◇第五十二話◇臆病者の夜
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馭者によると、運よく馬は無事なのでまた馬車として走ることは出来るそうだ。だが、壊れた車輪の修理は明るくなってからでないと出来ないため、出発は明日の朝ということになってしまった。
それでも、馬車が横転した場所の近くに小さな宿屋があったのは、不幸中の幸いだったに違いない。
空いている部屋が、1部屋しかなかったことを覗いてはー。
部屋が足りず、馭者はこの宿屋の主人の部屋に泊まらせてもらえることになったが、私とリヴァイ兵長は同室になってしまった。
どの部屋に泊まるにしても、私は誰か男性と泊まらなければならない状況で、リヴァイ兵長と一緒の部屋になるのは必然だった。
だから、リヴァイ兵長が入っているシャワールームの音にドキドキしながら、私は窓際の1人掛けのソファに座って、一心に濡れた髪をタオルで乾かしている。
さすがにシャワーの後に今日一日中着ていた服に着替えるのには抵抗があって、脱衣室に用意してあったルームウェアを借りた。薄いシャツとズボンだけだと、身体のシルエットが隠せずに恥ずかしかったので、ガウンも羽織っている。
本当は、上官から先にシャワールームに入ってくれとは言ったのだが、女性が先だとリヴァイ兵長に断られた。
意外にもレディーファーストなところがあったらしい。
綺麗好きなリヴァイ兵長は、ゆっくりシャワーを浴びるのだろうと思っていたのだけれど、あっという間に出てきて驚いた。
「え?もう終わったん、で、すかー。」
開いたシャワールームの扉を見て、私は慌てて目を反らした。
リヴァイ兵長もこの部屋のルームウェアを借りたようだが、下のズボンだけだ。
上半身の裸体を見てしまった。
決して、決して想像したことはないけれど、想像以上に筋肉質で男らしくて、濡れた髪がやけに色っぽくてー。
(恥ずかしい!私が!!)
恥ずかしがる私の気持ちなんて全く気付いていない様子のリヴァイ兵長は、肩にかけたタオルで適当に濡れた髪を拭きながらやってくると、中央にある2人掛けのソファにドカッと腰をおろした。
「災難だったな。」
「そうですね。
でも、兵団のお金でシャワー浴びれたので
ラッキーだったと思うことにします。」
「ものは考えようだな。」
「そうですよ。なんでもポジティブシンキングが大切だって
オルオに教えられたんです。」
「まぁ、それだけが取り柄みたいなやつだからな。」
リヴァイ兵長の裸体が目に入らないように、窓の方を見ながら私は必死に平静を装う。
シャワー後の男女が同室にいるのに、平然としているリヴァイ兵長は私よりもずっと大人だー。
そう思う反面、何も感じてもらえていないことがツラかった。
シャワーを浴びれたことが嬉しかったのか、いつもよりも饒舌なリヴァイ兵長と話をしながら、私はただただ一心にタオルで濡れた髪を拭き続ける。
「髪が長ぇと時間がかかって面倒だな。」
「そうですねぇ。」
「切らねぇのか。他の奴らは短いのが多いだろ。」
「せっかくここまで伸びたのを切るのはもったいなくて。
結んでしまえば、任務中もそこまで邪魔じゃないですし。」
「そういうもんか。」
リヴァイ兵長はさほど興味もなさそうに答える。
いつの間にか、リヴァイ兵長は髪を乾かすのは終わっていたようだ。
チラリと見ると、肩にタオルをかけたまま、つまらなそうにソファに座っていた。
リヴァイ兵長は、トップは長めだけれど刈り上げだから、髪もすぐに乾くのだろう。
髪が短い人は、こういうとき羨ましいと思う。
