◇第四十八話◇ポジティブシンキング
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調査兵団に戻ってきて、4日が経った。
あんなに山積みにされていた書類の山も、後残りわずかになった。
正直、休暇中に終わる気がしなかった書類仕事だったが、これなら、休暇を満喫できるかもしれない。
希望が見えてきたのは、ひとえにペトラのおかげだ。
「-でね、だからここは作戦の危険性と注意点をまとめておいた方が分かりやすいと思うよ。」
「あ、そっかっ!だから、エルヴィン団長が実践をよく思い出せって言ってたのか。」
「そうそう、こういうのを後から見て今後の作戦に役立てるわけだからね。」
「了解ですっ!」
広くなった部屋、中央に置かれている3人掛けほどのローテーブルに並んで座り、ペトラは私に書類の書き方を教えてくれた。
今後の作戦立案とそれに伴う資金計画書なんていう、恐らくハンジさんがまとめるべき難しい書類も、過去のペトラの経験等を交えて一緒に考えてくれたおかげで、なんとか終わらせることが出来た。
彼女がいなければ、私はまだ書類の山の中にいて、今頃窒息死していたかもしれない。
「よし、キリがいいし。このあたりで休憩しようか。」
一通りの書類が終わり、ペトラが一息つく。
「本当にありがとうっ!助かったよ~。」
「どういたしまして。」
ニコリと微笑むペトラにもう一度お礼を言って、私はテーブルの上に散らばる書類や資料を片付け始める。
本当に、仕事の合間を縫って彼女が、手伝ってくれて助かった。
壁外調査後ということで、壁外任務もなく雑務だけだからと言っていたけれど、貴重な時間を私の書類仕事に使ってくれた彼女に、申し訳ないとともに、心から感謝している。
「リヴァイ兵長とはどうなの?」
唐突にペトラから出てきた名前に、テーブルの上に散らばる書類をまとめていた私の手が止まる。
星を見るために壁の上に連れて行ってもらった夜のことを思い出す。
私の悪ふざけに機嫌を悪くしたかと思ったが、あれからは特に雰囲気が悪くなることもなく、だからといって良い雰囲気になるわけでもなく、終始上司と部下としての会話をして終わった。
「何かあった?」
「え?ううん、何もないよ。」
私は首を横に振ると、まとめた書類をデスクに持っていく。
残ったのは、私が1人でも出来そうな書類だけだ。
なんとか頑張れば、今夜中に終わるのではないだろうか。
「ねぇ、絶対何かあったでしょ?」
「ないってば。」
書類をデスクに置いた私は、困ったように笑って言って、ペトラの隣に座った。
何かあるとすれば、何かあればいいと愚かな期待をしてしまった結果、無駄な勇気を出して悪ふざけのノリで仕掛けたら、返り討ちにあったくらいだ。
「私には知る権利があると思います。」
ペトラの真剣な瞳が、ずいっと私の顔の前にやってくる。
心底真面目そうなその表情に、私は思わずたじろいでしまう。
「…ねぇ、ペトラは本当にもういいの?」
ペトラは本当に、リヴァイ兵長のことはもうなんとも思っていないのだろうか。
吹っ切れているような表情をしているペトラを前にしても、私はまだ信じられなかった。
だって、彼女は本当にリヴァイ兵長のことを大切に想っていて、真っすぐに恋をしていたのを知っているから。
それに、リヴァイ兵長のことを諦めないと宣言したときの強い瞳。あの瞳が、どうしても忘れられないのだ。
「何が?」
「だから、リヴァイ兵長のことだよ。」
「それはもういいんだってば。」
「もし、私のことを心配してるなら、気にしないで。
私も好きな人は好きでいる。だから、ペトラも好きな人を好きでいてほしい。」
本心だと分かってほしくて、私はペトラの目を見て言った。
ルルの受け売りだけれど、本当にそう思う。
好きな人を好きでいようと決めた途端、想いは抱えきれないくらいに溢れてしまって、溺れそうになって苦しいこともあるけれど、でも、後悔して悲しむことはないと思えるのだ。
だから、ペトラにも、好きな人を好きでいてほしい。
じーっと私の目を見返していたペトラが、ふいに表情をやわらげた。
「私はいつだって、好きな人が好きだよ。」
「でも、あんなに真剣にー。」
「そうだぞ、なまえ。ペトラはいつだって、おれのことをー。」
「うるさい、黙れ。」
ペトラがピシャリとオルオのセリフを切り捨てる。
だが、当の本人は、特に気にする様子もなくデスクの椅子に座って、私がさっきまとめた書類を適当にペラペラとめくっている。
ペトラが私に書類の書き方を教えてくれている間も、何もすることがなくて暇だったらしいオルオは、デスクの椅子に座って片側の脚でバランスをとって遊んでいた。
別に部屋にいるのはいいし、書類の書き方を教えてくれとも思わない。これっぽっちも。
でも、オルオの体重を片側の脚だけで支える椅子が悲鳴を上げていて、軋む音がうるさくて気が散るからやめて欲しかったー。
「ていうか、やっぱり、オルオいるよね?オルオだよね?」
「そうだよ。オルオだよ。」
「やっぱりそうだよね?普通にペトラと一緒に部屋に入ってきて、
普通に椅子に座って遊びだすから、私だけに見えてる魔物かなにかかと思ってたよ。」
「ごめんね、なまえのとこに行くって言ったら、
勝手についてきたの、この魔物。」
「そうかなまえ。お前にはおれが幸せを運ぶ使者に見えたんだな。
それも仕方ねぇ。だがな、おれは惚れた女にしか優しくしねぇ主義なんだ。
傷つけちまって、悪かったな。」
「ねぇ、もしかして私今、告白もしてないのにフラれたの?」
「無視するのが一番だよ。」
「フッ…、おれを束縛するつもりか、ペトラ?
