◇第五十三話◇気づかれない思惑
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厩舎で暇そうにしていたテュランは、林檎が見えた途端に目を輝かせた。
結局、最後まで重たい紙袋を抱えてくれていたリヴァイ兵長が餌箱に林檎を入れて、テュランに食べさせてくれている。
「悪かったな。」
テュランの口に林檎を持って行きながら、リヴァイ兵長が謝った。
だが、何に対しての謝罪なのか分からず、私は首を傾げる。
謝らなければいけないことなら多々思いつくのだが、謝られる理由には心当たりがなかった。
「何がですか?」
「さっきは、感情的になりすぎた。悪かった。」
私を見るリヴァイ兵長は、本当に申し訳ないと思っていそうだった。
確かに、さっきのリヴァイ兵長はいつもとは違う気がした。怖かった。
でも、だからって、彼が謝るようなことではない。
悪いのは私だから、もう一度、頭を下げた。
「いいえ、私の思慮が浅かったです。
今後は気を付けます。すみませんでした。」
「あぁ、そうだな。任務中の兵士を使うのは褒められたことじゃねぇ。」
「はい。」
その通り過ぎて、私は、情けなさで消え入りそうな声で返事をする。
リヴァイ兵長は、感情的に叱りつけたのも悪かったからもう気にしなくていいと言ってくれた。
それでも、なんとなく気まずい中、テュランだけが嬉しそうに林檎を食べ続けていた。
(…リヴァイ兵長、訓練に戻らなくていいのかな。)
私は、テュランに林檎をやるリヴァイ兵長を眺めながら思う。
重たい紙袋を持って運んでくれるだけだと思っていたから、本当は最初からずっと不思議に思っていた。
でも、なんとなくだけれど、訓練に戻らなくていいのかと聞いたら、また怒られる気がするのだ。
たぶん、今日のリヴァイ兵長は、好きにさせるのが一番だと思う。たぶん。
「お前は、あぁいうのが好きなのか。」
「あぁいうのって何ですか?」
テュランの口に林檎を運びながら、リヴァイ兵長に訊ねられたそれに、私はまた首を傾げた。
今日のリヴァイ兵長は、会ったときから不機嫌だし、急に主語もなく喋り出すし、いつもと様子が違う。
どうしたのだろうー。
「お前の代わりに紙袋を抱えてた、ベルなんとかって言ったか。
あの新兵だ。」
「あぁ、ベルトルトですね。
それは、もちろん好きですよ。優しくて、いい子だと思います。」
リヴァイ兵長が何を意図して聞いたのかは分からなかったけれど、私は質問に素直に答えた。
だが、それでは納得いかなかったのか、リヴァイ兵長は不満げに眉を歪めた。
「お前はあぁいう男が好みなのか。」
リヴァイ兵長が訊き方を変えてくれたおかげで、何を訊きたかったのかようやく理解する。
さっきのペトラの冗談のことを思い出したのだろう。
「あぁ!ペトラが変なこと言うからですね。
もう、本当に…。」
私は大きくため息を吐く。
リヴァイ兵長にまで誤解されてしまったではないか。
今日の夜は、ペトラの部屋に文句を言いに行こう。
「それで、どうなんだ。」
「違いますよ。全然、違います。」
「昔の男とアイツは似てるんじゃねぇのか。」
「え?」
「だから、任務中のアイツに声をかけたんじゃねぇのか。
昔の男のことを忘れられなくて、お前はー。」
「え?ちょっと!ちょっと待ってください!」
急に饒舌に喋り出したリヴァイ兵長を慌てて止めた。
リヴァイ兵長がこんなに恋の話を好んでするとは意外だけれど、思考の方向が真逆過ぎる。
途中で言葉を遮られたリヴァイ兵長は不機嫌そうに私を見る。
今日のリヴァイ兵長はいつもと違うことを忘れていた。
「あの、ごめんなさい…、途中で話の腰を折ってしまって。
でも、全然違いますから。」
「似てねぇって言うのか?」
「いえ、そうじゃなくて。似てるなぁ、とは思ってました。
まさか、リヴァイ兵長までそう思ってるとは驚きましたけど。」
「…あぁ、まぁな。」
「でも、別に似てるからってベルトルトのことを好きになることも、
ましてや、昔の恋人を思い出して恋しくなることもありません。絶対に。」
私は真剣に言って、リヴァイ兵長の目をまっすぐに見る。
きっと、彼に気持ちを伝えることはない。
どうせ、叶わないのだ。
それなら、何も言わずにいた方がいいと思っている。
傷つくのが怖いのだ。すごく、怖い。
ペトラのように強くはなれない。
好きだと伝えて、リヴァイ兵長に拒絶されるくらいなら、ただの部下でいたい。
それだけで十分だと信じ込む、少なくとも、今はそれでいいと思っている。
でも、意味の分からない誤解をされるのだけは嫌だった。
訝し気に私の目を見るリヴァイ兵長は、信じていないように思えた。
だから私はー。
「だって、昔の恋人が私の好きなタイプとは限らないでしょう?
