◇第五十八話◇眠り姫と不器用な王子様
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ウォール・ローゼからトロスト区にある調査兵団の兵舎まで走る馬車の揺れが気持ちよかったのか、それとも、眠れない理由でもあって寝不足だったのか、窓に頭を乗せるなまえは、いつの間にか眠っていた。
なんとも無防備な姿に、ナナバは思わずクスリと笑う。
頬の傷を隠すためにも必要だった化粧で、だいぶ大人っぽい印象になったなまえは、妖艶なドレス姿で貴族の男達の視線を独り占めにしていたのに、ここで眠っているあどけない寝顔はまだほんの少女のようだ。
初めてなまえと出逢ってから、どれだけ日々が過ぎただろう。
長いとは決していえないのに、とても長いように感じてしまう。
ハンジが突然連れてきた異例の新兵だったなまえ。
訓練兵団をすっ飛ばしていきなり調査兵団に入るところなんてリヴァイと同じだから、どれだけ凄い技術を持っているのかと思ったら、嘘かと思うくらいに立体起動装置の扱いが下手くそで度肝を抜いた。
でも、それからのなまえの成長ぶりは知っての通りで、今は自分達と並び精鋭と呼ばれても遜色ないほどの実力を持っている。
見て覚えるなまえは、リヴァイの技まで習得してしまった。
これから、どんな兵士になるのだろう。
自分は、あとどれくらい、彼女の成長を見守ることが出来るのだろう。
馬車の揺れでなまえの頬に髪がかかったのに気づいて、直してやろうとナナバが手を伸ばしたとき、エルヴィンに声をかけられて動きが止まった。
「なまえを連れてのパーティーは、いつもとは違ったんじゃないか。」
「あぁ…、そうですね。
エルヴィン団長とは違う忙しさはあったと思いますよ。」
ナナバの言葉に、エルヴィンは面白そうに口の端を上げた。
戦術に長ける我が兵団のトップであるエルヴィンは、頭が切れるだけではない。
他人の心も見透かしているんじゃないかと時々怖くなるほどだ。
今回、ドレスの適任を見つけてきたのはハンジだと言っていたが、そう仕向けたのはエルヴィンだろう。
そして、なまえにこの役を押し付けたのにも、ドレスを着れるのが彼女しかいないという理由の裏に、彼の思惑が隠れているに決まっている。
だからきっと、自分がエスコート役に選ばれたのにも意味があるのだろうとナナバは考えていた。
「それで、真面目に聞こう。
何か問題はなかったか。シャイセ伯爵の息子から因縁をつけられていたようだが。」
「あの息子なら言って聞かせれば分かるので問題ないのですが、
他に気になる男が1人。」
「ほう…、どんな男だ。」
「貴族のようでした。他の貴族の女性達が彼のまわりを囲んでいたのですが、
ずっとなまえを見ていたんです。睨むというよりも…、なんというか
執念みたいなものを感じて、私ですら恐ろしかったですね。」
「なまえは気づいていたのか?」
「いえ、出来るだけその男の目に触れないように、
私がずっとなまえを背中で隠していたので、彼女は気づいてないと思います。」
「そうか、それは助かる。」
「もしかして、心当たりがおありですか?」
「あぁ、1人、気になる男がいる。」
「そうですか…。何か悪い予感がします。あの男、絶対になまえに接触してくるはずです。
心当たりがあるのなら、早めに手を打っておいた方が良いのでは?」
「その通りなのだが…、今は、まずはー。」
「まずは、リヴァイですか。」
ナナバから出てきた名前に、エルヴィンは驚いたようだった。
だが、ナナバだって、リヴァイとはそれなりに長い付き合いだ。彼の様子が最近おかしいことくらい気が付いている。
それと同時期になまえから笑顔が消えたということにも気づくくらいは、彼女のことも気に掛けているのだ。
「まぁ、どうにかするさ。」
エルヴィンはそう言うが、どうも信じられない。
だってー。
「失礼を承知で申し上げますが、
エルヴィン団長もリヴァイも、そういうことにはひどく不得手だと見えるので
とても不安なのですが。」
「…大丈夫だ。」
絶対に、大丈夫じゃない。
ナナバは苦笑いをして、何も知らずに無防備に眠る調査兵団のお姫様にそっと手を伸ばす。
頬にかかる髪を耳にかけてやれば、小さく身じろぐ。
