◇第六十話◇星のない夜
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜になっても降りやまない雨は、相変わらず土砂降りのままで、談話室の大きな窓を叩き割ろうとしているようだった。
でも、私はそんなこと気にもしないで、ミカサの手元をワクワクした顔で見ていた。
アルミンとエレンも興味深々で観察している。
器用な手の動きが芸術的だ。尊敬する。
「もう最悪だ、なんでこんな日に俺が見回りなんだよっ、たく。
傘さしても濡れるってどういうことだよっ!
ベルトルトが風邪とかなんだよそれ、身体が弱すぎだっつーのっ。」
「仕方ないよ。ベルトルトも昨日までずっと雨の中、見回りしてたんだし。
助け合わなくちゃ。明日は私達が頑張るからさ。」
「さすが、私のクリスタっ!優しい子だなぁ~。
そこの馬とは月とすっぽんだっ!」
「馬なのか、月なのか、すっぽんなのか、どれかにしろよな~。」
「私はパァァンがいいと思います!」
何やら文句を言いながら談話室に入ってきたジャンの声に気づいて顔を上げて驚いた。
ジャンの髪と肩、そして、足元がびしょ濡れになっている。
一応、肩にかけたタオルで頭を拭いてはいるけれど、頭から滴る水に嘲笑われているようだった。
見回りはジャンだけだったらしく、そこで会って合流しただけというクリスタ達は全く濡れていなかった。
土砂降りの中の見回りは最悪だ、でも俺は頑張ったーというのを、たぶん、エレンに威張って言い出したジャンは、ミカサの手元に気づいて覗き込みながら訊ねた。
「何やってんだ、ミカサ?それ、お前のか?」
「違う。なまえさんに頼まれて、仕方なく縫ってるだけ。
縫い物が出来ないとか言うから。」
「なまえさんの?じゃあ、その紋章って…。」
ジャンは、私の兵団マントの右端に縫い付けられていく自由の翼の紋章を見て言い淀んだ。
なぜか申し訳なさそうにこちらを向いたびしょ濡れのジャンが可笑しくて、私はクスリと笑う。
「おいで、ジャン。ここ座って。」
私は近くの椅子を背もたれをこちらに向けて自分の前に持ってくると、そこに座るようにジャンを促した。
ジャンは不思議そうにしながらも言われた通りに背中をこちらに向けて腰をおろす。
大きなジャンの背中がびしょ濡れで、こんな土砂降りの日まで見回りなんて兵士というのは本当に大変だと感心する。
だから、せめてもの労わり心だ。
立ち上がった私は、ジャンの肩に乗っているタオルを手に取ると、シャワー後みたいに雨を滴らせてる髪に触れた。
「わぁっ!何っ!?」
「動かないで~、上手に拭けないからね~。」
「いいっすよっ!自分で出来るからっ!」
「いいの、いいの。土砂降りの中の見回りは疲れたでしょ。
ここはお姉さんに甘えておきなさい。」
ジャンが暴れて抵抗するから、私は顔を覗き込む。
私と目が合った後、ジャンがようやくおとなしくなったので、私はまた濡れた髪をタオルで拭き始めた。
そうしていると、ユミルが不思議そうにジャンの顔を覗き込んだ。そして、何かに気づいたような驚いた顔をした後に、面白いオモチャでも見つけた子供のように目を輝かせた。
「おい、お馬さん、顔が赤いけど、どうしたんだ?」
ニヤニヤと意地悪くユミルが言うと、すぐにサシャとコニーが参戦してきた。
「うおーーっ!赤い絵の具塗ったみたいな顔になってんぞっ!」
「あらあら、ジャン坊、どうしちゃったんですかぁ?
