◇第六十六話◇ただの上司と部下
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今日の私の任務は、巨人実験の結果をまとめるデスクワークだった。
ハンジさんの執務室兼自室で、ローテーブルにモブリットさんと並んで座って過去の分も合わせて書類を作成しては、デスク書類をまとめるハンジさんに渡すーという地道な作業を朝からずっと続けている。
この結果をもとに、巨人実験がいかに有意義なものなのかを王都に報告として提出し、また巨人実験を行えるようにお願いするのだ。
「ねぇ、なまえってさ。」
不意に、ハンジさんに声をかけられて、資料を見ながら寝そうになっていた顔を上げた。
「何ですか?」
「昔の婚約者のこと、まだ好き?」
「へ?」
大好きな研究のための資料を作っている最中に声をかけてくるものだから、どれだけ大切な話をされるのかと思っていた私は、恋話を振ってきたハンジさんに、ポカンと口を開けた間抜けな顔を晒してしまう。
モブリットさんが、隣で大きくため息をついている。
ほら、モブリットさんも、大切な仕事中になぜどうでもいい世間話を始めたのかと呆れているではないか。
「いや、ほらっ!無理やり私が調査兵団に誘ったせいで
結婚がダメになっちゃったからさっ。」
「へぇ~、自覚はあったんですね。」
「あ…、いや…、まぁ、そりゃあ…。」
ハンジさんは途端にしどろもどろになるから、私が笑いながら、気にしなくていいと伝える。
「私、今、すごく楽しいですよ。
調査兵団に入団してよかったって心から思ってるんです。
ハンジさんに感謝してます。だから、本当に、気にしないでください。」
微笑む私に、ハンジさんはなぜか困ったような笑みを浮かべた。
そして、僅かに目を伏せた後、そのままで口を開く。
「私はさ、なまえを調査兵団に入団させたことは後悔してないんだ。」
「それはよかったです。
後悔してるなんて言ったら、許さないですよ。」
私が少し意地悪く言うと、ハンジさんは「それもそうだね。」と自虐的な笑みを浮かべる。
「ただ、なまえはどうなのかなぁと思ってさ。
最近、元気もなかったし、今ならなまえを私達から掻っ攫うのは楽だろうな~って。」
「掻っ攫うって。」
言い回しが可笑しくて、私は笑ってしまう。
掻っ攫われるくらいの気持ちなら、一度、辞めることを許してもらえた調査兵団に、命を捧げる覚悟で戻っては来ない。
大切な人達のそばにいたいーそれだけでどんな困難にでも立ち向かおうと思える強さが湧いてくるなんて、そんな素敵なことを教えてくれたのも調査兵団なのだから。
「入るぞ。」
それは許可なのか、宣言なのか。
声と共に部屋に足を踏み入れたのはリヴァイ兵長だった。
ローテーブルで書類仕事中の姿の私とモブリットさんを見つけてもあまり驚いた顔をしなかったから、ここにいるのがハンジさんだけではないことは知っていたのかもしれない。
こうして、仕事中にバッタリ顔を合わせてしまうのはとても久しぶりな気がして、やっぱり避けられていたんだと改めて実感する。
チクリと胸が痛んだ。
でも、昨日までと違うのは、私がいることに気がついても、リヴァイ兵長が背を向けないということだ。
これはもう避けられていないという証拠なのだから、喜ぶべきだ。
私はやっと、ただの部下という名前を取り戻せたのだからー。
「エルヴィンからだ。」
ハンジさんのデスクの前に立ったリヴァイ兵長は、そう言って手紙のようなものを差し出した。
だが、ハンジさんは、幽霊でも見るような顔でリヴァイ兵長を見ていて、口を開けたまま動かない。
「おい、聞いてんのか。」
「…。」
「おいっ、クソ眼鏡っ。」
「…!あ…っ、ごめん。ごめんっ、何だっけ?」
リヴァイ兵長が少し声を大きめに呼ぶと、ハンジさんはやっとハッとして、意識が戻ってきたようだった。
