◇第六十二話◇夜明け前の事件
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ついさっきまでは白かった空に少しずつ青色が足されていく。
訓練場を照らし始めた太陽の光が自主練に励んだアルミンの額の汗を輝かせた。
「ふぅ~…。」
額の汗を腕でぬぐって、アルミンは外した立体起動装置を保管庫に片付ける。
自分の体力や筋力が他の調査兵達に劣ることは、調査兵団に入団する前から覚悟していた。
一緒に新兵として入団したエレン達は成績上位の10位以内の新兵ばかりで、そこでもやっぱり差が出ていることも自覚している。
だから、調査兵団に入団してからはこうして朝早くに自主練に励んでいた。
時々、アルミンと同じように朝の自主練をしている調査兵達もいるから、その動きを見て勉強できるのも自主練のメリットだ。
今日は特にレベルの高い自主練を見ることが出来たーとアルミンはとても満足していた。
保管庫を出て兵舎に戻る途中、目の前を1人の調査兵が慌てた様子で走り抜けて行った。
調査兵団が一番小さな兵団だと言っても、それなりに兵士の数は多いから、全員の名前を覚えることは出来ていない。
でも、真っ青な顔で走り抜けて行った調査兵の名前ならば、新兵のアルミンも知っていた。
第四分隊の副隊長のモブリット・バーナー。ハンジの右腕として新兵にも有名で、一緒にいるところをよく見かけていた。
「モブリットさん?」
いつもおっとりした雰囲気のモブリットが慌てている様子は、アルミンにはとても意外だった。
とにかく、何か問題が起きたのは確かなようだ。
気になって、アルミンは彼が走り抜けて行った方へと向かった。
騒ぎの場所に近づくにつれて、調査兵達の数は多くなっていった。
どうやら、巨人研究所で何かあったらしい。
巨人研究所に入ったアルミンは、見知った顔を見つけて駆け寄った。
「エレンっ!何があったの?」
呆然と立ち尽くしていたエレンは、アルミンに声をかけられてビクッと肩を揺らした。
「あ…、なんだ、アルミンか。」
「ねぇ、どうしたの?」
「被験体の巨人が、殺されたー。」
エレンに言われて、研究所の中央で白い蒸気が上がっていることにアルミンもようやく気が付いた。
さっきのモブリットほどではないかもしれないが、アルミンも真っ青な顔をして、人垣を抜けて騒ぎの中心へ走った。
「嘘だ…。」
目の前に見えた光景に、アルミンは絶句した。
エレン達が必死に捕まえた2体の巨人は無残にも殺され、白い蒸気の下で白骨化している。
白骨化した巨人の死体の前で、ハンジは頭を抱えて悲痛な叫び声を上げていた。
あの巨人は、ただの被験体じゃない。
ルルが命を賭して残した未来への希望の材料になるはずだった巨人なのだ。
それなのに、どうしてー。
「ウソだろ…。兵士がやったのか?」
近くで、先輩兵士もまた、アルミンのように絶句した顔で呟いていた。
「あぁ、犯人はまだ見つかってないって。
夜明け前に2体同時にやられたらしい。
見張りが気づいた時には立体起動装置で遥か遠くだ。」
「二人以上の計画的作戦ってワケか。
見ろよ、ハンジ分隊長がご乱心だ。」
「貴重な被験体なのに…、一体どこのバカが…。」
「バカじゃなかったら何なんだろうな…。
見当もつかんよ。」
調査兵達の戸惑いや困惑、怒りがザワザワした騒ぎの中でアルミンの耳に届く。
本当に信じられない。
一体誰が、何のためにー。
「私、犯人を見ましたっ!」
ふいに、堂々と天に伸ばされた手と大きな声に、集まっていた調査兵達の視線が集まった。
さっきまでとは違う驚きと混乱が調査兵達を襲い、また一層騒がしくなる。
彼女は、アルミンには見覚えのない兵士だった。
だが、兵団服から調査兵団の兵士であることは分かる。
「本当かっ!?誰を見たんだっ!!教えてくれ!!!」
騒ぎに気づいたらしいモブリットが走ってやってきて、犯人を見たという女兵士に詰め寄った。
彼女は、自分に集まる視線が十分に集まったのを確認した後、もったいつけるようにゆっくりとその名前を告げた。
「私が見たのは、自由の翼とその右下に添えられた小さな自由の翼。
-親友の勇敢な死を汚したソイツの名前は、なまえ・みょうじです。」
彼女はモブリットさんの顔を、勝ち誇った瞳で見上げていた。
まるで、とても素晴らしい功績を残した兵士みたいな顔でー。
それには似合わない嫌な笑みで、口元を意地悪く歪めていたー。
「え…。」
モブリットさんの小さな呟きが、アルミンの耳にも届くほど、さっきまで騒がしかった巨人研究所は、いつの間にかシンと静まり返っていた。
「おい、ジーニー。それはどういうことだ。
お前は何を見た。」
どこから現れたのか、リヴァイがやってきて、犯人になまえの名前を告げた女兵士に言った。
訊ねるというよりも、嘘をつくなーと怒っているみたいだった。
その後ろに立つエルヴィンも、難しい顔をしているけれど、彼女の言葉をまるきり信じているわけではない気がして、アルミンは少し安心した。
でもー。
「逃げていく背中が見えたんです。
そこで、私はなまえの調査兵団のマントをハッキリとこの目で見ました!」
「つまり、てめぇはなまえが巨人を殺すところも見てなければ、
顔を見たわけでもなく、背中だけで犯人扱いをしたってわけか。あぁ?」
リヴァイは、女兵士の胸ぐらを掴み上げた。
それをエルヴィンも止めようとはしないし、集まった他の調査兵達もまさかなまえが被験体を殺すなんて信じられず、彼女の言葉を受け止められずにいるようだった。
「みんな知ってるはずでしょうっ!?なまえが自分の兵団マントに
ルルの紋章を縫い付けたのを!!私はそれを見たんですっ!!
