◇第六十一話◇閉じるしかなった心の扉
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客人用の部屋といっても、出張でトロスト区の調査兵団本部にやってきた兵士が泊りに使う部屋だからか、とても質素なものだった。
でも、寝て起きるだけなら充分だとアニは特に気にする様子もなく、荷物を棚の上に置いた。
そして、私の部屋でもそうしていたように、私とアニは隣に並んでソファに座った。
「そういえば、さっきのジャンは何だったの?」
「今度の壁外任務が危険って聞いて心配してくれたみたい。」
「へぇ、アイツが他人の心配ね。調査兵団に入るとか言い出すし、
変わったんだね。」
「そういえば、ジャンは憲兵になりたかったんだってエレンも言ってたな。」
「そう、それでよくエレンと喧嘩してたんだけどね。
まさか、アイツまで調査兵団に入るとか言い出すとは思わなかったから驚いたよ。」
そう言って、いつもは私が振る話題に答えることの多いアニが、ポツリ、ポツリ、と104期との訓練兵時代の思い出話を始めた。
エレン達からも聞いたことがある話も合ったけれど、アニから見た彼らの姿というのはまた違う一面もあって、面白かった。
「アタシさ、絶対に故郷に帰りたいんだ…。どんなことをしても。
誰を、傷つけても。」
たくさんの思い出話を聞いた後、アニは最後にそう呟くように言った。
小さな声だったけれど、その決意を乗せた音はとても重たく、私の胸にしっかりと届いた。
確か、前に話を聞いた時に、アニの故郷はウォール・マリア南東の山奥の村だと言っていた。
巨人に奪われた自分の故郷に帰りたいー彼女の強い願いが垣間見えて、私は胸が苦しくなる。
「大丈夫、きっと帰れるよ。
ちゃんとアニが自分の家に帰れるように、私、頑張るから。
安心して待っててね。」
アニの髪をクシャリと撫でると、一瞬、泣きそうに口元が歪んだ。
でも、それはほんの一瞬で、すぐに「ありがとう。」と小さな声が返ってきた。
「アニと同郷の友達はいるの?」
「あー…、ライナーとベルトルトがそうだね。」
「へぇ、そうなんだ。だから、さっき、アニを見つけて話しかけてきたんだね。」
「まぁ、そうかもね。」
アニはあまり興味なさそうに言う。
久しぶりだと声をかけてきたライナーとベルトルトを思い出した。
最近よく声を掛けられるようになったけれど、いつも壁外調査や巨人の実験のことを話していて、プライベートな話はしたことがない。
彼らもまた、巨人に大切な故郷を奪われ、そして調査兵団に入ったのか。
この世界に住む誰もが、巨人によって苦しい思いをしているのかもしれない。
「じゃあ、ライナーとベルトルトも一緒に故郷に帰りたいね。」
「そうだね。アイツらも故郷に帰るために頑張ってる。
だから、絶対に帰りたい。みんなで、絶対に。絶対に。生きて…!」
決意を確かめるみたいに、アニは自分の拳を握りしめる。
瞳にまで力が入って、震えるその拳は、爪が食い込んでしまうんじゃないかと心配になるほどで、私は思わず自分の手で優しく包み込んだ。
「大丈夫。ライナーとベルトルトは筋がいいっていつも言われてるし、
アニも頑張ってる。だから、ちゃんと帰れるよ。」
「…うん。」
頷いたアニは、自分の手を包む私の手から逃げるように話題を変えた。
「ねぇ、アンタってなんで調査兵団に入ったの。
前に言ってたよね、自分は訓練兵団を経てないって。
それって、民間人からいきなり調査兵団に入ったってことでしょ?」
「元々は家族のためだったんだけど、今は自分のためかなぁ。」
「アンタもあのバカみたいに巨人を駆逐したいってこと?」
「まぁ、巨人にはいなくなってほしいけど、
それよりも私はただ、生きている限り、大切な人達のそばにいたいだけかな。」
