◇第五十三話◇気づかれない思惑
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林檎の入った紙袋を抱えてくれるベルトルトと、ライナーと一緒に厩舎へ向かう途中、訓練所の前を通った。
丁度、リヴァイ班のメンバーが訓練をしているところのようだった。
「エレン、頑張ってるなぁ。
入ってすぐにあの精鋭兵達についていくのは大変だろう。」
「そうだね。僕だったらプレッシャーに耐えられないよ。」
「アイツは、何も考えずにつっこみすぎるんだ。
まぁ、それが強いところでもあるが、危なっかしい。」
立ち止まった2人と一緒に、私もリヴァイ班の訓練を眺める。
リヴァイ兵長の姿を見るのは、久しぶりのような気がした。
同じ兵舎の中で生活しているのだから、それなりに顔を合わすことはあるけれど、ちゃんと会って話すというのをしたのは、ストヘス区から調査兵団の兵舎に戻る馬車の中が最後だ。
立体起動装置で木の枝の上に乗ったリヴァイ兵長は、エレンに何か言っている。
今はリヴァイ班の精鋭メンバーとエレンの連携強化を目的とした訓練を行っているようだ。
「なまえはリヴァイ兵長とはどういう関係なんだ。」
唐突にライナーが訊ねたそれに、私は心臓が止まるかと思った。
まさか、私とリヴァイ兵長がそういう関係に見えたのだろうかと一瞬でも思ってしまって自己嫌悪に陥る。
そういえば、ライナーとベルトルトは、調査兵団に入団していることを両親隠すために、リヴァイ兵長と夫婦のフリをしていることを知っているのだ。
それを踏まえての質問だろう。
「ただの上司と部下だよ。」
「でも、この間、2人で同じ宿に泊まったって噂になってますよ。」
「え!?」
そんな噂があるなんて知らなかった私は驚いた。
私達がストヘス区から帰ってきて少ししてから、そういう噂が流れだしたらしい。
そして、みんなが言っているらしいー。
男と女がー。
「男と女が同じ部屋で夜を共にするんだ。
何かあったに決まってるが、そういう関係なのか、一時的なものなのか。
2人がいつも通りだから、余計にどうも気になっ・・・・て。」
ペラペラと私の傷をえぐることを喋り続けていたライナーの声は、私の顔を見てから尻しぼみに小さくなっていった。
どうやら、私はとてもヒドイ顔をしていたらしい。
「男と女が同じ部屋で夜を共にしたのに
発情もなにもされず、健全に夜を過ごしたと言ったら、
私を貶しますか。」
「…いえ、全く。」
「よろしい。」
私は大きくため息をつき、歩き始めた。
早足で追いかけてきたベルトルトとライナーが、私の隣を歩き出してすぐだった。
立体起動装置のワイヤーの音が耳のすぐそばで聞こえたと思ったら、目の前にリヴァイ兵長が降り立った。
驚く私を尻目に、リヴァイ兵長は、隣に立つライナーとベルトルトを睨みつけながら口を開いた。
「てめぇら、こんなとこで何サボってやがる。
新兵はトロスト区の見回りじゃなかったのか。」
リヴァイ兵長が何を怒っているのかに気づいて、私は慌てて仲裁に入った。
「違うんです!彼らはサボっていたのではなくて、
紙袋が重たくて私がフラフラしてたのに気づいて
2人が代わりに荷物を持ってくれただけなんですっ。」
私をチラリと見たリヴァイ兵長は、2人にそれは本当かと訊ねた。
驚きと上官の怒りに怯んだ彼らは、なんとかそれは事実だと伝える。
「貸せ。」
リヴァイ兵長はベルトルトから強引に紙袋を奪った。
そしてー。
「ちょうど休憩中だ、代わりにこれは俺が預かる。
お前らはすぐに元の配置に戻れ。」
「はいっ!」
「はいっ!」
リヴァイ兵長に敬礼した後、ベルトルトとライナーは行ってしまった。
そこへ、リヴァイ班のメンバーも続々と集まってきた。
「なまえ~!!今日は私服なんだねっ。
さっきの男の子達とデート?」
ペトラが笑顔で言う。
冗談めかした言い方だったから、そんなわけないと誰でも分かったはずだ。
普通ならー。
「えっ!?なまえさんとベルトルトって付き合ってたんですか!?
