◇第五十八話◇眠り姫と不器用な王子様
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馬車が兵舎の門前に到着した。
エルヴィンが降りた後に続く前に、ナナバは、まだ眠っているなまえの肩を揺する。
「なまえ着いたよ。起きて。」
「ん~。」
何度揺すっても、小さく唸るような声が漏れるだけで起きる気配はない。
「ねぇ、なまえっ。起きて、部屋に戻ってから寝ようっ。
あと少しだから、起きー。」
「そのままでいい、連れて出せ。」
馬車の降り口からそうやって声をかけたのは、さっき降りたエルヴィンではなく、リヴァイだった。
どうやら、帰りを待っていたらしい。
自分の兵団の団長のお帰りを待っていたのか、それともー。
下世話なことを考えようとした思考を止めて、ナナバはなまえの背中と膝の裏に腕を入れて抱きかかえた。
結構大きな動作だから、これで起きるかとも思ったが、ナナバの腕に無防備に身体を預けるなまえが起きる気配はなかった。
「あれ?なまえ、寝ちゃったの?」
「あんな場所は初めてでしょうから、気疲れですかね。」
なまえを抱えて降りてきたナナバを見て、リヴァイと一緒に待ってくれていたらしいハンジとモブリットが口々に言う。
今夜は出迎えが多いのは、いきなりドレスを送りつけてきた貴族の言いなりになって部下を生贄にしてしまったという自責の念からか。
「帰り着くまでには起きると思ったんだけどね。
むしろ、起こそうとしても起きなかったよ。」
ナナバは、困ったような笑みを浮かべる。
本当にとても疲れたのだろう。
変な因縁までつけられて、それでも調査兵団に迷惑をかけたくない、と自分を犠牲にしようとまでするのだから、たいしたものだ。
なまえも調査兵団の未来を想う立派な調査兵のようだ。
「なまえは一度寝たら、起こそうとするだけ無駄だ。
あと少しの地獄が続く。」
リヴァイは忌々し気に言うと、両手を出した。
ナナバは、その両手となまえを交互に見た後、わざとらしく首を傾げてみた。
「なに?」
「貸せ。」
「なんで?いいよ、私が部屋まで連れて行くから。」
「部屋に帰るついでだ、俺が連れていく。」
「それなら私の方がついでだよ。同じフロアだし。」
「お前は着替えがあるだろ。」
「なまえだって、ドレスのままじゃ眠れないよ。ちゃんと着替えなくちゃ。
返さないといけないのに、皴にでもなって弁償とか言われたらたまらない。
それとも、リヴァイが着替えさせてくれるの?」
「…貸せ。」
着替えというワードで、一度躊躇ったリヴァイだったけれど、強引さは変わらなかった。
これ以上、煩わせてしまったら、リヴァイが本気でキレてしまいそうだったから、ナナバはなまえの身体をそっとリヴァイの腕に渡した。
すると、ナナバの腕の中ではただダラリと身体を預けていただけだったなまえが、吸い寄せられるようにリヴァイの首に両手を回して、胸板に頬を埋めた。
それがとても自然な流れで、それでいて、小説の中の恋人同士みたいで目を奪われた。
だって、自分の胸に顔を埋めるなまえを愛おしそうに見下ろすリヴァイがとても切なくてー。
嘘を吐いたのが、心苦しくなった。
「そのドレス、返さなくていいから着替えさせなくていいよ。
リヴァイに服を着替えさせられたって知ったら
なまえに恨まれそうだから、そのまま寝かせてあげて。」
「えっ!?こんな高価なドレス、シャイセ伯爵がくれたの!?
