◇第五十九話◇雨の日の兵士の憂鬱
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パーティーの翌日から、巨人実験が再開された。
新しい試みも実施されたが、成果が分からないうちにその次の日から雨が続き、実験中止を余儀なくされている。
我が分隊の隊長が、毎朝窓の外を見てはため息を吐くのが日課になりつつあった今日、ようやく空に太陽が見えた。
喜びの雄叫びを上げたハンジさんが、巨人研究所へ走っていったのは言うまでもなく。
私はそのハンジさんに、晴れているうちに買ってきてほしいものがある、とおつかいに出された。
これまでも何度かおつかいとして訪ねたことのあるお店で、必要なものは購入できた私は今、数日振りの快晴を喜んだ調査兵達を嘲笑うように突然降り出した雨に愕然としているところだ。
だって、傘がないー!
急いで近くの店の軒下に逃げて、どうにか雨を凌ぐ。
(もうそろそろ、ハンジさん、泣き出すんじゃないかなぁ…。)
雨雲で薄暗くなってきた空を見上げた私は、今朝の嬉しそうなハンジさんを思い出す。
ようやく新しい実験を開始して、これから人類勝利への足掛かりを得ることが出来るかもしれなかったのにー。
まるで、人類の勝利を神が望んでいないみたいだ。
通り雨というわけでもないらしく、あっという間に土砂降りになってしまった雨を、私は恨めし気に見上げた。
「なまえさんっ!」
しばらく雨宿りをしていると、傘を持った調査兵が駆け寄ってきた。
傘と雨で顔が良く見えないが、おそらくー。
「ジャン!どうしたの?」
「なまえさんが買い物に出てるから傘持って行ってやれって頼まれて。」
隣に立ったジャンは、そう言うと自分がさしている傘とは別に持ってきた傘を私に渡した。
「助かった~。ありがとうっ。
ハンジさん、雨が降って巨人実験が中止になったショックで
私のことなんて絶対に忘れてると思ってたよ。」
私は困ったように笑う。
このまま雨が止むまで待つか、もしくは、濡れるの覚悟で走って帰るかー悩んでいるところだったから、本当に助かった。
「いえ、ハンジ分隊長じゃなくて…。」
「ハンジさんじゃないの?あー、モブリットさんか。」
「…えーっと、そうっす。モブリットさんっす。」
ジャンに教えてもらって、それもそうかと納得する。
やっぱり、ハンジさんは巨人実験のことで頭がいっぱいで私のことなんて忘れているのだろう。
それも人類のために必死に戦うハンジさんらしい。
「じゃあ、行きましょうか。
それ、俺が持ちますよ。」
大丈夫だよー、と断る前に、ジャンは私の腕の中から買い物袋を取り上げた。
おまけをたくさん頂いたおかげで重たくなって、私が両手で抱えていたそれを、ジャンは軽々と片手で持っている。
身長だって私よりも大きくて、この前の追いかけっこでもジャンの方が足が速かったし、体力もあった。
兵士として必要な体力や筋力、身体の作り、そのすべてがジャンの方が私よりも断然上回っているのだな、と改めて実感する。
「どうかしました?」
「ううん、なんでもないの。荷物、ありがとうね。助かったよ。」
「どういたしまして。
じゃあ、行きましょうか。」
軒下を出ると、傘を叩きつける雨音がうるさく喋り出した。
今日は特に激しい雨だ。
なにも一度晴れ間を見せてから、こんな雨を降らさなくてもいいのにー。
「頬の傷、残らなかったんですね。」
ジャンが私の左頬を見ながら言う。
「うん、やっと絆創膏とれてよかったよ。」
「本当、よかったです。」
ジャンは本当にホッとしたように胸を撫でおろしていた。
「やっぱり、ジャンも顔に絆創膏ってダサいと思ってたの?」
「え?あー…、そうっすね。」
「うわー、ヒドいんだぁ~。」
私がわざとらしく恨めし気に言うと、ジャンが面白そうに笑った。