もし、昔はそうだったとしても、今がそうだとも限らないですよ。」
私がそう言うと、リヴァイ兵長の眉がピクリと動いた。
確かにそうだと思ってくれたのかもしれない。
だから、私はー。
「私は、口は悪くても、目が怖くても、優しく微笑むなんてしてくれなくても、
私がツラいときにそばにいてくれて、私の悪いところは悪いと叱ってくれる
そんな人が好きです。」
真っすぐにリヴァイ兵長の瞳を見て伝えた、今の私の精一杯の心。
視線を斜め上に向けたリヴァイ兵長には、全く届かなかったみたいだ。
「そんなやついねぇだろ。」
本気で言うリヴァイ兵長が可笑しくて、本当はとても悲しくて、声を出して笑った。
結局、最後まで重たい紙袋を抱えてくれていたリヴァイ兵長が餌箱に林檎を入れて、テュランに食べさせてくれている。
「悪かったな。」
テュランの口に林檎を持って行きながら、リヴァイ兵長が謝った。
だが、何に対しての謝罪なのか分からず、私は首を傾げる。
謝らなければいけないことなら多々思いつくのだが、謝られる理由には心当たりがなかった。
「何がですか?」
「さっきは、感情的になりすぎた。悪かった。」
私を見るリヴァイ兵長は、本当に申し訳ないと思っていそうだった。
確かに、さっきのリヴァイ兵長はいつもとは違う気がした。怖かった。
でも、だからって、彼が謝るようなことではない。
悪いのは私だから、もう一度、頭を下げた。
「いいえ、私の思慮が浅かったです。
今後は気を付けます。すみませんでした。」
「あぁ、そうだな。任務中の兵士を使うのは褒められたことじゃねぇ。」
「はい。」
その通り過ぎて、私は、情けなさで消え入りそうな声で返事をする。
リヴァイ兵長は、感情的に叱りつけたのも悪かったからもう気にしなくていいと言ってくれた。
それでも、なんとなく気まずい中、テュランだけが嬉しそうに林檎を食べ続けていた。
(…リヴァイ兵長、訓練に戻らなくていいのかな。)
私は、テュランに林檎をやるリヴァイ兵長を眺めながら思う。
重たい紙袋を持って運んでくれるだけだと思っていたから、本当は最初からずっと不思議に思っていた。
でも、なんとなくだけれど、訓練に戻らなくていいのかと聞いたら、また怒られる気がするのだ。
たぶん、今日のリヴァイ兵長は、好きにさせるのが一番だと思う。たぶん。
「お前は、あぁいうのが好きなのか。」
「あぁいうのって何ですか?」
テュランの口に林檎を運びながら、リヴァイ兵長に訊ねられたそれに、私はまた首を傾げた。
今日のリヴァイ兵長は、会ったときから不機嫌だし、急に主語もなく喋り出すし、いつもと様子が違う。
どうしたのだろうー。
「お前の代わりに紙袋を抱えてた、ベルなんとかって言ったか。
あの新兵だ。」
「あぁ、ベルトルトですね。
それは、もちろん好きですよ。優しくて、いい子だと思います。」
リヴァイ兵長が何を意図して聞いたのかは分からなかったけれど、私は質問に素直に答えた。
だが、それでは納得いかなかったのか、リヴァイ兵長は不満げに眉を歪めた。
「お前はあぁいう男が好みなのか。」
リヴァイ兵長が訊き方を変えてくれたおかげで、何を訊きたかったのかようやく理解する。
さっきのペトラの冗談のことを思い出したのだろう。
「あぁ!ペトラが変なこと言うからですね。
もう、本当に…。」
私は大きくため息を吐く。
リヴァイ兵長にまで誤解されてしまったではないか。
今日の夜は、ペトラの部屋に文句を言いに行こう。
「それで、どうなんだ。」
「違いますよ。全然、違います。」
「昔の男とアイツは似てるんじゃねぇのか。」
「え?」
「だから、任務中のアイツに声をかけたんじゃねぇのか。
昔の男のことを忘れられなくて、お前はー。」
「え?ちょっと!ちょっと待ってください!」
急に饒舌に喋り出したリヴァイ兵長を慌てて止めた。
リヴァイ兵長がこんなに恋の話を好んでするとは意外だけれど、思考の方向が真逆過ぎる。
途中で言葉を遮られたリヴァイ兵長は不機嫌そうに私を見る。
今日のリヴァイ兵長はいつもと違うことを忘れていた。
「あの、ごめんなさい…、途中で話の腰を折ってしまって。
でも、全然違いますから。」
「似てねぇって言うのか?」
「いえ、そうじゃなくて。似てるなぁ、とは思ってました。
まさか、リヴァイ兵長までそう思ってるとは驚きましたけど。」
「…あぁ、まぁな。」
「でも、別に似てるからってベルトルトのことを好きになることも、
ましてや、昔の恋人を思い出して恋しくなることもありません。絶対に。」
私は真剣に言って、リヴァイ兵長の目をまっすぐに見る。
きっと、彼に気持ちを伝えることはない。
どうせ、叶わないのだ。
それなら、何も言わずにいた方がいいと思っている。
傷つくのが怖いのだ。すごく、怖い。
ペトラのように強くはなれない。
好きだと伝えて、リヴァイ兵長に拒絶されるくらいなら、ただの部下でいたい。
それだけで十分だと信じ込む、少なくとも、今はそれでいいと思っている。
でも、意味の分からない誤解をされるのだけは嫌だった。
訝し気に私の目を見るリヴァイ兵長は、信じていないように思えた。
だから私はー。
「だって、昔の恋人が私の好きなタイプとは限らないでしょう?
もし、昔はそうだったとしても、今がそうだとも限らないですよ。」
私がそう言うと、リヴァイ兵長の眉がピクリと動いた。
確かにそうだと思ってくれたのかもしれない。
だから、私はー。
「私は、口は悪くても、目が怖くても、優しく微笑むなんてしてくれなくても、
私がツラいときにそばにいてくれて、私の悪いところは悪いと叱ってくれる
そんな人が好きです。」
真っすぐにリヴァイ兵長の瞳を見て伝えた、今の私の精一杯の心。
視線を斜め上に向けたリヴァイ兵長には、全く届かなかったみたいだ。
「そんなやついねぇだろ。」
本気で言うリヴァイ兵長が可笑しくて、本当はとても悲しくて、声を出して笑った。