休憩もせずに書類をさばくことに集中していた私は、最後の書類を終え大きく息を吐きだした。
気づけば、窓の外はもう真っ暗になっている。
私は、怒り爆発のオルオを鎮めて部屋を追い出してくれたペトラのことを思い出す。

『絶対に！絶対に誰にも言わないでっ！！』

オルオが部屋を出た後、ペトラは必死にそう繰り返した。
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして焦っているペトラは、どう見ても恋する乙女だった。
どうやら、心変わりというのは本当らしい。
だが、その相手についてはどうしても教えたくないようだった。

『自分でも死ぬほど信じられないから…。
　もう少し心が落ち着いたら言わせて。』

私から目を反らしたペトラは、恋する乙女から一瞬で、やさぐれてしまった。
そんな彼女から、無理やり恋の相手を聞き出せるわけがない。
それにしても、死ぬほど信じられない恋の相手とは誰だろうか。

(エルヴィン団長とか？)

頭に浮かんだのは、調査兵団のトップの顔。
エルヴィン団長は、リヴァイ兵長ほどではなくとも、精鋭兵のペトラと仕事を共にすることも多い。
どこか近寄りがたい雰囲気もあるけれど、優しく頼りがいのある大人の男性だ。
ペトラがずっとリヴァイ兵長に恋をしていたことから考えると、年上が好みなのかもしれないし、エルヴィン団長なら十分ありえる。

(エルヴィン団長って独身だったと思うんだけどなぁ。)

確かに、自分が恋をした相手が兵団のトップというのは信じ難いかもしれない。
しかもそれが、誰よりも頭が切れて、戦術のことや、人類に心臓を捧げることしか考えていないようなエルヴィン団長ならなおさらだ。
恋をするのは、ツラいかもしれない。
でも、既婚者なわけでもないし、恋人がいそうな雰囲気もない。
あんなにやさぐれるようなことではないと思うのだがー。
でも、ペトラにしか分からない何かがあるのかもしれない。
とにかく、ペトラが話したくないのなら、彼女が話したくなるまで待つしかない。

「夕飯前に書類を提出して、
　ハンジさんにストヘス区に行ってもいいか許可貰ってこよう。」

最後にようやく終わらせた壁外調査の報告資料を抱えて、私へは部屋を出た。