◇第六十四話◇なんて悲劇的で美しい恋物語を君は
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
被験体襲撃事件から数日が経っても、犯人は分からないままだった。
そもそも巨人の実験に対して懐疑的な憲兵団は、本気で犯人を見つけようという気はないのだと思う。
とりあえず、かたちだけ捜査していることを示すために、立体起動装置のガス圧なんかを調べたりをしていたけれど、それからは何の音沙汰もない。
「あ…、また寝てた…。」
ノートに頬を押し当てて見える横向きの図書室の風景が、私の視界にぼんやりと広がる。
勉強をしていると、どうしても眠たくなってしまう。
夕飯の後、夜に勉強をしているのだし、眠たくなるのは人間として自然なのかもしれないけれど、基本的に、勉強というのが嫌いなのだ。
凄く馬鹿というわけではないとは思うのだけれど、子供のころからどちらかというと努力よりも器用にうまくやり過ごしてくるタイプだった。
こんな風に何かを必死に頑張る、というのは調査兵団に入ってからが初めてだった。
まぁ、命がかかっているのだから、頑張らないわけにはいかないというのもあるのだろうがー。
「んーっ。」
テーブルに突っ伏して眠っていたせいで丸くなった背骨を伸ばすように、私は身体を起こしながら両手を左右に思いっきり広げた。
すると、ハラリー、と肩から何かが落ちた。
「あ。」
椅子の下に落ちたのは、ブランケットだった。
また、だ。
拾い上げた私は、ブランケットを膝にかける。
これは、私が自分でかけたものではない。
でも、起きたときにブランケットがかかっているのは初めてのことではなかった。
図書室で勉強を始めてもう何日も経つが、いつの間にか眠っていた私の肩にブランケットがかかっていることがよくあった。
談話室で眠ってしまったときに、ブランケットをかけられていたことがあった。
あの日以来、何度かそんなことが続いている。
あれがミケ分隊長なら、このブランケットも彼なのだろうか。
「起きたか。」
やってきたのはミケ分隊長だった。
私が寝ていたことも知っていたみたいだし、やっぱりミケ分隊長がブランケットをかけてくれていたようだ。
「はい、今起きました。
このブランケット、いつもかけてくれてるのはミケ分隊長ですか?」
膝元に置いたブランケットを持ち上げて、ミケ分隊長に見せた。
「あ~…、そうだ。座学の知識は巨人討伐にも役立つ。
毎晩、とても感心している。」
「ありがとうございます。」
私は頬をかいた。
ミケ分隊長に褒められるなんて珍しくて、照れ臭い。
「それで、早速本題なのだが。」
そう言ったミケ分隊長は、テーブルを挟んだ席に腰をおろした。
「次回の壁外任務の延期が決まった。」
「そう、ですか。
それはやっぱり、被験体が殺されたからですか?」
「それもあるが…。」
「何ですか?教えてください。」
言い淀むミケ分隊長に、私は詰め寄るように訊ねた。
自分のせいで壁外任務が延期になったのではないかーそんな焦りに襲われる。
必死に訊ねる私に根負けしたのか、しばらくのにらみ合いの後、ミケ分隊長が静かに口を開いた。
「次回の壁外調査を反対する貴族が現れた。」
「貴族が壁外調査の反対ですか?どうして?」
「あー…それは、俺も分からん。」
ミケ分隊長は、私から目を反らして鼻をかく。
こんなに嘘が下手くそな人、私は初めて見た。
でも、ようやく口を開いたミケ分隊長が、そこは嘘を吐くということは、下っ端の私には言えない事情でもあるのだろう。
仕方がないー。
とにかく、壁外調査の反対がどうして壁外任務の延期という話に繋がるのかが分からない。
壁外調査はどうしても多額の資金がかかるせいで、王政の許可だけではなく、貴族ら有権者の発言力は大きい。
だが、比較的資金もかからない壁外任務は、それなりに調査兵団が力を持って遂行することが出来るはずだ。
「その気分屋か何か分からない貴族が壁外調査を反対したのは分かりました。
その貴族は、調査兵団が独断で実行可能な壁外任務にまで口を出したってことですか?