「生きてる限りって、調査兵団の兵士なんかしてたらすぐに死ぬよ。」
「仕方ないよ、一緒にいたい人達が命を懸けて戦ってる調査兵団の兵士なんだもの。
だから、私も一緒に戦うの。そして、私が死んでも、
みんなが幸せに生きている世界が来るために、心臓を捧げるの。」
私の答えを聞いたアニは、小さく「そう。」と呟いて目を伏せた。
どうしたのだろう。
やっぱり、今日のアニはどこか様子がおかしい。
何か、思いつめているようなー。
「もしかして、私に調査兵をやめてほしいの?」
なんとなく、そんな気がして訊ねた。
アニは勢いよく顔を上げた後、嘲笑うような、彼女には似合わない笑みを浮かべた。
「まさか。そんなくだらないことで自分の命を捨てるアンタのことを
馬鹿だと思っただけだよ。」
「…そっか。」
嘲るように言うアニの表情に、胸が痛くなった。
だから、私はアニの頭を撫でる。
彼女に何があったのかは分からないけれど、きっと教えてもくれないのだろうけど、そんな悲しい顔をしないで欲しかった。
「アンタってさ。」
「ん?」
「本当に、馬鹿だね。」
それだけ言って、アニはもうそろそろ寝る準備をするからとソファを立ち上がった。
そして、部屋を出る私は、扉まで送ってくれたアニに訊ねた。
「明日は何時の馬車に乗るの?見送りに行くよ。」
「いいよ、始発にするから、朝早いし。」
「頑張って起きるよ。」
「見送りとか子供みたいで恥ずかしいし、要らない。」
「そんなもんなの?」
「そんなもん。」
「そっか、わかった。じゃあ、今度は私が遊びに行くね。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
そんなにキッパリと拒否されてしまうと、無理に見送りにも行けない。
見送りは恥ずかしいものなのかとも思って、私は諦めた。
パタン、と静かに閉まる扉の音は、アニの心の扉だったのかもしれない。
(私も明日は早いし、今日は勉強しないで寝ようかな~。)
何も知らない私は、明日もいつも通りの朝が来ると信じて疑わなかった。
でも、寝て起きるだけなら充分だとアニは特に気にする様子もなく、荷物を棚の上に置いた。
そして、私の部屋でもそうしていたように、私とアニは隣に並んでソファに座った。
「そういえば、さっきのジャンは何だったの?」
「今度の壁外任務が危険って聞いて心配してくれたみたい。」
「へぇ、アイツが他人の心配ね。調査兵団に入るとか言い出すし、
変わったんだね。」
「そういえば、ジャンは憲兵になりたかったんだってエレンも言ってたな。」
「そう、それでよくエレンと喧嘩してたんだけどね。
まさか、アイツまで調査兵団に入るとか言い出すとは思わなかったから驚いたよ。」
そう言って、いつもは私が振る話題に答えることの多いアニが、ポツリ、ポツリ、と104期との訓練兵時代の思い出話を始めた。
エレン達からも聞いたことがある話も合ったけれど、アニから見た彼らの姿というのはまた違う一面もあって、面白かった。
「アタシさ、絶対に故郷に帰りたいんだ…。どんなことをしても。
誰を、傷つけても。」
たくさんの思い出話を聞いた後、アニは最後にそう呟くように言った。
小さな声だったけれど、その決意を乗せた音はとても重たく、私の胸にしっかりと届いた。
確か、前に話を聞いた時に、アニの故郷はウォール・マリア南東の山奥の村だと言っていた。
巨人に奪われた自分の故郷に帰りたいー彼女の強い願いが垣間見えて、私は胸が苦しくなる。
「大丈夫、きっと帰れるよ。
ちゃんとアニが自分の家に帰れるように、私、頑張るから。
安心して待っててね。」
アニの髪をクシャリと撫でると、一瞬、泣きそうに口元が歪んだ。
でも、それはほんの一瞬で、すぐに「ありがとう。」と小さな声が返ってきた。
「アニと同郷の友達はいるの?」