でも、何も聞いてはいなかったらしく、リヴァイ兵長にため息を吐かせていた。
「エルヴィンに届いた手紙を持ってきた。ハンジも読んでおけ、だそうだ。
とにかく、エルヴィンから警戒しろと言われてる。
お前も、目を離さず見張っとけ。」
「あぁ、分かってる。そのつもりだよ。」
「なら、いいが。」
リヴァイ兵長はそう言うと、振り返った。
そして、私と目が合うと口を開いた。
「昼飯はしっかり食ったんだろうな。」
「はい。さっき、ハンジさん達と一緒に頂きました。完食です!」
「ならいい。」
私の答えに満足したのか、リヴァイ兵長は、もう一度、何かを見張るようにハンジさんに釘を刺した後、部屋を出て行った。
だから、仕事を再開しようと資料に視線を移そうとして、ハンジさんとモブリットさんが私を見ていることに気が付いた。
目が合ったモブリットさんは、さっき幽霊を見たような顔でリヴァイ兵長を見ていたハンジさんに似ている。
「…あの、どうしたんですか?」
「今、リヴァイ兵長と喋ってた、よな?」
呆然とした顔のままでモブリットさんに訊ねられて、ようやく合点がいく。
少し会話を交わしただけでハンジさんとモブリットさんを驚かせてしまうくらい、昨日までの私は、あからさまにリヴァイ兵長に嫌われていたのだろうー。
「お情けです。」
「お情け?」
私の答えに首を傾げたのは、ハンジさんだった。
でも、それ以上の答えは持ち合わせていない。
今の私とリヴァイ兵長の関係を言葉にするならそれは、お情け、だ。
仕方なく、昨日の夜、リヴァイ兵長が赦してくれただけなのだからー。
あぁ、そういえば聞いたことがある。
失恋を忘れるのには、新しい恋をするのが一番早いとー。
でも、新しい恋の相手なんて思いつかない。
そして、思い浮かんだ顔が1人ー。
「昔の婚約者にもう一度恋をするって、なんかロマンチックですかね。」
私は少し笑いながら、冗談のつもりで言ったのだけれどー。
「絶対ダメっ!!」
「ダメだっ!!」
必死な顔をしたハンジさんとモブリットさんに、猛烈に反対された。
ハンジさんの執務室兼自室で、ローテーブルにモブリットさんと並んで座って過去の分も合わせて書類を作成しては、デスク書類をまとめるハンジさんに渡すーという地道な作業を朝からずっと続けている。
この結果をもとに、巨人実験がいかに有意義なものなのかを王都に報告として提出し、また巨人実験を行えるようにお願いするのだ。
「ねぇ、なまえってさ。」
不意に、ハンジさんに声をかけられて、資料を見ながら寝そうになっていた顔を上げた。
「何ですか?」
「昔の婚約者のこと、まだ好き?」
「へ?」
大好きな研究のための資料を作っている最中に声をかけてくるものだから、どれだけ大切な話をされるのかと思っていた私は、恋話を振ってきたハンジさんに、ポカンと口を開けた間抜けな顔を晒してしまう。
モブリットさんが、隣で大きくため息をついている。
ほら、モブリットさんも、大切な仕事中になぜどうでもいい世間話を始めたのかと呆れているではないか。
「いや、ほらっ!無理やり私が調査兵団に誘ったせいで
結婚がダメになっちゃったからさっ。」
「へぇ~、自覚はあったんですね。」
「あ…、いや…、まぁ、そりゃあ…。」
ハンジさんは途端にしどろもどろになるから、私が笑いながら、気にしなくていいと伝える。
「私、今、すごく楽しいですよ。
調査兵団に入団してよかったって心から思ってるんです。
ハンジさんに感謝してます。だから、本当に、気にしないでください。」
微笑む私に、ハンジさんはなぜか困ったような笑みを浮かべた。
そして、僅かに目を伏せた後、そのままで口を開く。
「私はさ、なまえを調査兵団に入団させたことは後悔してないんだ。」
「それはよかったです。
後悔してるなんて言ったら、許さないですよ。」
私が少し意地悪く言うと、ハンジさんは「それもそうだね。」と自虐的な笑みを浮かべる。