そんな権利のある有力な貴族ということですか?」
「まぁ、有力な貴族であることは確かだが、壁外任務にまでは口を出していない。
今のところは、だが。」
「それなら、なぜですか?」
「壁外調査を実行できないのであれば、今計画している壁外任務も実行する意味がないー。
そう、エルヴィンが判断した。」
「…そう、ですか。分かりました。」
「物分かりがよくて助かる。」
ミケ分隊長はホッと息を吐いた。
そもそも巨人の実験に対して懐疑的な憲兵団は、本気で犯人を見つけようという気はないのだと思う。
とりあえず、かたちだけ捜査していることを示すために、立体起動装置のガス圧なんかを調べたりをしていたけれど、それからは何の音沙汰もない。
「あ…、また寝てた…。」
ノートに頬を押し当てて見える横向きの図書室の風景が、私の視界にぼんやりと広がる。
勉強をしていると、どうしても眠たくなってしまう。
夕飯の後、夜に勉強をしているのだし、眠たくなるのは人間として自然なのかもしれないけれど、基本的に、勉強というのが嫌いなのだ。
凄く馬鹿というわけではないとは思うのだけれど、子供のころからどちらかというと努力よりも器用にうまくやり過ごしてくるタイプだった。
こんな風に何かを必死に頑張る、というのは調査兵団に入ってからが初めてだった。
まぁ、命がかかっているのだから、頑張らないわけにはいかないというのもあるのだろうがー。
「んーっ。」
テーブルに突っ伏して眠っていたせいで丸くなった背骨を伸ばすように、私は身体を起こしながら両手を左右に思いっきり広げた。
すると、ハラリー、と肩から何かが落ちた。
「あ。」
椅子の下に落ちたのは、ブランケットだった。
また、だ。
拾い上げた私は、ブランケットを膝にかける。
これは、私が自分でかけたものではない。
でも、起きたときにブランケットがかかっているのは初めてのことではなかった。
図書室で勉強を始めてもう何日も経つが、いつの間にか眠っていた私の肩にブランケットがかかっていることがよくあった。
談話室で眠ってしまったときに、ブランケットをかけられていたことがあった。
あの日以来、何度かそんなことが続いている。
あれがミケ分隊長なら、このブランケットも彼なのだろうか。
「起きたか。」
やってきたのはミケ分隊長だった。
私が寝ていたことも知っていたみたいだし、やっぱりミケ分隊長がブランケットをかけてくれていたようだ。
「はい、今起きました。
このブランケット、いつもかけてくれてるのはミケ分隊長ですか?」
膝元に置いたブランケットを持ち上げて、ミケ分隊長に見せた。
「あ~…、そうだ。座学の知識は巨人討伐にも役立つ。
毎晩、とても感心している。」
「ありがとうございます。」
私は頬をかいた。
ミケ分隊長に褒められるなんて珍しくて、照れ臭い。
「それで、早速本題なのだが。」
そう言ったミケ分隊長は、テーブルを挟んだ席に腰をおろした。
「次回の壁外任務の延期が決まった。」
「そう、ですか。
それはやっぱり、被験体が殺されたからですか?」
「それもあるが…。」
「何ですか?教えてください。」
言い淀むミケ分隊長に、私は詰め寄るように訊ねた。
自分のせいで壁外任務が延期になったのではないかーそんな焦りに襲われる。
必死に訊ねる私に根負けしたのか、しばらくのにらみ合いの後、ミケ分隊長が静かに口を開いた。
「次回の壁外調査を反対する貴族が現れた。」
「貴族が壁外調査の反対ですか?どうして?」
「あー…それは、俺も分からん。」
ミケ分隊長は、私から目を反らして鼻をかく。
こんなに嘘が下手くそな人、私は初めて見た。
でも、ようやく口を開いたミケ分隊長が、そこは嘘を吐くということは、下っ端の私には言えない事情でもあるのだろう。
仕方がないー。
とにかく、壁外調査の反対がどうして壁外任務の延期という話に繋がるのかが分からない。
壁外調査はどうしても多額の資金がかかるせいで、王政の許可だけではなく、貴族ら有権者の発言力は大きい。
だが、比較的資金もかからない壁外任務は、それなりに調査兵団が力を持って遂行することが出来るはずだ。
「その気分屋か何か分からない貴族が壁外調査を反対したのは分かりました。
その貴族は、調査兵団が独断で実行可能な壁外任務にまで口を出したってことですか?
そんな権利のある有力な貴族ということですか?」
「まぁ、有力な貴族であることは確かだが、壁外任務にまでは口を出していない。
今のところは、だが。」
「それなら、なぜですか?」
「壁外調査を実行できないのであれば、今計画している壁外任務も実行する意味がないー。
そう、エルヴィンが判断した。」
「…そう、ですか。分かりました。」
「物分かりがよくて助かる。」
ミケ分隊長はホッと息を吐いた。