それともライナーですか!?」
純粋が過ぎるエレンには、冗談は通じなかった。
彼を好きになる女の子は、どうしても気持ちを伝えたかったら超剛速球の球が必要だろう。
ミカサに、幸あれ。
「見回りの途中で私に気づいて、荷物を持ってくれてただけだよ。
それに、デートなら2人っきりでするものでしょう?
今のはペトラの冗談だよ。」
「あ!そうっすねっ!」
エレンは納得したような顔をする。
言ったら理解するらしい。
とても素直だ。
すっかり騙されたエレンをエルドとグンタがからかう横で、ペトラが可愛い笑顔で爆弾を落とした。
「でも、最近、あのベルトルト?って男の子は、よくなまえの隣にいるよね。
好きなんじゃないの~?付き合ってあげたら?」
ニヤニヤした顔で、ペトラが私の脇腹をつつく。
「そんなわけないでしょ。16歳だよ?子供だよ。
それに、ベルトルトもライナーも、そういうんじゃないから。」
反論しながら、悪戯なペトラの手をつかまえようとする私をうまくかわし、ペトラは続ける。
「子供だって、立派な兵士なんだから一人前の男だよ。
それに、恋に年齢なんて関係ないのよ。ね?オルオ?」
「あ?まぁ、そうだな。
男は女の前では、年齢関係なく男になるもんだぜ。」
「あ…。」
ペトラもマズいと思ったらしい。
だが、もう遅い。
オルオの何気なく放った一言は、私の心臓にグサリと刺さった。
思わずふらついて倒れそうになる私をペトラが受け止める。
「ごめん、オルオ。今のはなまえの前では禁句。」
「悪かったな、なまえ。口が滑ったぜ。」
「その口、私が縫いつけてやろうか…!」
睨みつける私に、オルオがヒーッと悲鳴を上げる。
そんなに私は恐ろしい顔をしていただろうか。
そういえば、さっきもライナーに引かれていたなー。
「あ、すみませんっ!リヴァイ兵長!いつまでも荷物持たせたままでしたっ!」
荷物を抱えているリヴァイ兵長のことを忘れていた。
小柄なリヴァイ兵長が、エルドとグンタの陰に隠れていたせいではない。決して。
ペトラがおかしな冗談を言い出して、オルオが口を滑らせたせいだ。
「これくらい俺だって持てる。」
「いえ、別にリヴァイ兵長には重たくて持てないと思ったわけではなくて…。
部下の荷物を持たせてしまって申し訳なく思って謝ったんですよ。」
違う方向に不機嫌になってしまったリヴァイ兵長にもう一度謝罪して、私は荷物を受け取ろうと手を出した。
だが、リヴァイ兵長は私に背を向けて歩き出してしまう。
「お前らは各自休憩を続けてろ。」
ペトラ達に指示を出して歩いていくリヴァイ兵長を慌てて追いかける。
「待ってくださいっ!」
「こんな大量の林檎をどこに持って行くつもりだ。」
追いついた私に、リヴァイ兵長が訊ねる。
私の給料をつぎ込むしかなかったこの事態はお前のせいだー、喉まで出かけて、必死に飲み込む。
「壁外調査で頑張ってくれたテュランにご褒美です。」
「あー…、前にそんな約束をしてたな。」
お前がな!と叫びそうになったけれど、必死に必死に飲み込んだ。
だが、そこは許したわけではない。
たとえ、好きな人でも、勝手にありえない約束をテュランと交わしたことは許されることではない。
だって、給料を奪われた怨念は深いのだ。
「リヴァイ兵長、もう私が持ちますっ!」
「いい、俺が持って行ってやる。」
「テュランのところまですぐそこなので、大丈夫ですよ。
リヴァイ兵長のお手を煩わせるわけにはいきません。」
私が紙袋を持って強引に奪おうとすると、リヴァイ兵長が立ち止まった。
「休憩中の俺の手は煩わせられねぇが、
任務中のアイツの手なら借りてぇのか。」
静かに怒るリヴァイ兵長の目線は下に落ちていて、自身が抱える林檎の入った紙袋を睨みつけていた。
不機嫌に歪んだ眉とピリリとした空気は、彼が相当怒っていることを示している。
今まで、リヴァイ兵長に叱られることはあった。
訓練中に怒鳴られることもあった。
ただ、それはいつも部下のためだという想いを感じていたから、怖かったけれど、恐怖はなかった。
でも、今目の前のリヴァイ兵長の怒りには、恐怖を感じた。
「ごめんなさい。あの子達にもちゃんと謝ります。
本当に、すみませんでした。」