身長差に比例して足の長さも違うからか、性格なのかは分からないけれど、ジャンの方が歩くのが速くて、私は少し早歩きで隣に並ぶ。
「今日は訓練も中止して、屋内で各自人類のために出来ることをしろ、だそうです。」
「一番面倒くさいやつだね。」
「そうなんすよ。訓練の方がまだマシっつうか。
アルミンは喜んで図書室に向かってましたけどね。」
「アハハ、アルミンらしいね。」
「なまえさんは、どうするんですか?」
「うーん、どうしようかな。」
「もし、座学勉強するなら俺も一緒に教えましょうか。
結構、得意だったんですよ。」
「ジャンは成績が良かったんだもんね。
特に立体起動装置の扱いが凄く上手だったってクリスタが褒めてたよ。」
「クリスタが…!?」
驚いた声を上げたジャンの顔が赤く染まっていて、私はクスリと笑う。
可愛いクリスタに褒められていたことを知って、胸をトキメかせているのだろうか。
私も10代の頃は、そんな風に、頬を染めたり、ドキドキしたり、楽しいばかりの恋をしていたはずだったのにー。
大人になれば、もっと強くなって、もっと素敵な恋が出来るのだと信じていた。
でも実際は、いろんな経験を知ってしまったせいで、ただただ臆病になって、駆け引きや悪い知恵ばかり身に着けて、傷つけて傷ついてばかりだ。
「ーで、どうですか?」
「へ?」
ぼんやりしていて聞いていなかった。
それがジャンにバレてしまったようで、苦笑いされた後、もう一度何を言ったのか教えてくれた。
「立体起動装置のコツ、教えましょうかって言ったんですよ。
実演しなくても教えられることはあると思うんで。」
「すごく嬉しいけど、私、前にそうやってナナバさんとゲルガーさんに教えてもらって
危うく殺人者になりかけたから、やめておく。」
「殺人者ってなんですか、それ。」
顔の前に手を出して拒否のポーズをとる私を、ジャンが可笑しそうに笑った。
そして、調査兵団に入団して初めての訓練が散々だった話をしたら、お腹を抱えて笑われた。
失礼だと思う。
新しい試みも実施されたが、成果が分からないうちにその次の日から雨が続き、実験中止を余儀なくされている。
我が分隊の隊長が、毎朝窓の外を見てはため息を吐くのが日課になりつつあった今日、ようやく空に太陽が見えた。
喜びの雄叫びを上げたハンジさんが、巨人研究所へ走っていったのは言うまでもなく。
私はそのハンジさんに、晴れているうちに買ってきてほしいものがある、とおつかいに出された。
これまでも何度かおつかいとして訪ねたことのあるお店で、必要なものは購入できた私は今、数日振りの快晴を喜んだ調査兵達を嘲笑うように突然降り出した雨に愕然としているところだ。
だって、傘がないー!
急いで近くの店の軒下に逃げて、どうにか雨を凌ぐ。
(もうそろそろ、ハンジさん、泣き出すんじゃないかなぁ…。)
雨雲で薄暗くなってきた空を見上げた私は、今朝の嬉しそうなハンジさんを思い出す。
ようやく新しい実験を開始して、これから人類勝利への足掛かりを得ることが出来るかもしれなかったのにー。
まるで、人類の勝利を神が望んでいないみたいだ。
通り雨というわけでもないらしく、あっという間に土砂降りになってしまった雨を、私は恨めし気に見上げた。
「なまえさんっ!」
しばらく雨宿りをしていると、傘を持った調査兵が駆け寄ってきた。
傘と雨で顔が良く見えないが、おそらくー。
「ジャン!どうしたの?」
「なまえさんが買い物に出てるから傘持って行ってやれって頼まれて。」
隣に立ったジャンは、そう言うと自分がさしている傘とは別に持ってきた傘を私に渡した。
「助かった~。ありがとうっ。
ハンジさん、雨が降って巨人実験が中止になったショックで
私のことなんて絶対に忘れてると思ってたよ。」
私は困ったように笑う。
