◇第五十九話◇雨の日の兵士の憂鬱
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ナナバさんに連れられた私が会議室に入ったときには、収集がかけられたメンバーは全員揃っていた。
ハンジ分隊長やミケ分隊長ら分隊長達と数名の精鋭兵の中に、当然のようにリヴァイ兵長もいて、エルヴィン団長の隣で椅子に背中を預けて足を組んで座っていた。
もちろん、私の方を見ることなんてなくて、不機嫌そうに書類を睨みつけていた。
「はい、なまえもどうぞ。」
空いてる席に着くと、ハンジさんに書類を渡された。
リヴァイ兵長が睨みつけているのは、どうやらこの書類のようだ。
雨で空いた時間に緊急会議を行うことになったことは、ここへ来る前にナナバさんから聞いていた。
「それでは、全員が揃ったところで次回壁外調査に向けての
壁外任務についての会議を始める。」
エルヴィン団長の号令で会議が始まり、私は改めて書類に目を落とす。
さっと確認する限り、まだ次回の壁外調査の日程は決まってはいないようだ。
その前の準備の壁外任務を終えてから、日程調整を行うのだろう。
「ーということで、まずはいくつかの分隊と数名の精鋭兵に
イルゼ・ラングナーの遺した戦記他、情報を探しに向かってもらう。」
ナナバさんの説明を聞きながら、私が握る書類が小さく震えていた。
いや、震えていたのは、私の手だ。
イルゼ・ラングナーが遺した戦記には、巨人と意思の疎通が出来たと記されていた。
そして、彼女が意思の疎通が出来た巨人を見たと思われる場所は、あの巨大樹の森。
ルルが命を奪われた、巨大樹の森。
同じ場所で、リヴァイ兵長や私達は、巨人の大群も発見している。
そこに何かヒントがあるのではないか、というのがエルヴィン団長ら上官達の考えのようだった。
次回の壁外調査にこの任務を加えなかったのは、今行っている巨人実験の情報としてもイルゼ・ラングナーが見つけた発見が必要だからだ。
巨人実験の情報は、次回の壁外調査にも重要な役割を果たすことになるだろう。
それなのに、雨が続いていることで巨人実験が思うように進まないことも、今回の強引な壁外任務の理由でもあるのかもしれない。
(行きたく、ない…っ。)
壁外任務の配置図、そしてそこにナナバさんら精鋭兵と並んで書かれているのは私の名前。
ハンジさんの分隊は巨人実験のために兵舎に残るのに、どうして私の名前だけー。
書類に皴が寄ったのは、私の心に恐怖が押し寄せているせいだった。
「ごめんな、なまえ。」
私の震える手に、ハンジさんの大きくて綺麗な手が添えられた。
書類を睨みつけていたことに気づいて、私はハッとして顔を上げた。
「今回の壁外任務はいつもとは違う。距離も長くなるし、危険も伴うから
少しでも多くの精鋭を集めたかったんだ。なまえにとって巨大樹の森が、
どんな場所かは分かってる。だけどここは、どうか踏ん張ってほしい。」
悲しそうに私を見ているハンジさんの向こうに、私のことを心配そうに見ているナナバさん達の顔があった。
(あぁ…。)
私は一度だけ目を伏せて、目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには、ちゃんと兵士の顔に戻っていたはずだ。
「大丈夫ですよ。先輩達の足を引っ張らないように頑張ります。」
精一杯、笑顔を作って見せた。
一瞬だけ、ハンジさんが凄く傷ついた顔をした気がしたけれど、見間違いだったのだろうか。
いつもの嬉しそうな笑顔になったハンジさんが、私の肩をバシバシ叩く。
「俺も行く。」
突然、リヴァイ兵長が口を開いた。
全員の視線を集めたリヴァイ兵長は、酷く不機嫌そうに書類を睨みつけていた。
「何度も言っただろう。
