァイとうまくいかず心が落ち込んでいるときに、男に襲われそうになっていたところを助けてくれたのが、昔愛した王子様ー。
小説にでもなれそうな筋書きが、ペトラの心の不安の色を濃くしていった。
「幼い頃から護身術として武術を身に着けていたことを、あれほど感謝したことはありません。
自分の力というのは、愛する人を守るために使うものですからね。
恐ろしい巨人の前に突き出すためにあるわけじゃありません。」
ルーカスは、エルヴィンをもう一度見ると、力強い声で言う。
本当にその通りだー、そう思ってしまって、ペトラは諦めてしまいそうになる。
ここで、自分達が必死になまえの手を握らないと、掴んでいないと、奪われてしまう。
きっと、なまえは自分で望んで、王子様の元へ行ってしまうー。
不安は確信になって、ペトラを襲う。
でも、それは本当に悪いことなのだろうか。
きっと、ルーカスは、なまえを王都に連れて行く気だ。
そうすれば、少なくとも、巨人が襲来しない限り、なまえの命は長くなるだろう。
怖い思いをしなくて良くなるし、死と隣り合わせの戦いもなくなる。
リヴァイのことで泣くことも、きっとなくなるのだろう。
今、なまえを本当の意味で救えるのは、誰なのか。
ペトラは、分からなかった。