ママを思い出してしまったんですかねぇ。」
嬉しそうにからかうコニーと、本当に悪い顔をしてニヤけるサシャにジャンは必死に言い返している。
窓を叩く雨の音の方がうるさかった談話室が、一気に笑い声で騒がしくなった。
やっぱり、私にとっての同期だと呼べる彼らとの時間はとても楽しい。
彼らは、お姉さんと慕ってくれるけれど、私は弟とも妹とも違う彼らのことを、いろんな面で頼りにしている。
「ったく、うるせーなっ!お前らっ!散れ散れっ!」
いつまでもしつこくからかい続けるユミル達をジャンが手で払おうとする。
だが、コニーとサシャだけならまだしも、ユミルがいれば、返り討ちに合うことになる。
「私達には散ってほしいのに、
お姉ちゃんに髪を拭いてもらうのは別にいいのか?」
「俺は見回りで疲れたんだっ!少しくらい労わってもらってもいいはずだっ!!」
「へぇ、本当にそれだけか?甘えん坊のジャン坊さん。」
意地悪く言うユミルに「うるせーっ!」とジャンは怒るけれど、髪を拭くことはダメと言わないところが可笑しくて、私も笑ってしまった。
意外と甘えん坊なのだろうか。
そう思っていたら、サシャが、ジャンは母親にとても愛されているのだと教えてくれた。
恥ずかしそうに「違う!」と否定するジャンだけれど、母親に大切にしてもらっているなんて素敵なことだ。
とても、幸せなことだ。
ふと、地下街が自分の生まれ育った場所だと言ったときのリヴァイ長の顔を思い出した。
家族はいないーそう言っていたっけ。
どんな風に大人になって、どんな風に命を懸けて守りたいと思える仲間を見つけてきたのだろう。
リヴァイ兵長は幼い頃からずっと、強かったのだろうかー。
相も変わらず、嫌われても尚忘れられない人のことを考えてしまっている私の頭の中を覗かれたみたいに、エレンがその人の名前を話題に出した。
「そういえば、ジャン。
リヴァイ兵長も一緒に見回りだったのか?」
「リヴァイ兵長?いや、見回りは新兵の仕事だからな。
そんなこと兵長がするわけねぇよ。」
「そうだよなぁ~…。今日はリヴァイ班も室内待機だったはずだしなぁ。」
エレンがしきりに首を傾げる。
何かあったのだろうか。
「リヴァイ兵長がどうかしたの?」
私の疑問を訊ねてくれたのは、アルミンだった。
「昼飯の後、見たんだよ。
食事室から部屋に戻るときだったんだけど、
今のジャンみたいにびしょ濡れだったんだよなぁ。」
「じゃあ、兵舎の外で大事な仕事があったんじゃない?
リヴァイ班は室内待機でも、兵長は他にも仕事があるだろうし。」
クリスタに言われ、エレンも納得したようだった。
お昼の後ということは、会議が終わって少ししてからということだ。
会議の後にも兵舎の外で仕事があったということか。
なんだかすごく不機嫌そうに会議室を出て行ったけれど、大丈夫だっただろうか。
そんなことを考えていると、クリスタに話しかけられた。
「なまえさんは、今日は、ルルさんのご両親のところに行っていたんですか?」
「これ、私が貰いに行ったんじゃないの。
今日の会議で壁外任務に出ることが決まった後に
ミケ分隊長が気を遣って、ルルのご両親に貰いに行ってくれたの。」
「え?でも、ミケ分隊長はずっと私達と一緒にー。」
「はい、出来ました。」
ミカサが兵団マントを私に差し出す。
私は、礼を言ってから受け取り、兵団マントを広げた。
中央にある大きな自由の翼、その右下に縫い付けられた小さな自由の翼。
私は、この自由の翼が一緒にいる限り、強くいられる。
私の世界一の味方でいてくれる強い兵士が、ずっと私の背中にいてくれるなんて、なんて心強いんだろう。
だって、ルルが言っていた。
私達はふたりでひとつで、一緒ならなんだって乗り越えらえられるだってー。
「ありがとう。」
私は兵団マントを抱きしめた。
いつもの私の兵団マントなのに、なんだかとても優しくて甘い果物みたいな香りがした。
でも、私はそんなこと気にもしないで、ミカサの手元をワクワクした顔で見ていた。
アルミンとエレンも興味深々で観察している。
器用な手の動きが芸術的だ。尊敬する。
「もう最悪だ、なんでこんな日に俺が見回りなんだよっ、たく。
傘さしても濡れるってどういうことだよっ!