おれの女房を気取るには、まだ必要な手順をこなしてないぜ?」
「…。」
全く話が噛み合っていないオルオに、苛立ちや呆れを通り越して、尊敬の念を抱いてしまう。
彼のポジティブシンキングをほんの少しでも分けてもらえたら、人生はもっと楽しくなるんじゃないかと本気で思う。
「それと、リヴァイ兵長のことはオルオも知ってるから気にしなくていいよ。」
「え?知ってるって?」
「私となまえの好きな人、気づいてたらしいよ。」
「え!?」
私は目を丸くして、オルオを見た。
片方の口の端を上げるオルオの得意気な表情に、無性に腹が立つ。
私が驚いた理由は2つだ。
オルオが私達の気持ちに気づいていたということ、もう一つは、私がリヴァイ兵長を好きだと知っていたくせに、オルオが私のことをフッたということだ。
「いいか、なまえ。お前は必ずリヴァイ兵長を落とせ。命令だ。」
突然、椅子から立ち上がったかと思ったら、オルオは私を見下ろし、顔の前に人差し指を突き付けた。
「命令って言われても…、ただの片想いだし、
私なんかがリヴァイ兵長みたいな人に好きになってもらえるわけないし…。」
自分で言って悲しくなって、私は項垂れる。
そう、これはただの片想いで叶うはずのない恋だ。
だって、相手は人類最強の兵士で、ライバルなんてたくさんいる。
リヴァイ班に所属していて、可愛くてモテるペトラのことばかり気にしていたけれど、最初から恋敵は彼女だけではなかったのだ。
どうしよう。今、気づいた。
「まぁ、確かに。リヴァイ兵長のような最高にカッコいい男が、
ペトラならまだしも、お前みたいなひよっこに骨抜きにされる姿なんて想像は出来ん。」
オルオの言う通り過ぎて、胸が苦しい。
私は自分の心臓をおさえた。
「…オルオは、私の息の根を止めに来たの?」
「無視無視。」
ペトラに助けを求めたが、手で払う仕草をして無視を強調する。
オルオに関して、ペトラはプロだと思う。
ハンジさんにとってのモブリットさんみたいだーと言ったら、彼らは怒る気がしたから黙っておこう。
「だが、お前はなかなか良い仕事をした。」
「仕事?」
「その調子で頑張りたまえ。」
「…?ねぇ、オルオは何の話をしてるの?」
「勝手に言わせておくのが一番だよ。」
「…そうね。」
意味が分からなかったけれど、オルオが意味不明なのはいつものことだし、放っておくことに決めた。
とりあえず、よくわからないが、応援はしてくれているらしいーということで無理やり納得することにする。
とにかく、さっきまではオルオが気になって遠慮していたのだが、彼が私達の気持ちを知っているということなら、話しやすくなった。
「ねぇ、ペトラは本当に他に好きな人が出来たの?」
私がペトラに訊ねると、なぜか2人とも真っ青な顔で私を見た。
心臓が止まったのではないかと心配になるくらいに、目を見開いてかたまっている。
もしかしたら、私は、言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれない。
数秒だっただろうか。
かたまっていた2人は、同時に焦ったように叫び出した。
「おいおいおいおい!どういうことだっ!おれは聞いてねぇぞッ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああああッ!」
オルオがしきりに何かを怒鳴っていたけれど、ペトラが耳を塞いで大声で叫ぶから聞き取ることは出来なかった。
ただ分かったのは、ペトラの心変わりの話まではオルオには伝わっていなかったということだ。
「…ごめん。冗談だよ。オルオ。」
その後、私はオルオに盛大に怒られた。
あんなに山積みにされていた書類の山も、後残りわずかになった。
正直、休暇中に終わる気がしなかった書類仕事だったが、これなら、休暇を満喫できるかもしれない。
希望が見えてきたのは、ひとえにペトラのおかげだ。
「-でね、だからここは作戦の危険性と注意点をまとめておいた方が分かりやすいと思うよ。」
「あ、そっかっ!だから、エルヴィン団長が実践をよく思い出せって言ってたのか。」
「そうそう、こういうのを後から見て今後の作戦に役立てるわけだからね。」
「了解ですっ!」
広くなった部屋、中央に置かれている3人掛けほどのローテーブルに並んで座り、ペトラは私に書類の書き方を教えてくれた。
今後の作戦立案とそれに伴う資金計画書なんていう、恐らくハンジさんがまとめるべき難しい書類も、過去のペトラの経験等を交えて一緒に考えてくれたおかげで、なんとか終わらせることが出来た。
