◇第五十三話◇気づかれない思惑
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図書室にやってきた私は、棚に並ぶ本の背表紙と睨めっこしていた。
少し前に私が勉強のために読んだ本のタイトルを探している。
実験のときに、その本の話をハンジさんにしたところ、とても興味を持ったらしい。
今から探しに行くと言っていたが、まだ仕事が残っているということだったし、一度その本を手に取った私の方が探しやすいだろうと思い、代わりに図書室にやってきたのだ。
でも、私が本を返したはずの場所に、目当ての本はなかった。
あんな古い本、誰かがもう借りてしまったのだろうか。
兵士達はあまり本を読む習慣はないようで、書類仕事が増える時期以外はあまり図書室を利用されることもない。
最近は訓練が主な任務になっているから、あの本は絶対にあると思ったのだけれどー。
「何か探してるんですか?」
声をかけてきたのはベルトルトだった。
片手に数冊の本を持っている。彼も本を借りに来たのか、もしくは返しに来たのかもしれない。
「うん、前に読んだ本なんだけど、返したところになくって。」
「何て本ですか?一緒に探しますよ。」
「いいの?」
「僕もこの本を返したら、他に読みたいの探したいと思っていたんです。
だから、それと一緒に探しますよ。」
「ありがとうっ、助かるっ。」
ベルトルトに礼を言って、探している本のタイトルを伝えた。
一緒に本を探しながら、ベルトルトの話を聞くと、時々、こうして図書室に時々来て本を読んでいるそうだ。
この世界の巨人の歴史、巨人の知識を学びたいと語る彼は、とてもまじめで一生懸命で、とても好青年に見えた。
「あれ?それ、前からしてました?」
本を探していたベルトルトの視線が、私の左手首に移った。
赤いブレスレットに気づいたらしい。
「良く気付いたね。男の人って気づかないものだと思ってたよ。」
「そんな派手な色だったら誰だって気づきますよ。」
苦笑するベルトルトに、教えてやりたくなる。
リヴァイ兵長は言うまで気づかなかったのだと、喉まで出かかってなんとか堪えた。
「綺麗なブレスレットですね。なまえさんの明るいイメージにピッタリです。」
ふわりと微笑むベルトルトが、穏やかに微笑むルーカスと重なった。
ほんの少し前髪が短くなっただけで、とても可愛いねと言ってくれたルーカスのことだから、もし彼がここにいたら、今のベルトルトよりもずっと早く、会った瞬間にこのブレスレットに気づいてくれたのだろう。
「ありがとう。
でも、これは、アニのイメージで買ったのよ。」
私は自分の左手首に飾られている赤いブレスレットを見ながら、素直じゃないけれど優しくて可愛いアニのことを思った。
今頃、彼女は憲兵団施設でどうしているのだろう。
今度、手紙でも送ろうかなー。
「アニ?
…って僕たちと同期のアニのことですか?」
私とアニが知り合いだと知ったベルトルトは驚いた様子だった。
対人格闘に興味を持った私が、アルミン達から仲間内で一番得意だったと聞いたアニに会いに行った話をしたら、さらに驚いていた。
仕事の合間に、わざわざ対人格闘を習いに行く人がいるなんて思わなかったと真面目な顔で言われて、それもそうかと苦笑する。
でも、そのおかげで私はアニと知り合えた。
生きて帰ってきた私に、ホッとした顔で、けれども素っ気なく「おかえり」と言ってくれる人がいる。
それは、私にとってとても大きな力になっている。
「これは、アニとお揃いなの。
クールなのに、目の奥にすごく熱い意志を持ってる強いアニのイメージの赤なの。」
「あぁ…、なんか分かる気がします。」
「でしょう?」
ベルトルトに同意してもらえて、私は嬉しくなった。
「なまえさんは、アニのことよくわかってるんですね。」
「ん~、そんなに分かってないと思うよ。あんまり心開いてくれないしね。
でも、アニは意地っ張りで天邪鬼でとっても優しくていい子ってことと
私はアニが大好きって、それだけ知ってたら充分かな~って思うの。」
「そうですね。充分だと思います。」
そう言ったベルトルトもなんだか嬉しそうに見えた。
それからも、朴訥としたイメージだったベルトルトと意外と話は弾んだのはよかったけれど、なかなか目当ての本は見つからない。
もしかしたら別の本棚に移動されているのかもしれない、とお互いに別々の棚に移動して探すことにした。
探している最中に、図書室の扉が開いて誰かが入ってきたようだった。
少なくとも私とベルトルトを合わせて3人も図書室にいるなんて、今日は珍しい日だ。
そんなことを思いながら上の棚を見上げて、ようやく目当ての本を見つけることが出来た。
でもー。
「と…、届かない…!」
本棚の一番上の棚にあったせいで、身長が足りず届かない。
つま先立ちをして、必死に手を伸ばしてみたが、ダメだ。