だからって、それが理由で髪を切ろうとは思わないけれど。
「リヴァイ兵長は、女性の髪は長いのと短いのはどっちがタイプなんですか?」
「考えたこともねぇな。」
「今まで好きになった人は、どっちが多かったんですか?」
他愛もない会話を装って、すごく勇気を出して聞いた。
今までどんな人を好きになったのかなんて、本当は知りたくない。
でも、聞きたい。
複雑な気持ちで、リヴァイ兵長の返事を待った。
けれどー。
「覚えてねぇ。」
リヴァイ兵長は素っ気なく答えた。
本当に覚えていないわけはないのにー。
でも、好きな人のタイプは知れなかったけれど、過去の女性の話を聞かずに済んでよかったとホッともした。
一心に髪を乾かし続けたおかげで、それからすぐにだいぶ髪も乾いた。
「リヴァイ兵長のタオル、もう使わないなら
私のと一緒に脱衣室に持っていきますよ。」
「あぁ、助かる。」
タオルを渡そうと出したリヴァイ兵長の手を見て、私はようやく気が付いた。
宿屋に来るまではあったはずの包帯が巻かれていない。
シャワーのときに外したのだろう。
「手、見せてください。」
タオルを受け取った後、私はリヴァイ兵長の手を掴んだ。
私が何をしようとしているのか察したのか、すぐに傷口を隠そうとした手を両手で包んで動きを止める。
(こんなことに…。)
いつも包帯を巻いているのだから、当然かもしれないが、傷口を見るのは、初めてだった。
傷は塞がりかけているようだが、包丁の刃が食い込んだと思われる傷跡が痛々しい。
(そうだ、肩も…っ。)
右肩のあたりを見ると、そこにも刺傷が残っていた。
こちらの方が傷が深いのか、右手のひらよりも傷跡が生々しい。
「こんなに、深い傷だったんですね…。」
リヴァイ兵長の手を包む自分の手が小さく震えていた。
大怪我をさせた認識はあった。でも、それを目の当たりにすると、怖くなった。
リヴァイ兵長に怪我をさせたことも、その傷を作った包丁の刃が自分に向いていたという現実もー。
「すぐに包帯と消毒液を貰ってきます。」
リヴァイ兵長に背を向けて、早足で部屋を出ようとした私の腕を掴まれた。
「待て。必要ねぇ。」
振り返ると、リヴァイ兵長と目があった。
「ダメですよ。ちゃんと消毒と包帯はしなくちゃ。
医療兵にもそう言われてるんでしょう?」
「わかった。おれが行く。」
「いいですよ。私が行きますから。」
「お前はダメだ。」
「なんでですか。ちょっと貰いに行くだけじゃないですか。」
「危険だ。」
リヴァイ兵長が大真面目に言うそれに、私は一瞬キョトンとしてしまった。
危険って何を言っているのだろう。
首を傾げる私をリヴァイ兵長の力強い目が引き留めてくる。
「…今から外に包帯を買いに行くわけじゃなくて、
下の階の宿のご主人に包帯を貰いに行くだけですよ。」
確かにもう夜も遅い。
こんな時間に外に出るのは危険だろう。
でも、私はこの宿から出るつもりはない。
勘違いしたのかと思ったけれど、どうも違うようだ。
「知ってる。」
「あの、じゃあ、何も危険ではないと思うんですけど…?」
「他の部屋にどこの誰だか分からねぇ男が泊ってるんだぞ。
襲われたらどうするつもりだ。」
至極真面目に、リヴァイ兵長は言った。
当然のことを言っているつもりでいるらしい。
でもー。
「大丈夫だと思うので、行ってきます。」
話にならないと思って、私は無視して部屋を出ることに決めた。
でも、リヴァイ兵長は掴んでいた腕を離さずに、グイッと後ろに引いた。
私の身体は、前に進めずに後ろに後ずさりながら、ソファに尻もちをつく。
結果としてソファに座ってしまった私の代わりに、リヴァイ兵長は立ち上がった。