その仕草に、思わず、守ってやりたいなんて気持ちが湧きあがるから、王子様とは程遠い不器用な友人の顔を思い浮かべて、胸が苦しくなった。
調査兵達には『今』しかない。
どうか、大切な人達の『今』が幸せであるようにー。
そう願ってやまない。
なんとも無防備な姿に、ナナバは思わずクスリと笑う。
頬の傷を隠すためにも必要だった化粧で、だいぶ大人っぽい印象になったなまえは、妖艶なドレス姿で貴族の男達の視線を独り占めにしていたのに、ここで眠っているあどけない寝顔はまだほんの少女のようだ。
初めてなまえと出逢ってから、どれだけ日々が過ぎただろう。
長いとは決していえないのに、とても長いように感じてしまう。
ハンジが突然連れてきた異例の新兵だったなまえ。
訓練兵団をすっ飛ばしていきなり調査兵団に入るところなんてリヴァイと同じだから、どれだけ凄い技術を持っているのかと思ったら、嘘かと思うくらいに立体起動装置の扱いが下手くそで度肝を抜いた。
でも、それからのなまえの成長ぶりは知っての通りで、今は自分達と並び精鋭と呼ばれても遜色ないほどの実力を持っている。
見て覚えるなまえは、リヴァイの技まで習得してしまった。
これから、どんな兵士になるのだろう。
自分は、あとどれくらい、彼女の成長を見守ることが出来るのだろう。
馬車の揺れでなまえの頬に髪がかかったのに気づいて、直してやろうとナナバが手を伸ばしたとき、エルヴィンに声をかけられて動きが止まった。
「なまえを連れてのパーティーは、いつもとは違ったんじゃないか。」
「あぁ…、そうですね。
エルヴィン団長とは違う忙しさはあったと思いますよ。」
ナナバの言葉に、エルヴィンは面白そうに口の端を上げた。
戦術に長ける我が兵団のトップであるエルヴィンは、頭が切れるだけではない。
他人の心も見透かしているんじゃないかと時々怖くなるほどだ。
今回、ドレスの適任を見つけてきたのはハンジだと言っていたが、そう仕向けたのはエルヴィンだろう。
そして、なまえにこの役を押し付けたのにも、ドレスを着れるのが彼女しかいないという理由の裏に、彼の思惑が隠れているに決まっている。
だからきっと、自分がエスコート役に選ばれたのにも意味があるのだろうとナナバは考えていた。
「それで、真面目に聞こう。
何か問題はなかったか。シャイセ伯爵の息子から因縁をつけられていたようだが。」
「あの息子なら言って聞かせれば分かるので問題ないのですが、
他に気になる男が1人。」
「ほう…、どんな男だ。」
「貴族のようでした。他の貴族の女性達が彼のまわりを囲んでいたのですが、
ずっとなまえを見ていたんです。睨むというよりも…、なんというか
執念みたいなものを感じて、私ですら恐ろしかったですね。」
「なまえは気づいていたのか?」
「いえ、出来るだけその男の目に触れないように、
私がずっとなまえを背中で隠していたので、彼女は気づいてないと思います。」
「そうか、それは助かる。」
「もしかして、心当たりがおありですか?」
「あぁ、1人、気になる男がいる。」
「そうですか…。何か悪い予感がします。あの男、絶対になまえに接触してくるはずです。
心当たりがあるのなら、早めに手を打っておいた方が良いのでは?」
「その通りなのだが…、今は、まずはー。」
「まずは、リヴァイですか。」
ナナバから出てきた名前に、エルヴィンは驚いたようだった。
だが、ナナバだって、リヴァイとはそれなりに長い付き合いだ。彼の様子が最近おかしいことくらい気が付いている。
それと同時期になまえから笑顔が消えたということにも気づくくらいは、彼女のことも気に掛けているのだ。
「まぁ、どうにかするさ。」
エルヴィンはそう言うが、どうも信じられない。
だってー。
「失礼を承知で申し上げますが、
エルヴィン団長もリヴァイも、そういうことにはひどく不得手だと見えるので
とても不安なのですが。」
「…大丈夫だ。」
絶対に、大丈夫じゃない。
ナナバは苦笑いをして、何も知らずに無防備に眠る調査兵団のお姫様にそっと手を伸ばす。
頬にかかる髪を耳にかけてやれば、小さく身じろぐ。
その仕草に、思わず、守ってやりたいなんて気持ちが湧きあがるから、王子様とは程遠い不器用な友人の顔を思い浮かべて、胸が苦しくなった。
調査兵達には『今』しかない。
どうか、大切な人達の『今』が幸せであるようにー。
そう願ってやまない。