返さなくていいの!?」
リヴァイに教えてあげたのだが、反応したのはハンジだった。
日頃から調査兵団の資金繰りに頭を悩ませているから、こういう話題は聞き逃せなかったのだろう。
「なまえのことが気に入ったらしくて、
またこのドレスでパーティーに参加してくれって言われたんだよ。」
「おい、どういうことだ、エルヴィン。
話が違ぇんじゃねぇのか。今回だけだって約束だろ。」
「心配するな、リヴァイ。
こういうことはもう出来ないと丁重に断りを入れておいた。
それでも、気が向いたらとドレスだけは頂いたんだ。」
一瞬殺気だったリヴァイに、エルヴィンがすかさず報告を付け加えた。
素直に安心すればいいのに、彼はー。
「死んでも気が向かねぇと伝えておけ。」
不機嫌に眉を歪めて、捨て台詞のように吐いて、リヴァイはなまえを抱えて兵舎へと戻っていく。
でも、その後ろ姿が、なぜかすごく安心するのだ。
久しぶりに、リヴァイとなまえが一緒にいるのを見たからだろうか。
それとも、リヴァイの後ろ姿が、ようやく彼らしく見えたからか。
「ねぇ、やっぱり、リヴァイってなまえのこと嫌いになってないよね?」
ハンジが、リヴァイの後ろ姿を見送りながらしきりに首を傾げていた。
「嫌いって?」
何の話だろう、とナナバが訊ねるが、ハンジは不思議そうに首を傾げて頭を回転させているようで反応がない。
その代わりに答えてくれたのは、ハンジの右腕、モブリットだった。
「リヴァイ兵長の様子がおかしいことをなまえに言ったら、
自分が嫌われただけだって答えたらしいよ。」
「嫌われたってなまえが言ったの?」
「そうみたいだよ。誰もそんなの信じないよね。」
「…君の分隊長以外はね。」
いろいろと不憫になって、ナナバはモブリットの肩に手を乗せた。
その隣で、ハンジはまだ首を傾げて、どういうことかを考えているようだった。
ハンジは頭は良い。すごく。頭脳明晰ではあるけれど、笑いも出ないくらいに鈍感だ。
きっと、今必死に頭を回転させているそれの答えも、モブリットの気持ちも、一生分からないままなのだろう。
「幸あれ。」
モブリットにそれだけ告げて、ナナバも兵舎へと帰った。
エルヴィンが降りた後に続く前に、ナナバは、まだ眠っているなまえの肩を揺する。
「なまえ着いたよ。起きて。」
「ん~。」
何度揺すっても、小さく唸るような声が漏れるだけで起きる気配はない。
「ねぇ、なまえっ。起きて、部屋に戻ってから寝ようっ。
あと少しだから、起きー。」
「そのままでいい、連れて出せ。」
馬車の降り口からそうやって声をかけたのは、さっき降りたエルヴィンではなく、リヴァイだった。
どうやら、帰りを待っていたらしい。
自分の兵団の団長のお帰りを待っていたのか、それともー。
下世話なことを考えようとした思考を止めて、ナナバはなまえの背中と膝の裏に腕を入れて抱きかかえた。
結構大きな動作だから、これで起きるかとも思ったが、ナナバの腕に無防備に身体を預けるなまえが起きる気配はなかった。
「あれ?なまえ、寝ちゃったの?」
「あんな場所は初めてでしょうから、気疲れですかね。」
なまえを抱えて降りてきたナナバを見て、リヴァイと一緒に待ってくれていたらしいハンジとモブリットが口々に言う。
今夜は出迎えが多いのは、いきなりドレスを送りつけてきた貴族の言いなりになって部下を生贄にしてしまったという自責の念からか。
「帰り着くまでには起きると思ったんだけどね。
むしろ、起こそうとしても起きなかったよ。」
ナナバは、困ったような笑みを浮かべる。
本当にとても疲れたのだろう。
変な因縁までつけられて、それでも調査兵団に迷惑をかけたくない、と自分を犠牲にしようとまでするのだから、たいしたものだ。
なまえも調査兵団の未来を想う立派な調査兵のようだ。
