◇第四十七話◇自由な兵士
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エルヴィンがハンジに書類の確認をしていると、誰かが扉を叩いた。
壁外調査から戻ってきて少し経ち、書類が集まってくる頃でもある。
ハンジのように提出にやってきた兵士だろう。
「入れ。」
「失礼します。」
入ってきたのは、つい数分前に話題に上がっていたなまえだった。
書類を手に持っているところを見ると、終わらせた分の提出に来たというところだろう。
なまえは、デスク前にハンジが立っているのに気づくと、驚いていた。
「もう終わったの?」
「まだすべてではないですが、キリのいいところまで終わったので。
少しずつでも提出していかないと、なぜか、私には関係なさそうな書類まで混ざっていて、
部屋が書類に埋め尽くされそうなんです、なぜか。」
「アハハ、そうだった?あっれ~、おかしいな~?」
とぼけるハンジはいつも通りだとして、しっかりと嫌味を詰め込めるまで心が回復しているなまえに、エルヴィンは苦笑する。
まずは先になまえの書類を確認することにして、エルヴィンは彼女から書類を受け取る。
いくつか修正が必要ではあったが、あらかた問題ない。
再提出するほどでもないので、次回から気を付けるようにだけ伝えて、これで良しとする。
「ちょうどよかった。君に確認したいことがあったんだ。」
「私にですか?」
書類の提出が終わり、ホッとしていたなまえは不安そうに訊ねる。
「君の親友、ルル・クレーデルを殺したのは誰だ?」
エルヴィンの質問に、なまえは一瞬、怯えるように瞳を揺らした。
「な…!エルヴィン、どうして今そんなことをー。」
「聞かせてくれ。誰が殺したと思っている?」
止めようとしたハンジに無駄だと言うように、エルヴィンは質問を重ねる。
両の拳を握りしめたなまえが、何かを発しようと息を吸ったのが分かった。
「私は…、」
勇気を出して声を出したのだろう。
だが、その続きを言うのをなまえは躊躇った。
答えが見つからないのか、それとも、その答えを口にするのが、怖いのかー。
「リヴァイか?」
「違います!!リヴァイ兵長は、何も悪くありませんっ!!
リヴァイ兵長は、私だけじゃなくて、ルルも助けてくれました!!」
あれだけ答えを言うのに躊躇ったなまえが、声を荒げた。
きっとそれだけは、彼女の中で、絶対の答えだったのだろう。
リヴァイが、ルルもなまえの心も、殺したのは自分だと苦しんでいたとき、きっと誰よりもなまえが、それだけは違うと知っていた。
人の心が見えたなら、どんなにいいだろうー。
ふとそんなことを思ったエルヴィンだったが、心の中で嘲笑する。
それは、なまえやリヴァイのようなくすみのない人間の場合だけだ。
この世界に生きるほとんどの人間の心は、どこかしら汚れている。
そして、そんな汚れた心が見えてしまったら、世界は壊れる。
それこそ、リヴァイが掃除掃除と騒いで五月蠅いだろう。
「では、君か?リヴァイやハンジから、君の立体起動装置の故障については聞いている。
君が無理して巨人を討伐することもせず、立体起動装置がきちんと動けば、
ルルは死なずに済んだと思うか?」
「私は、あのとき…っ。」
「もういいだろ、エルヴィン。その話は終わったんだ。
せっかくなまえはこれから頑張ろうってー。」
「私は、もう死ぬほど自分を恨みました!」
話題を変えようとしたハンジを止めたのは、今度はなまえだった。
ゾクりとするほどに、力強い眼差しー。
エルヴィンはこの眼差しに見覚えがある。
一瞬、ルルが乗り移ったのかと思ったが、そうではない。
これが、ハンジやリヴァイ、ルルがなまえの中に見た希望の光かー。
「自分の弱さ、情けなさ、脆さはもう死ぬほど恨みました。
そして、ルルが私を救ってくれた。だから、私はもうこれ以上、自分を殺さない。
ルルを殺した何かがこの世にあるのなら…、それは、この世界です!」
「ほう。」
エルヴィンにとって、それは意外な答えだった。
巨人だと言えば合格、そう思っていたのだが、まさか世界と答えるとは。
間違っているとは思えないし、むしろ正解なのかもしれない。
なかなか面白い。
「以前、私は君に訊ねたね。どんな兵士になりたいと思っているか。
そして君は答えた。誰も死なせない兵士になりたい、と。
今もその気持ちは変わらないか?」
思わず、気になって訊ねてしまった。
どうやら、この答えは自分の中で出してから、調査兵団に戻っていたらしい。
なまえは、怯むことなくハッキリと答えた。
「いえ、誰も死なせない兵士は、残念ながら死にました。」
「え!?そうだったの!?