頭を下げる私の頭上に、リヴァイ兵長のため息が落ちた。
丁度、リヴァイ班のメンバーが訓練をしているところのようだった。
「エレン、頑張ってるなぁ。
入ってすぐにあの精鋭兵達についていくのは大変だろう。」
「そうだね。僕だったらプレッシャーに耐えられないよ。」
「アイツは、何も考えずにつっこみすぎるんだ。
まぁ、それが強いところでもあるが、危なっかしい。」
立ち止まった2人と一緒に、私もリヴァイ班の訓練を眺める。
リヴァイ兵長の姿を見るのは、久しぶりのような気がした。
同じ兵舎の中で生活しているのだから、それなりに顔を合わすことはあるけれど、ちゃんと会って話すというのをしたのは、ストヘス区から調査兵団の兵舎に戻る馬車の中が最後だ。
立体起動装置で木の枝の上に乗ったリヴァイ兵長は、エレンに何か言っている。
今はリヴァイ班の精鋭メンバーとエレンの連携強化を目的とした訓練を行っているようだ。
「なまえはリヴァイ兵長とはどういう関係なんだ。」
唐突にライナーが訊ねたそれに、私は心臓が止まるかと思った。
まさか、私とリヴァイ兵長がそういう関係に見えたのだろうかと一瞬でも思ってしまって自己嫌悪に陥る。
そういえば、ライナーとベルトルトは、調査兵団に入団していることを両親隠すために、リヴァイ兵長と夫婦のフリをしていることを知っているのだ。
それを踏まえての質問だろう。
「ただの上司と部下だよ。」
「でも、この間、2人で同じ宿に泊まったって噂になってますよ。」
「え!?」
そんな噂があるなんて知らなかった私は驚いた。
私達がストヘス区から帰ってきて少ししてから、そういう噂が流れだしたらしい。
そして、みんなが言っているらしいー。
男と女がー。
「男と女が同じ部屋で夜を共にするんだ。
何かあったに決まってるが、そういう関係なのか、一時的なものなのか。
2人がいつも通りだから、余計にどうも気になっ・・・・て。」
ペラペラと私の傷をえぐることを喋り続けていたライナーの声は、私の顔を見てから尻しぼみに小さくなっていった。
どうやら、私はとてもヒドイ顔をしていたらしい。
「男と女が同じ部屋で夜を共にしたのに
発情もなにもされず、健全に夜を過ごしたと言ったら、
私を貶しますか。」
「…いえ、全く。」
「よろしい。」
私は大きくため息をつき、歩き始めた。
早足で追いかけてきたベルトルトとライナーが、私の隣を歩き出してすぐだった。
立体起動装置のワイヤーの音が耳のすぐそばで聞こえたと思ったら、目の前にリヴァイ兵長が降り立った。
驚く私を尻目に、リヴァイ兵長は、隣に立つライナーとベルトルトを睨みつけながら口を開いた。
「てめぇら、こんなとこで何サボってやがる。
新兵はトロスト区の見回りじゃなかったのか。」
リヴァイ兵長が何を怒っているのかに気づいて、私は慌てて仲裁に入った。
「違うんです!彼らはサボっていたのではなくて、
紙袋が重たくて私がフラフラしてたのに気づいて
2人が代わりに荷物を持ってくれただけなんですっ。」
私をチラリと見たリヴァイ兵長は、2人にそれは本当かと訊ねた。
驚きと上官の怒りに怯んだ彼らは、なんとかそれは事実だと伝える。
「貸せ。」
リヴァイ兵長はベルトルトから強引に紙袋を奪った。
そしてー。
「ちょうど休憩中だ、代わりにこれは俺が預かる。
お前らはすぐに元の配置に戻れ。」
「はいっ!」
「はいっ!」
リヴァイ兵長に敬礼した後、ベルトルトとライナーは行ってしまった。
そこへ、リヴァイ班のメンバーも続々と集まってきた。
「なまえ~!!今日は私服なんだねっ。
さっきの男の子達とデート?」
ペトラが笑顔で言う。
冗談めかした言い方だったから、そんなわけないと誰でも分かったはずだ。
普通ならー。
「えっ!?なまえさんとベルトルトって付き合ってたんですか!?
それともライナーですか!?」
純粋が過ぎるエレンには、冗談は通じなかった。
彼を好きになる女の子は、どうしても気持ちを伝えたかったら超剛速球の球が必要だろう。
ミカサに、幸あれ。
「見回りの途中で私に気づいて、荷物を持ってくれてただけだよ。
それに、デートなら2人っきりでするものでしょう?