「なまえは一度寝たら、起こそうとするだけ無駄だ。
あと少しの地獄が続く。」
リヴァイは忌々し気に言うと、両手を出した。
ナナバは、その両手となまえを交互に見た後、わざとらしく首を傾げてみた。
「なに?」
「貸せ。」
「なんで?いいよ、私が部屋まで連れて行くから。」
「部屋に帰るついでだ、俺が連れていく。」
「それなら私の方がついでだよ。同じフロアだし。」
「お前は着替えがあるだろ。」
「なまえだって、ドレスのままじゃ眠れないよ。ちゃんと着替えなくちゃ。
返さないといけないのに、皴にでもなって弁償とか言われたらたまらない。
それとも、リヴァイが着替えさせてくれるの?」
「…貸せ。」
着替えというワードで、一度躊躇ったリヴァイだったけれど、強引さは変わらなかった。
これ以上、煩わせてしまったら、リヴァイが本気でキレてしまいそうだったから、ナナバはなまえの身体をそっとリヴァイの腕に渡した。
すると、ナナバの腕の中ではただダラリと身体を預けていただけだったなまえが、吸い寄せられるようにリヴァイの首に両手を回して、胸板に頬を埋めた。
それがとても自然な流れで、それでいて、小説の中の恋人同士みたいで目を奪われた。
だって、自分の胸に顔を埋めるなまえを愛おしそうに見下ろすリヴァイがとても切なくてー。
嘘を吐いたのが、心苦しくなった。
「そのドレス、返さなくていいから着替えさせなくていいよ。
リヴァイに服を着替えさせられたって知ったら
なまえに恨まれそうだから、そのまま寝かせてあげて。」
「えっ!?こんな高価なドレス、シャイセ伯爵がくれたの!?
返さなくていいの!?」
リヴァイに教えてあげたのだが、反応したのはハンジだった。
日頃から調査兵団の資金繰りに頭を悩ませているから、こういう話題は聞き逃せなかったのだろう。
「なまえのことが気に入ったらしくて、
またこのドレスでパーティーに参加してくれって言われたんだよ。」
「おい、どういうことだ、エルヴィン。
話が違ぇんじゃねぇのか。今回だけだって約束だろ。」
「心配するな、リヴァイ。
こういうことはもう出来ないと丁重に断りを入れておいた。
それでも、気が向いたらとドレスだけは頂いたんだ。」
一瞬殺気だったリヴァイに、エルヴィンがすかさず報告を付け加えた。
素直に安心すればいいのに、彼はー。
「死んでも気が向かねぇと伝えておけ。」
不機嫌に眉を歪めて、捨て台詞のように吐いて、リヴァイはなまえを抱えて兵舎へと戻っていく。
でも、その後ろ姿が、なぜかすごく安心するのだ。
久しぶりに、リヴァイとなまえが一緒にいるのを見たからだろうか。
それとも、リヴァイの後ろ姿が、ようやく彼らしく見えたからか。
「ねぇ、やっぱり、リヴァイってなまえのこと嫌いになってないよね?」
ハンジが、リヴァイの後ろ姿を見送りながらしきりに首を傾げていた。
「嫌いって?」
何の話だろう、とナナバが訊ねるが、ハンジは不思議そうに首を傾げて頭を回転させているようで反応がない。
その代わりに答えてくれたのは、ハンジの右腕、モブリットだった。
「リヴァイ兵長の様子がおかしいことをなまえに言ったら、
自分が嫌われただけだって答えたらしいよ。」
「嫌われたってなまえが言ったの?」
「そうみたいだよ。誰もそんなの信じないよね。」
「…君の分隊長以外はね。」
いろいろと不憫になって、ナナバはモブリットの肩に手を乗せた。
その隣で、ハンジはまだ首を傾げて、どういうことかを考えているようだった。
ハンジは頭は良い。すごく。頭脳明晰ではあるけれど、笑いも出ないくらいに鈍感だ。
きっと、今必死に頭を回転させているそれの答えも、モブリットの気持ちも、一生分からないままなのだろう。
「幸あれ。」
モブリットにそれだけ告げて、ナナバも兵舎へと帰った。