彼女がいなければ、私はまだ書類の山の中にいて、今頃窒息死していたかもしれない。
「よし、キリがいいし。このあたりで休憩しようか。」
一通りの書類が終わり、ペトラが一息つく。
「本当にありがとうっ!助かったよ~。」
「どういたしまして。」
ニコリと微笑むペトラにもう一度お礼を言って、私はテーブルの上に散らばる書類や資料を片付け始める。
本当に、仕事の合間を縫って彼女が、手伝ってくれて助かった。
壁外調査後ということで、壁外任務もなく雑務だけだからと言っていたけれど、貴重な時間を私の書類仕事に使ってくれた彼女に、申し訳ないとともに、心から感謝している。
「リヴァイ兵長とはどうなの?」
唐突にペトラから出てきた名前に、テーブルの上に散らばる書類をまとめていた私の手が止まる。
星を見るために壁の上に連れて行ってもらった夜のことを思い出す。
私の悪ふざけに機嫌を悪くしたかと思ったが、あれからは特に雰囲気が悪くなることもなく、だからといって良い雰囲気になるわけでもなく、終始上司と部下としての会話をして終わった。
「何かあった?」
「え?ううん、何もないよ。」
私は首を横に振ると、まとめた書類をデスクに持っていく。
残ったのは、私が1人でも出来そうな書類だけだ。
なんとか頑張れば、今夜中に終わるのではないだろうか。
「ねぇ、絶対何かあったでしょ?」
「ないってば。」
書類をデスクに置いた私は、困ったように笑って言って、ペトラの隣に座った。
何かあるとすれば、何かあればいいと愚かな期待をしてしまった結果、無駄な勇気を出して悪ふざけのノリで仕掛けたら、返り討ちにあったくらいだ。
「私には知る権利があると思います。」
ペトラの真剣な瞳が、ずいっと私の顔の前にやってくる。
心底真面目そうなその表情に、私は思わずたじろいでしまう。
「…ねぇ、ペトラは本当にもういいの?」
ペトラは本当に、リヴァイ兵長のことはもうなんとも思っていないのだろうか。
吹っ切れているような表情をしているペトラを前にしても、私はまだ信じられなかった。
だって、彼女は本当にリヴァイ兵長のことを大切に想っていて、真っすぐに恋をしていたのを知っているから。
それに、リヴァイ兵長のことを諦めないと宣言したときの強い瞳。あの瞳が、どうしても忘れられないのだ。
「何が?」
「だから、リヴァイ兵長のことだよ。」
「それはもういいんだってば。」
「もし、私のことを心配してるなら、気にしないで。
私も好きな人は好きでいる。だから、ペトラも好きな人を好きでいてほしい。」
本心だと分かってほしくて、私はペトラの目を見て言った。
ルルの受け売りだけれど、本当にそう思う。
好きな人を好きでいようと決めた途端、想いは抱えきれないくらいに溢れてしまって、溺れそうになって苦しいこともあるけれど、でも、後悔して悲しむことはないと思えるのだ。
だから、ペトラにも、好きな人を好きでいてほしい。
じーっと私の目を見返していたペトラが、ふいに表情をやわらげた。
「私はいつだって、好きな人が好きだよ。」
「でも、あんなに真剣にー。」
「そうだぞ、なまえ。ペトラはいつだって、おれのことをー。」
「うるさい、黙れ。」
ペトラがピシャリとオルオのセリフを切り捨てる。
だが、当の本人は、特に気にする様子もなくデスクの椅子に座って、私がさっきまとめた書類を適当にペラペラとめくっている。
ペトラが私に書類の書き方を教えてくれている間も、何もすることがなくて暇だったらしいオルオは、デスクの椅子に座って片側の脚でバランスをとって遊んでいた。
別に部屋にいるのはいいし、書類の書き方を教えてくれとも思わない。これっぽっちも。
でも、オルオの体重を片側の脚だけで支える椅子が悲鳴を上げていて、軋む音がうるさくて気が散るからやめて欲しかったー。
「ていうか、やっぱり、オルオいるよね?オルオだよね?」
「そうだよ。オルオだよ。」
「やっぱりそうだよね?普通にペトラと一緒に部屋に入ってきて、
普通に椅子に座って遊びだすから、私だけに見えてる魔物かなにかかと思ってたよ。」
「ごめんね、なまえのとこに行くって言ったら、
勝手についてきたの、この魔物。」
「そうかなまえ。お前にはおれが幸せを運ぶ使者に見えたんだな。
それも仕方ねぇ。だがな、おれは惚れた女にしか優しくしねぇ主義なんだ。
傷つけちまって、悪かったな。」
「ねぇ、もしかして私今、告白もしてないのにフラれたの?」
「無視するのが一番だよ。」
「フッ…、おれを束縛するつもりか、ペトラ?
