◇第五十二話◇臆病者の夜
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ようやく馬車が走り出してすぐに、真っ赤だった空は紫色に変わった。
予定よりもだいぶ帰る時間が遅れている。
私の斜め前に座るリヴァイ兵長は、ジャケットのポケットから懐中時計を取り出してチッと舌打ちをした。
「あのジジィのせいでだいぶ遅くなった。
帰り着くのは、明日の昼だな。」
「明日は何か急ぎのお仕事があったんですか?」
「いや。お前は明日から任務再開だったな。
ハンジから何か言われてるのか?」
「確か、何とかっていう名前をつけた巨人の実験を
一緒にしようって言ってました。」
「なら問題ねぇ。遅れていいな。」
当然のように言ったリヴァイ兵長に分からないように、私は苦笑する。
遅れていいとは思わないけれど、でも、絶対に間に合うように帰らなければならない仕事ではなくて安心はしている。
「今日は楽しんだか。」
リヴァイ兵長の訊ね方が、まるでお父さんみたいでクスリと笑ってしまう。
それが気に入らなかったのか、片眉がピクリと動いたからすぐに誤魔化した。
「お揃いのブレスレットを買いました。」
私は自慢するように自分の左手首を上げて見せた。
派手な色の私服姿ではないから、真っ赤なブレスレットは目立っていたと思うのだが、リヴァイ兵長は見せられて初めて気づいたようだった。
「そりゃ、よかったな。」
「はいっ。ルルとも、こういうの買っておけばよかったなぁって
思ってたんです。」
私は自分の左手首を飾る赤いブレスレットを撫でた。
いつ死の危険が襲ってくるか分からないこの世界で、私は生死の最前線で戦う兵士になった。
大切な人達も兵士ばかりになった。
だから、私は彼らとの絆を何か残したい。持っていたい。
出来れば、リヴァイ兵長ともー。
そこまで思って、思考を停止する。
それから、時々思いついたことを話すくらいで、2人とも特に会話を楽しもうともせずに窓の外を眺めているうちに、景色は夜に変わっていった。
たまに見える外灯が暗闇をほんの気持ち程度照らすくらい夜だ。
三日月が心許なげに夜に色をつけているけれど、星はあまり出ていない。
雲がかかているのかもしれない。
そんなことを考えていると、いきなり馬車が跳ねるように揺れた。
それに驚いたときにはもう馬車は大きく横揺れを起こしていた。
馬車が揺れる度に身体が左右に持っていかれて、制御できない。
「キャァーっ。」
ついに馬車が横倒しになった。
思わず目を瞑った私の身体も、強い衝撃を受けて倒れていた。
でも、思ったより痛くなかったのは、リヴァイ兵長が私の身体を受け止めてくれていたからだ。
目を瞑る直前、私に手を伸ばすリヴァイ兵長が見えた気がする。
「おい、大丈夫か。」
「はい…、なんとか…。」
「チッ、馬が寝ぼけて転びやがったか。」
リヴァイ兵長は、私の身体を起こした後、苛立ち気味に言って自分も立ち上がった。
すぐに慌てた様子の馭者がやってきて、馬車の車輪が大きな岩を踏んでしまって倒れたことを教えてくれた。
予定よりもだいぶ帰る時間が遅れている。
私の斜め前に座るリヴァイ兵長は、ジャケットのポケットから懐中時計を取り出してチッと舌打ちをした。
「あのジジィのせいでだいぶ遅くなった。
帰り着くのは、明日の昼だな。」
「明日は何か急ぎのお仕事があったんですか?」
「いや。お前は明日から任務再開だったな。
ハンジから何か言われてるのか?」
「確か、何とかっていう名前をつけた巨人の実験を
一緒にしようって言ってました。」
「なら問題ねぇ。遅れていいな。」
当然のように言ったリヴァイ兵長に分からないように、私は苦笑する。
遅れていいとは思わないけれど、でも、絶対に間に合うように帰らなければならない仕事ではなくて安心はしている。
「今日は楽しんだか。」
リヴァイ兵長の訊ね方が、まるでお父さんみたいでクスリと笑ってしまう。
それが気に入らなかったのか、片眉がピクリと動いたからすぐに誤魔化した。
「お揃いのブレスレットを買いました。」
私は自慢するように自分の左手首を上げて見せた。
派手な色の私服姿ではないから、真っ赤なブレスレットは目立っていたと思うのだが、リヴァイ兵長は見せられて初めて気づいたようだった。
「そりゃ、よかったな。」
「はいっ。ルルとも、こういうの買っておけばよかったなぁって
思ってたんです。」
私は自分の左手首を飾る赤いブレスレットを撫でた。
いつ死の危険が襲ってくるか分からないこの世界で、私は生死の最前線で戦う兵士になった。
大切な人達も兵士ばかりになった。
だから、私は彼らとの絆を何か残したい。持っていたい。
出来れば、リヴァイ兵長ともー。
そこまで思って、思考を停止する。
それから、時々思いついたことを話すくらいで、2人とも特に会話を楽しもうともせずに窓の外を眺めているうちに、景色は夜に変わっていった。
たまに見える外灯が暗闇をほんの気持ち程度照らすくらい夜だ。
三日月が心許なげに夜に色をつけているけれど、星はあまり出ていない。
雲がかかているのかもしれない。
そんなことを考えていると、いきなり馬車が跳ねるように揺れた。
それに驚いたときにはもう馬車は大きく横揺れを起こしていた。
馬車が揺れる度に身体が左右に持っていかれて、制御できない。
「キャァーっ。」
ついに馬車が横倒しになった。
思わず目を瞑った私の身体も、強い衝撃を受けて倒れていた。
でも、思ったより痛くなかったのは、リヴァイ兵長が私の身体を受け止めてくれていたからだ。
目を瞑る直前、私に手を伸ばすリヴァイ兵長が見えた気がする。
「おい、大丈夫か。」
「はい…、なんとか…。」
「チッ、馬が寝ぼけて転びやがったか。」
リヴァイ兵長は、私の身体を起こした後、苛立ち気味に言って自分も立ち上がった。
すぐに慌てた様子の馭者がやってきて、馬車の車輪が大きな岩を踏んでしまって倒れたことを教えてくれた。