あんなおかしな兵団マントをつけてるのなんて、なまえしかいないわ!!」
リヴァイにジーニーと呼ばれたその女兵士が叫んだ。
その途端に、他の調査兵達がザワザワし始める。
あの日、談話室でミカサがなまえの兵団マントにルルの紋章を縫い付けているのを見た調査兵はたくさんいる。
それに、最近、なまえは訓練のときにも兵団マントをつけてくるようになったから、彼女の背中には親友の翼も生えていることをみんなが知っていた。
だから、みんな、本当になまえが犯人なのではないかと疑い始める。
でも、彼女じゃないー!
「そんなはずないっ!!だって、なまえさんはさっきまでー。」
「おーい、どうしたんだよ。みんな、そんなとこに集まって。」
騒ぎの向こうからジャンの声がした。
もしかしてー。
そう思って、アルミンは慌てて後ろを振り向く。
まるで、花道でも作るように大勢の調査兵達が左右に別れていく。
そして、調査兵達が作った道の向こうに見えたのはジャンと、その隣にはー。
「ん?」
不思議そうに首を傾げたなまえの髪を、太陽の光がキラキラと輝かせた。
不意に、優しい風が吹く。
彼女が背負う自由の翼が、何かを訴えるように揺れているように見えた。
訓練場を照らし始めた太陽の光が自主練に励んだアルミンの額の汗を輝かせた。
「ふぅ~…。」
額の汗を腕でぬぐって、アルミンは外した立体起動装置を保管庫に片付ける。
自分の体力や筋力が他の調査兵達に劣ることは、調査兵団に入団する前から覚悟していた。
一緒に新兵として入団したエレン達は成績上位の10位以内の新兵ばかりで、そこでもやっぱり差が出ていることも自覚している。
だから、調査兵団に入団してからはこうして朝早くに自主練に励んでいた。
時々、アルミンと同じように朝の自主練をしている調査兵達もいるから、その動きを見て勉強できるのも自主練のメリットだ。
今日は特にレベルの高い自主練を見ることが出来たーとアルミンはとても満足していた。
保管庫を出て兵舎に戻る途中、目の前を1人の調査兵が慌てた様子で走り抜けて行った。
調査兵団が一番小さな兵団だと言っても、それなりに兵士の数は多いから、全員の名前を覚えることは出来ていない。
でも、真っ青な顔で走り抜けて行った調査兵の名前ならば、新兵のアルミンも知っていた。
第四分隊の副隊長のモブリット・バーナー。ハンジの右腕として新兵にも有名で、一緒にいるところをよく見かけていた。
「モブリットさん?」
いつもおっとりした雰囲気のモブリットが慌てている様子は、アルミンにはとても意外だった。
とにかく、何か問題が起きたのは確かなようだ。
気になって、アルミンは彼が走り抜けて行った方へと向かった。
騒ぎの場所に近づくにつれて、調査兵達の数は多くなっていった。
どうやら、巨人研究所で何かあったらしい。
巨人研究所に入ったアルミンは、見知った顔を見つけて駆け寄った。
「エレンっ!何があったの?」
呆然と立ち尽くしていたエレンは、アルミンに声をかけられてビクッと肩を揺らした。
「あ…、なんだ、アルミンか。」
「ねぇ、どうしたの?」
「被験体の巨人が、殺されたー。」
エレンに言われて、研究所の中央で白い蒸気が上がっていることにアルミンもようやく気が付いた。
さっきのモブリットほどではないかもしれないが、アルミンも真っ青な顔をして、人垣を抜けて騒ぎの中心へ走った。
「嘘だ…。」
目の前に見えた光景に、アルミンは絶句した。
エレン達が必死に捕まえた2体の巨人は無残にも殺され、白い蒸気の下で白骨化している。
白骨化した巨人の死体の前で、ハンジは頭を抱えて悲痛な叫び声を上げていた。
あの巨人は、ただの被験体じゃない。
ルルが命を賭して残した未来への希望の材料になるはずだった巨人なのだ。
それなのに、どうしてー。
「ウソだろ…。兵士がやったのか?」
近くで、先輩兵士もまた、アルミンのように絶句した顔で呟いていた。
「あぁ、犯人はまだ見つかってないって。