おれの女房を気取るには、まだ必要な手順をこなしてないぜ?」
「…。」
全く話が噛み合っていないオルオに、苛立ちや呆れを通り越して、尊敬の念を抱いてしまう。
彼のポジティブシンキングをほんの少しでも分けてもらえたら、人生はもっと楽しくなるんじゃないかと本気で思う。
「それと、リヴァイ兵長のことはオルオも知ってるから気にしなくていいよ。」
「え?知ってるって?」
「私となまえの好きな人、気づいてたらしいよ。」
「え!?」
私は目を丸くして、オルオを見た。
片方の口の端を上げるオルオの得意気な表情に、無性に腹が立つ。
私が驚いた理由は2つだ。
オルオが私達の気持ちに気づいていたということ、もう一つは、私がリヴァイ兵長を好きだと知っていたくせに、オルオが私のことをフッたということだ。
「いいか、なまえ。お前は必ずリヴァイ兵長を落とせ。命令だ。」
突然、椅子から立ち上がったかと思ったら、オルオは私を見下ろし、顔の前に人差し指を突き付けた。
「命令って言われても…、ただの片想いだし、
私なんかがリヴァイ兵長みたいな人に好きになってもらえるわけないし…。」
自分で言って悲しくなって、私は項垂れる。
そう、これはただの片想いで叶うはずのない恋だ。
だって、相手は人類最強の兵士で、ライバルなんてたくさんいる。
リヴァイ班に所属していて、可愛くてモテるペトラのことばかり気にしていたけれど、最初から恋敵は彼女だけではなかったのだ。
どうしよう。今、気づいた。
「まぁ、確かに。リヴァイ兵長のような最高にカッコいい男が、
ペトラならまだしも、お前みたいなひよっこに骨抜きにされる姿なんて想像は出来ん。」
オルオの言う通り過ぎて、胸が苦しい。
私は自分の心臓をおさえた。
「…オルオは、私の息の根を止めに来たの?」
「無視無視。」
ペトラに助けを求めたが、手で払う仕草をして無視を強調する。
オルオに関して、ペトラはプロだと思う。
ハンジさんにとってのモブリットさんみたいだーと言ったら、彼らは怒る気がしたから黙っておこう。
「だが、お前はなかなか良い仕事をした。」
「仕事?」
「その調子で頑張りたまえ。」
「…?ねぇ、オルオは何の話をしてるの?」
「勝手に言わせておくのが一番だよ。」
「…そうね。」
意味が分からなかったけれど、オルオが意味不明なのはいつものことだし、放っておくことに決めた。
とりあえず、よくわからないが、応援はしてくれているらしいーということで無理やり納得することにする。
とにかく、さっきまではオルオが気になって遠慮していたのだが、彼が私達の気持ちを知っているということなら、話しやすくなった。
「ねぇ、ペトラは本当に他に好きな人が出来たの?」
私がペトラに訊ねると、なぜか2人とも真っ青な顔で私を見た。
心臓が止まったのではないかと心配になるくらいに、目を見開いてかたまっている。
もしかしたら、私は、言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれない。
数秒だっただろうか。
かたまっていた2人は、同時に焦ったように叫び出した。
「おいおいおいおい!どういうことだっ!おれは聞いてねぇぞッ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああああッ!」
オルオがしきりに何かを怒鳴っていたけれど、ペトラが耳を塞いで大声で叫ぶから聞き取ることは出来なかった。
ただ分かったのは、ペトラの心変わりの話まではオルオには伝わっていなかったということだ。
「…ごめん。冗談だよ。オルオ。」
その後、私はオルオに盛大に怒られた。