安心したけど…、残念だな。」
ハンジが頭をかく。
複雑なその胸中は分からなくもない。
途方もない目標だが、そんな兵士を目指す人間がいるのも面白いと思っていたのも、また事実だ。
「では、今の君に訊ねよう。
どんな兵士になりたいと思っている?」
エルヴィンは、顔の前で組んだ両手の裏で口の端を上げた。
こんなにも答えを聞くのが、ワクワクするのは久しぶりかもしれない。
「自由な兵士になりたいです。」
「自由な…。」
それこそ、思いも寄らない答えだった。
だって、調査兵団の兵士達は、自由になりたくて壁外に出ているのだ。
そこで、自由な兵士になりたいなんて、面白いことを言ってくれる。
そもそも、なまえはー。
「アハハっ、大丈夫、大丈夫っ。それなら、なまえはなれてるよ!
誰よりも自由だっ!」
ハンジが腹を抱えて笑い出す。
本当にその通りだ。
エルヴィンまで思わず吹き出してしまうと、ショックだったのかなまえが、ハンジよりはマシだとかなんとか文句を言いだしたが、そういうところも含めて自由だと言っていることに気づいていないらしい。
「そうだな。君は今までも好きなようにやらせた方が実力を発揮出来た。
これからも、その調子で頼むよ。」
「…褒めてもらってるんですよね?」
訝し気にエルヴィンの目を覗き込むなまえが可笑しくて、また吹き出しそうになるのを必死に堪える。
「もちろん、褒めている。期待しているよ。」
不服そうにしつつも、なまえはそれ以上、何も言い返すことはなかった。
「では、自由な兵士に訊ねよう。」
「何でしょうか。」
吹き出すハンジを、横目で悔しそうに見ながらもなまえは返事をする。
「君はさっき、ルルを殺したのは世界だと答えた。
では、その世界を憎むか?」
「いいえ。」
「ほう、どうして?」
「ルルが、この世界は美しいと信じたいと言いました。
彼女が、この世界を赦すのなら、私もこの世界を赦します。」
真っすぐななまえの瞳に、迷いはない。
自由な兵士、というフレーズに思わず笑ってしまったけれど、もしかするとそれは、とてつもなく強い兵士なのではないだろうか。
そんな期待が、エルヴィンの中に生まれていくー。
「では、世界はこのままでいいと思っているということかな。」
「まさか。この世界は腐っています。でも、すべてが腐っているわけじゃない。
ただ残念ながら、壁の中で腐ってしまったたくさんのものが美しいものを飲み込もうとしている。
私は、この世界をルルの信じた美しい世界にしないといけないと思っています。」
「そのために、君はどうするつもりでいる?」
「時には、非情な決断も、必要だと思っています。」
言い苦しそうだったけれど、なまえの目は力強い眼差しを残したままだった。
あれだけ不安定で危なっかしかった彼女の姿が、今はもうどこにもいない。
立派な兵士がいた。
生まれ変わったーその言葉が一番しっくりくる気がする。
今度こそ本当に、驚いた。
なまえにではない。ルルが残した希望に、だ。
話も終わり、なまえが部屋を出て行ったあと、エルヴィンは感心するように言った。
「ルル・クレーデルという兵士は、本当にすごい兵士だ。
死んでも尚、私も諦めた希望を蘇らせた。」
「そうだよ。
彼女を守ったのは、正真正銘、ルルだ。」
ハンジが嬉しそうに頬を綻ばせた。
壁外調査から戻ってきて少し経ち、書類が集まってくる頃でもある。
ハンジのように提出にやってきた兵士だろう。
「入れ。」
「失礼します。」
入ってきたのは、つい数分前に話題に上がっていたなまえだった。
書類を手に持っているところを見ると、終わらせた分の提出に来たというところだろう。
なまえは、デスク前にハンジが立っているのに気づくと、驚いていた。
「もう終わったの?」
「まだすべてではないですが、キリのいいところまで終わったので。