「あー…、ライナーとベルトルトがそうだね。」
「へぇ、そうなんだ。だから、さっき、アニを見つけて話しかけてきたんだね。」
「まぁ、そうかもね。」
アニはあまり興味なさそうに言う。
久しぶりだと声をかけてきたライナーとベルトルトを思い出した。
最近よく声を掛けられるようになったけれど、いつも壁外調査や巨人の実験のことを話していて、プライベートな話はしたことがない。
彼らもまた、巨人に大切な故郷を奪われ、そして調査兵団に入ったのか。
この世界に住む誰もが、巨人によって苦しい思いをしているのかもしれない。
「じゃあ、ライナーとベルトルトも一緒に故郷に帰りたいね。」
「そうだね。アイツらも故郷に帰るために頑張ってる。
だから、絶対に帰りたい。みんなで、絶対に。絶対に。生きて…!」
決意を確かめるみたいに、アニは自分の拳を握りしめる。
瞳にまで力が入って、震えるその拳は、爪が食い込んでしまうんじゃないかと心配になるほどで、私は思わず自分の手で優しく包み込んだ。
「大丈夫。ライナーとベルトルトは筋がいいっていつも言われてるし、
アニも頑張ってる。だから、ちゃんと帰れるよ。」
「…うん。」
頷いたアニは、自分の手を包む私の手から逃げるように話題を変えた。
「ねぇ、アンタってなんで調査兵団に入ったの。
前に言ってたよね、自分は訓練兵団を経てないって。
それって、民間人からいきなり調査兵団に入ったってことでしょ?」
「元々は家族のためだったんだけど、今は自分のためかなぁ。」
「アンタもあのバカみたいに巨人を駆逐したいってこと?」
「まぁ、巨人にはいなくなってほしいけど、
それよりも私はただ、生きている限り、大切な人達のそばにいたいだけかな。」
「生きてる限りって、調査兵団の兵士なんかしてたらすぐに死ぬよ。」
「仕方ないよ、一緒にいたい人達が命を懸けて戦ってる調査兵団の兵士なんだもの。
だから、私も一緒に戦うの。そして、私が死んでも、
みんなが幸せに生きている世界が来るために、心臓を捧げるの。」
私の答えを聞いたアニは、小さく「そう。」と呟いて目を伏せた。
どうしたのだろう。
やっぱり、今日のアニはどこか様子がおかしい。
何か、思いつめているようなー。
「もしかして、私に調査兵をやめてほしいの?」
なんとなく、そんな気がして訊ねた。
アニは勢いよく顔を上げた後、嘲笑うような、彼女には似合わない笑みを浮かべた。
「まさか。そんなくだらないことで自分の命を捨てるアンタのことを
馬鹿だと思っただけだよ。」
「…そっか。」
嘲るように言うアニの表情に、胸が痛くなった。
だから、私はアニの頭を撫でる。
彼女に何があったのかは分からないけれど、きっと教えてもくれないのだろうけど、そんな悲しい顔をしないで欲しかった。
「アンタってさ。」
「ん?」
「本当に、馬鹿だね。」
それだけ言って、アニはもうそろそろ寝る準備をするからとソファを立ち上がった。
そして、部屋を出る私は、扉まで送ってくれたアニに訊ねた。
「明日は何時の馬車に乗るの?見送りに行くよ。」
「いいよ、始発にするから、朝早いし。」
「頑張って起きるよ。」
「見送りとか子供みたいで恥ずかしいし、要らない。」
「そんなもんなの?」
「そんなもん。」
「そっか、わかった。じゃあ、今度は私が遊びに行くね。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
そんなにキッパリと拒否されてしまうと、無理に見送りにも行けない。
見送りは恥ずかしいものなのかとも思って、私は諦めた。
パタン、と静かに閉まる扉の音は、アニの心の扉だったのかもしれない。
(私も明日は早いし、今日は勉強しないで寝ようかな~。)
何も知らない私は、明日もいつも通りの朝が来ると信じて疑わなかった。