今のはペトラの冗談だよ。」
「あ!そうっすねっ!」
エレンは納得したような顔をする。
言ったら理解するらしい。
とても素直だ。
すっかり騙されたエレンをエルドとグンタがからかう横で、ペトラが可愛い笑顔で爆弾を落とした。
「でも、最近、あのベルトルト?って男の子は、よくなまえの隣にいるよね。
好きなんじゃないの~?付き合ってあげたら?」
ニヤニヤした顔で、ペトラが私の脇腹をつつく。
「そんなわけないでしょ。16歳だよ?子供だよ。
それに、ベルトルトもライナーも、そういうんじゃないから。」
反論しながら、悪戯なペトラの手をつかまえようとする私をうまくかわし、ペトラは続ける。
「子供だって、立派な兵士なんだから一人前の男だよ。
それに、恋に年齢なんて関係ないのよ。ね?オルオ?」
「あ?まぁ、そうだな。
男は女の前では、年齢関係なく男になるもんだぜ。」
「あ…。」
ペトラもマズいと思ったらしい。
だが、もう遅い。
オルオの何気なく放った一言は、私の心臓にグサリと刺さった。
思わずふらついて倒れそうになる私をペトラが受け止める。
「ごめん、オルオ。今のはなまえの前では禁句。」
「悪かったな、なまえ。口が滑ったぜ。」
「その口、私が縫いつけてやろうか…!」
睨みつける私に、オルオがヒーッと悲鳴を上げる。
そんなに私は恐ろしい顔をしていただろうか。
そういえば、さっきもライナーに引かれていたなー。
「あ、すみませんっ!リヴァイ兵長!いつまでも荷物持たせたままでしたっ!」
荷物を抱えているリヴァイ兵長のことを忘れていた。
小柄なリヴァイ兵長が、エルドとグンタの陰に隠れていたせいではない。決して。
ペトラがおかしな冗談を言い出して、オルオが口を滑らせたせいだ。
「これくらい俺だって持てる。」
「いえ、別にリヴァイ兵長には重たくて持てないと思ったわけではなくて…。
部下の荷物を持たせてしまって申し訳なく思って謝ったんですよ。」
違う方向に不機嫌になってしまったリヴァイ兵長にもう一度謝罪して、私は荷物を受け取ろうと手を出した。
だが、リヴァイ兵長は私に背を向けて歩き出してしまう。
「お前らは各自休憩を続けてろ。」
ペトラ達に指示を出して歩いていくリヴァイ兵長を慌てて追いかける。
「待ってくださいっ!」
「こんな大量の林檎をどこに持って行くつもりだ。」
追いついた私に、リヴァイ兵長が訊ねる。
私の給料をつぎ込むしかなかったこの事態はお前のせいだー、喉まで出かけて、必死に飲み込む。
「壁外調査で頑張ってくれたテュランにご褒美です。」
「あー…、前にそんな約束をしてたな。」
お前がな!と叫びそうになったけれど、必死に必死に飲み込んだ。
だが、そこは許したわけではない。
たとえ、好きな人でも、勝手にありえない約束をテュランと交わしたことは許されることではない。
だって、給料を奪われた怨念は深いのだ。
「リヴァイ兵長、もう私が持ちますっ!」
「いい、俺が持って行ってやる。」
「テュランのところまですぐそこなので、大丈夫ですよ。
リヴァイ兵長のお手を煩わせるわけにはいきません。」
私が紙袋を持って強引に奪おうとすると、リヴァイ兵長が立ち止まった。
「休憩中の俺の手は煩わせられねぇが、
任務中のアイツの手なら借りてぇのか。」
静かに怒るリヴァイ兵長の目線は下に落ちていて、自身が抱える林檎の入った紙袋を睨みつけていた。
不機嫌に歪んだ眉とピリリとした空気は、彼が相当怒っていることを示している。
今まで、リヴァイ兵長に叱られることはあった。
訓練中に怒鳴られることもあった。
ただ、それはいつも部下のためだという想いを感じていたから、怖かったけれど、恐怖はなかった。
でも、今目の前のリヴァイ兵長の怒りには、恐怖を感じた。
「ごめんなさい。あの子達にもちゃんと謝ります。
本当に、すみませんでした。」
頭を下げる私の頭上に、リヴァイ兵長のため息が落ちた。