「なまえさん、ありましたか?」
本棚と本棚の間から、ベルトルトが顔を出す。
「あったんだけど、一番上にあって届かないの。」
「どれですか?」
困った顔で言った私の元へやってきたベルトルトに、見つけた本を教える。
すると、長身のベルトルトはいとも簡単に目当ての本を取り出してくれた。
「どうぞ。」
「ありがとうっ。」
ふわりと微笑むベルトルトから、本を受け取った。
そういえば昔も、こんなことがあった。
まだ、ルーカスと恋人にはなっていなかった頃だ。
読書が好きだと話したら、ストヘス区に大きな図書館があると連れて行ってくれた。
そこで、私は今みたいに必死に背伸びして本を取ろうとしていて、それに気づいたルーカスが本を取ってくれた姿がスマートで、とてもカッコ良くて、ドキドキしたのを覚えてる。
あのときは、やっぱり背が高い男の人は素敵だーなんて思っていたのに、今は自分とそんなに身長が変わらない男の人に苦しいほどの恋をしているなんて信じられない。
思わず、ふふっと笑ってしまって、ベルトルトに不思議そうにされてしまった。
「どうかしたんですか?」
「ちょっと昔の恋人のことを思い出しちゃって。」
まさかリヴァイ兵長のことを考えていたとも言えず、嘘でもないことを言って誤魔化した。
お互いにお目当ての本は手に入れたので、話しながら図書室を出る。
「昔の恋人ってどんな人だったんですか?」
「さっき、ベルトルトに似てるなぁって思ってたところだよ。」
「僕ですか?」
「うん、優しくて穏やかな人だったから。
ベルトルトみたいに背も高かったしね。」
「僕は背は高いですけど、性格は…優柔不断なだけですよ。」
「優柔不断なの?」
謙虚なのか本気なのか。
自分の良さを気づいていないベルトルトが可愛くて、私はクスリと笑った。
「あれ?リヴァイが図書室にいるなんて珍しいね。」
「エルヴィンに会議の資料として本を探してほしいと頼まれた。」
「なんだか、私となまえみたいだね。
それで、なまえもここにいたと思うんだけど、知らない?」
「さぁ。見てねぇな。」
「あれ~、すれ違いかな?」
図書室を出てすぐ、私を探しに来たハンジさんとリヴァイ兵長がそんな会話を交わしていたなんて、知らなかった。
少し前に私が勉強のために読んだ本のタイトルを探している。
実験のときに、その本の話をハンジさんにしたところ、とても興味を持ったらしい。
今から探しに行くと言っていたが、まだ仕事が残っているということだったし、一度その本を手に取った私の方が探しやすいだろうと思い、代わりに図書室にやってきたのだ。
でも、私が本を返したはずの場所に、目当ての本はなかった。
あんな古い本、誰かがもう借りてしまったのだろうか。
兵士達はあまり本を読む習慣はないようで、書類仕事が増える時期以外はあまり図書室を利用されることもない。
最近は訓練が主な任務になっているから、あの本は絶対にあると思ったのだけれどー。
「何か探してるんですか?」
声をかけてきたのはベルトルトだった。
片手に数冊の本を持っている。彼も本を借りに来たのか、もしくは返しに来たのかもしれない。
「うん、前に読んだ本なんだけど、返したところになくって。」
「何て本ですか?一緒に探しますよ。」
「いいの?」
「僕もこの本を返したら、他に読みたいの探したいと思っていたんです。
だから、それと一緒に探しますよ。」
「ありがとうっ、助かるっ。」
ベルトルトに礼を言って、探している本のタイトルを伝えた。
一緒に本を探しながら、ベルトルトの話を聞くと、時々、こうして図書室に時々来て本を読んでいるそうだ。
この世界の巨人の歴史、巨人の知識を学びたいと語る彼は、とてもまじめで一生懸命で、とても好青年に見えた。
「あれ?それ、前からしてました?」
本を探していたベルトルトの視線が、私の左手首に移った。
赤いブレスレットに気づいたらしい。
「良く気付いたね。男の人って気づかないものだと思ってたよ。」
「そんな派手な色だったら誰だって気づきますよ。」
苦笑するベルトルトに、教えてやりたくなる。
リヴァイ兵長は言うまで気づかなかったのだと、喉まで出かかってなんとか堪えた。
「綺麗なブレスレットですね。なまえさんの明るいイメージにピッタリです。」
ふわりと微笑むベルトルトが、穏やかに微笑むルーカスと重なった。
ほんの少し前髪が短くなっただけで、とても可愛いねと言ってくれたルーカスのことだから、もし彼がここにいたら、今のベルトルトよりもずっと早く、会った瞬間にこのブレスレットに気づいてくれたのだろう。
「ありがとう。
でも、これは、アニのイメージで買ったのよ。」
私は自分の左手首に飾られている赤いブレスレットを見ながら、素直じゃないけれど優しくて可愛いアニのことを思った。
今頃、彼女は憲兵団施設でどうしているのだろう。
今度、手紙でも送ろうかなー。
「アニ?