リヴァイにはエレンの巨人化実験をハンジ達と進めてもらう必要がある。
それに、エレンの監視役は終わってないぞ。」
エルヴィン団長がため息交じりに言う。
どうやら、この会議が始まる前にも同じようなやり取りを何度も交わしていたようだ。
「ハンジも今言ったじゃねぇか。
危険な任務だ。俺が行くのが妥当だ。」
リヴァイ兵長は書類から顔を上げて、隣に座るエルヴィン団長に言い返す。
だが、それに答えたのは、反対隣に座るミケ分隊長だった。
「それは違うぞ、リヴァイ。だからこそ、お前はここに残る必要がある。
次回の壁外調査、そしてこれからもお前の力が必要だ。
壁外任務は俺がついていく。俺の分隊の隊員達は優秀な兵士ばかりだ。心配いらない。」
今度は、リヴァイ兵長はミケ分隊長を睨みつけた。
どうしても壁外任務に行きたいのは分かったけれど、リヴァイ兵長がエルヴィン団長の決定に逆らうのを見たことがなかったからとても驚いた。
それに私も、ミケ分隊長の言う通りだと思う。
「あぁ、そうか。
じゃあ、お前はその自慢の優秀な兵士の命は未来には必要ねぇって言うんだな。」
ギロリと睨みつけるリヴァイ兵長に、ミケ分隊長は呆れたように首を横に振った。
どうしてしまったのだろう。
今のリヴァイ兵長は、駄々をこねる子供のようだ。
そんなこと、ミケ分隊長が思っているわけがないのに。
エルヴィン団長だってそうだ。
別に、リヴァイ兵長と比べて、他の兵士達の命を軽く見ているわけではない。
ただ人類のために最善の策を考えているだけだ。
「今回の壁外任務には精鋭兵のみが参加する。
帰還率も通常よりもだいぶ多くなるはずだ。」
エルヴィン団長がそう言うと、リヴァイ兵長は挑戦的な目を向けて口を開いた。
「へぇ、随分希望的観測じゃねぇか。
お前はどれだけ帰ってこられると思ってる。」
「8割、目標は9割だ。」
「あぁ、そうか。じゃあ、ここに名前のある兵士の最低1割は
次回の壁外調査に参加して死ぬ思いはしなくてよくなるってことか。
そりゃ、大層ご立派なことだな。」
リヴァイ兵長がエルヴィン団長に放った嫌味は、きっと、投げつけられた本人よりも、私の胸に重く刺さった。
精鋭兵のみで挑んでも、最低1割の犠牲は覚悟しなければならないのか。
その中で誰が一番最初に犠牲になる確率が高いのか、なんてことは誰の目から見ても明白で、私は巨人に喰われる自分の姿を想像してしまったったことをひどく後悔した。
「リヴァイ…、いい加減にしてくれ。」
エルヴィン団長が眉間を指で押さえてため息を吐いた。
不機嫌にリヴァイ兵長が打った舌打ちが、シンと静まり返る会議室に響いた。
「あーっと…、そうだっ!やっぱり、なまえ、壁外任務行くのやめる?!」
突然、ハンジさんが私に話を振った。
私の両肩を持って自分の方を向かせたハンジさんの引きつった笑顔が、何か答えを求めてくるけれど、私はこちらに集まった視線が痛くて返事が出来ない。
だって、リヴァイ兵長まで怖い顔でこっちを見てるー。
ハンジさんなりにピリピリした空気をどうにかしようと必死なのかもしれないけれど、私に丸投げしないでほしい。
「…行きます。」
「なんでだよッ!?」
何と答えればいいのか考えた結果、なんとか出した私の答えをハンジさんは絶望的な顔で嘆いた。
この答えが間違いだったというのか。
だって、さっき、ここは踏ん張ってくれーと言ったのはあなたじゃないか。
「えっと…、私…行かない方が、いいんですか…?」
もしかして、こっちが正解だったのだろうかー。
両肩をハンジさんに掴まれたまま、私は瞳だけを左右に動かして他の兵士達の顔色を伺う。
でも、全員なぜか苦笑いをしていて答えは教えてくれなかった。
「いや、なまえの答えは正しい。
さすが、調査兵団の兵士だ。君の勇気に感謝する。」