「お前は絶対にこの部屋を出るな。」
厳しい目でそう言ったリヴァイ兵長は、呆気にとられる私を残して部屋を出て行った。
上半身裸なのにー。
それでも、馬車が横転した場所の近くに小さな宿屋があったのは、不幸中の幸いだったに違いない。
空いている部屋が、1部屋しかなかったことを覗いてはー。
部屋が足りず、馭者はこの宿屋の主人の部屋に泊まらせてもらえることになったが、私とリヴァイ兵長は同室になってしまった。
どの部屋に泊まるにしても、私は誰か男性と泊まらなければならない状況で、リヴァイ兵長と一緒の部屋になるのは必然だった。
だから、リヴァイ兵長が入っているシャワールームの音にドキドキしながら、私は窓際の1人掛けのソファに座って、一心に濡れた髪をタオルで乾かしている。
さすがにシャワーの後に今日一日中着ていた服に着替えるのには抵抗があって、脱衣室に用意してあったルームウェアを借りた。薄いシャツとズボンだけだと、身体のシルエットが隠せずに恥ずかしかったので、ガウンも羽織っている。
本当は、上官から先にシャワールームに入ってくれとは言ったのだが、女性が先だとリヴァイ兵長に断られた。
意外にもレディーファーストなところがあったらしい。
綺麗好きなリヴァイ兵長は、ゆっくりシャワーを浴びるのだろうと思っていたのだけれど、あっという間に出てきて驚いた。
「え?もう終わったん、で、すかー。」
開いたシャワールームの扉を見て、私は慌てて目を反らした。
リヴァイ兵長もこの部屋のルームウェアを借りたようだが、下のズボンだけだ。
上半身の裸体を見てしまった。
決して、決して想像したことはないけれど、想像以上に筋肉質で男らしくて、濡れた髪がやけに色っぽくてー。
(恥ずかしい!私が!!)
恥ずかしがる私の気持ちなんて全く気付いていない様子のリヴァイ兵長は、肩にかけたタオルで適当に濡れた髪を拭きながらやってくると、中央にある2人掛けのソファにドカッと腰をおろした。
「災難だったな。」
「そうですね。
でも、兵団のお金でシャワー浴びれたので
ラッキーだったと思うことにします。」
「ものは考えようだな。」
「そうですよ。なんでもポジティブシンキングが大切だって
オルオに教えられたんです。」
「まぁ、それだけが取り柄みたいなやつだからな。」
リヴァイ兵長の裸体が目に入らないように、窓の方を見ながら私は必死に平静を装う。
シャワー後の男女が同室にいるのに、平然としているリヴァイ兵長は私よりもずっと大人だー。
そう思う反面、何も感じてもらえていないことがツラかった。
シャワーを浴びれたことが嬉しかったのか、いつもよりも饒舌なリヴァイ兵長と話をしながら、私はただただ一心にタオルで濡れた髪を拭き続ける。
「髪が長ぇと時間がかかって面倒だな。」
「そうですねぇ。」
「切らねぇのか。他の奴らは短いのが多いだろ。」
「せっかくここまで伸びたのを切るのはもったいなくて。
結んでしまえば、任務中もそこまで邪魔じゃないですし。」
「そういうもんか。」
リヴァイ兵長はさほど興味もなさそうに答える。
いつの間にか、リヴァイ兵長は髪を乾かすのは終わっていたようだ。
チラリと見ると、肩にタオルをかけたまま、つまらなそうにソファに座っていた。
リヴァイ兵長は、トップは長めだけれど刈り上げだから、髪もすぐに乾くのだろう。
髪が短い人は、こういうとき羨ましいと思う。
だからって、それが理由で髪を切ろうとは思わないけれど。
「リヴァイ兵長は、女性の髪は長いのと短いのはどっちがタイプなんですか?」
「考えたこともねぇな。」