「ただ、なまえはどうなのかなぁと思ってさ。
最近、元気もなかったし、今ならなまえを私達から掻っ攫うのは楽だろうな~って。」
「掻っ攫うって。」
言い回しが可笑しくて、私は笑ってしまう。
掻っ攫われるくらいの気持ちなら、一度、辞めることを許してもらえた調査兵団に、命を捧げる覚悟で戻っては来ない。
大切な人達のそばにいたいーそれだけでどんな困難にでも立ち向かおうと思える強さが湧いてくるなんて、そんな素敵なことを教えてくれたのも調査兵団なのだから。
「入るぞ。」
それは許可なのか、宣言なのか。
声と共に部屋に足を踏み入れたのはリヴァイ兵長だった。
ローテーブルで書類仕事中の姿の私とモブリットさんを見つけてもあまり驚いた顔をしなかったから、ここにいるのがハンジさんだけではないことは知っていたのかもしれない。
こうして、仕事中にバッタリ顔を合わせてしまうのはとても久しぶりな気がして、やっぱり避けられていたんだと改めて実感する。
チクリと胸が痛んだ。
でも、昨日までと違うのは、私がいることに気がついても、リヴァイ兵長が背を向けないということだ。
これはもう避けられていないという証拠なのだから、喜ぶべきだ。
私はやっと、ただの部下という名前を取り戻せたのだからー。
「エルヴィンからだ。」
ハンジさんのデスクの前に立ったリヴァイ兵長は、そう言って手紙のようなものを差し出した。
だが、ハンジさんは、幽霊でも見るような顔でリヴァイ兵長を見ていて、口を開けたまま動かない。
「おい、聞いてんのか。」
「…。」
「おいっ、クソ眼鏡っ。」
「…!あ…っ、ごめん。ごめんっ、何だっけ?」
リヴァイ兵長が少し声を大きめに呼ぶと、ハンジさんはやっとハッとして、意識が戻ってきたようだった。
でも、何も聞いてはいなかったらしく、リヴァイ兵長にため息を吐かせていた。
「エルヴィンに届いた手紙を持ってきた。ハンジも読んでおけ、だそうだ。
とにかく、エルヴィンから警戒しろと言われてる。
お前も、目を離さず見張っとけ。」
「あぁ、分かってる。そのつもりだよ。」
「なら、いいが。」
リヴァイ兵長はそう言うと、振り返った。
そして、私と目が合うと口を開いた。
「昼飯はしっかり食ったんだろうな。」
「はい。さっき、ハンジさん達と一緒に頂きました。完食です!」
「ならいい。」
私の答えに満足したのか、リヴァイ兵長は、もう一度、何かを見張るようにハンジさんに釘を刺した後、部屋を出て行った。
だから、仕事を再開しようと資料に視線を移そうとして、ハンジさんとモブリットさんが私を見ていることに気が付いた。
目が合ったモブリットさんは、さっき幽霊を見たような顔でリヴァイ兵長を見ていたハンジさんに似ている。
「…あの、どうしたんですか?」
「今、リヴァイ兵長と喋ってた、よな?」
呆然とした顔のままでモブリットさんに訊ねられて、ようやく合点がいく。
少し会話を交わしただけでハンジさんとモブリットさんを驚かせてしまうくらい、昨日までの私は、あからさまにリヴァイ兵長に嫌われていたのだろうー。
「お情けです。」
「お情け?」
私の答えに首を傾げたのは、ハンジさんだった。
でも、それ以上の答えは持ち合わせていない。
今の私とリヴァイ兵長の関係を言葉にするならそれは、お情け、だ。
仕方なく、昨日の夜、リヴァイ兵長が赦してくれただけなのだからー。
あぁ、そういえば聞いたことがある。
失恋を忘れるのには、新しい恋をするのが一番早いとー。
でも、新しい恋の相手なんて思いつかない。
そして、思い浮かんだ顔が1人ー。
「昔の婚約者にもう一度恋をするって、なんかロマンチックですかね。」
私は少し笑いながら、冗談のつもりで言ったのだけれどー。
「絶対ダメっ!!」
「ダメだっ!!」
必死な顔をしたハンジさんとモブリットさんに、猛烈に反対された。