沈黙を破ったのは、エルヴィン団長だった。
答えの正解をもらえてホッとしたのも束の間、リヴァイ兵長が机を思いっきり蹴った。
ハンジ分隊長やミケ分隊長ら分隊長達と数名の精鋭兵の中に、当然のようにリヴァイ兵長もいて、エルヴィン団長の隣で椅子に背中を預けて足を組んで座っていた。
もちろん、私の方を見ることなんてなくて、不機嫌そうに書類を睨みつけていた。
「はい、なまえもどうぞ。」
空いてる席に着くと、ハンジさんに書類を渡された。
リヴァイ兵長が睨みつけているのは、どうやらこの書類のようだ。
雨で空いた時間に緊急会議を行うことになったことは、ここへ来る前にナナバさんから聞いていた。
「それでは、全員が揃ったところで次回壁外調査に向けての
壁外任務についての会議を始める。」
エルヴィン団長の号令で会議が始まり、私は改めて書類に目を落とす。
さっと確認する限り、まだ次回の壁外調査の日程は決まってはいないようだ。
その前の準備の壁外任務を終えてから、日程調整を行うのだろう。
「ーということで、まずはいくつかの分隊と数名の精鋭兵に
イルゼ・ラングナーの遺した戦記他、情報を探しに向かってもらう。」
ナナバさんの説明を聞きながら、私が握る書類が小さく震えていた。
いや、震えていたのは、私の手だ。
イルゼ・ラングナーが遺した戦記には、巨人と意思の疎通が出来たと記されていた。
そして、彼女が意思の疎通が出来た巨人を見たと思われる場所は、あの巨大樹の森。
ルルが命を奪われた、巨大樹の森。
同じ場所で、リヴァイ兵長や私達は、巨人の大群も発見している。
そこに何かヒントがあるのではないか、というのがエルヴィン団長ら上官達の考えのようだった。
次回の壁外調査にこの任務を加えなかったのは、今行っている巨人実験の情報としてもイルゼ・ラングナーが見つけた発見が必要だからだ。
巨人実験の情報は、次回の壁外調査にも重要な役割を果たすことになるだろう。
それなのに、雨が続いていることで巨人実験が思うように進まないことも、今回の強引な壁外任務の理由でもあるのかもしれない。
(行きたく、ない…っ。)
壁外任務の配置図、そしてそこにナナバさんら精鋭兵と並んで書かれているのは私の名前。
ハンジさんの分隊は巨人実験のために兵舎に残るのに、どうして私の名前だけー。
書類に皴が寄ったのは、私の心に恐怖が押し寄せているせいだった。
「ごめんな、なまえ。」
私の震える手に、ハンジさんの大きくて綺麗な手が添えられた。
書類を睨みつけていたことに気づいて、私はハッとして顔を上げた。
「今回の壁外任務はいつもとは違う。距離も長くなるし、危険も伴うから
少しでも多くの精鋭を集めたかったんだ。なまえにとって巨大樹の森が、
どんな場所かは分かってる。だけどここは、どうか踏ん張ってほしい。」
悲しそうに私を見ているハンジさんの向こうに、私のことを心配そうに見ているナナバさん達の顔があった。
(あぁ…。)
私は一度だけ目を伏せて、目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには、ちゃんと兵士の顔に戻っていたはずだ。
「大丈夫ですよ。先輩達の足を引っ張らないように頑張ります。」
精一杯、笑顔を作って見せた。
一瞬だけ、ハンジさんが凄く傷ついた顔をした気がしたけれど、見間違いだったのだろうか。
いつもの嬉しそうな笑顔になったハンジさんが、私の肩をバシバシ叩く。
「俺も行く。」
突然、リヴァイ兵長が口を開いた。
全員の視線を集めたリヴァイ兵長は、酷く不機嫌そうに書類を睨みつけていた。
「何度も言っただろう。
リヴァイにはエレンの巨人化実験をハンジ達と進めてもらう必要がある。
それに、エレンの監視役は終わってないぞ。」