ベルトルトが風邪とかなんだよそれ、身体が弱すぎだっつーのっ。」
「仕方ないよ。ベルトルトも昨日までずっと雨の中、見回りしてたんだし。
助け合わなくちゃ。明日は私達が頑張るからさ。」
「さすが、私のクリスタっ!優しい子だなぁ~。
そこの馬とは月とすっぽんだっ!」
「馬なのか、月なのか、すっぽんなのか、どれかにしろよな~。」
「私はパァァンがいいと思います!」
何やら文句を言いながら談話室に入ってきたジャンの声に気づいて顔を上げて驚いた。
ジャンの髪と肩、そして、足元がびしょ濡れになっている。
一応、肩にかけたタオルで頭を拭いてはいるけれど、頭から滴る水に嘲笑われているようだった。
見回りはジャンだけだったらしく、そこで会って合流しただけというクリスタ達は全く濡れていなかった。
土砂降りの中の見回りは最悪だ、でも俺は頑張ったーというのを、たぶん、エレンに威張って言い出したジャンは、ミカサの手元に気づいて覗き込みながら訊ねた。
「何やってんだ、ミカサ?それ、お前のか?」
「違う。なまえさんに頼まれて、仕方なく縫ってるだけ。
縫い物が出来ないとか言うから。」
「なまえさんの?じゃあ、その紋章って…。」
ジャンは、私の兵団マントの右端に縫い付けられていく自由の翼の紋章を見て言い淀んだ。
なぜか申し訳なさそうにこちらを向いたびしょ濡れのジャンが可笑しくて、私はクスリと笑う。
「おいで、ジャン。ここ座って。」
私は近くの椅子を背もたれをこちらに向けて自分の前に持ってくると、そこに座るようにジャンを促した。
ジャンは不思議そうにしながらも言われた通りに背中をこちらに向けて腰をおろす。
大きなジャンの背中がびしょ濡れで、こんな土砂降りの日まで見回りなんて兵士というのは本当に大変だと感心する。
だから、せめてもの労わり心だ。
立ち上がった私は、ジャンの肩に乗っているタオルを手に取ると、シャワー後みたいに雨を滴らせてる髪に触れた。
「わぁっ!何っ!?」
「動かないで~、上手に拭けないからね~。」
「いいっすよっ!自分で出来るからっ!」
「いいの、いいの。土砂降りの中の見回りは疲れたでしょ。
ここはお姉さんに甘えておきなさい。」
ジャンが暴れて抵抗するから、私は顔を覗き込む。
私と目が合った後、ジャンがようやくおとなしくなったので、私はまた濡れた髪をタオルで拭き始めた。
そうしていると、ユミルが不思議そうにジャンの顔を覗き込んだ。そして、何かに気づいたような驚いた顔をした後に、面白いオモチャでも見つけた子供のように目を輝かせた。
「おい、お馬さん、顔が赤いけど、どうしたんだ?」
ニヤニヤと意地悪くユミルが言うと、すぐにサシャとコニーが参戦してきた。
「うおーーっ!赤い絵の具塗ったみたいな顔になってんぞっ!」
「あらあら、ジャン坊、どうしちゃったんですかぁ?