…って僕たちと同期のアニのことですか?」
私とアニが知り合いだと知ったベルトルトは驚いた様子だった。
対人格闘に興味を持った私が、アルミン達から仲間内で一番得意だったと聞いたアニに会いに行った話をしたら、さらに驚いていた。
仕事の合間に、わざわざ対人格闘を習いに行く人がいるなんて思わなかったと真面目な顔で言われて、それもそうかと苦笑する。
でも、そのおかげで私はアニと知り合えた。
生きて帰ってきた私に、ホッとした顔で、けれども素っ気なく「おかえり」と言ってくれる人がいる。
それは、私にとってとても大きな力になっている。
「これは、アニとお揃いなの。
クールなのに、目の奥にすごく熱い意志を持ってる強いアニのイメージの赤なの。」
「あぁ…、なんか分かる気がします。」
「でしょう?」
ベルトルトに同意してもらえて、私は嬉しくなった。
「なまえさんは、アニのことよくわかってるんですね。」
「ん~、そんなに分かってないと思うよ。あんまり心開いてくれないしね。
でも、アニは意地っ張りで天邪鬼でとっても優しくていい子ってことと
私はアニが大好きって、それだけ知ってたら充分かな~って思うの。」
「そうですね。充分だと思います。」
そう言ったベルトルトもなんだか嬉しそうに見えた。
それからも、朴訥としたイメージだったベルトルトと意外と話は弾んだのはよかったけれど、なかなか目当ての本は見つからない。
もしかしたら別の本棚に移動されているのかもしれない、とお互いに別々の棚に移動して探すことにした。
探している最中に、図書室の扉が開いて誰かが入ってきたようだった。
少なくとも私とベルトルトを合わせて3人も図書室にいるなんて、今日は珍しい日だ。
そんなことを思いながら上の棚を見上げて、ようやく目当ての本を見つけることが出来た。
でもー。
「と…、届かない…!」
本棚の一番上の棚にあったせいで、身長が足りず届かない。
つま先立ちをして、必死に手を伸ばしてみたが、ダメだ。
「なまえさん、ありましたか?」
本棚と本棚の間から、ベルトルトが顔を出す。
「あったんだけど、一番上にあって届かないの。」
「どれですか?」
困った顔で言った私の元へやってきたベルトルトに、見つけた本を教える。
すると、長身のベルトルトはいとも簡単に目当ての本を取り出してくれた。
「どうぞ。」
「ありがとうっ。」
ふわりと微笑むベルトルトから、本を受け取った。
そういえば昔も、こんなことがあった。
まだ、ルーカスと恋人にはなっていなかった頃だ。
読書が好きだと話したら、ストヘス区に大きな図書館があると連れて行ってくれた。
そこで、私は今みたいに必死に背伸びして本を取ろうとしていて、それに気づいたルーカスが本を取ってくれた姿がスマートで、とてもカッコ良くて、ドキドキしたのを覚えてる。
あのときは、やっぱり背が高い男の人は素敵だーなんて思っていたのに、今は自分とそんなに身長が変わらない男の人に苦しいほどの恋をしているなんて信じられない。
思わず、ふふっと笑ってしまって、ベルトルトに不思議そうにされてしまった。
「どうかしたんですか?」
「ちょっと昔の恋人のことを思い出しちゃって。」
まさかリヴァイ兵長のことを考えていたとも言えず、嘘でもないことを言って誤魔化した。
お互いにお目当ての本は手に入れたので、話しながら図書室を出る。
「昔の恋人ってどんな人だったんですか?」
「さっき、ベルトルトに似てるなぁって思ってたところだよ。」
「僕ですか?」
「うん、優しくて穏やかな人だったから。
ベルトルトみたいに背も高かったしね。」
「僕は背は高いですけど、性格は…優柔不断なだけですよ。」
「優柔不断なの?」
謙虚なのか本気なのか。
自分の良さを気づいていないベルトルトが可愛くて、私はクスリと笑った。
「あれ?リヴァイが図書室にいるなんて珍しいね。」
「エルヴィンに会議の資料として本を探してほしいと頼まれた。」
「なんだか、私となまえみたいだね。
それで、なまえもここにいたと思うんだけど、知らない?」
「さぁ。見てねぇな。」
「あれ~、すれ違いかな?」
図書室を出てすぐ、私を探しに来たハンジさんとリヴァイ兵長がそんな会話を交わしていたなんて、知らなかった。