少しずつでも提出していかないと、なぜか、私には関係なさそうな書類まで混ざっていて、
部屋が書類に埋め尽くされそうなんです、なぜか。」
「アハハ、そうだった?あっれ~、おかしいな~?」
とぼけるハンジはいつも通りだとして、しっかりと嫌味を詰め込めるまで心が回復しているなまえに、エルヴィンは苦笑する。
まずは先になまえの書類を確認することにして、エルヴィンは彼女から書類を受け取る。
いくつか修正が必要ではあったが、あらかた問題ない。
再提出するほどでもないので、次回から気を付けるようにだけ伝えて、これで良しとする。
「ちょうどよかった。君に確認したいことがあったんだ。」
「私にですか?」
書類の提出が終わり、ホッとしていたなまえは不安そうに訊ねる。
「君の親友、ルル・クレーデルを殺したのは誰だ?」
エルヴィンの質問に、なまえは一瞬、怯えるように瞳を揺らした。
「な…!エルヴィン、どうして今そんなことをー。」
「聞かせてくれ。誰が殺したと思っている?」
止めようとしたハンジに無駄だと言うように、エルヴィンは質問を重ねる。
両の拳を握りしめたなまえが、何かを発しようと息を吸ったのが分かった。
「私は…、」
勇気を出して声を出したのだろう。
だが、その続きを言うのをなまえは躊躇った。
答えが見つからないのか、それとも、その答えを口にするのが、怖いのかー。
「リヴァイか?」
「違います!!リヴァイ兵長は、何も悪くありませんっ!!
リヴァイ兵長は、私だけじゃなくて、ルルも助けてくれました!!」
あれだけ答えを言うのに躊躇ったなまえが、声を荒げた。
きっとそれだけは、彼女の中で、絶対の答えだったのだろう。
リヴァイが、ルルもなまえの心も、殺したのは自分だと苦しんでいたとき、きっと誰よりもなまえが、それだけは違うと知っていた。
人の心が見えたなら、どんなにいいだろうー。
ふとそんなことを思ったエルヴィンだったが、心の中で嘲笑する。
それは、なまえやリヴァイのようなくすみのない人間の場合だけだ。
この世界に生きるほとんどの人間の心は、どこかしら汚れている。
そして、そんな汚れた心が見えてしまったら、世界は壊れる。
それこそ、リヴァイが掃除掃除と騒いで五月蠅いだろう。
「では、君か?リヴァイやハンジから、君の立体起動装置の故障については聞いている。
君が無理して巨人を討伐することもせず、立体起動装置がきちんと動けば、
ルルは死なずに済んだと思うか?」
「私は、あのとき…っ。」
「もういいだろ、エルヴィン。その話は終わったんだ。
せっかくなまえはこれから頑張ろうってー。」
「私は、もう死ぬほど自分を恨みました!」
話題を変えようとしたハンジを止めたのは、今度はなまえだった。
ゾクりとするほどに、力強い眼差しー。
エルヴィンはこの眼差しに見覚えがある。
一瞬、ルルが乗り移ったのかと思ったが、そうではない。
これが、ハンジやリヴァイ、ルルがなまえの中に見た希望の光かー。
「自分の弱さ、情けなさ、脆さはもう死ぬほど恨みました。
そして、ルルが私を救ってくれた。だから、私はもうこれ以上、自分を殺さない。
ルルを殺した何かがこの世にあるのなら…、それは、この世界です!」
「ほう。」
エルヴィンにとって、それは意外な答えだった。
巨人だと言えば合格、そう思っていたのだが、まさか世界と答えるとは。
間違っているとは思えないし、むしろ正解なのかもしれない。
なかなか面白い。
「以前、私は君に訊ねたね。どんな兵士になりたいと思っているか。
そして君は答えた。誰も死なせない兵士になりたい、と。
今もその気持ちは変わらないか?」
思わず、気になって訊ねてしまった。
どうやら、この答えは自分の中で出してから、調査兵団に戻っていたらしい。
なまえは、怯むことなくハッキリと答えた。
「いえ、誰も死なせない兵士は、残念ながら死にました。」
「え!?そうだったの!?