ママを思い出してしまったんですかねぇ。」
嬉しそうにからかうコニーと、本当に悪い顔をしてニヤけるサシャにジャンは必死に言い返している。
窓を叩く雨の音の方がうるさかった談話室が、一気に笑い声で騒がしくなった。
やっぱり、私にとっての同期だと呼べる彼らとの時間はとても楽しい。
彼らは、お姉さんと慕ってくれるけれど、私は弟とも妹とも違う彼らのことを、いろんな面で頼りにしている。
「ったく、うるせーなっ!お前らっ!散れ散れっ!」
いつまでもしつこくからかい続けるユミル達をジャンが手で払おうとする。
だが、コニーとサシャだけならまだしも、ユミルがいれば、返り討ちに合うことになる。
「私達には散ってほしいのに、
お姉ちゃんに髪を拭いてもらうのは別にいいのか?」
「俺は見回りで疲れたんだっ!少しくらい労わってもらってもいいはずだっ!!」
「へぇ、本当にそれだけか?甘えん坊のジャン坊さん。」
意地悪く言うユミルに「うるせーっ!」とジャンは怒るけれど、髪を拭くことはダメと言わないところが可笑しくて、私も笑ってしまった。
意外と甘えん坊なのだろうか。
そう思っていたら、サシャが、ジャンは母親にとても愛されているのだと教えてくれた。
恥ずかしそうに「違う!」と否定するジャンだけれど、母親に大切にしてもらっているなんて素敵なことだ。
とても、幸せなことだ。
ふと、地下街が自分の生まれ育った場所だと言ったときのリヴァイ長の顔を思い出した。
家族はいないーそう言っていたっけ。
どんな風に大人になって、どんな風に命を懸けて守りたいと思える仲間を見つけてきたのだろう。
リヴァイ兵長は幼い頃からずっと、強かったのだろうかー。
相も変わらず、嫌われても尚忘れられない人のことを考えてしまっている私の頭の中を覗かれたみたいに、エレンがその人の名前を話題に出した。
「そういえば、ジャン。
リヴァイ兵長も一緒に見回りだったのか?」
「リヴァイ兵長?いや、見回りは新兵の仕事だからな。
そんなこと兵長がするわけねぇよ。」
「そうだよなぁ~…。今日はリヴァイ班も室内待機だったはずだしなぁ。」
エレンがしきりに首を傾げる。
何かあったのだろうか。
「リヴァイ兵長がどうかしたの?」
私の疑問を訊ねてくれたのは、アルミンだった。
「昼飯の後、見たんだよ。
食事室から部屋に戻るときだったんだけど、
今のジャンみたいにびしょ濡れだったんだよなぁ。」
「じゃあ、兵舎の外で大事な仕事があったんじゃない?
リヴァイ班は室内待機でも、兵長は他にも仕事があるだろうし。」
クリスタに言われ、エレンも納得したようだった。
お昼の後ということは、会議が終わって少ししてからということだ。
会議の後にも兵舎の外で仕事があったということか。
なんだかすごく不機嫌そうに会議室を出て行ったけれど、大丈夫だっただろうか。
そんなことを考えていると、クリスタに話しかけられた。
「なまえさんは、今日は、ルルさんのご両親のところに行っていたんですか?」
「これ、私が貰いに行ったんじゃないの。
今日の会議で壁外任務に出ることが決まった後に
ミケ分隊長が気を遣って、ルルのご両親に貰いに行ってくれたの。」
「え?でも、ミケ分隊長はずっと私達と一緒にー。」
「はい、出来ました。」
ミカサが兵団マントを私に差し出す。
私は、礼を言ってから受け取り、兵団マントを広げた。
中央にある大きな自由の翼、その右下に縫い付けられた小さな自由の翼。
私は、この自由の翼が一緒にいる限り、強くいられる。
私の世界一の味方でいてくれる強い兵士が、ずっと私の背中にいてくれるなんて、なんて心強いんだろう。
だって、ルルが言っていた。
私達はふたりでひとつで、一緒ならなんだって乗り越えらえられるだってー。
「ありがとう。」
私は兵団マントを抱きしめた。
いつもの私の兵団マントなのに、なんだかとても優しくて甘い果物みたいな香りがした。