「今まで好きになった人は、どっちが多かったんですか?」
他愛もない会話を装って、すごく勇気を出して聞いた。
今までどんな人を好きになったのかなんて、本当は知りたくない。
でも、聞きたい。
複雑な気持ちで、リヴァイ兵長の返事を待った。
けれどー。
「覚えてねぇ。」
リヴァイ兵長は素っ気なく答えた。
本当に覚えていないわけはないのにー。
でも、好きな人のタイプは知れなかったけれど、過去の女性の話を聞かずに済んでよかったとホッともした。
一心に髪を乾かし続けたおかげで、それからすぐにだいぶ髪も乾いた。
「リヴァイ兵長のタオル、もう使わないなら
私のと一緒に脱衣室に持っていきますよ。」
「あぁ、助かる。」
タオルを渡そうと出したリヴァイ兵長の手を見て、私はようやく気が付いた。
宿屋に来るまではあったはずの包帯が巻かれていない。
シャワーのときに外したのだろう。
「手、見せてください。」
タオルを受け取った後、私はリヴァイ兵長の手を掴んだ。
私が何をしようとしているのか察したのか、すぐに傷口を隠そうとした手を両手で包んで動きを止める。
(こんなことに…。)
いつも包帯を巻いているのだから、当然かもしれないが、傷口を見るのは、初めてだった。
傷は塞がりかけているようだが、包丁の刃が食い込んだと思われる傷跡が痛々しい。
(そうだ、肩も…っ。)
右肩のあたりを見ると、そこにも刺傷が残っていた。
こちらの方が傷が深いのか、右手のひらよりも傷跡が生々しい。
「こんなに、深い傷だったんですね…。」
リヴァイ兵長の手を包む自分の手が小さく震えていた。
大怪我をさせた認識はあった。でも、それを目の当たりにすると、怖くなった。
リヴァイ兵長に怪我をさせたことも、その傷を作った包丁の刃が自分に向いていたという現実もー。
「すぐに包帯と消毒液を貰ってきます。」
リヴァイ兵長に背を向けて、早足で部屋を出ようとした私の腕を掴まれた。
「待て。必要ねぇ。」
振り返ると、リヴァイ兵長と目があった。
「ダメですよ。ちゃんと消毒と包帯はしなくちゃ。
医療兵にもそう言われてるんでしょう?」
「わかった。おれが行く。」
「いいですよ。私が行きますから。」
「お前はダメだ。」
「なんでですか。ちょっと貰いに行くだけじゃないですか。」
「危険だ。」
リヴァイ兵長が大真面目に言うそれに、私は一瞬キョトンとしてしまった。
危険って何を言っているのだろう。
首を傾げる私をリヴァイ兵長の力強い目が引き留めてくる。
「…今から外に包帯を買いに行くわけじゃなくて、
下の階の宿のご主人に包帯を貰いに行くだけですよ。」
確かにもう夜も遅い。
こんな時間に外に出るのは危険だろう。
でも、私はこの宿から出るつもりはない。
勘違いしたのかと思ったけれど、どうも違うようだ。
「知ってる。」
「あの、じゃあ、何も危険ではないと思うんですけど…?」
「他の部屋にどこの誰だか分からねぇ男が泊ってるんだぞ。
襲われたらどうするつもりだ。」
至極真面目に、リヴァイ兵長は言った。
当然のことを言っているつもりでいるらしい。
でもー。
「大丈夫だと思うので、行ってきます。」
話にならないと思って、私は無視して部屋を出ることに決めた。
でも、リヴァイ兵長は掴んでいた腕を離さずに、グイッと後ろに引いた。
私の身体は、前に進めずに後ろに後ずさりながら、ソファに尻もちをつく。
結果としてソファに座ってしまった私の代わりに、リヴァイ兵長は立ち上がった。
「お前は絶対にこの部屋を出るな。」
厳しい目でそう言ったリヴァイ兵長は、呆気にとられる私を残して部屋を出て行った。
上半身裸なのにー。