◇第五十五話◇もう二度と戻れない日常
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左頬に斜めに3㎝ほど出来てしまった切り傷は、傷口も浅く痛みもそれほどなかったので医務室には行かなかった。
傷が浅いといっても顔に傷が残ってしまってはいけないからとハンジさんからは消毒くらいするように勧められたけど、それも断って、私は訓練に励んでいた。
調査兵団に入ったのだから、怪我くらいで騒いでいられない。生きていられるだけで有難いのだと、私は親友に教わった。
それに、顔に傷が残って困ることなんてない。
たとえば、好きな人に少しでも綺麗だと思ってもらいたいとかあるのなら違うかもしれないけど、好きな人に嫌われてしまっている私にはどうでもいい話だ。
「よし!1回、休憩に入ろうか!」
「はいっ!」
ハンジさんの一言で、息が上がった返事をした班員達が一度に地面に降り立った。
疲れて倒れこむ班員達と一緒に、ひときわ体力のない私も木の幹に寄りかかって座り込んだ。
「怪我は痛まないか?」
「ひゃぁっ!」
木の幹の後ろからひょっこりと顔を出して、私に変な悲鳴を上げさせたのはミケ分隊長だった。
驚かせたことを詫びた後、彼は私の隣に腰を下ろすと、もう一度、傷の具合を訊ねた。
「全然、大丈夫ですよ。」
「そうか、ならよかった。」
安心したように呟いたミケ分隊長は、胸元のポケットから何かを取り出して私の目の前に差し出した。
何だろうと覗き込んで見てみれば、それは絆創膏だった。
「傷口が汚れて黴菌が入ってしまったらいけない。
これを貼っておくといい。」
「ありがとうございます。」
ミケ分隊長がそういうことに気がつくのは意外だったけれど、優しさに甘えて絆創膏を受け取った。
私はすぐに袋から絆創膏を取り出すと、傷口を指で触って場所を確かめる。
確認した場所になんとか貼ろうとしていたら、絆創膏をミケ分隊長に奪われてしまった。
「見えないと貼りづらいだろう。俺が貼ってやる。」
「あ…、すみません。助かります。」
素直に礼を言って、私はミケ分隊長に顔を向けた。
無骨な手は大きくて、器用ではなさそうな動きで頬に絆創膏を貼ってくれた。
「ミケ分隊長が絆創膏持ってるなんて意外です。
怪我なんて絶対にしなさそうだし。」
「あぁ、これは…。」
「これは?」
なぜか途中で言葉を切ったミケ分隊長に、私は首を傾げる。
でも、中途半端に話を途切れさせたまま、ミケ分隊長は何処か一点を見つめて黙り込んでしまった。
「どうかしましたか?」
「…!あ、いや、なんでもない。
いつどこで怪我をしてしまうかわからない。
絆創膏は持ち歩くといい。」
「そうですね。今度からそうします。」
素直な返事に満足したのか、ミケ分隊長は私の髪をクシャリと撫でた。
大きな手は、リヴァイ兵長の倍くらいあるんじゃないだろうか。
また、そんなことを思ってしまって、自己嫌悪になる。
それを誤魔化したくて、さっきミケ分隊長がじーっと見ていた視線の先に顔を向けた。
「あ…。」
素直なのか、愚かなのか、私の瞳はまたリヴァイ兵長を見つけてしまう。
リヴァイ班も訓練が休憩に入ったところのようで、リヴァイ兵長は、水道の水で顔を洗っていた。
その隣では、エルドとグンタが水道の水を出して頭を濡らしていて、オルオは、水道の出口を指で塞いで勢いよく噴射した水をエレンにかけて遊んでいる。
ペトラが呆れた顔でオルオに何か言っているが、くだらない悪戯はやめろとでも注意しているのだろう。
だが、馬鹿な男達は、そのまま4人で水道で水遊びを始めてしまった。
「あ…!」
オルオに仕返ししようとしたエレンが勢いよく噴射した水道水が、あらぬ方向へ飛んでしまって、リヴァイ兵長の顔を思いっきり濡らしてしまった。
慌てて謝るエレンと、嘘みたいな速さで逃げていくオルオ達。
その後ろから出遅れて逃げようとしたエレンは、リヴァイ兵長に首根っこを捕まえられて正座にさせられる。
頭から濡れて大変ご立腹のリヴァイ兵長に説教を受けているエレンを、少し離れたところにある巨人を模したハリボテの陰からペトラ達が覗いているのが、ここからはよく見えた。
「ふふ…っ。」
思わず笑ってしまった。
「何が面白いんだ。」
ミケ分隊長の声も聞こえないくらい、私はリヴァイ班の様子をじっと見ていた。
遠く離れた場所からなら許されるとでも思ってるみたいに、リヴァイ兵長の横顔を見つめていた。
(いいなぁ…、ペトラ達。)
怒られている彼女たちでさえ羨ましくて、また泣きそうになってくるから、私は唇を噛んで堪える。
ミケ分隊長の腕が私の背中から回って、大きな手が頭に添えられると、広い肩に乗せるように押された。
やっぱり、調査兵団の中でも特に身長も高くガッチリしているミケ分隊長の腕の中は、リヴァイ兵長のそれとは全然違う。
私はもう二度とあの温かい腕の中には戻れないのだと思うと、堪えきれなかった涙が流れだした。
「大丈夫、大丈夫だ。」
ミケ分隊長が言う。それが、ルルの言い方にそっくりで、私はミケ分隊長の肩で顔を隠して、泣いた。