夜明け前に2体同時にやられたらしい。
見張りが気づいた時には立体起動装置で遥か遠くだ。」
「二人以上の計画的作戦ってワケか。
見ろよ、ハンジ分隊長がご乱心だ。」
「貴重な被験体なのに…、一体どこのバカが…。」
「バカじゃなかったら何なんだろうな…。
見当もつかんよ。」
調査兵達の戸惑いや困惑、怒りがザワザワした騒ぎの中でアルミンの耳に届く。
本当に信じられない。
一体誰が、何のためにー。
「私、犯人を見ましたっ!」
ふいに、堂々と天に伸ばされた手と大きな声に、集まっていた調査兵達の視線が集まった。
さっきまでとは違う驚きと混乱が調査兵達を襲い、また一層騒がしくなる。
彼女は、アルミンには見覚えのない兵士だった。
だが、兵団服から調査兵団の兵士であることは分かる。
「本当かっ!?誰を見たんだっ!!教えてくれ!!!」
騒ぎに気づいたらしいモブリットが走ってやってきて、犯人を見たという女兵士に詰め寄った。
彼女は、自分に集まる視線が十分に集まったのを確認した後、もったいつけるようにゆっくりとその名前を告げた。
「私が見たのは、自由の翼とその右下に添えられた小さな自由の翼。
-親友の勇敢な死を汚したソイツの名前は、なまえ・みょうじです。」
彼女はモブリットさんの顔を、勝ち誇った瞳で見上げていた。
まるで、とても素晴らしい功績を残した兵士みたいな顔でー。
それには似合わない嫌な笑みで、口元を意地悪く歪めていたー。
「え…。」
モブリットさんの小さな呟きが、アルミンの耳にも届くほど、さっきまで騒がしかった巨人研究所は、いつの間にかシンと静まり返っていた。
「おい、ジーニー。それはどういうことだ。
お前は何を見た。」
どこから現れたのか、リヴァイがやってきて、犯人になまえの名前を告げた女兵士に言った。
訊ねるというよりも、嘘をつくなーと怒っているみたいだった。
その後ろに立つエルヴィンも、難しい顔をしているけれど、彼女の言葉をまるきり信じているわけではない気がして、アルミンは少し安心した。
でもー。
「逃げていく背中が見えたんです。
そこで、私はなまえの調査兵団のマントをハッキリとこの目で見ました!」
「つまり、てめぇはなまえが巨人を殺すところも見てなければ、
顔を見たわけでもなく、背中だけで犯人扱いをしたってわけか。あぁ?」
リヴァイは、女兵士の胸ぐらを掴み上げた。
それをエルヴィンも止めようとはしないし、集まった他の調査兵達もまさかなまえが被験体を殺すなんて信じられず、彼女の言葉を受け止められずにいるようだった。
「みんな知ってるはずでしょうっ!?なまえが自分の兵団マントに
ルルの紋章を縫い付けたのを!!私はそれを見たんですっ!!
あんなおかしな兵団マントをつけてるのなんて、なまえしかいないわ!!」
リヴァイにジーニーと呼ばれたその女兵士が叫んだ。
その途端に、他の調査兵達がザワザワし始める。
あの日、談話室でミカサがなまえの兵団マントにルルの紋章を縫い付けているのを見た調査兵はたくさんいる。
それに、最近、なまえは訓練のときにも兵団マントをつけてくるようになったから、彼女の背中には親友の翼も生えていることをみんなが知っていた。
だから、みんな、本当になまえが犯人なのではないかと疑い始める。
でも、彼女じゃないー!
「そんなはずないっ!!だって、なまえさんはさっきまでー。」
「おーい、どうしたんだよ。みんな、そんなとこに集まって。」
騒ぎの向こうからジャンの声がした。
もしかしてー。
そう思って、アルミンは慌てて後ろを振り向く。
まるで、花道でも作るように大勢の調査兵達が左右に別れていく。
そして、調査兵達が作った道の向こうに見えたのはジャンと、その隣にはー。
「ん?」
不思議そうに首を傾げたなまえの髪を、太陽の光がキラキラと輝かせた。
不意に、優しい風が吹く。
彼女が背負う自由の翼が、何かを訴えるように揺れているように見えた。