エルヴィン団長がため息交じりに言う。
どうやら、この会議が始まる前にも同じようなやり取りを何度も交わしていたようだ。
「ハンジも今言ったじゃねぇか。
危険な任務だ。俺が行くのが妥当だ。」
リヴァイ兵長は書類から顔を上げて、隣に座るエルヴィン団長に言い返す。
だが、それに答えたのは、反対隣に座るミケ分隊長だった。
「それは違うぞ、リヴァイ。だからこそ、お前はここに残る必要がある。
次回の壁外調査、そしてこれからもお前の力が必要だ。
壁外任務は俺がついていく。俺の分隊の隊員達は優秀な兵士ばかりだ。心配いらない。」
今度は、リヴァイ兵長はミケ分隊長を睨みつけた。
どうしても壁外任務に行きたいのは分かったけれど、リヴァイ兵長がエルヴィン団長の決定に逆らうのを見たことがなかったからとても驚いた。
それに私も、ミケ分隊長の言う通りだと思う。
「あぁ、そうか。
じゃあ、お前はその自慢の優秀な兵士の命は未来には必要ねぇって言うんだな。」
ギロリと睨みつけるリヴァイ兵長に、ミケ分隊長は呆れたように首を横に振った。
どうしてしまったのだろう。
今のリヴァイ兵長は、駄々をこねる子供のようだ。
そんなこと、ミケ分隊長が思っているわけがないのに。
エルヴィン団長だってそうだ。
別に、リヴァイ兵長と比べて、他の兵士達の命を軽く見ているわけではない。
ただ人類のために最善の策を考えているだけだ。
「今回の壁外任務には精鋭兵のみが参加する。
帰還率も通常よりもだいぶ多くなるはずだ。」
エルヴィン団長がそう言うと、リヴァイ兵長は挑戦的な目を向けて口を開いた。
「へぇ、随分希望的観測じゃねぇか。
お前はどれだけ帰ってこられると思ってる。」
「8割、目標は9割だ。」
「あぁ、そうか。じゃあ、ここに名前のある兵士の最低1割は
次回の壁外調査に参加して死ぬ思いはしなくてよくなるってことか。
そりゃ、大層ご立派なことだな。」
リヴァイ兵長がエルヴィン団長に放った嫌味は、きっと、投げつけられた本人よりも、私の胸に重く刺さった。
精鋭兵のみで挑んでも、最低1割の犠牲は覚悟しなければならないのか。
その中で誰が一番最初に犠牲になる確率が高いのか、なんてことは誰の目から見ても明白で、私は巨人に喰われる自分の姿を想像してしまったったことをひどく後悔した。
「リヴァイ…、いい加減にしてくれ。」
エルヴィン団長が眉間を指で押さえてため息を吐いた。
不機嫌にリヴァイ兵長が打った舌打ちが、シンと静まり返る会議室に響いた。
「あーっと…、そうだっ!やっぱり、なまえ、壁外任務行くのやめる?!」
突然、ハンジさんが私に話を振った。
私の両肩を持って自分の方を向かせたハンジさんの引きつった笑顔が、何か答えを求めてくるけれど、私はこちらに集まった視線が痛くて返事が出来ない。
だって、リヴァイ兵長まで怖い顔でこっちを見てるー。
ハンジさんなりにピリピリした空気をどうにかしようと必死なのかもしれないけれど、私に丸投げしないでほしい。
「…行きます。」
「なんでだよッ!?」
何と答えればいいのか考えた結果、なんとか出した私の答えをハンジさんは絶望的な顔で嘆いた。
この答えが間違いだったというのか。
だって、さっき、ここは踏ん張ってくれーと言ったのはあなたじゃないか。
「えっと…、私…行かない方が、いいんですか…?」
もしかして、こっちが正解だったのだろうかー。
両肩をハンジさんに掴まれたまま、私は瞳だけを左右に動かして他の兵士達の顔色を伺う。
でも、全員なぜか苦笑いをしていて答えは教えてくれなかった。
「いや、なまえの答えは正しい。
さすが、調査兵団の兵士だ。君の勇気に感謝する。」
沈黙を破ったのは、エルヴィン団長だった。
答えの正解をもらえてホッとしたのも束の間、リヴァイ兵長が机を思いっきり蹴った。