このまま雨が止むまで待つか、もしくは、濡れるの覚悟で走って帰るかー悩んでいるところだったから、本当に助かった。
「いえ、ハンジ分隊長じゃなくて…。」
「ハンジさんじゃないの?あー、モブリットさんか。」
「…えーっと、そうっす。モブリットさんっす。」
ジャンに教えてもらって、それもそうかと納得する。
やっぱり、ハンジさんは巨人実験のことで頭がいっぱいで私のことなんて忘れているのだろう。
それも人類のために必死に戦うハンジさんらしい。
「じゃあ、行きましょうか。
それ、俺が持ちますよ。」
大丈夫だよー、と断る前に、ジャンは私の腕の中から買い物袋を取り上げた。
おまけをたくさん頂いたおかげで重たくなって、私が両手で抱えていたそれを、ジャンは軽々と片手で持っている。
身長だって私よりも大きくて、この前の追いかけっこでもジャンの方が足が速かったし、体力もあった。
兵士として必要な体力や筋力、身体の作り、そのすべてがジャンの方が私よりも断然上回っているのだな、と改めて実感する。
「どうかしました?」
「ううん、なんでもないの。荷物、ありがとうね。助かったよ。」
「どういたしまして。
じゃあ、行きましょうか。」
軒下を出ると、傘を叩きつける雨音がうるさく喋り出した。
今日は特に激しい雨だ。
なにも一度晴れ間を見せてから、こんな雨を降らさなくてもいいのにー。
「頬の傷、残らなかったんですね。」
ジャンが私の左頬を見ながら言う。
「うん、やっと絆創膏とれてよかったよ。」
「本当、よかったです。」
ジャンは本当にホッとしたように胸を撫でおろしていた。
「やっぱり、ジャンも顔に絆創膏ってダサいと思ってたの?」
「え?あー…、そうっすね。」
「うわー、ヒドいんだぁ~。」
私がわざとらしく恨めし気に言うと、ジャンが面白そうに笑った。
身長差に比例して足の長さも違うからか、性格なのかは分からないけれど、ジャンの方が歩くのが速くて、私は少し早歩きで隣に並ぶ。
「今日は訓練も中止して、屋内で各自人類のために出来ることをしろ、だそうです。」
「一番面倒くさいやつだね。」
「そうなんすよ。訓練の方がまだマシっつうか。
アルミンは喜んで図書室に向かってましたけどね。」
「アハハ、アルミンらしいね。」
「なまえさんは、どうするんですか?」
「うーん、どうしようかな。」
「もし、座学勉強するなら俺も一緒に教えましょうか。
結構、得意だったんですよ。」
「ジャンは成績が良かったんだもんね。
特に立体起動装置の扱いが凄く上手だったってクリスタが褒めてたよ。」
「クリスタが…!?」
驚いた声を上げたジャンの顔が赤く染まっていて、私はクスリと笑う。
可愛いクリスタに褒められていたことを知って、胸をトキメかせているのだろうか。
私も10代の頃は、そんな風に、頬を染めたり、ドキドキしたり、楽しいばかりの恋をしていたはずだったのにー。
大人になれば、もっと強くなって、もっと素敵な恋が出来るのだと信じていた。
でも実際は、いろんな経験を知ってしまったせいで、ただただ臆病になって、駆け引きや悪い知恵ばかり身に着けて、傷つけて傷ついてばかりだ。
「ーで、どうですか?」
「へ?」
ぼんやりしていて聞いていなかった。
それがジャンにバレてしまったようで、苦笑いされた後、もう一度何を言ったのか教えてくれた。
「立体起動装置のコツ、教えましょうかって言ったんですよ。
実演しなくても教えられることはあると思うんで。」
「すごく嬉しいけど、私、前にそうやってナナバさんとゲルガーさんに教えてもらって
危うく殺人者になりかけたから、やめておく。」
「殺人者ってなんですか、それ。」
顔の前に手を出して拒否のポーズをとる私を、ジャンが可笑しそうに笑った。
そして、調査兵団に入団して初めての訓練が散々だった話をしたら、お腹を抱えて笑われた。
失礼だと思う。