安心したけど…、残念だな。」
ハンジが頭をかく。
複雑なその胸中は分からなくもない。
途方もない目標だが、そんな兵士を目指す人間がいるのも面白いと思っていたのも、また事実だ。
「では、今の君に訊ねよう。
どんな兵士になりたいと思っている?」
エルヴィンは、顔の前で組んだ両手の裏で口の端を上げた。
こんなにも答えを聞くのが、ワクワクするのは久しぶりかもしれない。
「自由な兵士になりたいです。」
「自由な…。」
それこそ、思いも寄らない答えだった。
だって、調査兵団の兵士達は、自由になりたくて壁外に出ているのだ。
そこで、自由な兵士になりたいなんて、面白いことを言ってくれる。
そもそも、なまえはー。
「アハハっ、大丈夫、大丈夫っ。それなら、なまえはなれてるよ!
誰よりも自由だっ!」
ハンジが腹を抱えて笑い出す。
本当にその通りだ。
エルヴィンまで思わず吹き出してしまうと、ショックだったのかなまえが、ハンジよりはマシだとかなんとか文句を言いだしたが、そういうところも含めて自由だと言っていることに気づいていないらしい。
「そうだな。君は今までも好きなようにやらせた方が実力を発揮出来た。
これからも、その調子で頼むよ。」
「…褒めてもらってるんですよね?」
訝し気にエルヴィンの目を覗き込むなまえが可笑しくて、また吹き出しそうになるのを必死に堪える。
「もちろん、褒めている。期待しているよ。」
不服そうにしつつも、なまえはそれ以上、何も言い返すことはなかった。
「では、自由な兵士に訊ねよう。」
「何でしょうか。」
吹き出すハンジを、横目で悔しそうに見ながらもなまえは返事をする。
「君はさっき、ルルを殺したのは世界だと答えた。
では、その世界を憎むか?」
「いいえ。」
「ほう、どうして?」
「ルルが、この世界は美しいと信じたいと言いました。
彼女が、この世界を赦すのなら、私もこの世界を赦します。」
真っすぐななまえの瞳に、迷いはない。
自由な兵士、というフレーズに思わず笑ってしまったけれど、もしかするとそれは、とてつもなく強い兵士なのではないだろうか。
そんな期待が、エルヴィンの中に生まれていくー。
「では、世界はこのままでいいと思っているということかな。」
「まさか。この世界は腐っています。でも、すべてが腐っているわけじゃない。
ただ残念ながら、壁の中で腐ってしまったたくさんのものが美しいものを飲み込もうとしている。
私は、この世界をルルの信じた美しい世界にしないといけないと思っています。」
「そのために、君はどうするつもりでいる?」
「時には、非情な決断も、必要だと思っています。」
言い苦しそうだったけれど、なまえの目は力強い眼差しを残したままだった。
あれだけ不安定で危なっかしかった彼女の姿が、今はもうどこにもいない。
立派な兵士がいた。
生まれ変わったーその言葉が一番しっくりくる気がする。
今度こそ本当に、驚いた。
なまえにではない。ルルが残した希望に、だ。
話も終わり、なまえが部屋を出て行ったあと、エルヴィンは感心するように言った。
「ルル・クレーデルという兵士は、本当にすごい兵士だ。
死んでも尚、私も諦めた希望を蘇らせた。」
「そうだよ。
彼女を守ったのは、正真正銘、ルルだ。」
ハンジが嬉しそうに頬を綻ばせた。