あの日からずっと、私は泣いてばかりだ。
そろそろ、涙が枯れてもいい頃だと思うー。
傷が浅いといっても顔に傷が残ってしまってはいけないからとハンジさんからは消毒くらいするように勧められたけど、それも断って、私は訓練に励んでいた。
調査兵団に入ったのだから、怪我くらいで騒いでいられない。生きていられるだけで有難いのだと、私は親友に教わった。
それに、顔に傷が残って困ることなんてない。
たとえば、好きな人に少しでも綺麗だと思ってもらいたいとかあるのなら違うかもしれないけど、好きな人に嫌われてしまっている私にはどうでもいい話だ。
「よし!1回、休憩に入ろうか!」
「はいっ!」
ハンジさんの一言で、息が上がった返事をした班員達が一度に地面に降り立った。
疲れて倒れこむ班員達と一緒に、ひときわ体力のない私も木の幹に寄りかかって座り込んだ。
「怪我は痛まないか?」
「ひゃぁっ!」
木の幹の後ろからひょっこりと顔を出して、私に変な悲鳴を上げさせたのはミケ分隊長だった。
驚かせたことを詫びた後、彼は私の隣に腰を下ろすと、もう一度、傷の具合を訊ねた。
「全然、大丈夫ですよ。」
「そうか、ならよかった。」
安心したように呟いたミケ分隊長は、胸元のポケットから何かを取り出して私の目の前に差し出した。
何だろうと覗き込んで見てみれば、それは絆創膏だった。
「傷口が汚れて黴菌が入ってしまったらいけない。
これを貼っておくといい。」
「ありがとうございます。」
ミケ分隊長がそういうことに気がつくのは意外だったけれど、優しさに甘えて絆創膏を受け取った。
私はすぐに袋から絆創膏を取り出すと、傷口を指で触って場所を確かめる。
確認した場所になんとか貼ろうとしていたら、絆創膏をミケ分隊長に奪われてしまった。
「見えないと貼りづらいだろう。俺が貼ってやる。」
「あ…、すみません。助かります。」
素直に礼を言って、私はミケ分隊長に顔を向けた。
無骨な手は大きくて、器用ではなさそうな動きで頬に絆創膏を貼ってくれた。
「ミケ分隊長が絆創膏持ってるなんて意外です。
怪我なんて絶対にしなさそうだし。」
「あぁ、これは…。」
「これは?」
なぜか途中で言葉を切ったミケ分隊長に、私は首を傾げる。
でも、中途半端に話を途切れさせたまま、ミケ分隊長は何処か一点を見つめて黙り込んでしまった。
「どうかしましたか?」
「…!あ、いや、なんでもない。
いつどこで怪我をしてしまうかわからない。
絆創膏は持ち歩くといい。」
「そうですね。今度からそうします。」
素直な返事に満足したのか、ミケ分隊長は私の髪をクシャリと撫でた。
大きな手は、リヴァイ兵長の倍くらいあるんじゃないだろうか。
また、そんなことを思ってしまって、自己嫌悪になる。
それを誤魔化したくて、さっきミケ分隊長がじーっと見ていた視線の先に顔を向けた。
「あ…。」
素直なのか、愚かなのか、私の瞳はまたリヴァイ兵長を見つけてしまう。
リヴァイ班も訓練が休憩に入ったところのようで、リヴァイ兵長は、水道の水で顔を洗っていた。
その隣では、エルドとグンタが水道の水を出して頭を濡らしていて、オルオは、水道の出口を指で塞いで勢いよく噴射した水をエレンにかけて遊んでいる。
ペトラが呆れた顔でオルオに何か言っているが、くだらない悪戯はやめろとでも注意しているのだろう。
だが、馬鹿な男達は、そのまま4人で水道で水遊びを始めてしまった。
「あ…!」
オルオに仕返ししようとしたエレンが勢いよく噴射した水道水が、あらぬ方向へ飛んでしまって、リヴァイ兵長の顔を思いっきり濡らしてしまった。
慌てて謝るエレンと、嘘みたいな速さで逃げていくオルオ達。
その後ろから出遅れて逃げようとしたエレンは、リヴァイ兵長に首根っこを捕まえられて正座にさせられる。
頭から濡れて大変ご立腹のリヴァイ兵長に説教を受けているエレンを、少し離れたところにある巨人を模したハリボテの陰からペトラ達が覗いているのが、ここからはよく見えた。
「ふふ…っ。」
思わず笑ってしまった。
「何が面白いんだ。」
ミケ分隊長の声も聞こえないくらい、私はリヴァイ班の様子をじっと見ていた。
遠く離れた場所からなら許されるとでも思ってるみたいに、リヴァイ兵長の横顔を見つめていた。
(いいなぁ…、ペトラ達。)
怒られている彼女たちでさえ羨ましくて、また泣きそうになってくるから、私は唇を噛んで堪える。
ミケ分隊長の腕が私の背中から回って、大きな手が頭に添えられると、広い肩に乗せるように押された。
やっぱり、調査兵団の中でも特に身長も高くガッチリしているミケ分隊長の腕の中は、リヴァイ兵長のそれとは全然違う。
私はもう二度とあの温かい腕の中には戻れないのだと思うと、堪えきれなかった涙が流れだした。
「大丈夫、大丈夫だ。」
ミケ分隊長が言う。それが、ルルの言い方にそっくりで、私はミケ分隊長の肩で顔を隠して、泣いた。
あの日からずっと、私は泣いてばかりだ。
そろそろ、涙が枯れてもいい頃だと思うー。